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    akariya0309

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    akariya0309

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    しょくさい2024開催ありがとうございます!

    ささやかながら展示です。


    アフターにつきパスは外しました。

    叶黎明は後日改めて二人から怒られた。「ドリンク以外のグランドメニュー制覇するぞ! レイジ君が!」
    「は?」
     仕事帰りの私を待ち伏せていた叶黎明にファミリーレストランへと連れられたあとの第一声がそれだった。暗がりに不審者がいるなとは思っていたがまさか顔見知りとは思わず、また対象が私だとも思っておらず、易易と連れ去りにあった。十連勤の後で疲れていた私に非はあるだろうか。いや、ない。全くない。私を拉致するために昼間寝ていたであろうこの男がすべて悪い。いつも体力仕事は自分の仕事じゃありませんという顔をしているくせにネタのためならば力が湧くとはなんと腹立たしいことだろうか。
    「マヌケ……」
    「ファーストフード店と違ってエナドリないから普段来ないんだけどさ、礼二君がめちゃくちゃ食べてるとこ見たくなったから連れてきたワケ」
     一旦カメラを止めた叶黎明が何やらべらべらと話している。うるさい。壁にかかっている有名絵画のレプリカのシミになれ。
    「マヌケ……」
    「コーラで我慢するか〜。礼二君のは適宜頼んでいくからな。時間計算もばっちりだ。でもまあはじめは定番のドリアにしておくぞ」
     自分用にコーラ、私用に紅茶を持ってきた男は再びカメラを回し始め、ドリアやらサラダやらが置かれたテーブルを撮りながら別の端末で自撮りもしていた。忙しない。
    「マヌケ……。いただきます」
     マヌケ以外に出てくるのが習慣の言葉しかなかった。今から私はただ料理を食べるための人形だ。話しかけられてもマヌケしか言わない。味など動画を見る人間のほとんどが知っているだろうからレポートもしない。とにかくカロリーをつめこむ。深夜だがどうでもいい。明日は非番だ。
    「こういうところだとちゃんとサラダも食べるんだな。エビ入ってるけど。エビうまい?」
    「うるさいマヌケ。企業努力の味だな」
    「たしかに〜。オレもアイスとか食おうかな、前からあるデザートもなんかバズることあるし」
    「知るかマヌケ」
     ドリアやサラダの他にもチキンやパスタなど様々なメニューを口に入れながら、合間合間で叶黎明に水や茶を取ってこさせる。この男のファンに文句を言われそうではあるが、大学生のようなノリでクソみたいな突発企画を打った当人に文句を言え。それか近場の店で叶黎明と同じメニューを食べて推し活とかいう自己アピールでもしていろ。すべて私には関係ない。

