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    akdew_rs

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    転生現パロ。
    なんでもサンダノレフォンの初めてをもらいたいルシフェルと、よく分からないけどルシフェル様が楽しそうで何よりだと思ってるサンダノレフォンのルシサン。
    食前酒の次は食後酒、そうしてそれ以外の色んな嗜好品を楽しんでいくふたりは可愛いと思っています。

    #ルシサン
    lucisan

    ルシフェル様と同居して初めて知ったことのひとつに、彼が酒類も嗜まれることがある。
    とはいえ、別に珈琲の毎日飲まれるわけではなく。
    ふたりでゆっくり食事を取れる時や、車で出掛けなかった時の外食でたまにといったぐらいで。
    恐らく、あくまで気が向いたらというぐらいのものなのだろう。
    それでも慣れた様子でアルコールを頼む様子に、彼は今生でも自分よりずっと経験豊かなのだと察せられた。
    「お酒は苦手だったかな?」
    「その善し悪しも分らないというのが正直なところです。……少し前まで、未成年でしたから」
    20才の誕生日に彼と共に飲んだワインはお世辞ではなく、本当においしかった。
    酸味や苦味が少なく、まるで上等なぶどうジュースみたいな味なのに徐々に体が火照る。恐らくアルコールを飲んだことがない自分でも飲みやすい様配慮してくれていらのだろう。
    だからこそ、その翌日に行われたグランたちによるお誕生日会兼酒宴で飲まされたアルコール類の苦さにどれだけ驚かされたものか。
    普段珈琲をブラックで飲んでるのにと笑われたが、そもそも苦いものが好物というわけではない。

    ――あくまで珈琲が特別なだけで。

    決してトラウマになったわけではないはずだが、それ以来わざわざ酒を飲もうと思うことはなく。
    それに、だ。
    後日、あの日彼に勧められて飲んだワインが有名なドイツ製のアイスワインと知り。つい好奇心でネット検索した結果、表示された参考価格に頭を抱えたのが一番の原因だと俺は思っている。彼が俺に甘いのは何となく理解出来るようになっていたが、まさかあんな高価なものを、成人したてのまだ右も左も分からないような俺に与えるなんて。
    もしかしたら珈琲の様に一緒に飲み交わしたいと考えてらっしゃるのかもしれないが、珈琲の研究で既に毎月それなりに出費がある。知らなくても問題ないものに割く時間は勿論、お金もない。
    それを彼も知っているはずなのだが、
    「なるほど」
    首肯し、それから何故か、それはそれは嬉しそうにルシフェル様は微笑んだ。
    「では、今日はぜひ、一緒に食前酒をとってくれないか?」
    「え?まあ、いいですけれど。俺、多分余り強くないと思いますよ」
    「酔いすぎた時は私が責任を持ってお持ち帰りするよ」
    「ルシフェル様」
    今回の生では一回り近く年が離れている為、様々な経験があったのだろう。察せはしても、流石に窘められずにはいられなかった。だって、かつての公明正大の彼と余りに違いすぎる。しかしながら、彼がそうした俗な知識や欲を持っているからこそ同棲に至れたのだと理解もしている。とはいえ、だ。
    葛藤する俺の心などお見通しなのだろう。
    にこにこと愉しげに微笑む表情は珍しくほんの少し意地悪な色をのせている。
    「では、サンダルフォン。君は食前酒を頼んだことはないのかな?」
    「ありません。大体グラン達との飲み会の付き合いで少しカクテルなど飲むぐらいですから」
    「なるほど。それでは私が選んでもいいかい」
    不敬を承知で、楽しいと口角を上げて微笑むルシフェル様は本当に可愛らしいと思う。それこそ年齢的にも可愛いという表現が不適切なのは分かっているのだが、普段、穏やかで凪いだ表情でいられることが多いからか。まるでこどものようににこにこと微笑まれると俺までつい頬が上がってしまう。
    「最初からそのつもりだったのでは?」
    「バレバレか」
    「バレバレです。そもそも、メニューすら見せてくれないじゃないですか」
    今日連れられた、ルシフェル様の気に入りだというそのお店は、植物園がモチーフという洒落たもので。特に温室風のガラス張りの建物の中にいると、どうしてかあの中庭を思い出させた。
    といってもあそこはここのように近代的なものではなく。そもそも、中庭というのはあくまで別称で、範囲限定型屋外実験場というのが正式名称だった。
    それでもどうしてか似ているように感じてしまう。温室という、一種の箱庭的な雰囲気が近しく感じさせるのか。
    それぞれのテーブルごとに目隠しも兼ねた植物たちはとても美しく、手入れされていることが素人目でも分かるだけに、不思議で仕方がなかった。
    「やはり、君も似ていると感じたか。だから君を連れて来たかったんだ」
    「……俺がもし、あの場所を嫌っていたらどうするつもりだったんですか」
    わくわくしている様子に水を差すようで悪いが、彼は種族が変わっても相変わらず無自覚に同一視を求める。それほどまでに俺のことを親しんでくれているのなら嬉しいものだが、ここで気持ちを隠して頷いたら前と同じ。
    二回も同じ道をたどるつもりのない俺は、あえて思ったことをそのまま口にした。
    俺とあなたは、どれだけ思い合おうとも同じにはなれない。
    異なる思想、異なる感性を持つ。
    どれだけ願い、求めようともふたりはふたりのままなのだ。
    それすらきっと彼は愛しむのだろうが、俺は。
    「……?ああ、そうか。そうだね。その可能性もあったか」
    言わなくては伝わらない。
    それは前の生で嫌になるほど思い知らされたから、不敬だと思いながらも告げれば、
    「すまない、つい浮かれていたようだ」
    気分を害したはずだろうに、ルシフェル様は微笑みを少し苦い色に変えただけだった。
    「俺こそ、すみません」
    「いや、言ってもらって助かった。相変わらず私は感情の機微には疎いようだからね」

