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    akdew_rs

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    akdew_rs

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    愛しているものがあったら、自由にしてあげなさい。
    もし帰ってくればあなたのもの。
    帰ってこなければ、はじめからあなたのものではなかったのだ。

    ルシフェルは自由にさせようとして実は出来ず、サンダルフォンは自由に出来るけど帰ってこないと思い込んでいる。そんな恋愛話を書きたかったのですが長くなったので、とりあえず《前編》

    #ルシサン
    lucisan

    空の世界は、島ごとに独自の文化を持つ。
     それは進化を見守っていたルシフェルも勿論知っている。そして、彼の心を惹くもののひとつであった。サンダルフォンをはじめ、多くの人々の尽力によって復活を果たした当初、その好奇心は役割の為にプログラムされたものかと思っていたものだが。どうやらそれは、ルシフェル自身が持つ気質の一つであると今は理解していた。

     知らないもの、新しいものを知りたい、体験したいという欲。

     特異点に誘われれば二つ返事でついていき。独特な文化や経験をしていたと聞いた団員にはルシフェル自ら話を聞きに行く。
     サンダルフォンに対しての情とは異なるけれども、自発的に行動をとるほどにはその感情は大きい。まるで幼子のようですよ、と。いつだったかサンダルフォンが楽しげに笑ったものだが、正直相違ないだろうとルシフェル自身、思っている。
     再顕現を果たしてからというもの、何もかもが目映く、新鮮だった。

     特にサンダルフォンとふたりで何かをするという経験は、珈琲を一緒に楽しむことに匹敵するぐらいに、心が躍る。

     だからこそ、今回補給の為に降り立った島で戯曲が特に栄えているのだと団員のひとりに教えられた時。ルシフェルは純粋に興味を抱いた。そうして当然のようにサンダルフォンを誘い、今一番人気だというオペラを見に行ったのだが。

    ――そんなに愛しているのならば、手を離しなさい。
      一度、あえて自由にしてやるといい。
      もし帰ってきたならば彼は正しく、貴方のもの。
      帰ってこなければ、最初から貴方のものではなかったということさ。――

     では、本当に戻ってこなかったら?捨てられた者はどうしたらいい。

     空の民の文化を愛でるぐらいの心地でいたはずが、いつの間にか誰よりも物語にのめり込んでいたのはルシフェル自身であった。知らないうちに背は座席から浮き、ヒロインたちがショックを受ける時には同じように息を飲む。最後、なんとかハッピーエンドを迎えたときには手の中が汗でぐちゃぐちゃになっているほどで。
    「ルシフェル様?」
     故に、サンダルフォンが心配そうに覗き込んでくるまでルシフェルはここが劇場の中であることすら思い出せなかった。既に終わってからそれなりに経っているのか観劇席の客はまばらで、視線をサンダルフォンに向ければ、彼の眉が更にハの字に下がっていく。

