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    へるべちか

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    へるべちか

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    イソップのトラウマに関する物語。
    ⚠捏造9割。体調不良有。ジョゼフさんが最後独占欲強め?かも??

    #写納
    JosCarl

    痛みと愛しさ「うっ、」
    心臓のあたりを、服の上から押さえうずくまる。灰色の瞳にはわずかに涙が滲んでいた。

    イソップ・カールには悩みがあった。それは最近、頻繁に心臓のあたりに痛みを感じることだ。幼い頃からの症状であったものの、その時はまだ3ヶ月に一度痛むか痛まないかの頻度だった。
    それが最近は2日に一度、いや1日に一度、何度もと言っても過言ではないほどに痛んでいる。
    それは唐突に訪れるのだ。呼吸をした途端、あるいは動いた途端、何もしなくとも、心臓が鼓動するだけで。心臓のあたりは張り裂けたかのように痛み、呼吸もままならず、動くなど論外。呻くことを我慢できるときもあるが、あまりの痛みに思わず呻きが漏れることが多い。
    しかしその痛みは一瞬で終わることが多い。今までも、一分痛みが続いたことはない。なのでイソップ自身大したことではないと思っているし、そのため誰にも相談していない。するつもりもない。

    そんな具合でイソップは毎日を過ごしていた。ゲーム中にも痛むときはあったが、今のところ勝敗に影響はない。しかし冷や汗はかいてしまう。

    イソップは自分に良くしてくれる荘園のメンバー達を気に入っていた。イソップの当初の目的であった「彷徨える人の納棺」もする気が失せてしまうほどに皆したたかで生命力に溢れている。もしも幼い頃通った学校で生徒みんなと友達だったらこんな感じだったんだろうな、と密かに思っていた。遅れて人並みの幸福を感じたイソップはただ純粋に、荘園のメンバー達を好いていた。

    だからこそ彼らに迷惑はかけられない。そう思っていた。サバイバーもハンターも、ゲームの外では分け隔てなく交流している。イソップに良くしてくれるのはサバイバーだけでなくハンターもだ。社交恐怖を持ち、偏った価値観を持ったイソップを生きやすくしたのは文字通り、荘園のメンバー達だったのだ。

    今日もイソップは、痛みを我慢する。

    朝がきた。
    イソップは起床し準備を終えると食堂に向かう。荘園はハンター館とサバイバー館に分かれている。理由は至ってシンプルで、"大きさ"が異なるからである。それ以外に理由は特になく、試合が終わったらハンターとサバイバーは待機室から出てくるだけなのでハンターがサバイバー館に、サバイバーがハンター館に行くのはよくあることだ。なのでサバイバー館の食堂にハンターがいることもある。逆も然り。

    食堂に入る。イソップは目線の先に水色の瞳を捉えた。ジョゼフである。サバイバー館に来ていたのだ。

    イソップとジョゼフは恋人同士だ。尤も、彼らがこの関係に至るまでに様々なことがあったがそれは別の話である。

    ジョゼフもイソップに気付いたようで、目を細めとびきり優しく微笑むとイソップに歩み寄った。
    「おはよう、イソップ。一緒に朝食を食べたいと思って来たんだが、どうかね?」
    イソップも微笑み返し、返事をする。
    「おはよう…ジョゼフさん。嬉しい…一緒に食べましょう」
    二人は共に朝食を摂ることになった。
    別にこの荘園では珍しいことではない。他にもレオとエマが一緒だったり、ボンボンとトレイシーが一緒だったりする。

    「イソップ、今日は試合で当たるんじゃないかな。」
    ふとジョゼフが言う。イソップは咀嚼していたスクランブルエッグを飲み込む。
    「はい。ハンターはジョゼフさんで…サバイバーはイライさんとエミリー先生と、マーサさんです。」
    「へえ、空軍の彼女がいるのか。これは"興奮"必須だ。」
    ジョゼフはそう言うと紅茶をすすった。
    「お互い頑張ろうじゃないか、イソップ。」
    「はい…真剣に、いきます。」
    「…おっと、君に激励の言葉は必要無かったようだな。いつもにまして目がギラついている。」
    ジョゼフは苦笑しイソップの目尻を撫でる。途端イソップの顔は緩んだ。
    「すまないね。君はいつも何事にも真剣に取り組んでくれる。そういうとこが好きだよ。」
    さらっと好意を伝えるジョゼフにイソップは赤面したのだった。イソップは彼のそういうとこが好きなのだ。

