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    ゆりた

    rps小説の方

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    ゆりた

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    rps/🐸🦢🐹🐢/ウンジが記憶を失う話

    イヴの拒絶.



    ビルの路上に面したガラスに映り込む自分の姿を隅々まで確認した。リップが少し濃かったかな、ウンジが去年の誕生日にくれたそれを大事に大切に使っている。逢うときは必ずつけて口紅に合わせてコーデを組んだ、憶えてなくても私が身につけていたかった。前髪の乱れを指で整えて、まだ余裕はあったけど待ち合わせ場所へと急いだ。

    「オンニ!」

    待ち合わせ時間より前なのに向かう道すがらに、愛しい後ろ姿を見つけて思わず声をかけた。抱きついてしまいたい衝動を必死に抑える、ウンジとの関係は先輩と後輩に戻ってしまったから。胸の中に飛び込めたあの頃が懐かしい、肌の温もりを知ってしまった今は迂闊に触れられなかった。歯止めが利かなくなって困らせてしまいたくない。

    「早いね」

    「オンニも、時間前ですよ?」

    「スヨナが先に待ってる気がしたから」

    当たりだったねと笑われて、嬉しい気持ちになる。ウンジを待たせることなんてしたくないし、いつも先に来て視界に私が入って気づく瞬間を見たかった。目を細めて微笑んでくれるのが大好きで、そこから歩幅が大きくなって駆け寄ってくれる。今日は違ったけど、でも私を気にかけて早く来てくれたんだと胸が温かくなった。

    「いい天気ですね」

    「うん気持ちいい」

    5月らしい青空を見上げてウンジに視線を戻す、着ている白いシャツが風をはらんで爽やかだった。車の運転はまだ出来ないからと近場でピクニックでもしようということになった、デートじゃないけど逢えるだけで幸せを感じる。腕も組めないし手も繋げないけど、隣に並んで歩くとウンジの匂いがしてドキドキした。顔赤くなってないといいな。

    「お昼どうしよっか?どこかでテイクアウトする?」

    「えと」

    「コンビニでいろいろ買い込む?」

    「あの、お弁当作ってきちゃって……」

    ウンジの提案に手に提げた紙袋が途端に重く感じる。初めて料理を作った後にまた食べたい、お弁当持ってどこか行こうよなんて言われていたのを真に受けた。彼女でもないただの後輩にしては出過ぎた真似で、事前に確認すべきだった。

    「ほんと!?うれしい!」

    やったーと喜んではしゃぐウンジを見て杞憂だったと思った。目頭が熱くなる、泣かないと決めて来たのに。揺らぐ私の気持ちのように視界がぼやけていくのを空を仰いで誤魔化した。



    「わ!キンパだ!」

    芝生にレジャーシートを敷いて腰を下ろす。お弁当箱を開けると覗き込んだウンジが手をアルコールシートで拭きながら声をあげた。キンパとフルーツとスープを用意してきた。もう少し手の込んだものを作れば良かった、片手で食べやすいようにと考えたけどもうギプスは外れているわけで。空回りしてばかりだけどひとくち食べたウンジの笑顔をみてどうでもよくなった。

    「ん~スヨナは料理上手なんだね」

    「大したものじゃないんですけど」

    屈託なく笑って褒めるウンジがかわいくて、大きな口を開けてまたキンパを食べて目を見開いて頷いて、おいしいって言わなくても伝わってきた。もぐもぐして膨らむ頬もかわいくて、また好きになってもらおうと決意したのに私の好きが大きくなっていくだけだった。

    「スヨナも辛いの苦手なんだね」

    甘口でおいしいと言われてスープを注いでいた手が止まった。ウンジの記憶に自分がいないこと頭では理解していても傷ついてしまう。辛党な私と甘党のウンジ、好みの味付けを知って寄せるようになったし喜ぶ顔がみたかったから。辛いものを食べたあとにキスされて、不意打ちでしてきたのはそっちなのに拗ねられたことも全部憶えてない。

    「好き……大好きです」

    「うん」

    「辛いの好きです」

    好きだと吐露したら止まらなくなってウンジの目がみれない、感情の置き場がなくて今にも溢れそう。私と付き合っていたと知ったら、憶えてないことをこれまでのことも全部悔やんでしまうだろうから。ウンジが傷つくぐらいなら私がと思う、それでも痛いものは痛くて。ふにと唇に何かが当たる。

