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    ルチル視点で、子どもの頃に体調を崩したミチルを連れて診療所を訪れた時の話。
    頼れる大人な面を見せたり、時折寂しそうな顔をするフィガロに思う所があるルチル。
    ……から、魔法舎まで時間がうつります。
    出番少ないですが、フィガファウです。らくがき。

    #フィガファウ
    Figafau

    ルチルから見たフィガロ先生の話 ひょっこりと扉の隙間から顔を覗かせると、診療所の主であるフィガロ先生は安心させるような笑顔を浮かべて手招きをしてくれた。部屋に入ると音を立てないように慎重にベッドに近付く。するとさっきまで真っ赤な顔をして息を切らしていた弟が安らかな表情をして眠っているのが見えた。ようやくほっと息を吐くと、力が抜けたのかその場でしゃがみ込みそうになった。
    「深く眠っているみたいだ。もう心配しなくて大丈夫だよ」
     昨日の夜はいつも通りだったのに、朝目が覚めたら額が沸騰したポットのようだったミチルをおぶってフィガロの診療所を訪ねたのはつい先程の事。幼い子どもはしょっちゅう熱を出すとはいえ、ミチルの事となると一抹の不安が過るのだ。もしもの時の事を想像すると心底恐ろしくて手足が震えたというのに、あっという間にフィガロ先生は安心感をくれる。
    「やっぱりフィガロ先生は凄いです。私もミチルを助けられれば良いのに……」
     フィガロ先生は笑いながら「すぐには無理だけど、ちょっとずつ教えるよ」と言いながら腰を上げた。
    「隣の部屋に移動しようか、おしゃべりするならお茶とお菓子が必要でしょ?」
     知り合いの誰よりも綺麗なウインクに少しだけ笑ってから、フィガロ先生の後を付いていった。

     コポコポと注がれる透明なガラスのティーポットの中には何の植物かは分からないが乾燥させた茶葉が踊っている。花弁も混ざっているそれは、フィガロ先生の特製ブレンドティーらしい。時々そうやって出されるお茶は大抵苦くて、多分薬草が主な材料なんだろう。
    「不安だったろうに、よくミチルをここまで運んできたね。箒の操縦が上手くなったんじゃない?」
    「実はずっと特訓してるんです。他の魔法は全然ですけれど、箒は自信ありますよ!」
     聞くところによると物心つく前から箒が遊び道具だったらしく、呪文を唱えるより先に空を飛ぶ事を覚えた。飛行法は母さまから教わった数少ない魔法の一つだ。それに空を飛ぶ事は単純に楽しい。上空から見下ろす景色は雄大で美しいし、雲の上はちょっとしたお伽噺の世界のようで現実味が無い。空には建物も畑も無いし、通行人もいない。真っ直ぐ飛ぼうが、突然宙返りをしようが誰の迷惑にもならないし、全てがルチルの自由だ。友達が秘密基地を作るのと同じで、ルチルは空に自分の居場所を作った気分になった。
    「じゃあ今度少し遠出してみようか、南の国には沢山面白い所があるんだ」
    「面白い所ですか? 綺麗な所じゃなくて」
    「そう。南の国はまだまだ手つかずの自然が残ってるからね、変わった植物とか、そこでしか生息していない動物とかきっとルチルも面白いと思うよ」
    「先生は本当になんでも知っていますよね」
     時折フィガロ先生は南以外の国にいたような口振りになる事にも気が付いている。他国の話題になると妙に詳しかったり、歴史や地理、特産物などよどみ無く出てくる。まるで辞書みたいに物知りで、母さまも頼りにしていたように記憶している。それもやっぱりお医者さまだからなのかな。
    「どうして母さまはフィガロ先生じゃなくて父さまと結婚したんだろう」
    「ええ……? なぁに、俺が父親が良かったの?」
     ちょっと考えてから、強く首を横に振った。そういう訳じゃないのだと伝えると、フィガロ先生は複雑そうな表情でお茶を啜る。
    「父さまが父さまで嬉しいし、フィガロ先生はフィガロ先生でいて欲しいです。でも母さまはフィガロ先生を頼りにしていたし、どう考えても優良物件じゃないですか」
    「……そういうのどこで覚えてきたんだい? 褒められて悪い気はしないけど」
     両手で包んだティーカップはまだまだ熱くて口に運べそうにない。背中を丸めてふぅふぅと息を吹きかけて、揺れる水面を眺めた。度々訪れてしまう湖を思い出しながら。
    「それなのに、フィガロ先生じゃ無くて父さまを選んだ母さまは素敵だなって」
    「うーん……それは俺が当て馬みたいな……まぁいいけどさ」
     ようやく飲める温度になってきたブレンドティーを口に運ぶ。絶対に苦いものだという予想のもと覚悟をして口に含んだら、それは驚く程に甘かった。
     反射的にフィガロ先生の顔を見上げると悪戯が成功したような顔で笑っているから、つられて笑ってしまった。
    「私もいつか、母さまと父さまみたいな恋がしたいな」
    「出来るんじゃない? ルチルがしたいと思うなら。あの二人の息子なんだしね」
    「フィガロ先生にはそういうひとがいなかったんですか?」
    「……そうだなぁ、今の俺が答えじゃないかな」
     どういう事かと小首をかしげると、フィガロ先生は両方の手の平を上に向けて「何も持っていない」のポーズをした。南の国では他の国に比べて結婚の適齢期が早く、先生の年頃で未婚の男性は数少ない。というより、この近隣では誰もいない。フィガロ先生は魔法使いだから人間の感覚とは違うのかもしれないけれど、先生とレノックスさん、それから母さま以外に魔法使いを知らない私にはいまいちピンとこない感覚だ。
     結婚なんてそう急いでするものでも無いとも思うが、こんなに魅力的な先生にお嫁さんがいないのはおかしいとも思ってしまうのだ。
    「でもね、天命だったら良かったのにと思うひとはいたよ」
    「天命?」
     運命でも宿命でもなく、天命と言ったフィガロ先生は、無意識にだろう窓の外に顔を向けて、少し遠くを見つめた。私は天命の意味もろくに理解していなかったけれど、先生にも大切に思うひとがいて、それが今近くにいないのだという事実だけを理解して、椅子から立ち上がるとフィガロ先生のすぐ横に移動する。
    「ルチル? どうかしたの」
     そう言ってこちらを向いたフィガロ先生をぎゅっと抱きしめた。風が強い夜にひどく心細げな顔をするミチルにするように。先生はずっと大人だけれど時折ミチルよりも寂しそうにするから。
    「少し安心しました。先生にも特別に思うひとがいたんだって分かって。先生は皆に優しいけれど、特別は作らないような気がしてたから」
    「俺にとってはルチルもミチルも、チレッタやレノも特別枠なんだけどね」
    「もう。そういう事じゃないって分かっているでしょう!」
     はぐらかそうとするフィガロ先生の鼻をつまみながら、その宝石みたいな瞳を覗き込んで言い聞かせるように伝えた。
    「先生は素敵なひとですよ。だからきっと大丈夫です」
    「まいったな……ルチルに慰められるなんてね」
     斜め上の天井を見ながら困り顔をする先生にくすくす笑っていると、両脇に手を差し入れられて抱き上げられた。小さい頃によくこうして抱っこされたなと思い出していると、その膝の上に乗せられる。
     ミチルが生まれて随分とお兄ちゃんになった気でいたけれど、先生にとってはいつまでも子どもなのかもしれない。久しぶりに甘やかされて、さっきまで緊張していた心がほぐれていくのが分かる。慰めるつもりが慰められていたのだと気付いたが、これもお互いさまというのだろうか。
    「そんな顔をしなくても平気だよ。でも、俺がひとりで寂しそうにしてる時は、またこうして抱きしめてよ」
    「良いですよ。ミチルと一緒に飽きるまで抱きしめてあげます」
    「ほら、俺には十分だ。チレッタのような恋をしなくても魔法使いは幸せになれる。でも、ルチルがしたいなら見届けさせてね」


