しゃしんとる!「ガッちゃん、こっち向いて」
「なんだ? っうお」
何年ぶりかに聞くシャッター音に、思わず肩が跳ねる。伊月が俺に向けていたそれは随分長い間見ていなかった、緑色のパッケージのインスタントカメラだ。
「懐かしいモン持ってるな」
「だろ? この間仕事の合間に寄ったカメラ店で見かけてさ、つい買っちゃったんだよね」
きちんとフィルムを巻きながら伊月は答えた。フィルムカメラに慣れていない人間だと忘れがちな動作だ。伊月も俺も写真を撮るときはスマホしか使わないから慣れているとは程遠い。世代的にあのインスタントカメラをいじったことくらいはあるから、思い出しつつやっているのだらうか。それにしても、カメラ店になんの用事があったのだか。
「カメラ店には今やってる案件でちょっとね」
「離婚弁護とかか?」
「僕がやるように見えるか?」
「刑事事件よりは気が楽なんじゃねえのか?」
黒を白にしなくて済む。そのあと自分で掃除しなくても済む。今更ではあっても死人を出さないというのは、ストレスがかからない生活と言えるのではないだろうか。
「今はまだわからないっていうのが正直なところかな」
「じゃあもう少ししたらフィードバッグ寄越せよ、気が晴れるようなモンでも食わせてやる」
「それはガッちゃんの手料理ですか?」
一瞬目を見開いた伊月はやわらかく笑って、構えていたカメラをマイクみたいに差し出した。俺は伊月の手ごと掴んでパフォーマンスよろしくもちろん、と笑ってやる。
「とりあえず比較用に今のお前も撮っとくか。ほらピース」
一秒前までにこやかだった顔がスッと真顔になったところで噴き出してしまい、見なくても失敗作が撮れたのがわかった。