    「え、あ……」

    「いちごも好きでしょ?」

    「なんで」

    思い出したの?どうして?言葉の代わりに触れている苺に歯を立てて咀嚼して飲み込んだ。いちばん好きなフルーツ、甘酸っぱくてウンジのようだと思った。

    「そんな気がしたの」

    あーんと齧った残りを向けられて口を開く、苺を摘まんだウンジの指に舌が唇が触れてしまう。わざとじゃないの、本当はこのまま指を噛んで、舐めて、たくさん触れてってねだりたい。憶えてるなら思い出したならこのまま愛してほしい。

    「辛いものといちごが好きで、待ち合わせには早めに来るタイプで」

    「思い出したわけじゃないけどスヨナのことを考えたら分かるよ」

    ウンジの言葉に顔をあげた、大きな瞳が真っ直ぐに見つめてくる。ひとつひとつ私を知ろうとしてくれている、その優しさに応えたい。欲にまみれた思考を振り払うように頭を振った。どうしたのと笑うウンジが乱れた髪を撫でてくれて、この手を素直に受けるのは許して欲しい。



    「あとでカフェも行こう~」

    ごちそうさまをしてウンジが両手を上にあげて大きく伸びをする。あくびも嚙み殺していたようで語尾が間延びしていく。気づかなかったけど顔が少し疲れているような気がした。

    「横になります?」

    お弁当箱などを仕舞ってシートの上にスペースをつくった、ふたりで寝そべるには狭い。ある考えが浮かんで、友達どうしでもするよねと自分に念を押した。太ももを手で払ってウンジに声を掛ける。

    「お、オンニ膝枕する?」

    「いいの?」

    自然に誘いたかったのに意識しすぎて敬語が外れちゃって、慌てる私を他所にウンジが寝転んで頭を預けてきた。人懐こさが好きなのに、こんな簡単に距離を縮められると動揺する。ただの後輩じゃないと思っててもいいのかな。

    「あのさ……友人から相談されたんだけどさ」

    「はい」

    ころんと太ももの上で横向きになるウンジ、視線は私と同じ正面を向く形になった。横顔にかかる髪を自ら避けて、剝き出しになるフェイスラインに見惚れてしまう。声のトーンが落ちて真剣な雰囲気に耳を傾けた。

    「妹だと思ってた子に好きだって言われたんだって」

    「出逢ってから大事で大切な子で、確かに好きだったときもあって」

    相槌を打つことも出来ずに固まる。察しのいい自分が嫌になる、友人じゃなくて多分ウンジのことで。妹で思い浮かぶのはユナしかいなかった。共演した時にウンジの姿を目で追うと高確率で目が合ったのを思い出す。

    「ご友人自身はどう思ってるんですか?」

    「ん……いまの気持ちが昔と混ざっててよく分からないの」

    言い淀んだウンジの答えに胸を撫でおろす。最低だけどなりふり構っていられなくて、でもこんな相談を受ける私はやっぱりただの後輩で。風景が滲む、瞳に水分の幕がかかるのを止めるのは無理だった。この体勢で良かったと心から思う。

    「それでいまお世話になっているひとがいるんだけど」

    ウンジの相談が続いていて、逃げ出したいのに聞きたくないのに耳を澄ましてしまう。ユジョンのことだと思った。あの時投げつけられた言葉、態度を忘れていない。ウンジへの独占欲は私も憶えがあったし、それだとすぐに分かった。

    「付き合ってたこともあって、さっきの子と同じぐらい大事で」

    「一緒に暮らそうって言われて……」

    限界だった、嗚咽が漏れてしまいそうで咄嗟に口を押さえた。瞬きしなくてもぼろぼろと涙がこぼれる。ウンジに雫を落としたくなくて顔を横に向けた。

    「え、雨?」

    飛び起きたウンジが私の方を向いて固まった。泣き顔をみられたくなくて両手で顔を覆う。

    「っ……みないでください」

    懇願するために口を開けば喉がしゃくりあげる。ウンジの腕が伸びてきて抱きしめられた。

    「や、だ……やだ、離してくださっ」

    あんなにも飛び込みたかった腕の中から抜け出したくてもがいた。大事な存在じゃない私を抱きとめないで。枕をともにしながら、いつか一緒に暮らしたいねなんてウンジが放った甘い言葉を胸に留めていたのに。

    「スヨナに泣かれると胸が苦しくなる」

    ごめんねと顔を隠していた手を剝がされて、頬をウンジの両手に包まれる。止まらない涙を指で拭われて、変わらない指の優しさが愛おしくて憎い。

    「優しくしないで」

    「……うん」

    眉を下げて泣きそうなウンジの顔が近づいてきて目を閉じる。触れるだけのキスじゃもう我慢できなくて、自分から舌を絡めた。


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