    「おはよう、みんな。」
    試合の待機室に占い師のイライが入ってくる。既に入室していたイソップ、エミリー、マーサは各々に挨拶の返事をした。
    「長期戦になるだろうが、お互い頑張ろう!」
    マーサがそう言うと三人は深く頷いた。瞬間、何かが割れる音と共に試合が始まった。


    試合はいつも通りに進んでいた。
    終盤に差し掛かり、残り暗号機は2台。チェイスを引いてるイライが負傷している。他三人は立て直し済みであり、エミリーとマーサが同じ暗号機を解読している。イソップの暗号機は間もなく解読終了である。
    ふと、イライからチャットが送られてきた。イソップは伝令機に目を向ける。
    『注意!ハンターが目標を変えた!』
    イソップははっと顔を上げる。暗号機の近くに赤黒い光の柱が立っていた。
    「瞬間移動…!」
    イソップは即座に暗号機の反対側へと駆ける。
    「っ!!」
    忘れかけていた頃に、痛みはやって来た。心臓のあたりが激しく痛む。まるで骨折したかのような痛みだった。空気を吸い込む。それだけで激痛が走った。
    しかし試合を放棄するわけにはいかない。皆ゲームには必死なのだ。いつ終わるかも分からず途方に暮れていても。
    イソップは、『ハンターが近くにいる!』というチャットを打った。


    走るためにはより多くの呼吸が必要だ。
    イソップの呼吸は荒くなる。当然痛みは増す。やり切ると決めたイソップだったが、これではいつまで持つか分からないな、と思った。
    もうすぐジョゼフに追いつかれる。そのタイミングでイソップは板を倒した。しかしイソップの体は限界に近かった。板を倒した拍子にイソップの体は傾き、とっさに受け身を取ろうとしたイソップは右手の平を地面に強かに打った。次いで体は崩れ荒く息をした。
    (っ!!やって、しまった…!)
    今は大事な試合中、イソップはそれをよく分かっているからこそ余計に焦った。
    (利敵に…なって、しまうかもしれない…)
    そう思うも、様々な要因から来るあまりの痛みにイソップは思わず呻いた。
    「っ、う…ぁあ゙っ」
    板を割る音が聞こえた。
    「イソップ?」
    ジョゼフが自分を呼ぶ声を最後に、イソップの意識は途切れた。頬には涙が一筋、伝っていた。




    「誰か!!」
    悲鳴にも近いその声に、エミリーとマーサは解読を中断し顔を上げる。
    そこにはぐったりとしたイソップを横抱きにした必死の形相のジョゼフがいた。
    「イソップ君!?」
    最初に異変に気付いたのはエミリーだった。即座にジョゼフのもとへ走る。マーサはエミリーの後ろから信号銃を構えながら近付いてきたが、イソップの様子を見てからジョゼフの顔をしばらく見つめ、銃を収めた。
    「何があった?」
    マーサがジョゼフに聞く。ジョゼフはエミリーがイソップの容態を見やすいように、イソップを抱えたまま地面に腰をおろした。
    「正直、よく分かっていない。いつも通りにチェイスをしていたのだが、イソップが急に苦しそうに倒れて…それで、意識を失ってしまった。」
    イソップの様子を見たエミリーは険しい表情になった。
    「…脈がおかしいわ。」
    ジョゼフとマーサが目を見開いた、その瞬間通電の音が鳴った。ジョゼフの目が赤く光る。
    「…イライ君に残りの解読を任せきってしまったようね。」
    エミリーはそう言いため息を付くと、イソップの呼吸を再度確認する。
    「まだ意識が無い状態ね。…とりあえず、イライ君を呼びましょう。」
    それを聞いたマーサは素早く伝令機に『ついてきて!』というチャットを送った。


