サーヴァント1人、学生1人。チケット拝見いたします【美術館ホラーのリぐ】
サーヴァントのリチャード一世と立香くんが弱ホラーな特異点にふたりで行く話
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①マネキンホラーな壊れた石像
見てない時に追ってきて攻撃しようとしてくる。
視界の端で何か動いたのを察知した立香くんが首をかしげながらも視線を外した瞬間目の前をリチャードの手が過る。驚いて真横を見ると、拳の形をした石像が目前にあり自分を攻撃する寸前だった。リチャードはそれを壊さない程度に止めて、「殺気がない。本当にただの石像らしいな」と言う。立香くんはびっくりして後ずさりしてしまうのだった。
視線を外したら動くというギミックに気づいて、ゆっくりと進んでいくことになる。
パーツは、6つ。頭腕足で、動かない胴体の元に集めればおk。体探しかな?
リチャードはそれを見て「俺も昔は自分の遺体を各地に埋めるよう言ったことがあるが、それを思い出すな」とか言ってる。エクゾディアかよ……
②音のないオルゴール
廊下の端にあったオルゴール。美術品とは思えずに手に取った立香くん、ねじを回すも音はない。壊れてるのかなと思い、オルゴールをリチャードに見せるとリチャードは少し苦い顔をして「…すごい音だな、それは…」という。立香くんには聞こえないがリチャードには人々の捩じれた悲鳴のような音が聞こえていた。立香くんはこれを持っておくことにする。
その後美術品を一時的に止めるアイテムにはなるんだけど、壊れた状態で所持していると立香くんもぼうっとして意識が虚ろになったりする。リチャードは手放すようにいうが拒否し、少し喧嘩。でも立香くんの純粋な「聞いてみたい」という好奇心の結晶が形となって修理のパーツになるのだった。
無音のオルゴールの正体は、人々から忘れられ錆び付いた悲痛な音色。聞いてくれる”今の人”がいることで初めて修理にありつける。だから過去の人であるリチャードにはやべー音に聞こえていたようだった。
……
③踊る肖像画
2人の人物が踊っている人のいる絵。広いフロアを前に一点だけ飾られていた。
立香くんは絵を見ていたが、リチャードがドアを閉じた途端目の前のフロアの床に靴跡が現れる。リチャードはそれらをみて、足跡が消えるのを見届けると絵を見て理解したらしい。
「何もないね…」そういった立香くんへ手を差し出して”ダンスの誘い”をした。
踊る絵でありながら彼らは踊りを知らなかった、否知っていたが自分たちは見たことがなかった。だから見てみたかった、知りたかった、自分らの踊りができるもので正しいものなんかと。絵画である彼らは動けない、故に確認の術もなかったのだそれを彼らの前で踊り、"手本"を見せることで絵は修理される。
絵のタイトルが、”拙く踊る恋人たち”から”楽し気に踊る恋人たち”に代わる。
なお何も知らずにリチャードとなんとか踊りきった立香くん、終えた直後に「何とかなったな!まぁ、仮にミスしたら足が切り落とされていたところだ。無事でよかった」といわれて「…ヒェッ……」と今さらなった模様。「先に言っ…わない方が良かったね…言われてたら俺暴れてたもん多分…」「だろ?」
④騎士の鎧たち
飾られた鎧が動き出す。攻撃をくりかえし、美術館の破壊すら気に留めないそれらであるが、騎士の礼儀をもって接すれば”決闘”として彼らはちゃんと対応する。
実の所当時の騎士たちは邪心を持ち強欲な者も多かった、彼らは身分に鎌をかけて民に略奪を行った騎士たちの鎧でもあったから、それらを見てきた上でその史実をよく知っていた。だがそんな彼らにも、確かにかつて己が心底憧れていた騎士像はあったわけで。そのあこがれとして名高く最たる”獅子心王”を目の前にしてどうして、それを思い出さずにいられようか。
同じく騎士に”憧れた者の一人”として、リチャードはそれに気づき正当な決闘”フェーデ”を行う。結果は鎧たちも分かっていたのだろう、それでも背を向けず戦いきるという騎士道精神は成し遂げられた。勝利したリチャードは彼らに騎士らしい寛容さを示して、鎧たちを戻す。彼らの今の役目は、この美術館を守ること。給与はもう、十二分にさっきもらってしまったからね。
⑤書庫
