ナイチンゲールに愛されて試合場所は罪の森。
先程からずっと、庭師、エマの頭には鈍い衝撃が与えられていた。
所詮ケバブと呼ばれるものだ。
既に二人のサバイバーが荘園へ送り返され、エマも捕まってしまった。幸い暗号機は残り二台なのでハッチはあるのだが、エマはこの試合でまだ一度もロケットチェアに座らされていなかったため、荘園へ送り返されるには時間が沢山あった。
残りの一人はハッチ付近に待機しており、暗号機がハッチの近くにあるのが唯一の救いだ。
ハンターはどうしてしまったのか?
エマをロケットチェアに座らせるやいなや、武器でエマを殴り始めたのだった。実に愉快そうな顔で、雑魚だな、と呟いている。
エマは涙を堪えていた。ここで泣けば、このハンターを喜ばせてしまう。人形のように動かないと決めたのだが、如何せん飽きることなくハンターが殴り続けてくるものだから、エマの頭からは血が出始めていた。その血がエマの目に入り、痛みで思わず涙が出る。それを見たハンターは案の定、笑みを深め、荘園から帰れと言い更にエマを殴った。
一度出た涙を止める術をエマは知らない。ただハンターに殴られながら、血と涙を綯い交ぜにするしかなくなった。
だがその時。
大きな、笛のような、あるいは鳥の声のような甲高い音が鳴り響いた。
瞬間、ハンターの頭に誰かの拳が勢いよくげんこつをした。
「ナイチンゲールさん…」
エマとハンターの間に割って入ってきたのは、あのナイチンゲールだった。
「庭師、今解放します。」
そう言うとナイチンゲールはロケットチェアの拘束を解き、エマの頭の応急処置を始めた。そして、ナイチンゲールのげんこつをくらいスタンしているハンターの方を見向きもせずに言った。
「抵抗のできないサバイバーに危害を加えることを許しません。荘園の規約を違反したあなたにはここから出ていって貰います。」
そしてハンターに弁明の余地もなく、一羽の鳥がハンターに『永久BAN』と書かれた札を貼ると、ハンターはジジッと砂嵐のように揺れて、消えた。
「試合は終わりです。ハッチは開けておいたので味方のことはお気になさらず。」
ナイチンゲールはそう言うと、エマに背中を差し出ししゃがんだ。
「どうぞ。」
それだけ言うと、動かなくなってしまった。エマはためらいながらも、ありがとうございますなの、と言いナイチンゲールにおぶさった。
「あの…ナイチンゲールさん、」
荘園に帰る道中でエマは口を開く。
「ハンターさんを、あんなにあっさり、その…消してしまっていいなの?」
ナイチンゲールは歩みを止めることなく答えた。
「はい。元々目に余る行動が多い者でしたから。見せしめでございます。」
エマはそうなの…と言い黙りこくる。ナイチンゲールはそんなエマの様子を察したのか、近くのブランコに優しくエマを乗せ後ろから支える。
「私は荘園の運営としてやるべきことをしました。」
ナイチンゲールの手が、エマの頭を優しく撫でる。
「しかし、あそこまでする必要は無かった。」
エマは驚いてナイチンゲールの方を向く。ナイチンゲールは撫でる手を止めなかった。
エマの肩に、鳥が舞い降りた。
「この、私に…私情があることは御存じで?」
エマは仮面越しのナイチンゲールの瞳を見る。それが優しく細められた。
「サバイバーに…貴女に、危害を加えることを許せません。」
エマの頬が、赤く染まった。