    「何があった!?」
    イライは到着した瞬間に叫んだ。ジョゼフの腕の中のイソップはまだぐったりとしていて、瞼を固く閉じていた。
    「イソップ君がチェイス中に倒れたの。まだ意識が戻らないわ。」
    エミリーはイライの方を向いた。
    「解読をしてくれて、ありがとう。…状況の把握をゲームが終わる前にしてほしくて呼んだの。」
    イライはそうか、と言いイソップの方を見た。顔は青白く、呼吸は少し荒い。
    「ゲートから出るのならば写真家殿は同伴できないから、私が彼を運ぼうか?」
    ジョゼフはそれを聞いて初めて、自分がサーベルも通信機も放り出してイソップを抱えて来ていたことに気付いた。
    「頼む、占い師。」
    イライはジョゼフの目を見て、しっかりと頷いた。

    ゲートを開門し、あとは脱出するのみとなった。ジョゼフは自身の腕の中のイソップを見やる。倒れたときよりも呼吸や顔色が幾分ましになっていた。
    「イソップ…」
    ジョゼフは呟く。イライが近付いてきた。
    「写真家殿、代わるよ。」
    イライがそう言い、ジョゼフは片膝を地面につけた。その時だった。
    「ジョゼフ、さん…?」
    イソップが瞼を少し開け、喋ったのだ。意識が戻ったのだ。
    「イソップ!」
    ジョゼフが目を見開き名を呼ぶ。イソップはまだ意識が朦朧としているようだったが、頬に添えられたジョゼフの手を弱く握った。
    「イソップ君!目が覚めたのね!」
    エミリーが駆け寄る。
    「良かったわ…。詳しい話は医務室で聞かせてもらうわね。マーサが先に戻って準備してくれているから。」
    イソップは分かったというふうに頷いた。
    「イソップ、ゲートから出るから、すまないがおぶらせてもらうよ。写真家殿。」
    そう言いイライが背を向ける。ジョゼフはイソップをイライの背により掛けた。
    「すまないね、占い師。」
    「大丈夫ですよ。サバイバーにとって協力はマストですからね。」
    エマが言っていました、と笑ってイライはゲートから出た。エミリーはジョゼフに一礼し、ありがとうございましたと言い脱出した。




    荘園に帰ってから、イソップはエミリーに様々な検査と質問を受けた。
    イソップは自身の幼少期からの心臓の痛みについて、エミリーには話さなかった。

    身体に特に異常は見当たらなかった。一応軽めの貧血ということで、鉄分を摂るようにとサプリを渡されて、絶対安静を言い渡されたイソップが医務室を出たのは、医務室に連れられてから二時間ほど経過した後だった。

    自室に戻り、サプリをデスクに置く。イソップはなんだか体力だけでなく精神力まで多く消費してしまった気がして、もう寝てしまいたくて、瞼は半分閉じかけていた。
    とにかくシャワーだけは浴びようと、部屋に取り付けられているシャワールームでシャワーを浴びて簡単な部屋着に着替え、渡されたサプリを飲む。
    ふと部屋の扉に目が行った。そこにはいつからあったのだろうか、小さな封筒が挟まっていた。
    イソップは扉に近付き封筒を取ると、中から手紙を取り出した。

    イソップ、体調は大丈夫か?
    今日の君の残りのゲームは無くなったからどうかゆっくり休んでほしい。
    私も君の邪魔はしないでおこう。
    元気になったら茶会をしよう。その時は私の部屋までおいで。

    追伸 返事は不要だ。

    ジョゼフ


    「ジョゼフさん…」
    それはジョゼフからの手紙であった。イソップはそれを優しく抱きしめるとそっとデスクの引き出しにしまい、ベッドに潜り込んだ。


    嫌な夢をみた。
    イソップは痛む胸を押さえ、小さく呻く。
    イソップをこのような体質にしてしまった理由、それは幼少期のいじめだ。
    周りと馴染めず、どこか浮いた様子の子供だった。
    髪も瞳も、周りとは違った。
    皆、子供だったから、奇異な目で見られるのは当然だった。
    イソップは大勢の人との交流を得意としなかった。しかし彼なりに歩み寄ろうと努力はした。
    しかし、育ちが特殊なイソップは誰もが思う普通にはなれなかった。彼の優しさを誰も汲み取れず、気味悪がった。そしてそれは手を上げられるまでになったのだ。
    母には言えなかった。イソップは、どうしても。