ここには"世界の記録に残ることのなかった詩(話)"があり、記述にない吟遊詩人達の詩が綴られている。立香くんは当然始めてみるものが沢山で、リチャードにとっては懐かしいものもあった。
どうやら本を戻す時にその話の世界に飛び込むような感覚におちいるらしい。
比較的楽しかったりでファンタジーを味わったり、ロマンスでは痴話喧嘩に巻き込まれたり、会話をしていた話のカノジョの元カノに愚痴を利かせられたりと巻き込まれる。
だがリチャードが手に取ったある本を目にし、棚の項目と共に本を閉じる。動揺するリチャードを横に、その本を触れようとした立香くんへ「見るな」と制するのだった。
なぜならほかの物語とか違い、ここでの記録はまず登場人物が立香くんである。そして中身もあってはならないものであり、立香くんがこの話をあるものとして認識したらいけないものだった。”立香くんと出会わなかったリチャードの話”で、それを立香くんが見て自分の記録してしまうと最悪の場合それが反映されて、この2人しかいない特異点でリチャードが"立香と出会ってない"ことにされかねない。
立香くんも立香くんで、"イェルサレムを奪還できたリチャード"という話を手にして動揺。同じようにこれはなんとなく、見せちゃいけない気がした。
そうして2人はその2冊を手放せなくなった。棚にしまえばそれは”謡われてしまう”。どうすべきか悩んだ末に、2冊を書庫に尋ねて”借りる”選択をとった。
お互い中身を言えないまま、この本を戻さない術を探していた。借り続けることはできない、いつか戻さなくてはならない。けどあの棚に戻せば、それは認識されることになる。
どうにかして棚に戻さない方法を探す必要があった。だが、本も美術品で傷つけてはならないのだ、刻もうが燃やそうがそれは解決には至らないのに気づいていた。2人は考えた、リチャードはこの本を禁書にすればいいと言った。権力を持つ者のらしい思考にでも確かにと納得、それを書庫に頼むと空いた棚の空白を主張するのだった。
立香君が告げた「同じように、詩人の物語があればいいのかな…」という言葉にリチャードはすぐさま見出した。
そっちの解決策はリチャードにとってはよっぽど単純なことだった。
「なんだ、思ったよりも簡単なことだったらしいな」
「え?」
「立香、ここの美術館の楽器の展示場に行くぞ。そこならきっとあるはずだ」
そういって着いた展示室。マナーの良い客として美術館が二人を認識した以上道中は穏やかなものだった。
リチャードとともに見て回る。サーヴァントと触れ合うことが増えた今、前なら遠目に見ただけだったかもしれないそれらはすべてが輝いて見えた。もっとじっくり見たくなる、隣では同じように興味深そうに見つめるリチャードがいて、今更ながらこれじゃ美術館デートじゃんなんて呟いたらリチャードは笑い「言われてみればそうだな、とんだ粋な特異点だ。」とまんざらでもないようだった。居心地の良さに心を落ち着かせた頃、そうして12世紀と書かれたコーナーを見つける。(あ、リチャードのいた時期の…)彼はまっすぐにある場所へ向かうと慣れたように楽器を手に取った。
体験コーナーとしてあったそこで椅子を並べると、ぽんぽんと座るよう促される。
「聴かせるのは2度目になるか?…あぁでも、”初”だなこれは。」
そういうとコーナーに置かれていたリュートを片手に歌い始める。俺にもわかるように、少し楽しげだったり突飛だったりする彼らしい物語だった。
そういえば言ってたなぁ、リチャードは宮廷の吟遊詩人(トゥルバドゥール)でもあったと。音色に綴られるまま情景を思い浮かべる。穏やかにそれを耳にしていると2つの話が終わったところで俺は拍手した。
リチャードは嬉しそうに笑いどうだったと尋ねてくる、俺はおもしろかったしすごい気にいったとつづけるが、リチャードは俺のアイデアを求めてきた。
「い、今のすごくよかったとおもうけど」
「いやまだ足りない、立香のアイデアも聞きたくてな」
そういわれ俺は頭を捻った、そんな言えるようなことないんだけどな…そう思いながらもなんとか告げると、リチャードはいいな!ともういちどそれを組み込んで謡う。俺も楽しくなって次第にここはこうしようとか、ここ盛ってみる?とか気づけば随分と話していた気がする。
