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    akdew_rs

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    akdew_rs

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    ワンドロにするには時間がかかりすぎた、お題:宝箱のルシサン。
    ツイートの誤字脱字程度しか直していません、ほぼ同じなので走り書きメモぐらいの感覚でどうぞ。

    パンドラの底には希望が残されていました

    #ルシサン
    lucisan

    それをサンダルフォンが見たのは、まだ稼働してからさほど経っていない時だった。
    「空の民が高硬度の石の加工技術を会得した結果、最近ではこの様な工芸品が流行っているようだ」
     珈琲と共にガーデンテーブルに載せられたのは、ルシフェルの両手でも少し余る大きめの箱。陽光を受けてキラキラと輝く箱に、サンダルフォンは不思議そうに首を傾げる。
    「これは道具、なのですよね?」
     思わずそう尋ねてしまうほどに、その箱は使われるための物にはみえなかった。
    底面以外の全てに大小の貴石が豪華に埋め込まれ、守るより存在そのものを主張するような在り方は、同じく道具として生まれたサンダルフォンにはどうにも奇異に感じてしまう。

     物とは使われるために在るもの。

     プリインストールされているプログラム故に、その箱の存在の仕方がうまく理解できない。珈琲を啜りながらうんうんと唸るサンダルフォンに、ルシフェルは小さく笑声をもらした。
    「この外見自体に意味があるのだ、サンダルフォン。この様に装飾を施されたものを空の民は宝箱と称し、特に大切なものをいれる」
    「大切なものを」
    「うん。ちなみにこれは、側面の花弁のひとつが鍵穴になっている。納められた物がより特別だと感じる様に、こうした部分までも拘りが見られることが多い」
     説明され、サンダルフォンは改めて宝箱に視線を向けた。在るだけで持ち主の役割を果たす存在。それもルシフェルに選ばれたのだ、恐らくこの空の世界のなかでも一等素晴らしいものが納められているのだろう。
     なんて、羨ましい。
    「この中には、とても素敵なものがおさめられているんでしょうね」
    と、先ほどまでとは打ってかわり、熱を秘めた視線で見つめるサンダルフォンにルシフェルはそっと苦笑する。
    「残念だが、何も入っていないよ」
    「そうなのですか?」
    「本当だ」
     金属加工、彫金技術の発達程度を視察に行った際、ルシフェルは稼働して初めて、衝動的に買ってしまったのだった。硬度の高い宝石をカットする技術の進歩の為に、テーブルにのせられた宝箱も大小様々、それまでは使用されなかった透明な宝石がちりばめられている。けれど、ルシフェルの気を引いたのはそこではなく、アクセントになっている石榴石だ。
     決してメインではない、あくまで透明な貴石を引き立てる為の小さい粒たち。
     そもそも箱に使用された技術はそれなりのものではあるが、しかしまだまだ未熟なもの。けれどどうしてかルシフェルはそれに心惹かれ。気づけば職人から買い取り、その足で中庭に来ていた。
     けれど、余りにサンダルフォンが目を輝かせて宝箱を見つめるものだから、なんとなく言い出せずルシフェルは曖昧に笑う。
    「気に入ったなら、君にあげようか」
    「そんな!こんな精巧なものをいただくのはさすがに……。その、恐れ多いです」
    「そうか?」
    「ですが、もし許されるならいつか」
     そうしてルシフェルの自室にしまわれた宝箱。サンダルフォンが見たのは結局その一回のみで、その出来事自体記憶の底に沈んでいった。

