そういうとこ.
「うんうん、それでさ」
「そうそう」
買ったばかりのケースをつけたスマホを持ち口元へと向けながら相槌を打つ。
ひとつ年上だと思ったことはないけど、便宜上オンニと呼ぶそのひとは笑い声を上げて楽しそうに通話を続けていた。
ハンズフリーとは名ばかりで右手が塞がってしまい空いた手で私の愛犬を撫でている。
私といえばポットからドリッパーへとお湯を落とし湧き上がる香りを楽しんでいるところ。コーヒーはひとりよりもふたり分を淹れた方が美味しいと誰から教わったんだっけ?
ウンジオンニのいつかの誕生日にあげたマグカップ、抽出した液体を注ぎ残りを自分のカップへ。コーヒーはユナが淹れた方が美味しいと何度も言うものだから、いつのまにかバリスタ資格を有するようになってしまった。
当の本人はそんなこと言ったなんて覚えてないだろうけど、カップを待ちキッチンからリビングへと移動する。
「イヴたちはロサンゼルスからスタートするんだっけ?アメリカツアー」
『そうです、ウンニは……でし……』
「うん、ロサンゼルスは最後なの」
マグカップを手の届く範囲に置いてあげるとスマホとワイヤレスイヤホンに手を伸ばす。もうじき始まる私たちの初めてのアメリカツアーの話をしている、イダレもそういやアメリカツアーあるんだっけと記憶を辿る。
通話相手はサバイバル番組で共演したイダレソニョのあの子。ユニットでチームを組んでから仲良くしてくれてるみたい、オンニぶって良い顔してるんでしょと横目で睨む。
「ユナコーヒーありがとう」
『え、ユナ先……いら……た……』
普段は淹れてもそのまま飲み始めるくせにお礼なんて急に言ったりして、後輩が聞いてるから?てかその後輩の慌てっぷりがひどい。
「うんいまユナの家なんだよ〜」
『そうなんですか!ウンニのお家かと思って……すいませんでした』
申し訳なさからイヤホンがペアリングする前に耳から外す。途切れて聞こえてた音声がはっきりするぐらい驚かせてしまった。
「あれ、イヴ?もしもーし」
切れちゃったと嘆く無神経な姉にイラッとして手近なクッションを投げた。
「なんなの」
「なんで私んちだって言ってあげないの?かわいそうじゃん」
「気を遣わせちゃった?」
「それもそうだけど、だってあの子明らかに……」
推測をぶつけるにはふたりのことを知らないし、何より私には関係ない。分かんないよと大きな瞳でこちらを見つめてくるのを無視して再度イヤホンを差し込む。
はやくノイズキャンセリングしてくれないかな。