    ――特に君は、隠すのがとてもうまいから。

    ぽつりと零された言葉に思わずふたりして沈黙してしまう。ルシフェル様に悪気はないし、俺だって今は何でもかんでも肯定するわけではない。
    けれど、覚えているからこそ思うことはあるのだ。俺は勿論、きっとルシフェル様も。
    「うん、相変わらず私は、君のことになるとつい欲が出てしまうようだな」
    「いや、そんなことは!というか、ええっと。ルシフェル様でも浮かれることがあるんですね」
    「君に関することだと、つい」
    「俺?」
    思わず聞き返せば、そうだよ、とルシフェル様は言う。
    「君は今も変わらず、私の安寧だ。君の前だと私は、ただの『ルシフェル』であれる。それがいかに貴重で、またどれだけ特別に想っていることなのか、いつか君にきちんと伝えられるといいのだが」
    「……ベリアルにまた口説き講座でもしてもらったんですか。いえ、あいつの話は止めましょう。それよりウェイターが待っていますね。俺に、食前酒の素晴らしさを教えてください、ルシフェル様」
    どこからか視線を感じるのでたどれば、そこには植物と同化するようにひっそりと行儀良く店員が立っていた。彼が選ぶような店だからだろうか、何も気にしていませんよとばかりの優しい笑みをしている。
    それでもはっとして腕時計を見ればそれなりに時間が経っていて、
    「ああ、すまなかったね。ウォッカ・マティーニとキール・ロワイヤルを」
    ルシフェル様も気付いたのだろう、視線でウェイターを呼ぶと。直ぐに注文をする。
    ウォッカ・マティーニと、キール・ロワイヤル。
    前者はいつも彼が頼むので耳慣れた名前だったが、後者は初めて聞くものだった。
    「承知しました」
    しかし、聞こうにも注文を受けた店員は直ぐに下がってしまう。
    それにまるで少しでも目を離していたくないと、今生でも言葉が些か不器用だからなのか彼の瞳が俺が他を見ることを許さない。
    「君が気に入ってくれると良いのだが」

