真っ直ぐな子だった。態度も、眼差しも。眩しいくらいに。
ぶつけられた感情に、真っ当な大人のふりで逃げていた三年間を過ぎ、『やっぱりずっと好きだった』そう言って春を背負って笑うから、僕等は漸く春になった。
あれから何度聴いた鶯のさえずりか。柔らかな日差しの下、相変わらず誰彼問わずに笑顔をバラまいている。
降りられなくなった猫を助けた際、袖に引っ掛けてしまったと申し訳なさそうに持ってきたのは、石竹色を纏う小枝で。『きっと猫のお礼だよ』と慰めて、頂戴した大樹の代償を、水を注いだだけのグラスに生けたソレは、僕たちの寝室をささやかに彩った。
「悟さんなんて嫌い」
シーツの中、僕に背を向けたまま呟かれた言葉ごと抱き締める。上昇した体温は火傷しそうな程身を焦がし、目の前の桜色に口付けた。
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