そうしてできた話を歌って、リチャードはようやくリュートを置いた。拍手と完成度に感動した俺が告げてから戻ったらみんなにも…と言いかけたあたりでリチャードは静かに人差し指を口に当てる。しーっ…と内緒にするように。
「これはどこにも残らない、俺たちだけが知る話だ。”吟遊詩人である俺が唄った詩”と、”マスターの君と、サーヴァントの俺が二人で作った詩”。俺たち以外は知らない、”どこにも残ることのない話”だからな」
言われて俺は納得した。それなら確かに内緒にしなきゃね。そう同じように人差し指を口に当てる。書庫にそうして戻った時、俺たちは4冊の本を持っていた。
書庫は黙した、されど新しい本には気づけばラベルが刻まれていた。
カウンターに置いた4冊の本のうち新しい2冊は先ほどの空いたところに埋められた。
俺たちが互いに見てほしくない、と思った2冊を書庫はどうするのだろうか。ここは黙したままだったが、ラベルはすでになくなっていた。
書庫はこの二冊を、”発行再演禁書”にすると判断したらしい。
俺たちは顔を合わせて書庫で静かに頷いた。
⑥ラスト
そうして書庫から出た時、美術品が前の通路には並んでいた。鎧や絵画もあったし、ほかの品も見てもらおうとこぞって集まっていたようだった。先ほどの楽器の音と、美術館を見回り熱心に見入ってる”知識人”により、彼らは自分らにとっての存在意義と価値を思い出したのである。だから今ここに居る彼らに見て覚えてもらいたがった、埋もれていた自分たちを覚えていてほしくて詰め寄った。それはもう、洪水のように押しよせたのである。
押しつぶされそうな立香くんを抱えて、リチャードは抜け出そうとする。だが美術品を傷つけてはならない、故に行動は制限された。どれほど早く逃げても”美術品”はどこにでもあった。
リチャードが着地しかけた地面にあった絨毯すら、美術品だと咄嗟に気づいて寸で交わしたりとすれすれであった。オルゴールも活用して、なんとか窮地も潜り抜けていく。道中では、自分が修理した品たちがこっそり手助けしてくれるのだった。
だがそうして詰め寄った他の美術品は、2人への対応が好意的だったものから目的を変えてここに留まるよう仕向けるようなものへ変わっていく。
窓やライトを覆うように、ダダダンッと敷き詰められた絵画たち。光のない真っ暗な中で、光る足跡が道を教えてくれた(立香くんは抱えられたままだったが踊るように)。ゴトンと置きな音を立てて通路を塞ぐように置かれた像。この像は例の像がどかしてくれた、なんでも美術品どうしであれば”美術品を傷つける”にはかからないらしい。騎士たちも寸でを抑えて道を作ってくれた。時にはわざと飛び出た杯のような美術品を一人の鎧がスゥ―っと持っていくのを見て、リチャードが少し笑っていた。「あははっ。あぁ、これはあとで話そう。なに、騎士道好きの良く知る軽いオマージュなんだ」粋なことをすると呟いてもう一度走り出した。
そして出口に近づいた時、ドアを触れられないように巡らされた繊細な楽器の弦や、装飾品。豪華であるが、人がそのまま触れただけで傷つけたとみなされかねないほど繊細なそれらに、俺たちはなすすべがなくなった。
その時だった。立香の持っていたオルゴールが鳴り、弦との共鳴を起こす。大きく揺れて緩んだ弦の一瞬の隙間をリチャードは見逃さなかった。
立香くんをかかえて飛び出た美術館で、振り返ると書庫が一枚の紙を貼り付けた。
営業時間の終了、その通達こそが完了の証になったのだろう。沈黙したそこはそうしてしずかにカーテンがかけられていった。
どたばたとしていたけれど、美術品たちの思いを知ったような経験に彼らの方を振り返ってしまう。もうきっと俺たちが訪れることはないのかもしれない。それでも。
「また、行きたいな」
今を生きている立香にそう思わせた点は紛れもなく彼らの勝ちだ。
また来たい、もっと知りたい、そして彼は何よりも”忘れないこと”を大事にしている人だったから。美術品、美術館、として来場者へ抱かせたそれは何よりの勝利と言えるだろう。
リチャードは立香そんな嬉しそうな表情をみて、「同じ美術館には出会えないかもしれないが、美術品にはまた出会えるかもしれないぞ。」
その言葉に頷いて、2人はレイシフトを行う。
そんな特異点の話。