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    田@Chestnut-118

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    田@Chestnut-118

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    くりへし

    出られない部屋 【口移しで一個の飴を溶かし終わるまで出られない部屋】

    継ぎ目の無い白壁が四方を囲む6畳ほどの部屋。真ん中に色とりどりの飴玉が入ったガラスのキャンディポットとそれを挟んで座るへし切長谷部と大倶利伽羅。白壁に浮かび上がる文字は目を擦ってみても三度四度瞬きしても消えない。壁を睨みつけたまま長い沈黙が響く。
    顕現したのが遅くまだ特もついていない長谷部は高練度の大倶利伽羅と同じ部隊になることがない。だから大倶利伽羅が長谷部の教育係である燭台切と一緒にいる時にたまに言葉を交わすだけの関係だ。長谷部は無愛想だが適度な距離で優しくて凛々しいこの刀に憧れていた。たまに目が合う、一言二言話す、それだけでよかったのにこんな部屋に放り込まれるなんて。

    黙ったまま壁を睨みつける大倶利伽羅は長谷部の横顔を見て思わず舌打ちする。長谷部は舌打ちに僅かに肩を震わせた。大倶利伽羅と同じく壁を睨みつけ唇をキュッと結ぶ。
    ガッカリされたくない。
    長谷部はガラスポットから赤い色の飴玉を摘み取り出す。
    「俺がやろう。口移しの意味が図りかねるが、味見という事だろう。俺とは嫌だろうが溶かし終えたら軽く口を合わせてくれ」
    大倶利伽羅の返答も待たずに勢いよく飴玉を口に含んだ。
    思ったより大きい。口の中全部を飴玉に占拠された。溶かし終えるのは少しかかりそうだ。噛まないように飴玉を口の中で転がし右頬にぷっくり丸い形が出来上がったのと同時に白壁に追加指示があらわれた。

    【なお、持ち時間はひとり1分以内とする】

    追加指示を確認し飴を口に含んだまま固まる長谷部。「長谷部、」名を呼ばれハタと我に返ると大倶利伽羅の両手は長谷部の頬を包むように添えられていた。
    「な、」
    何の真似だと言いかけて口内の飴玉を思い出し慌てて口を結ぶ。
    ふ、と大倶利伽羅が笑った気がした。
    額にコツンと熱が伝わる。栗色と煤色が触れて、混ざり、瞬きのたびコマ送りで近くなる距離。お互いの鼻の頭が擦れ吐息が唇に当たる。頬を包む指腹が顎を持ち上げる。飴玉が溢れないよう結んだ唇が僅かに解けた。
    カサついた唇を潤すように滴る甘い唾液。大倶利伽羅は滴る甘い蜜を舐めるように下唇と肌の縁をゆっくりと舌先で辿る。
    「ふぁ、んん」
    近すぎて歪に映る大倶利伽羅の顔。目を閉じることも押し返すこともできない。息を詰め与えられる熱を享受する。奥からトロトロと溢れていく蜜。
    溺れる…。
    不意に頬を包んでいた人差し指が耳の後ろをくすぐるように撫でた。
    「ふぇ、」
    ビクンと肩が跳ねる。膝が抜け崩れそうになり思わず大倶利伽羅のシャツを掴んだ。
    ちゅる、下唇が吸われピリとしたと甘痒い痛みが背中を走る。大倶利伽羅の唇が長谷部の唇を喰む。
    たまらず息が漏れ薄く開いた隙間。僅かな隙間をこじ開けるように大倶利伽羅の厚く熱い舌が長谷部の口内に侵入する。飴玉と交互に口蓋の甘い粘液を絡めとり舌先で歯列をなぞる。頬を包んでいる手のひらは長谷部が仰け反って逃げる事を許さない。飴玉を絡めながら舌裏の凹凸を埋めるように撫でられ唾液が溢れていく。
    トロトロと顎へ滴る甘い唾液が大倶利伽羅の親指と長谷部の肌を濡らす。
    くちゅ、くちゅり、くちゅ、
    湿った音が頭の中に響く。
    1、2..3...…40..
    人差し指が耳朶を薬指が首筋を掻くように薄く撫でる。
    「ひゃ、」
    びくんと背中を伸ばしたはずみで絡みつく舌が糸を引き解ける。熱を帯びた琥珀色の瞳は蕩けて潤む藤色を捉えて離さない。
    再び隙間なく塞がれる唇。どちらのものかわからなくなった唾液のかき混ざる湿った音が響く。
    50…56…59…。
    カクン、
    長谷部の膝が崩れたはずみで飴玉はねっとりとした銀糸を引いて大倶利伽羅の口内に移った。
    テグスが切れた人形のようにくたりと崩れた長谷部は大倶利伽羅の腕に収まった。トクトクと大倶利伽羅の振動が伝わる。痺れた舌をしまい忘れたままハクハクと揺れる唇。のぼせて潤るむ瞳で大倶利伽羅を見上げた。
    滲んだ景色の中で大倶利伽羅は長谷部に口の中の少しだけ小さくなった飴玉をみせるのだ。

    「ほら、あんたの番だ」
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