    ◇◇◇

     その日、サンダルフォンは一念発起し、カナンに訪れていた。それまでは幽世の者どもが入らないよう結界の強化やら、ルシファーの遺産の残骸がないかと後片付けに終われていて、自分自身の時間がとれなかったのだが。
     やっと、己の罪と向き合える。
     そのひとつとして荒れ果ててしまった場所の整理をしようと、覚悟を決めて来たのだった。本当は先にルーマシーの方も手入れをしたかったが、あちらは研究所の整理も平行で行わなくてはならない。故にカナンから始めることにした、……というのは全て言い訳だ。
     かつてあの人と過ごした中庭の跡地がある場所に立つにはまだ少しだけ、勇気が足りない。その為、ルシフェルの気配が微かに残っているとはいえ、カナンの方が幾分かは気が楽だった。
     倒壊した柱や、元の建築が思い出せないほどに破壊された跡を見るまでは、
    「……酷いな」
     自分がここで目覚めるまでに何があったのか、継承した羽から薄ら読み取れた記録から大体は察している。全ては過去、終わってしまったことだと分かってはいても、気づけば歯を食いしばってしいた。
    「立っていても何も変わらない。はやく、片付けよう」
     首を振り、こみ上げてくるものを無理矢理に散らす。直せるものは土の元素を操作して元に戻し。そうではないものは元素を解いて整理する。最初はなかなか力の調整が難しかったが、何度もする内にさほど思考領域を割かずとも出来るようになる。そうならざるをえないほどに、カナンの地は破壊し尽くされていた。
    「ルシフェル様……」
     そうして幾つ目だったか、原型が分からないほどに崩れた建物を元素に分解した時に目に入った、四角形。視界に入った瞬間、サンダルフォンの脳裏に数千年前の記憶が過ぎる。
    『ですが、もし許されるならいつか、ルシフェル様が良いと思ったら見せてください』
    『別に今でも構わないが?』
    『今はいいんです。いつか、またで』
    『……そうだな。この箱の中がいっぱいになったらにしよう』
    『本当ですか!楽しみです』
    再生された無邪気な己の声は無知で、役割を夢見ていた頃のもの。そうか、これは。思わず手にとれば、何故かあの時と変わらない触り心地のままで。
    「……元素を少しいじってあるのか?」
     不思議に思って箱を凝視すれば、微かに調整された跡が確認できた。石以外の部分の耐久性を考えれば妥当な術式だろう。かつての口ぶりではそこまで重要なものをしまってはいなさそうだったが、何せあの時からもう二千年以上の年月が経っているのだ。
     あれから、ルシフェルの気を惹いたものはあっただろうか。
    「何か、入っているのか」
     持ち上げてみたもののどうにも軽く、サンダルフォンは首を捻る。その上、当然ではあるが鍵はかかった状態で、箱の上部は動かなかった。ただ、もう一度構造をよく分析してみれば、少し風の元素を弄れば簡単に開きそうで。
     しかしながら、持ち主に許可をとらずに開けてしまってもいいものか。
    「ルシフェル様は、別にいつでも見て良いと言っていた」
     開ける。開けない。開けるべきではない、開けてみたい。
     日が少し傾くまで真剣に考えた結果、サンダルフォンは指先に少量の風の元素を集めた。
    「失礼します、ルシフェル様」
     カチャリ、と解除音が聞こえたのを確認し、箱を開けると。

     そこには何もなかった。

    「え」
     驚いてもう一度覗きこんでみたものの、艶やかな紅色の内張の中は変わらず空っぽで。ぱちくりと瞬き、それからじわじわと事実を認識したサンダルフォンは息を飲んだ。
    「そんな、馬鹿な」
     自分の目が信じられず発作的に手を突っ込めば、するりと底面の布が動く。気付かなかっただけで箱の中と同色のスカーフが丁寧に畳まれていたらしい。恐る恐る、震える手でつるりとした感触のそれを引っ張りあげれば、
    「これ、だけ……?」
     見えたのは、サンダルフォンにとって一番見慣れた、余りにありふれたもの。
    「本当に、これだけですか、ルシフェル様」
     ははは、と無意識に口から笑いが零れ、足から力が抜けてしまう。攻撃されたわけでもないのに、急所を損壊してしまったかの如くコアが急回転するのをサンダルフォンは感じた。