    だからイソップは一度死にかけた。
    いじめっ子の行き過ぎた暴力により、心肺が停止しかけた。幸いにもその時教師が通りすがり最悪の事態は免れた。

    だがイソップの心には深い傷を残した。あの時の胸の圧迫感と、薄れていく意識と、呼吸ができない恐怖。
    涙と、涎とが教室の床に落ち、溜まる。いじめっ子の嘲笑う声。
    全てがイソップにトラウマを作った。胸の痛みという、トラウマを。



    イソップが試合中に倒れた日から数日が経った。また倒れてしまうのではないかと毎日気を遣われていたが、エミリーからサプリを貰っていることや充分に休息をとれたと本人が言っていることから次第に皆の態度もいつもと同じになり、以前のようにゲームに誘われるようになった。


    「みんなおはよー!」
    そう言ったのは、待機室でサバイバーの方まで訪問してきた泣き虫のロビーだ。
    「ロビーか!朝から元気だな、いいことだ。」
    パトリシアはそう言うとロビーの頭を撫でる。
    「えへへ、今日はね、僕新しい衣装を自慢しに来たんだ!」
    そう言うロビーの衣装は、つい最近発表されたばかりの白く可愛らしいものだった。
    「さっき手に入れたばっかなんだ!ねえ、今日は遊ぼうよ!」
    期待するようにこちらを(恐らく)見るロビーに、今度はアニーが頭を撫でた。
    「私も遊びたいわ。皆はどうかしら?」
    パトリシアもイソップも頷いた。ノートンは好きにすればいいと言った。しかし素っ気ないようなノートンは、元から戦う気が無いのかロビーが訪問にきたときから磁石を遊び道具に貸してやっていたのだった。




    暗号機を解読する。
    試合開始直後にロビーとサバイバー4人で合流し少し遊んでから、各々自由に行動していた。と言っても、女性陣はロビーと遊び、男性陣は解読に回っている。

    「の〜かんし〜〜!」
    ロビーの声が聞こえた。イソップは解読機から視線を上げ、辺りを見回す。ロビーと、アニーとパトリシアがこちらへ向かってきていた。
    「ロビーが君を見つけてね。どうやら遊び足りないようだ。」
    そうパトリシアが言う。イソップの解読していた暗号機にロビーがよりかかった。
    「ねぇ納棺師、僕と鬼ごっこしよ!」
    ロビーはイソップの顔を下から覗き込むように言う。
    「それでは…いつもの試合と変わらないんじゃ…」
    イソップが反論すると、ロビーはああ、と両手をイソップに見せた。
    「さっきお姉ちゃんたちと遊んでるときにね、邪魔だから置いてきたんだ。斧。だから本当に遊びだよ!」
    イソップはそれなら…と承諾し、ロビーに手を引かれ病院の外へと出た。

    「待て〜!」
    鬼ごっこが始まった。ロビーは子供とはいえハンターなので、足が速い。板や窓は使わずの、全力普通鬼ごっこだ。
    サバイバーとハンターの走るスピードは、一見あまり変わらないように見えてハンターの方が速い。子供であるロビーも例外ではないのだ。
    「足が、速いな…」
    イソップが思わずこぼす。ロビーはそれを聞き、胸を張った。
    「えへへ、そうだろ!ハンターは身体が丈夫なんだ!」
    イソップはこんなに逞しい死人があるか、おっかない、と思いながらロビーから逃げていた。
    次第に、サバイバーであるイソップの息は上がっていった。


    「捕まえたっ!」
    ロビーが勢い良くイソップに飛びつく。息が上がっていたイソップは、拍子にバランスを崩しロビー諸共地面に倒れ込んだ。
    「いたっ…」
    イソップがロビーの下敷きになるような形になった。
    「あっ!ごめん、納棺師!まさかこけちゃうとは思ってなかった。大丈夫?」




