救済フォシテスさまが亡くなられた。
信じられない。
あのフォシテスさまが。
イセリア人間牧場の主、ディザイアンの英雄にして五聖刃の一角、俺たちの希望、そのフォシテスさまが、劣悪種どもに殺された。
どうして俺はあの時逃げ出してしまったのだろうか。そんな後悔がずっと俺の頭にぐるぐる回っていた。わかっている。俺ひとり居たところで、強くもないし、なにも変わらなかっただろう。きっとフォシテスさまも、そんな俺を𠮟りつけたりしないだろうって思うのに、俺は、あまりに重たい悔恨に押し潰されそうだった。
なんとか一日一日を這いつくばるようにやり過ごしていたある日、あたりが光に包まれた。世界統合だった。
何もかも、わからないことだらけだった。
俺たちディザイアンとは、何だったのか。五聖刃とは。クルシスとは。シルヴァラントとは。テセアラとは。劣悪種とは。この世界とは。誰も答えを教えてくれなかった。誰も知らなかった。そんな疑問が、後悔と入り乱れて、俺は気が狂いそうだった。いや、実際に狂っていたのかもしれない。何故なら、気が付いた時には、俺は見慣れた、いや、見慣れてはいるが荒れてしまった、イセリア人間牧場にいた。
俺は無意識のうちにフォシテスさまにすがろうとしたんだろう。きっとフォシテスさまなら教えてくれた。あの方は俺たちをいつでも導いてくれた。だから、でも、フォシテスさまは、駄目だ、苦しい、立てない、潰れる、俺の頭の中のあれが膨れ上がって、もう、
赤
倒れ込んだ俺の目に、赤が映った。布切れだった。その赤は見覚えがあった。これは、他でもないあの方の、フォシテスさまの服と同じだ。ディザイアンの紋章の入った、あの。
俺は死に物狂いで手を伸ばした。もう少し。あと少し。そして、掴んだ。掴んだとたんに、俺を潰そうとしていたものがすうっと消えていった。
フォシテスさまが助けてくれたのだ。ごめんなさいフォシテスさま。迷惑ばっかりかけるベイリップでごめんなさい。俺は延々と泣きながら赤い布を握り締めていた。
なんにもない俺の部屋の小さな木箱に、その赤い布は入れてある。相変わらずかろうじて生きながらえているけれど、フォシテスさまがついていてくれるから、ってがんばってる。でも、汚れないように大事に箱にしまっているのに、少しずつ端からぼろぼろに崩れていっていて、それを見てはまた俺は泣いてしまう。ごめんなさい。フォシテスさま。