     嘘、何故、どうして、ルシフェル様。

     湧き上がる問いに答えてくれる人はもういない。分かっていても、サンダルフォンはかの人に問いただしたくて堪らなかった。何故それを納めたのか。どういう気持ちでそれを選んだのか。
     ルシフェルの宝箱に納められていたのは、猛禽類を思わせる茶色の羽、ただそれだけ。箱をひっくり返しても、強めに振ってもそれ以外は何も出てこない。
    「俺の、羽」
     普通の鳥類にはありえない、大振りでうっすら発光する羽は空の世界では天司だけが持つものだ。そして茶に斑の模様を持つのは、天司の中でもサンダルフォンのみ。
    「どこで拾ったのですか、ルシフェル様」
     そもそも天司の羽は抜け落ちたら自動で元素に分解される為、ルシフェルがサンダルフォンの羽を拾えた機会はぐっと限られる。
    「大切だと、その時から思っていただけていたのだろうか」
     今の自分のものよりほんの少し小さい羽は、宝箱にかけられていたよりも念入りに術式が組み込まれていた。
     たとえ箱が壊れてしまっても傷んでしまわないように。あるがままを永遠に保つように。
     同じ天司だからこそ、細心の注意を払ってかけられたのだと分かってしまう。
    「ルシフェル様」
     皆に愛され空の世界を遍く見渡す彼ならば、それこそ箱に納まらないほどの素晴らしいものを持っているとサンダルフォンは思っていた。だからいつか、沢山になった宝箱を見られたらと確かに、あの時の己は信じ、夢見ていたのだ。
    「はは、自惚れてしまいますよ」
     羽から伝わる残滓は、やはりサンダルフォンのもの。
     ルシフェルにとってこの箱に納めるに値したのはサンダルフォンだけなのだと、そうr驕ってしまいそうになるほど、羽にこめられた祈りは深く、
    「俺が思い込み激しいの、貴方は知ってるでしょう?」
     問いかけても返ってくる声はない。頭では分かっている、理解はしている、けれど。
    「ルシフェル様」
     カナンに響くのは、己の声だけだ。他の音は愚か気配ひとつもない。
     ルシフェルは空の世界から失われた。
     その罰を、意味を、サンダルフォンは改めて痛感する。己が起こした災厄は、それだけ重いものであったのだと。
    「…………」
     羽と布を元の通りに納め、もう一度風の元素を操って鍵をかけ直す。そして、彼がかけたものの上から己も保存の術式をかけ、サンダルフォンは深く息を吐いた。目を閉じてあの日を思い返し、決断する。
    「これは俺が預かりますね、ルシフェル様。いつかの日まで、大切に俺が守り通ります」
     調節した元素に綻びひとつないことを確認し、改めてしっかり抱え直す。最初で最期に触れたあの人の頭よりずっと軽いが、大切さは変わらない。

