夜は微笑む「こちらでお待ちください。祭司様がいらっしゃいます。」
そう言われて小さな部屋に通され、そろそろ十五分ほど経過しただろうか。壁際で立ちっぱなしのスラーインは腕時計を確認して、苦々しくため息を吐いた。床には薄いクッションがいくつか並んでおり座るよう促されてもいたが、長居したいような場所ではないので座る気にもなれない。
部屋の中は薄暗く、独特の色鮮やかな模様で彩られた調度品や、物語性の感じられる模様が織り込まれた大小の布で埋め尽くされている。全体的に紫色なのがまた、胡散臭い雰囲気を加速させていた。香が焚かれているのだろうか、あまり嗅いだことのない香りも漂っている。
先程通ったドアの他に、部屋の奥にも入り口があるようだ。繊細な花の刺繍が施された薄い布で目隠しされている。祭司はここから登場するのだろうか。スラーインは部屋を見回すふりをしてさり気なく背後に視線を向けた。隅には信者が二人、彫像のように立っている。予告無く押しかけた客が勝手なことをしないように見張っているのだろうが、入ってきたドアを挟むように立たれると逃げ道を塞がれているようで嫌な気分だった。
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