春。桜並木を並んで歩いている。
「ねぇー花見行かん?」
「嫌だ」
「なんでー?ええやん!ちょっとくらい!」
「今日、平日やしそんな人おらんて」
「嫌だ。外で中で飯を食いたくない」
「ほんなら、散歩!散歩だけ!桜が綺麗なところあんねん。並木道近くにあるやろ?」
いつもロードワークに使う道。あそこは確かに桜の木が均等に植えられている。数年前ドローンから撮影された写真がSNSで話題になり少し観光客が増えた。ただ、言った通り今日は平日で人通りは少ないことが予想されたから、買い物がてら2人で散歩することを許可した。
いつもは走りやすいジャージ姿で歩く道だが、宮はジーパンにシャツというもっとラフな格好でポケットに入らなかったエコバッグを片手に歩いている。予想通り人はいなかった。
外で地べたに座って飯を食うのが理解できないだけで、桜を見るのは嫌いではない。花びらが舞う様を綺麗だと思う感性は俺の中にある。最近は忙しくて、思えば久しぶりに2人で出かけている。出かけると言っても、近所のスーパーだか。いつもは車で運転する道を歩いている。桜の花びらが宙を待った後、地べたに落ちて進む道が真っ白に染まっている。桜の花びらが視界を遮り横を歩く宮の顔が上手く見えない。それすらも綺麗だと思った。何かくだらない事を喋っている宮に適当に相槌をうちご機嫌な宮がニコニコしながら「なんやこんなん久しぶり!デートやな!」
と言った。
美しいものを見るのは好きだ。だから、来てよかったと思ったのは確かで、たった数メートルのこの道を宮と歩く時間は良いと思った。手を伸ばして宮のミルクティー色の髪の毛にとどまった花びらをはらって、用事を済ませた手を引っ込めたくなかった。ふれあいは好きではない。でも美しいものに触れるのは好ましいと思うからそのまま手を繋いで、スーパーまでの道を2人で歩いた。宮は何も言わなかった。