     そうしてサンダルフォンの部屋に移ることになった宝箱は、勿論直ぐグランやルリアの目にとまった。
    「どうしたの、これ。すごく綺麗だね」
    「とっても素敵です!」
    「ああ」
     けれど、どれだけふたりに請われてもサンダルフォンは首を横に振るだけ。
    「あくまで預かっているだけなんだ。悪いが君達でも見せられない」
    その表情にグランとルリアは顔を見合わせ、なるほどと頷き合う。
    「じゃあさ、サンダルフォン。それと一緒とは言わないけど、似た箱作ろう!」
    「今度着く島はこういう工芸品が特産物らしいんですよ、サンダルフォンさん。そこで選ぶのも良いかもしれません!」
    「いや、俺は別に」
     渋るサンダルフォンを気にした様子もなく、ふたりは食いさがる。
    「だって、見せ合いっこ出来たら楽しくない?」
    「は?見せ合いっこ?」
     考えたこともない意見に、ついオウム返しに問うてしまう。それがいけなかった。
    「そうです。サンダルフォンさんが素敵だと思ったものを詰めるんです。こんな素敵なものを預けられる人ですから、きっと見たいはずですよ!」
    「いや、それは」
    「大丈夫、多分なんとかなるって」
     二人は言いだしたら止まらないことを身を以てよく知っているものの、あの宝箱と同じものを創るなど流石に不敬が過ぎるのでは。
    「だが」
     しかし、サンダルフォンの言葉は全て却下され、
    「うん、次の休みは僕たちと出掛けよう。決定!」
    「決定です!久しぶりにサンダルフォンさんとお出かけ楽しみです」
    「全く、お節介者め」
     許されたのは溜息交じりの首肯だけだった。
     同じものなど、経過年数的に見つかるはずがない。それに、この装飾だとそれなりにルピがかかるだろう。サンダルフォンの理性は心から呆れ、ナンセンスだと吐き捨てるけれど、
    「いいか、ルピが足りなかったら出してもらうぞ。言いだしっぺは君だからな」
    「そんな心配しなくても、いいに決まってるよ!」
     君にはいつも働いてもらってるからね、とサンダルフォンの不安をグランたちは当たり前と言わんばかりの自然さで和らげてくれる。
    「なら、仕方ない。分かったよ」
    「楽しみだね、サンダルフォン」
    「楽しみですね、サンダルフォンさん!」
     笑う二人につられ、サンダルフォンの頬もはからず緩む。星の島を目指しているとは到底思えない暢気さだ。だから、ほだされたのだろう。といっても、もし彼らの言葉を実行した結果。ルシフェルの反応が悪かった場合、遠慮なく言い訳に使う腹づもりはあるのだが。
    「どんな宝箱にする?」
    「そうだな。これと同じ、白ベースでクリアな宝石をメインに使いたい」
    「お揃いですか!良いと思います」
    「……それと」
    「うん」
    「赤石の部分を青石で装飾、したい」
    「それってルシ「空色の宝石ですね、とってもいいと思います!」」
     青色、私も好きです、と嬉しそうに笑うルリアに、グランもややぎこちなくだがそうだね、と笑う。サンダルフォンも勿論指摘しない。何ごとも滑らかにするのはナンセンスだ。
     そうして創られた新しい宝箱は、サンダルフォンや団員たちの頑張りにより、まるで対のようなものに仕上がった。白色ベースで無垢な趣は変わりなく、アクセントの宝石と内張の布の色だけが異なっている。それがルシフェルの瞳と空の青色だと知っているのは、ごく限られた人だけだ。
     しかし拘った結果、想定以上のルピが掛かってしまったのだが、グランはサンダルフォンに1ルピたりとも請求することはなく、
    「ルナールみたいにさ、ちょっと書類整理に詰まった時とかに珈琲を淹れてくれたらいいよ」
    と、要求にもならないお願いをするだけで、サンダルフォンを大いに困惑させた。きちんと経費を取り立てることも団長として必要な仕事では?と意見しても、頑として首を縦に振ることはなく、
    「じゃあ、ずっと頑張ってる団員への、ちょっと特別なご褒美。それでどう?」
     などと言う始末で。数時間サンダルフォンが粘っても話は平行線のまま、
    「こんな物をタダで貰えるほど俺は」
    「ルリアー!まだサンダルフォンぐだぐだ言うから、ルリアからも言ってやって」
    「はい!」
    「はいじゃない!」
     挙げ句の果てには、サンダルフォンが強く出られないルリアまで巻き込み、
    「サンダルフォンさん一番頑張ってたじゃないですか。青い宝石選ぶ時とか、職人さんも凄いって言ってましたよ」
    「あれは元素で解析すれば簡単に判断できる」
    「でも、頑張りましたよね?」
    「……それは、そうだが」
    「なら良いと思います!」
     何が良いのだ、と反論するには余りにもルリアは無垢で。結局サンダルフォンは折れざるをえなかった。
     グランやルリアたちがいつ結託したのかは知れないものの。宝箱を贈りたいが為に航路を少しねじ曲げていたことを、天司であるサンダルフォンが気づかないわけがないというのに。
     言いたいことは山ほどあった。言うべき言葉もそれなりに。けれど、そのどれも望まれていないことは分かっているから、
    「分かった、ありがとう」
     サンダルフォンが口に出来たのは、結局それだけだった。かかった労力の割にぶっきらぼうな物言いだが、団員達は皆笑う。
     
