爆発って日常茶飯事なんですか?その日は仕事から帰り、服も着替えずにくたくたでリビングのソファに横になった。
すぐにウトウトしだして気絶するように意識を手放した──────
鳥の囀る様な声と、温かな陽射しを感じる。
少し下が硬いような気がするけどなんだろう…
まだ覚醒しきっていない頭でぼーっと考える。
すると、人の気配を感じてびっくりして飛び起きた。
「おーい、大丈夫か?生きてるか~…ってうおっ!!」
「!……────天使…?」
「!…うん、まあ…そんなとこかな。ところでお嬢さん、こんなところでお昼寝か?随分お疲れだったんだな」
「──え?えっ…?ここは……私───」
目の前の天使の姿と自分の居たところとは似ても似つかない外国のような風景に混乱する。
そんな彼女を察してか、彼が声をかける。
「…どうやらお困りのようだな。よければ手を貸してやろうか?」
彼から差し出された手に、不思議と嫌な気はせず自然とその手を取る。
ぐいっと起き上がらせられて、ようやく彼と目線が近づく。
背の高い、銃を携えた不思議な格好をした男性。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして。ここらじゃ光輪と羽がないやつなんて珍しいんだが…あんたどこから来たんだ?」
「光輪、羽…もしかして、天国…?」
「うーん…ここは天国とは少しかけ離れてるけど、まあ住むにはいいところだぜ。なんたって毎日スイーツが──」
と言いかけたところで近くで爆発が起こり、驚いた名前に腕に抱きつかれる。
「あー…爆発もここじゃエンターテイメントみたいなもんでな。多分死人も出てないしあんまり気にしないでくれ。ところでお嬢さん、随分積極的なんだな」
「へ?……!ご、ごめんなさい!びっくりしちゃって…こんな近くで爆発が起こるなんて初めてで…」
「いや、俺は全然構わないぜ。まだ右も左も分からないのに心細かったよな。…折角だし、あんたにここを楽しんでいってもらうとしようかな!」
「??」
「悪いようにはしないからさ。着いてきてくれ」
彼に着いていくと、オシャレで賑やかな大通りに入りそこには色んな美味しそうなお店がずらりと並んで大勢の人たちが楽しそうにそれを食べていた。
「わあ…っ」
「圧巻だろ?ここら辺の店は人気店が多いんだぜ。好きなもんご馳走してやるよ」
「えっ?そんな、初めて会ったばかりなのに…」
「言ったろ、折角なら楽しんでもらいたいって。ここは良いところだってアンタにわかってもらって少しでも安心してもらえたらと思ってな。…迷惑だったか?」
「!いえ、その…ありがとうございます。嬉しいです」
「よし、そうと決まれば俺のオススメの店何箇所か回るか!うまいドーナツ食わせてやるよ」
「はい!」
一人心細かった名前だったが、彼の優しさとドーナツを食べる時の嬉しそうな笑顔に安心し気づけば怖さはなくなっていた。
「どうだ?ラテラーノは楽しめたか?」
「はい、ありがとうございます!こんなに楽しかったの久々で…なんてお礼を言ったらいいか」
「礼なんていらないって。俺もアンタとデートできて楽しかったしな」
「でっ…!?デートだったんですか!?」
「ははは、気づいてなかったのか?面白いお嬢さんだな」
「からかわないで下さいっ!~っ…その、私…」
言いかけた名前の言葉を遮るようにリケーレが口を挟む。
「…悪い。これからアンタの処遇を決める人に会いに行かなきゃいけないんだ。教皇は優しい爺さんだから大丈夫だ、アンタの命は保証する。」
「え?…あ…そう、ですよね。さっき見てて思いました。私だけ他の人たちと違うって…」
「物分かりがよくて助かるよ。俺は中庭公証人役場の執行人、リケーレ・コロンボだ。最後まで責任を持ってあんたを見送る」
「はい。よろしくお願いします」
名前はそう言って少し悲しそうに笑った。
教皇庁に到着し、騎士たちが見守る中最上階の部屋に通されるとそこには白い髭を携えた教皇と秘書のような女性が佇んでいた。
「無事連れてきてくれてご苦労様、執行人リケーレ」
「いえ、俺は言われたことをしたまでですよ」
「さて…ほう、これは驚いた。本当に天使ではないようだ。…初めましてお嬢さん。いきなりだが君は──この国に住みたいかね?」
「!…はい!」
「それはどうして?」
「…目が覚めたときに天使がいて、ああここは天国なんだなって思いました。リケーレさんが説明してくれてそうじゃないってわかっても、私にはここがそれと似たようなものだと認識しました。…見ず知らずの見たこともない種族の私にみんな優しくしてくれたんです。だから…ここで暮らせたらきっと幸せなんだろうなって思ったからです。」
「うむ。きっとすぐにこの国に馴染むことだろう。
よし──執行人リケーレ・コロンボ。しばらくの間彼女の保護観察を君に任せたい。極秘任務にあたってくれるかな?」
「!承知しました。教皇聖下」
「えっ?」
「よかったわね。あなたの生活は保障されたわ。安心してこの国の民として生きていけるってことよ」
「!ありがとうございます!」
「それと…あなたの調査のついでにここで働いてもらうことになったから、よろしくね?」
「はっはい!頑張ります」
「ふふ。かわいい」
色々とここでの説明を受け部屋を出てから名前の緊張は解けた。
「上手くいってよかったな。」
「リケーレさんのお陰です。何から何まで本当に…ありがとうございます」
「いやいや俺はただ仕事をしただけだ。教皇から許しを得たのもあんたの人柄が良かったからだろ。住む家も手配してもらったし一先ず安心だな」
「はい!まだ分からないことだらけですけど精一杯頑張ります!」
「元気いっぱいなのは良いけど、明日から調査で疲れるだろうし今日のところはゆっくり休んどけよ」
「!確かに…安心したらなんだか一気に疲れちゃいました」
「とりあえず家まで案内するよ。足りないものはまた明日にでも申請すればいい」
「そうですね。よろしくお願いします」
案内された場所に辿り着くとそこは住むには申し分ない一軒のアパートの一室だった。
「それじゃまた明日の朝迎えにくるからな。おやすみ」
「はい!…リケーレさん!」
「ん?」
「その…貴方が一緒にいてくれてとても心強かったです。これからもよろしくお願いします」
リケーレは少し面食らったような顔をするとすぐに微笑み、名前の頭を撫でた。
「よろしくな、名前」