    「…納棺師?」







    「っ…はぁっ、うっ…ぐ…」

    気付かぬうちに、ロビーの膝が、イソップの胸を圧迫していた。
    イソップは、“あの頃”をフラッシュバックしていた。


    『こいつ、泣いてるぞ。気持ち悪い。』
    『見ろよ、汚え!涎なんか垂らしてやがる!』
    『ほら、もっと強く踏んであげるよ。汚物にはピッタリだろ?』


    イソップは、逃げ場を探して喘ぎ、力なくもがいて、やがて痙攣し始めた。大粒の涙を零し、ごめんなさい、たすけて、と虚ろに呟く。イソップは気付いていない。今は“あの頃”ではない、現実であるということを。

    「納棺師!?ちょっと、どうしたの!?」

    ロビーは通信機を手に取り、即座に投降ボタンを押した。

    イソップの意識は、そこで途切れた。











    くる…しい…胸が…心臓、が…いたい……誰か、だれか………たすけて…

    ジョゼフ、さん…













    「イソップ!!」
    意識が覚醒する。イソップの部屋だった。青い瞳二つがイソップを覗き込んでいた。
    「イソップ、大丈夫か!?また試合中に具合が悪くなって気を失ったんだろう!?ロビーから聞いたぞ!」
    イソップの目の淵から、あつい雫が零れ落ちる。
    「っ!すまない、イソップ。目覚めたばかりの君に捲し立てすぎた…。」
    そう言うとジョゼフはイソップの涙をハンカチで優しく払う。
    「ジョゼフさん…違うんです…。ただ僕は…あなたの顔を、見ることができて…安心、して…」
    ジョゼフが刹那、目を見開く。それから、さも愛おしそうにイソップの額に口付けを落とした。
    「…イソップ、大丈夫。安心しなさい。私がいる、直ぐ側に。」
    イソップはまた、感情が溢れてしまった。今度は、さっきよりも激しく。
    (ジョゼフさんは、僕の一番欲しい言葉を知っている。)
    安心しきったイソップは、ジョゼフの手に顔を擦り寄らせ嗚咽を漏らしながら泣いた。ジョゼフはもう片方の手で、イソップの頭を優しく撫で続けた。




    「…聞いて、くれますか。僕の…過去と、体質の、こと…。」
    気持ちが落ち着いたイソップは言った。何かに怯えるように震えるイソップの体をジョゼフは優しく抱きしめる。
    「大丈夫だ。イソップ。落ち着いて。私はずっと、イソップの味方だ。」
    ジョゼフのその言葉で決心したイソップは、ゆっくりと、痛む傷を労るように話していった。



    全てを話し終えたイソップは胸を押さえて、荒く呼吸をしていた。
    双眸からぽろぽろと、涙が落ちている。
    「イソップ、私を選んで話してくれてありがとう。」
    ジョゼフはそう言うと、もういいと言う風にイソップの頭を己の胸に抱き寄せた。
    「イソップ、大丈夫。安心しなさい。今君がいるのは、どこだい?」
    ジョゼフが優しく問いかける。イソップはジョゼフの存在を確かめるように、ジョゼフを抱きしめた。
    「僕、は…今…荘園に、ジョゼフさんと一緒に…います…」
    イソップが落ち着いてきたのを見てジョゼフは安心したような笑みを浮かべた。
    「そうだイソップ。お前は今、私の腕の中だ。大丈夫、大丈夫。怖くない。」




    「あの、ジョゼフさん、僕…泣き虫さんに謝らないと…」
    ジョゼフはイソップを見て、その頭を撫でた。
    「お前が案ずることは何も無い。むしろロビーが謝罪したがっていたよ。兎も角、調子が戻ったら一度茶会でもするといい。」
    イソップが申し訳無さそうな顔をしたので、ジョゼフは今度は頬を優しく撫でた。
    「案ずるなよ。」