     よかったね、サンダルフォンと。

     それでもやはり気恥ずかしく、少しばかり口を尖らせてしまう。
     プレゼントするにしてももう少しぐらい、スマートなやり方はあったはずなのだから。

    ◇◇◇

     そんな騒動も、もはや何千年前のことになるものやら。旅を終えた艇から降り、各地を転々としながら世界の傍に在り続けるサンダルフォンに残ったのは二つの箱だ。勿論珈琲は欠かしていない。けれど、変わらずサンダルフォンの隣にあり続けるのはそれらだけだった。
    「今日も空は青いな」
     何度か掛け直した術式のおかげか宝箱たちは美しいまま、傷ひとつなく今日も耀いている。今は棚からテーブルに場所こそ変わったものの、誇らしげな姿は変わらない。
     片方は軽いまま、もう一つは今やずっしりと重い。その差は時にサンダルフォンを苛み、逆に慰め、また希望そのものでもある。納められたものの大半は、世間的には大した価値などないものだけれど。サンダルフォンにとっては、何よりも愛しい者の次に大切な欠片たちだ。中庭での日々、騒がしくも愉しき日々からだいぶ遠いところまで来てしまったが、今日もサンダルフォンが健やかに日常を過ごす為に役割を果たしている。
     偶に、どうしようもない寂しさに襲われた時。昔であればただ茫然とするしかなかったが、今は違う。自身の価値を、大切にされているときちんと理解し、受け入れている。
    それに、どうしても堪らなくなってしまった時には己の為に創られた宝箱の中を見れば良いのだ。大小様々な優しいガラクタたちは、全てサンダルフォンの為だけに渡されたもの。
     赤い花弁が鮮やかな押し花の栞、珈琲の花模様の珈琲スプーン、アウギュステで一番美しい赤と青のシーグラスを集めた小瓶。
     宝物たちはいつだってサンダルフォンの価値を教えてくれる。言葉がないからこそ何度でも、いつでも繰り返し示し続ける。
     役割がなくても、空の民ではない星晶獣であってもサンダルフォンは愛されているのだと。宝箱の中で主張し、証明し続けるのだ。それらは永遠の安寧というエールほどの強さはないが、空の世界で生きることを選び続けられる程度には、サンダルフォンを後押ししてくれるから。
    「ルシフェル様が見たら、なんと言われるだろうか」
     なるべく整理はしてあるものの、彼の宝箱に比べれば、随分雑然しているように見えるだろう。笑うか、驚くか、けれど多分、悪いことにはならない様にサンダルフォンは感じた。永年空の民の隣で生きていたのでいささか思考が感化された気もするが、悲観するよりかよっぽど良いはずである。
    「だから、ルシフェル様の宝箱もいつか」
     問いは、願い。
     偶然とはいえほんの一時会話する奇跡が起きたこともある。だから、あの地に箱を二つ持っていくぐらい大丈夫だろう。根拠はないが、何となく出来るとサンダルフォンは確信していた。
    「ちゃんと、責任もって持って行きますね」
     そうして、カナンで盗み見してしまった時とはきっと違う、彼の大切なものでいっぱいになった箱の中をいつか見てみたいとサンダルフォンは祈る。あの地がどんな摂理なのかは知らないが、それでもこの大きな宝箱いっぱいに物が詰まった光景は、さぞかし美しいだろう。宝が己の羽だけなのも悪くはないのだが、優越感や満足感より、サンダルフォンはルシフェルのことを知りたかった。珈琲と世界をよく愛し、そこにどうやらサンダルフォンも含まれているらしいことまでは分かったが、それ以上のことをもっと知りたい。
    「だからいつか、教えてください」
     永い時の先、必ずあの場所にもう一度辿り着いてみせるから。
    「そうして、宝箱の中身を見せ合いましょう。グラン達いわく、楽しいらしいですから」
     お優しい貴方なら付き合ってくださるでしょう?
    そうして微笑むサンダルフォンの横顔は、ルシフェルの笑みにこよなく似ていた。
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    akdew_rs