     ◇ ◇ ◇


    「……なんて言ってたのに、未来って分からないなぁ」
     魔法舎の朝食の時間は皆バラバラで、早朝稽古をするレノさんやシノさんよりは遅いけれど、ルチルの朝食は割かし早い方だ。大体ミチルやリケ、ヒースさんと鉢合わせする事が多く、南の国ではフィガロ先生だけが遅い部類に入る。だから今日もフィガロ先生が食堂に来なくても不思議では無かったのだが、一足先に朝食を終えると慌ただしく部屋から出て来た姿を視認して立ち止まった。
    「……朝一で座学を予定していたのに」
     正確に言うと慌ただしく出て来たのは東の国の先生役であるファウストさんで、部屋の主は後ろからのんびり出てきた。眠そうに欠伸をしながら。
    「だからって朝食を抜いて教鞭取らないでよ。知ったらヒースクリフが悲しむ」
    「誰のせいだと」
    「俺のせいだね。皆には俺から謝っておくから、ファウストは気に病まないで」
    「……それはやめろ、別の意味で困らせるだろ」
     正直なところ、ああまたか、と思った。度々こういう場面に鉢合わせているが、彼らは飽きずにこの会話を繰り返している。また遅くまで二人で起きていたのだろう、そして結果的に朝寝坊をした。彼らは魔法舎に来た当初はギクシャクしていた様子だったが、暫く経てば酒が好きな者同士、任務先で手に入れた酒瓶を手土産に晩酌をする仲になっていた。そして行き着いた関係性を意外にも隠そうとしないから、彼らの事はミチルやリケすらも知っている。
    「でも、朝の廊下でするには似つかわしくない会話のような……」
    「何をぶつぶつ言っているんですか?」
     昨夜も眠れなかったらしいミスラさんが背後からやってきて、腰を曲げて顎を私の肩に乗せてきた。ちょっと重いけれど、甘えられているのだと思えば許してしまう。最近ミチルは甘えてくれる事が少なくなったから、その分ミスラさんに甘えてもらっているのだ。
    「いえ、今日も仲が良いなと思って」
    「……フィガロの部屋で一夜を過ごすなんて正気じゃないですよね」
     ミスラさんはぼんやりしている所があるから、それがどこまでの意味を持っているのか計りかねたので、「うーん……フィガロ先生の部屋なら小さい頃私もよくお泊まりしましたよ」と応えてみたら、態度で拗ねられた。
    「……本当に正気じゃないのかもしれませんよ」
     ファウストさんはゆったりした動きで白衣を羽織るフィガロ先生の腕を取ると、私達の横をすれ違っていった。律儀に「おはよう」と言って通り過ぎるので、反射的に返事をして背中を見送る。
     そのすれ違いざまに垣間見たフィガロ先生の表情で確信した。もう私が先生を抱きしめる事は無いのだと。
    「恋とはそういうものでしょう?」
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    tono_bd