    それから、数日が経った。
    今、イソップはジョゼフの部屋で茶会を行っている。

    「イソップ、お前はこれから、どうしたい?」
    イソップは持っていた紅茶のカップをテーブルに置いた。
    「ジョゼフさん…、僕、考えました。僕がこの荘園の一員として、みんなと同じように生きるために…。」
    イソップはジョゼフの目をしっかりと見つめ、答えた。
    「ジョゼフさん、僕、トラウマを…克服したい、です。」
    ジョゼフは笑み、イソップの手をとった。
    「全て私に任せなさい。きっと、上手くいく。」





    「実は私はトラウマ治療に詳しいのだよ。過去に色々あってな。また話すよ。」
    ジョゼフとイソップ、二人はイソップの部屋にいた。
    「では、始めようか。」


    二人はお互いに向き合い椅子に座り、ジョゼフがイソップの両手をしっかりと握った。
    「イソップ、目を閉じて。もし辛くなったらいつでも開けて大丈夫。」
    言われた通りイソップは両目を瞑る。
    「いいね、イソップ。今から私の言うことをよく聞いて、従いなさい。」
    イソップは小さく頷いた。それを確認し、ジョゼフは続ける。
    「イソップ、今、胸は痛むか?」
    イソップは頷き、答える。
    「少し。」
    それを聞いたジョゼフは、優しくイソップに乞うた。
    「イソップ、ゆっくりでいい。胸が痛む感覚に、集中してみなさい。」
    イソップは一瞬困惑したような表情を浮かべたが、すぐにジョゼフの言葉に従った。
    「っ、はぁ…はぁ…」
    次第にイソップの呼吸は乱れていく。そのタイミングで、ジョゼフはまたイソップに優しく語りかけた。
    「大丈夫。イソップ、今、両手はどう感じる?」
    イソップはジョゼフの声をなんとか取りこぼさずに聞き取った。次いで、震える手でジョゼフの両手を握る。
    「ジョゼフさんが…います…。っ、はぁ……ここは…僕の、部屋…」
    ジョゼフはイソップの手を優しく握り返す。
    「そうだイソップ。お前は今荘園にいて、私が側にいる。」
    イソップの呼吸が落ち着いてきた頃、ジョゼフはまた指示を出した。
    「イソップ、また、胸が痛む感覚に集中して。」
    イソップは言われた通りに、再び従う。今度は、“あの頃”をフラッシュバックした。イソップは涙と嗚咽を思わず零す。すかさず、ジョゼフが語りかけた。
    「イソップ、両手の感覚に集中しなさい。何を感じる?」
    イソップは堪らず目を開け悲鳴のように答えた。
    「ジョゼフさんっ、ジョゼフさんがっ、いますっ…!!」
    ジョゼフはイソップを抱きしめ、背をぽんぽん、と優しく叩きながら言った。
    「イソップ、よく頑張った。大丈夫。今日はここまでにしよう。」
    イソップは幼子のように泣き出してしまった。ジョゼフは今度、イソップの背を撫で続けた。

    そうして、ジョゼフによる初めてのイソップのトラウマ治療は終了した。





    二人はお互いのゲームが休みの日に、トラウマ治療を行った。
    最初は、トラウマを刺激されて、震えて、泣いて、叫んで、酷いときは失神してしまっていたイソップも、数ヶ月経つとかなり肉体的にも精神的にも安定するようになってきていた。ただし、ジョゼフの存在が必要不可欠であった。
    ジョゼフのいないゲームなどでは、治療のかいあって前ほど酷くはないものの、相変わらず胸は痛んだ。
    しかし、ジョゼフが側にいると違った。

    ジョゼフの側は安全である。

    トラウマ治療を数ヶ月もの間続けるうちに、無意識に脳が覚えたことだ。イソップは、ジョゼフが近くにいると呼吸がしやすい。雛鳥の刷り込みのように、ジョゼフはイソップの安全地帯と化したのだ。


    元々恋人同士のため、ともに過ごす時間が増えようと周りは疑問に思わないし、むしろ誰の目から見ても相思相愛な彼らを祝福するだろう。
    ジョゼフの提案から、トラウマ治療を効率よく行う為イソップはしばらくの間ハンター館で生活することを選んだ。