    MOURNING転生現パロ。
    なんでもサンダノレフォンの初めてをもらいたいルシフェルと、よく分からないけどルシフェル様が楽しそうで何よりだと思ってるサンダノレフォンのルシサン。
    食前酒の次は食後酒、そうしてそれ以外の色んな嗜好品を楽しんでいくふたりは可愛いと思っています。
    ルシフェル様と同居して初めて知ったことのひとつに、彼が酒類も嗜まれることがある。
    とはいえ、別に珈琲の毎日飲まれるわけではなく。
    ふたりでゆっくり食事を取れる時や、車で出掛けなかった時の外食でたまにといったぐらいで。
    恐らく、あくまで気が向いたらというぐらいのものなのだろう。
    それでも慣れた様子でアルコールを頼む様子に、彼は今生でも自分よりずっと経験豊かなのだと察せられた。
    「お酒は苦手だったかな?」
    「その善し悪しも分らないというのが正直なところです。……少し前まで、未成年でしたから」
    20才の誕生日に彼と共に飲んだワインはお世辞ではなく、本当においしかった。
    酸味や苦味が少なく、まるで上等なぶどうジュースみたいな味なのに徐々に体が火照る。恐らくアルコールを飲んだことがない自分でも飲みやすい様配慮してくれていらのだろう。
    だからこそ、その翌日に行われたグランたちによるお誕生日会兼酒宴で飲まされたアルコール類の苦さにどれだけ驚かされたものか。
    普段珈琲をブラックで飲んでるのにと笑われたが、そもそも苦いものが好物というわけではない。

    ――あくまで珈琲が特別なだけで。

    決してトラウマに 8918

    akdew_rs

    MAIKING愛しているものがあったら、自由にしてあげなさい。
    もし帰ってくればあなたのもの。
    帰ってこなければ、はじめからあなたのものではなかったのだ。

    ルシフェルは自由にさせようとして実は出来ず、サンダルフォンは自由に出来るけど帰ってこないと思い込んでいる。そんな恋愛話を書きたかったのですが長くなったので、とりあえず《前編》
    空の世界は、島ごとに独自の文化を持つ。
     それは進化を見守っていたルシフェルも勿論知っている。そして、彼の心を惹くもののひとつであった。サンダルフォンをはじめ、多くの人々の尽力によって復活を果たした当初、その好奇心は役割の為にプログラムされたものかと思っていたものだが。どうやらそれは、ルシフェル自身が持つ気質の一つであると今は理解していた。

     知らないもの、新しいものを知りたい、体験したいという欲。

     特異点に誘われれば二つ返事でついていき。独特な文化や経験をしていたと聞いた団員にはルシフェル自ら話を聞きに行く。
     サンダルフォンに対しての情とは異なるけれども、自発的に行動をとるほどにはその感情は大きい。まるで幼子のようですよ、と。いつだったかサンダルフォンが楽しげに笑ったものだが、正直相違ないだろうとルシフェル自身、思っている。
     再顕現を果たしてからというもの、何もかもが目映く、新鮮だった。

     特にサンダルフォンとふたりで何かをするという経験は、珈琲を一緒に楽しむことに匹敵するぐらいに、心が躍る。

     だからこそ、今回補給の為に降り立った島で戯曲が特に栄えているのだと団員のひ 4647

    akdew_rs

    MOURNINGワンドロにするには時間がかかりすぎた、お題:宝箱のルシサン。
    ツイートの誤字脱字程度しか直していません、ほぼ同じなので走り書きメモぐらいの感覚でどうぞ。

    パンドラの底には希望が残されていました
    それをサンダルフォンが見たのは、まだ稼働してからさほど経っていない時だった。
    「空の民が高硬度の石の加工技術を会得した結果、最近ではこの様な工芸品が流行っているようだ」
     珈琲と共にガーデンテーブルに載せられたのは、ルシフェルの両手でも少し余る大きめの箱。陽光を受けてキラキラと輝く箱に、サンダルフォンは不思議そうに首を傾げる。
    「これは道具、なのですよね?」
     思わずそう尋ねてしまうほどに、その箱は使われるための物にはみえなかった。
    底面以外の全てに大小の貴石が豪華に埋め込まれ、守るより存在そのものを主張するような在り方は、同じく道具として生まれたサンダルフォンにはどうにも奇異に感じてしまう。

     物とは使われるために在るもの。

     プリインストールされているプログラム故に、その箱の存在の仕方がうまく理解できない。珈琲を啜りながらうんうんと唸るサンダルフォンに、ルシフェルは小さく笑声をもらした。
    「この外見自体に意味があるのだ、サンダルフォン。この様に装飾を施されたものを空の民は宝箱と称し、特に大切なものをいれる」
    「大切なものを」
    「うん。ちなみにこれは、側面の花弁のひとつが鍵穴にな 7857

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