     ああ、心配させてしまった。

     申し訳なく思うのに、ルシフェルの心はまだ感動の波に囚われたまま。足の力が抜けてしまったわけでもないのに、立ち上がることすら出来ない。
    「サンダルフォン」

    ――愛しているわ。
      誰よりも、何を投げうってもいいくらい私、貴方を愛しているの。
      だから、さようなら。貴方とは、ここでお別れよ――

     まるで耳鳴りの様に、ヒロインの台詞が頭の中にこだまする。過去に類似の経験をしたわけでもないのに、その言葉は妙にルシフェルのコアに響いて仕方がなかった。
     一瞬過ぎったのは、少し前にあった魂の果ての地での邂逅。あの時、確かに彼を想って空の世界に還らせた。
     けれどそれは、決して彼を手放したわけではなく。
    「大丈夫ですか、ルシフェル様。立てますか?」
     サンダルフォンの声にはっと、ルシフェルは我に返る。慌てて周りを見渡せばもはや、劇場内には自分とサンダルフォン、ふたりだけになっていた。それに、遠巻きではあるがスタッフらしい人間がこちらを見ている。
    「……うん、大丈夫だ。すまない、思ったより見入ってしまっていたようだ」
     まだクラクラとする頭を軽く振り、ルシフェルは今度こそ立ち上がった。再顕現した当初のような覚束なさではないものの、何となく地に足がついた感じがしない。けれど、そんなことを言えば更にサンダルフォンは心配するだろう。
    「待たせたね。さぁ、行こうか」
     なんとか笑みをつくったつもりだったルシフェルだが、聡いサンダルフォンは誤魔化されない。
    「確か近くにカフェがありました。珈琲専門店ではないようですが、雰囲気は悪くなさそうでしたから、そこに行きましょう」
     ルシフェルの腕にごく自然な様子で自身の腕を巻き付け、さりげなく体重を支える。そんなやり方を教えたことはないのに、当たり前に付き添えるサンダルフォンに大きな成長をルシフェルは感じた。自分が知らない間に、大柄な誰かを介助することが何度かあったのだろう。安定感のある支え方にはどこか慣れがあり、ルシフェルは危なげなく歩むことが出来た。
    「ああ、すまない」
     ありがとうと、知らない間に沢山成長したのだなと本当は褒めてやるべきなのだと分かっているのに。
     どうしてか胸にもやもやと重いものを感じ、ルシフェルは無難な言葉しか継げることしか出来なかった。じくりじくりと鈍く痛むそれはここ最近特に感じるもので、まだそれを適切に表す言葉をルシフェルは見つけられていない。相変わらずの言葉の少なさにもかかわらず、サンダルフォンは特に気にした様子はなく、
    「お気になさらず。では、行きましょう」
    と、優しく微笑む。甲斐甲斐しいその献身的な姿は、まさしく先ほど見ていたヒロインのようで。
    「……っ」
     問うには、今の場所は適切ではない。
     ルシフェルは喉元まで出てきた言葉をなんとか飲み込み、サンダルフォンが話していた喫茶店に向かうことだけを考えた。

    ◇◇◇

     サンダルフォンが見つけた喫茶店は、老夫婦が切り盛りする、こじんまりしているけれど全てに手入れが行き届いたあたたかな店だった。年季が入ったドアを開ければ、直ぐに婦人が出迎えてくれ、体調の悪そうなルシフェルを気づかい奥のソファ席へと勧めてくれた。それほど距離はなかったはずなのに、ソファに腰をおろせばふぅと、思わず息がでてしまう。未だ、劇の余韻が抜けきっていないらしい。
    「素敵な店だね」
    「ええ、参考にしたいぐらいの店ですね。……ああ、よかった。珈琲のメニューも豊富だ」
     サンダルフォンにメニューを任せ、ルシフェルは劇場前で買ったパンフレットを取り出す。

     身分差を乗り越え、ふたりで幸せを切り開く王道の恋愛ストーリー。

     なんてことのない、ありふれた物語だ。空の民が好むハッピーエンドのはなし。それがまさか、自分が夢中になってしまうとは。信じられない思いで、もう一度ルシフェルはあらすじを読み返す。星晶獣とはいえ確かに空の世界に在る身。とはいえそんなにも心揺らされる理由はなんだったのだろうか。
    「ルシフェル様、珈琲がきましたよ」
    「ああ、いただこう」
     口につけ、サンダルフォンが選んだものの確かさにルシフェルは舌鼓をうつ。深い苦味に、こちらが現実なのだと教えられるようだ。
    「どうです、少しは人心地つきました?」
    「うん、君に選んでもらって正解だったよ」
     思ったままを言葉にすれば、サンダルフォンは目尻を下げた。嬉しそうというより、これは安堵の方が強いか。
     再顕現してからは特に注意深くサンダルフォンの表情を記録しているルシフェルは、過去の反応と照合して判断を下す。今の彼の表情に一番近しいのは、魂が器と馴染みきっておらずサンダルフォンの目の前ですっ転んだ時のもの。あれは確かに自分もびっくりしたなとログを思い返しながら、余計な心配をかけてしまったことにルシフェルは肩を竦めた。
    「ルシフェル様。ひとつ、お聞きしても?」
    「うん、なんだろう」
    「あの劇、確かにかなり出来の良いものでしたが、どこが貴方の心をとらえたのです?」
     ぱちりと瞬く紅の瞳は、軽やかな声と違い真剣なものだった。探るような、詰まるような。緊張感すら匂わせて、サンダルフォンは言う。
    「まさかと思いますが、あの女優は貴方の好み、だったとか」
    「それは誤解だ。誓ってそうではないよ、サンダルフォン」
    「本当に?」
    「本当だよ」
     こうして言葉にして告げられるだけマシなのだと、今のルシフェルは分かっている。だからこそはっきり否定し、逃げられる前にサンダルフォンの手を掴んだ。
    「私が夢中になったのは、台詞だ」
    「台詞?」
     まだいぶかしげな様子ではあるものの、サンダルフォンは姿勢を正して傾聴する姿勢をとる。その真面目さを改めて愛しく思いながら、ルシフェルは胸を揺らされた言葉を口にした。
    「君は、愛する者を自由にすることについてどう思う。もし帰ってこなかったら」