    DOODLEフィガファウ冥婚企画(https://mhyk.web.fc2.com/meikon.html)で書いたお話です。
    レノックスと任務で東の国に行くファウストの話。
    任務についてがっつり書いて、恋愛要素は潜ませました。
    ああそういう事だったのね、という感想待ってます。
    赤い川を渡って そこに横たわっていたのは血のように赤い色をした川だった。
     流れがひどく緩慢なため、横に伸びた池のような印象がある。大地が傷つき、血を流した結果出来たのがこの川だという言い伝えがあってもおかしくは無いだろう。濁っているわけではなく、浅い川であることも手伝って川底の砂利まで視認出来た。尤も、生きた生物は視認出来なかったが。
     任務でこの地を訪れたファウストは、地獄を流れる川のようだと感想を持った。
    「きみは驚かないんだな」
    「見慣れた風景ですので……懐かしさすら覚えます」
     水質を調べようとファウストは手を翳したが、既に手遅れであることは誰の目にも明らかだ。オズくらいの魔力があれば力業で全ての水を入れ替えてしまえるのかもしれないが、正攻法であれば浄化になる。媒介は何が必要で、どのような術式で、とぶつぶつ呟きながら暫く考えていたが、少なくとも今打てる手はファウストには無い。
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    tono_bd

    DOODLE同級生の中で一番初体験が早かったのが生徒会長だったら良いな……って思いながら書きました。
    スペースに集まった人全員「夏の現代学パロ」というお題で一週間で作り上げるという鬼畜企画でした。
    私が考える「現代学パロ」はこれだ!!って言い切るつもりで出します。
    どう見ても社会人パロとかは言わない約束。
    ノスタルジーが見せる 夏休みを失って二年が経った。
     手元で弾けている生ビールの泡のように、パチパチと僅かな音を立てて消えていく。気付いたら無くなっているような二年だった。社会に出れば時の流れは変わるのだという言葉の信憑性を疑った時期もあったが、自分がその立場に立ってはじめて理解出来るものだ。
     ノスタルジーが生み出す感傷だろう、自分らしくないなと思いながらジョッキを傾ける。
     同窓会なんて自分には縁の無いものだとファウストは思っていた。誘う友人もいないし、誘われるような人柄では無いと自覚している。それなのに今この場にいるということは、認識が間違っていたという事だろうか。今日の事を報せてくれた淡い空色の髪をした友人は目立つ事も面倒事も厭うきらいがある。そんな彼が声をかけてくれたのは、単に僕がのけ者にされないよう気を遣ったのか、巻き添えを探していたのだろう。
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    DONEほしきてにて展示していた小説です。

    「一緒に生きていこう」から、フィガロがファウストのもとを去ったあとまでの話。
    ※フィガロがモブの魔女と関係を結ぶ描写があります
    ※ハッピーな終わり方ではありません

    以前、短期間だけpixivに上げていた殴り書きみたいな小説に加筆・修正を行ったものです。
    指先からこぼれる その場所に膝を突いて、何度何度、繰り返したか。白くきらめく雪の粒は、まるで細かく砕いた水晶のようにも見えた。果てなくひろがるきらめきを、手のひらで何度何度かき分けても、その先へは辿り着けない。指の隙間からこぼれゆく雪、容赦なくすべてを呑みつくした白。悴むくちびるで呪文を唱えて、白へと放つけれどもやはり。ふわっ、と自らの周囲にゆるくきらめきが舞い上がるのみ。荘厳に輝く細氷のように舞い散った雪の粒、それが音もなく頬に落ちる。つめたい、と思う感覚はとうになくなっているのに、吐く息はわずかな熱を帯びてくちびるからこぼれる。どうして、自分だけがまだあたたかいのか。人も、建物も、動物も、わずかに実った作物も、暖を取るために起こした頼りなげな炎も。幸福そうな笑い声も、ささやかな諍いの喧噪も、無垢な泣き声も、恋人たちの睦言も。すべてすべて、このきらめきの下でつめたく凍えているのに。
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