バグ日和 2「何をしてる」
「浮かんでいる」
内番を終え部屋の障子を開けると天井と床の中間、正真正銘部屋の中心で腕を組み眉間に皺を寄せた長谷部がいた。
腰が反り背骨がきれいに伸びた美しい正座の姿勢だが欄間から入る風で右に左に傾き揺れている。
「浮いてるな」
そろりと障子を閉めながら再度確認する。
「浮いてる」
コクリと、ふわふわと揺れながら真顔で頷く長谷部。
「あー、お前、このあとの予定はあるか」
「ない」
「よかった。すまないが縄を、」
「風呂だな」
「へ?いや、縄…」
続く長谷部の要望に被せるように答えふわふわ浮かぶ体、その反った腰を抱えるようにぐいっと引き寄せた。
涼しいくらいの室内で長谷部の額には前髪が張りつき伸びた背面は肌色が透けている。おそらく俺が部屋に戻るまでなんとか現況に対応しようと試行錯誤していたのだろう。
このままでは風邪を引きかねない。早々に着替えが必要だろう。着替えるのならば汗を流してからがいい。自分が仕事帰りで早く風呂に入りたかったからついでであって、決して邪な事は考えてはいない。濡れタオルで清拭するという選択肢はない、思いつかなかったことにした。
「待て待て待て!風呂はいい!大丈夫だ!」
「よくない」
手足をバタつかせ抵抗を続ける長谷部を無視して腰を左腕でガッチリホールドしたまま部屋の施錠を確認し部屋風呂へと少ない歩数で到着。ピシャリ!ガチャリ!!少々乱雑に扉を閉め洗面室で一旦、拘束を解く。フワリとくの字になって浮かぶ長谷部をくるくると回転させながら靴下、ベルト、スラックス、と次々と脱がしていく。指先を顎に添わせ上方に反らせもう片方の指先は首元のボタンを摘む。
「わかったっ俺が汗臭いのはわかったからっ」
長谷部のうわずった声に興奮状態の脳が若干冷める。
「臭くない」
顎にかけた指先をおろし、スンと首筋に鼻先をあてて答える。シャツのみで仰向けに浮かぶ長谷部はくすぐったそうに首をすくめた後、ふわふわと姿勢を正座に戻し膝を合わせた。裾で腿を隠す仕草は俺を煽っているのだろうか。
「そ、そうか、良かった」
「早くしろ」
長谷部に背を向け汗をたっぷり吸い込んだ内番着を脱ぎ捨てる。
「一緒に入るのか?!」
「どうせ濡れる」
「いやしかし」
「脱がすか?」
「いやっ自分でできる」
ようやっと風呂に入る姿になった長谷部を連れ浴室へ。長谷部を背中から抱くように空の浴槽へ一緒に入り縁を掴ませ俺の足で挟み固定する。
まあ、
隅々まで、洗った。
余すことなく隅々まで。
縄でくくりつけて飛ばないようにしてくれるだけでいいという長谷部の申し出を全て却下し風呂の後も、ふわふわと定まらない長谷部の移動や食事、厠の世話もした。誘惑に抗えず羞恥に染まる長谷部の首筋や腿に噛み跡をつけてしまったたが不可抗力だと思う。
バク解消後、数日長谷部に避けられてしまったのは誤算だったが。
「何をしてる」
「浮かんでいる」
内番を終え部屋の障子を開けると天井と床の中間、正真正銘部屋の中心で胡座を組む大倶利伽羅。
「浮いてるな」
タンッと障子を閉めながら再度確認する。
「浮いてる」
ふわふわと揺れながらも不貞腐れた声。
「大倶利伽羅」
手を伸ばして抱きしめる
「あんたは、忙しいのだろう?誰か他の、」
「忙しくない」
ニヤリと口角を上げる。
「不服かもしれんが俺で我慢しろ」
「…よろしく頼む」
「善処する」
目を見合わせ同時に笑いが溢れた。