    ――私の選ぶ自由とは、君の隣にあること。
      君が手放したつもりになろうと、私はどこにも行くつもりはないよ――

     劇では主人公がそう答えていたものの、その答が絶対ではないことは人の感情に疎いルシフェルでも分かっている。だから、サンダルフォンの答を知りたいと思い問うたのだが、
    「ええっと、そうですね。自分がそう在ってほしいと勝手に願って放したのですから、自業自得では?はなから縁が無かった。まあ、その、なんていうか。でも、ただそれだけの事、と俺は思います」
    「それだけのこと」
     哀しさなど一切滲まない、ただそれが事実なのだとどこか淡々とした様子で言うサンダルフォンに、ついルシフェルは食い下がってしまった。だって、それはあんまりではないだろうか。
    「だって、相手の為に手を放したのですよね?それなら、相手がどこに行こうと相手の自由じゃないですか。それこそ劇で言っていたように、最初から自分のものじゃなかったんですよ。まあ、分かる気はしますね」

     最初から持っていない者が。持てない者が、何かを持てるわけがないでしょう?

     その後、ルシフェルはどうやって自室に戻ってきたのかいまいち覚えていなかった。
     気付けばベッドに腰掛けており、窓を見れば夜の帳がしっかり降りている。どうやら、寝る前のサンダルフォンとの一杯も終えた後らしい。机の上に残された、飲み終わったふたつのカップを見てルシフェルは溜息を吐く。
    「……はぁ」
     こてりとそのまま上半身を倒し、ルシフェルはベッドに沈み込んだ。

     まさか、サンダルフォンと部屋が異なることを感謝する日が来るなどとは。

     落ち着くまではとりあえず、ふたりの部屋は別々ね。そう言った特異点に何度か一緒で良いと進言していたが、もしかしたら彼はこの日を先読みしていたのかも知れない。それぐらいに今、ルシフェルはサンダルフォンと会いたくなかった。

     否、正しくはうまく話を出来る気がしない為、会うのが非常に気まずい心地である。

    「サンダルフォン」
     喫茶店で会話したときの彼の表情を、ルシフェルはコアのログから引っ張り出す。あの時、ルシフェルの問いを受けて彼自身の意見を告げる時のものを。
     感情豊かな彼にしては酷く冷めた、まるで経験済みだと言わんばかりの落ち着いた顔。現場ではないというのに、ルシフェルの胸はざわついて仕方がなかった。まるで寡婦のような、期待などないと諦めきった寂しい横顔。そんな表情はかつてルシフェルが一度たりとも見たことが無かったもの。
    「どうして」
     彼がそんな心情を理解するような機会などあっただろうか。目を閉じて、ルシフェルはサンダルフォンとの記録を再分析する。データの中でもサンダルフォンとのログは別ファイルに振り分けてあるため、さほど時間はかからず、
    「まさか」
     データが出した結果は、無慈悲だ。
    「私が、彼を歪めてしまったのか」
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    akdew_rs