    「っていうかんじできっちり食べてくれたんだけど、ドカ食いからの爆睡しちゃってさ」
    「は?」
     叶から呼び出しを食らった俺は、深夜だぞとぶつくさ文句を言いながらベッドから出て着替え、ファミレスチェーンに向かった。村雨がいるというから来たが、なんだこれは。テーブルに突っ伏して寝ている村雨と、対面に座りきまりが悪そうに説明する叶を交互に見て舌打ちをする。
    「おい叶、どういうつもりなんだよテメーは」
    「うーん、深夜にゴメンな。潰れちゃった成人男性はさすがに重いしタクっても厳しくて」
    「そこじゃねーよ。十連勤後の医者に炭水化物バカバカ食わせて潰しやがって。しかも人の彼氏だぞ」
     おそらくは叶の、滅多に発生しない気遣いによって外された眼鏡と、素顔のまま寝息を立てている村雨を見る。
     他人に眼鏡外されるとか警戒心がなさすぎんだろうが。そもそも疲れてんならメス取り出して拒否しろ。
     疲れて頭が回らないこともあるだろうに、そんな苛立ちばかりが募る。俺に連絡をくれれば迎えにいったし、軽く腹を満たせるものだって出せた。こんな、バカの学生がやるようなドカ食いをさせなくても済んだのに。
    「……なんだよ。おい、撮ってんのか?」
    「びっくりするくらいキレてる敬一君とかレアじゃん!」
     ここがファミレスでなければ手が出る所だった。ナメられているなとは感じていたが、真面目に怒っている姿まで茶化されたのではたまらない。今後の付き合いも考えざるをえないほどの屈辱だ。取引相手だったら切っているしバレないように最大級の砂かけをしているところだ。叶の方が頭が回るので俺が何か仕掛けた所で無駄だというところがまた悔しい。
    「……テメーこれ動画かよ、録ってんじゃねえよ」
    「ヤダよ。後で礼二君に見せてあげる用だから」
     これでチャラになるはず! という叶にしては珍しく足りなさ過ぎる皮算用にも腹が立つ。第三者に向かって怒りをあらわにしている恋人見て喜ぶ馬鹿がどこにいると思っているんだ。
    「迎えに来てくれた上に自分以上に怒ってくれてる彼氏って、ベタだけどいいよな。礼二君ベタ好きだろ?」
    「たしかにベタは好きみてーだけどこういうパターンのじゃねえよ」
     叶が言っているのは少女漫画的なベタだ。訓まない俺でさえなんとなくのイメージがあるくらいの。
     けど村雨は男だし、俺より体力はないけど抱く側だし。こいつが好きなベタというのは裸エプロン的なコテコテのやつだ。一回だけマジの顔で頼まれてやったことがある。胸部にハートの形の布地と、それを縁取るようにフリルがつけられた本当にベタすぎるデザインのものだ。コスプレかロリータファッション愛好者しか着ないだろうがあんなもん。俺はコスプレなんかすすんでやらないし、ロリータファッションもしない。フリルなんかとは無縁な人生だったのに、礼服以外でフリルのついた服(服か?)を着たのはあれがはじめてだった。
     ベタだが悪くないな、やはりあなたを愛しているからか……。なんて真顔で言われてときめいたなんてことは村雨にも叶にも秘密だ。
    「あ、やっぱりちょっとおっさんくさいんだ」
    「だから人の彼氏にケチをつけんな」
     村雨の名誉のために言うが、ベタが好きというよりは、ベタだからこそやったというのが正しい。アダルトコンテンツのベタであり、実際のカップルがどうかはお互いに知らないし、なんならやらないのではと思っていたが。
    「たしかに二人は付き合ってるけどさ、二人とも俺の友達でもあるし」
    「……そりゃ、そーだけど」
    「だから大目に見てくれるよな?」
     疑問形ではあるものの、圧が命令形だった。時間も時間なので今回は問題を一旦置かせてもらうが、今度こいつが家に来た時は水か青汁か緑茶しか選択させないと固く誓う。
    「じゃあ俺は村雨のこと送ってくから」
    「ありがとー。今度詫び菓子持って行くからな!」
    「いらねーわ、深夜に連れ出したり呼びつけたりすんのをやめろ。反省したら許す」
    「えーっ」
     厳しくなっちゃったなぁ、と文句を垂れる叶を無視し、村雨の鞄を少し失敬する。カラの眼鏡ケースに大事な眼鏡をおさめ、村雨を担ぐ。意識がないとやはり多少は重い。
    「じゃあな」
    「あ、後でノーカット版動画送るな!」
    「反省する気あんのか?」
     こっちは成人男性に肩を貸して、店出たらおんぶにするかなどと考えていたところだというのに。つくづく調子を崩してくる男だ。
    「あとその動画はどこにも上げるな。フリとかじゃないからな」
    「えー、こういうの結構ウケるんだけど」
    「だから上げるなっつってんだろうが」
    「……りょーかい」
     目を細めてにんまり笑われて、また苛つく。ひょっとしてここまでの展開全部が叶のお遊びだったんじゃないかと思って。
    「……じゃーな」
     もう一度別れを口にして軽く睨む。俺はお前のおもちゃじゃない、という感情を乗せて。
     店を出たあと、近場のパーキングに停めていた車に村雨を積み込む。座らせるのが案外難しかったが、後部座席に転がしておくわけにもいかない。切符を切られるのは面倒でしかない。
     やっとのことでシートベルトを留め、これでようやく発進できると思うとため息が漏れた。すると脱力していた村雨の口がもぞ、と動いた。
    「ししがみ?」
    「うん」
    「……ああ、むかえに、すまない」
    「謝んなよ、疲れてたんだから食ったら眠くなるのは仕方ないだろ」
    「んん……」
    「水、いるか? 寝とく?」
    「あなたの、いえに」
    「俺んち? いいけど、水……寝てるし」
     俺の家には村雨の寝間着や下着、歯ブラシなど、3日は連続で泊まっても問題ないくらいの私物がある。恋人同士になってからほどなくして、村雨が持ちこんだものだ。なにもなくとも同じ夜を過ごしたいから、と言われてそんなものかと頷いた。はじめこそ、奴隷以外で他人の物があるのは落ち着かなかったが、「なに」をするくらいになってからは俺の日常になっている。俺の家に来る時、村雨はいつも連絡を寄越すから洗濯なんかが間に合わないことはない。いつか連絡が要らないようになっても問題がないようにしてあるものの、そんな日が来るかはわからない。
    「とりあえず帰って、それからだな」
     エンジンを入れて車体が振動しても、村雨は眠ったままだった。肉が好きなくせに草食動物並みにすぐお切るこの男が。よほど疲れているのか、糖質のせいか、これ以上に自惚れてもいいのか。
     わからないことは明日、村雨がきちんと起きてから聞くことにしよう。







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