追い詰められビルの上ではこの街の音がよく届く。見下ろさずとも、高い壁伝いにそれは登ってくるせいで都会の夜はいつだって光と喧騒が満ちているものだが、此度はそれ以上に別の意味も含んでいた。
マスターは小さく息を吐き俺の目を見る。覚悟は決まったらしい。
「よし…!」
その声を合図に俺は敵に向けていた剣を強くはじき、蹴ってマスターの隣に並ぶ。あとはもう平等な重力に沿うだけだ。
とはいえ、当然彼はこのままだと地面への衝撃には耐えられない。だからこその俺だ、物足りなさが続いているが君の命より惜しいものなど何もないのだから。
足場を失くし浮いたマスターへそうして手を伸ばしかけた時だった。
「セイバー……
好きなだけ暴れてから戻ってこいっ…!」
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