    MOURNING転生現パロ。
    なんでもサンダノレフォンの初めてをもらいたいルシフェルと、よく分からないけどルシフェル様が楽しそうで何よりだと思ってるサンダノレフォンのルシサン。
    食前酒の次は食後酒、そうしてそれ以外の色んな嗜好品を楽しんでいくふたりは可愛いと思っています。
    ルシフェル様と同居して初めて知ったことのひとつに、彼が酒類も嗜まれることがある。
    とはいえ、別に珈琲の毎日飲まれるわけではなく。
    ふたりでゆっくり食事を取れる時や、車で出掛けなかった時の外食でたまにといったぐらいで。
    恐らく、あくまで気が向いたらというぐらいのものなのだろう。
    それでも慣れた様子でアルコールを頼む様子に、彼は今生でも自分よりずっと経験豊かなのだと察せられた。
    「お酒は苦手だったかな?」
    「その善し悪しも分らないというのが正直なところです。……少し前まで、未成年でしたから」
    20才の誕生日に彼と共に飲んだワインはお世辞ではなく、本当においしかった。
    酸味や苦味が少なく、まるで上等なぶどうジュースみたいな味なのに徐々に体が火照る。恐らくアルコールを飲んだことがない自分でも飲みやすい様配慮してくれていらのだろう。
    だからこそ、その翌日に行われたグランたちによるお誕生日会兼酒宴で飲まされたアルコール類の苦さにどれだけ驚かされたものか。
    普段珈琲をブラックで飲んでるのにと笑われたが、そもそも苦いものが好物というわけではない。

    ――あくまで珈琲が特別なだけで。

    決してトラウマに 8918

    akdew_rs

    MAIKING愛しているものがあったら、自由にしてあげなさい。
    もし帰ってくればあなたのもの。
    帰ってこなければ、はじめからあなたのものではなかったのだ。

    ルシフェルは自由にさせようとして実は出来ず、サンダルフォンは自由に出来るけど帰ってこないと思い込んでいる。そんな恋愛話を書きたかったのですが長くなったので、とりあえず《前編》
    空の世界は、島ごとに独自の文化を持つ。
     それは進化を見守っていたルシフェルも勿論知っている。そして、彼の心を惹くもののひとつであった。サンダルフォンをはじめ、多くの人々の尽力によって復活を果たした当初、その好奇心は役割の為にプログラムされたものかと思っていたものだが。どうやらそれは、ルシフェル自身が持つ気質の一つであると今は理解していた。

     知らないもの、新しいものを知りたい、体験したいという欲。

     特異点に誘われれば二つ返事でついていき。独特な文化や経験をしていたと聞いた団員にはルシフェル自ら話を聞きに行く。
     サンダルフォンに対しての情とは異なるけれども、自発的に行動をとるほどにはその感情は大きい。まるで幼子のようですよ、と。いつだったかサンダルフォンが楽しげに笑ったものだが、正直相違ないだろうとルシフェル自身、思っている。
     再顕現を果たしてからというもの、何もかもが目映く、新鮮だった。

     特にサンダルフォンとふたりで何かをするという経験は、珈琲を一緒に楽しむことに匹敵するぐらいに、心が躍る。

     だからこそ、今回補給の為に降り立った島で戯曲が特に栄えているのだと団員のひ 4647

    akdew_rs

    MOURNINGワンドロにするには時間がかかりすぎた、お題:宝箱のルシサン。
    ツイートの誤字脱字程度しか直していません、ほぼ同じなので走り書きメモぐらいの感覚でどうぞ。

    パンドラの底には希望が残されていました
    それをサンダルフォンが見たのは、まだ稼働してからさほど経っていない時だった。
    「空の民が高硬度の石の加工技術を会得した結果、最近ではこの様な工芸品が流行っているようだ」
     珈琲と共にガーデンテーブルに載せられたのは、ルシフェルの両手でも少し余る大きめの箱。陽光を受けてキラキラと輝く箱に、サンダルフォンは不思議そうに首を傾げる。
    「これは道具、なのですよね?」
     思わずそう尋ねてしまうほどに、その箱は使われるための物にはみえなかった。
    底面以外の全てに大小の貴石が豪華に埋め込まれ、守るより存在そのものを主張するような在り方は、同じく道具として生まれたサンダルフォンにはどうにも奇異に感じてしまう。

     物とは使われるために在るもの。

     プリインストールされているプログラム故に、その箱の存在の仕方がうまく理解できない。珈琲を啜りながらうんうんと唸るサンダルフォンに、ルシフェルは小さく笑声をもらした。
    「この外見自体に意味があるのだ、サンダルフォン。この様に装飾を施されたものを空の民は宝箱と称し、特に大切なものをいれる」
    「大切なものを」
    「うん。ちなみにこれは、側面の花弁のひとつが鍵穴にな 7857

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