    「ふぅ…これで、全部だ…。」
    イソップは荷物のつまったトランクを両手でしっかりと掴み、自室にしばしの別れを告げ廊下へと出た。
    いざジョゼフの部屋へと向かおうとしたとき、声をかけられた。
    「イソップ!」
    イソップは振り返る。そこには、イライと、珍しくナワーブがいた。
    「どうか、しましたか…イライ、ナワーブ。」
    イライが一歩前に出る。躊躇いながら口を開いた。
    「その…君は、本当にハンター館に行ってしまうのかい?」
    写真家の元に、と付け足される。途端、イソップの胸が痛んだ。顔をしかめ、イソップは答える。
    「はい。ゲームについては、心配しなくて大丈夫です。公私は弁えます…。遅刻も、ありませんから…。」
    イソップがそう言うと、今度はナワーブが前に出た。
    「公私を弁えられるならいいが……いいか、イソップ。喰われるなよ。」
    そう言うとナワーブは反対側へと歩いて行ってしまった。イライはそれを見て、慌ててイソップに別れを告げると後を追っていった。
    イソップは、痛み始めた胸を強く押さえながら、ハンター館へと急いだ。



    「イソップ、よく来たね。さぁお入り。」
    ジョゼフを見て、部屋に入った途端胸の痛みが収まっていく。荷物を指定された部屋の隅に置き、ジョゼフに駆け寄る。
    「ジョゼフさん…あの、本当に…何から感謝していいのか、分かりません。トラウマ治療だけではなくて…ジョゼフさんの居館にまでお邪魔させていただいて、本当にありがとうございます…。」
    イソップがおずおず言うと、ジョゼフはとびきり優しい笑みになって、囁いた。
    「あのね、イソップ。私たちは恋人だ。愛しいイソップの為ならば何だってできる。今でも、足りないぐらいだ。だからね、」
    そう言うとジョゼフはイソップの額に口付けを落とす。
    「私の元へ、来てくれてありがとう。イソップ。必ずお前の、心の支えになろう。」







    「ナワーブ、イソップのことが心配ならそう言えば良かったのに。」
    「二人は恋人だろう。ただの野次の意見なんか、あんま意味ねえと思ったんだよ。」
    「確かに恋人同士だけどさ、写真家のイソップへの執着心は物凄いだろう。何があったのか分からないけど、写真家と一緒に住むとなると、イソップ結構…」
    「イライ、もうそれ以上言うな。どっちにしろ手遅れだ。まあ幸いなのは二人がちゃんと想い合ってるってことだ。何とかなる。多分。」
    「う〜ん…まあ写真家は結局、イソップの気持ちを尊重してくれるし…。想像しているほど悪いようにはならないことを願うばかりだな。」
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    ❤❤❤😍😍👍👍
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    へるべちか

    DOODLEハンターがサバイバーにケバブしたらスタンするというアプデを元に書いたお話。モブ名無しハンターが出ます。
    ⚠ナイチンゲール×庭師
     流血表現有
     キャラ像掴めてないです。

    何でも許せる方向け!!
    ナイチンゲールに愛されて試合場所は罪の森。
    先程からずっと、庭師、エマの頭には鈍い衝撃が与えられていた。
    所詮ケバブと呼ばれるものだ。

    既に二人のサバイバーが荘園へ送り返され、エマも捕まってしまった。幸い暗号機は残り二台なのでハッチはあるのだが、エマはこの試合でまだ一度もロケットチェアに座らされていなかったため、荘園へ送り返されるには時間が沢山あった。
    残りの一人はハッチ付近に待機しており、暗号機がハッチの近くにあるのが唯一の救いだ。

    ハンターはどうしてしまったのか?
    エマをロケットチェアに座らせるやいなや、武器でエマを殴り始めたのだった。実に愉快そうな顔で、雑魚だな、と呟いている。
    エマは涙を堪えていた。ここで泣けば、このハンターを喜ばせてしまう。人形のように動かないと決めたのだが、如何せん飽きることなくハンターが殴り続けてくるものだから、エマの頭からは血が出始めていた。その血がエマの目に入り、痛みで思わず涙が出る。それを見たハンターは案の定、笑みを深め、荘園から帰れと言い更にエマを殴った。
    1399

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