    ――貴方が与えてくれるものならば、それこそ毒だろうと笑って受け入れられますよ。

    これ以上場の空気を冷やしたくはなくて、俺はその言葉を胸の中に留めて置いた。
    己がかなりの激情家であることは流石にそれなりに理解していただけているようだが、それでもルシフェル様に対する思いの深さがどれだけのものか、それを明け透けに伝える勇気はまだなかった。
    前の暴れっぷりがバレてしまっているとはいえ、できる限り彼には良く思われたい。
    今更良い子とか柄じゃないでしょサンダルフォンと、脳内で想像上のグランが笑い飛ばしたが、死活問題なのだ。
    それなりに特別だと想ってもらっていると一応、なんとか信じているが、空の世界は広い。
    もしもは起こりえるのだと、かつて思い知らされた。
    ルシフェル好みの純粋無垢な人間が現れたら?
    人間になってそれなりに俗な知識や欲を持ってしまったが故に、彼好みの容姿の女にもし誘惑されたら?
    問えないだけで、いつだって不安だった。
    「……サンダルフォン?」
    「いいえ、なんでも。ただ、どんなお酒なのかなと考えていただけです」
    今度こそ隠し事をして、俺は彼が望む、無垢な顔で笑って見せた。
    「ウォッカ・マティーニなら、ウォッカが使われたなにかだと推察できますが。キール・ロワイヤルは名前からだとどんなものか分りませんね」
    「確かに。キールはカクテルを作った人の名からつけられているそうだ。ベースのカクテルを知らなければ分らないのも道理だろう」
    その内そういう話もしようか、とルシフェル様は穏やかに返してくれた。次の約束に嬉しくなった俺はつい、強く頷いてしまう。
    「ルシフェル様が教えてくれるのならば、楽しみです」
    そうして談笑を交わす内に、
    「お待たせしました」
    声と共に、二つのグラスがテーブルに置かれた。見慣れた逆三角のグラスと、スリムなグラス。
    「ああ、こちらはフルートグラスと言う。この形状だとシャンパンの立ち上がりが美しく、炭酸が抜けにくくなる為、長く楽しめるそうだ」
    「ルシフェル様の方は何と呼ぶのですか」
    「ああ、私のはカクテル・グラスと称される。ショートドリンク、食前酒など短い時間内に飲むことを目的とされたカクテルのために用いられることが多い」
    傾けると、無色透明な液の中で緑色の実が踊った。
    「試しに飲んでみるかい?こちらは多分君の好みではないと思うのだが」
    「!いいのですか」
    つい食い気味に反応してしまったせいか彼は一瞬目を丸くさせたが、直ぐに目を細めて頷いた。
    「勿論。どうぞ」
    ルシフェル様が食前酒を頼む時決まって選ばれるそのカクテルに、俺が興味を惹かれていないわけがなかった。目の前に置かれたそれにルシフェルがいつもしている様に口をつけ、

    ――その辛さと熱さに目をむいた。

    思わず本能的に戻しそうになるのを手で押さえて何とか堪える。無理矢理喉を動かしても、飲み込めた気が全くしなかった。
    熱い。否、熱いなんてものじゃない、酒が通った場所全てが焼かれている。
    「驚いたかい」
    狼狽している内に手からカクテルグラスを取り上げられ、その流れのままルシフェル様はくいっと飲み干した。見慣れた、まるで水でも飲むようにさらりと流し込む姿。
    「私の飲み方も褒められたものではないのだけどね」
    ウェイターを呼んでジン・トニックを追加で頼むルシフェルに、俺は信じられない気持で凝視してしまう。
    一口もらっただけで全身が火照る様な代物だったなんて全く知らなかった。
    はぁと吐いた息の殆どが酒気な錯覚がしてしまうほど、ルシフェル様のお酒は辛い。
    お酒の甘い辛いの表現がいまいちわかっていなかったが、これだけは分かる。
    ルシフェル様の酒は、辛い。
    「ああ、安心してほしい。そちらのカクテルはそこまで度数が高くないから。大丈夫だよ」
    「本当ですか」
    彼が嘘を言う性格ではないのは理解しているものの、相変わらず俺たちの価値観の相違はままある。
    特に先ほど痛い目に遭ったのだ。したくはないが、疑いの目を向けてしまっても仕方ないだろう。
    「アルコールのベースはシャンパンで、味のベースはカシス・リキュールだからそんな不安がらなくていい。ここのは加えて少しのカシス果汁も入れていたはずだし、使用しているシャンパンの泡立ちが優しいから、とても飲みやすいよ」

    ――それに、君の色に似ているのもとても好ましい。

    指摘されて改めて視線を向けてみれば、確かにウォッカ・マティーニと違いカシスの色が出ているのか深い赤色をしていた。温室の中で見るからか、キラキラと輝いてさえ見える。
    「……飲めなかったら、ルシフェル様が飲んでくださいね」
    「勿論。だから心配しなくて良いよ」
    じっと見つめていては温くなってまずくなってしまうだろう。先ほどの様な失態は起こさないように、覚悟を持ってグラスの脚を持った。近づけるとシュワシュワと炭酸のはじける音が聞こえる。

    ――こくり。

    喉を液体が通っても先ほどの様な事は起きなかった。むしろ、
    「……おいしい」
    「美味しいかい?」
    「はい、さっきのとは全然違う」
    「ふふ、そうだろうね」
    口に広がる果実の甘酸っぱさがアルコール独特の苦味を忘れさせてくれ、シャンパンがより軽い口当たりを演出する。お酒に飲み慣れていない俺でも無理なく嚥下することができた。
    「うん、よく似合う」
    ジン・トニックを飲みながら言う彼は珍しく喜色満面と表現すべきぐらいにご満悦だ。
    「そうですか?」
    「ああ、想像以上だったな」
    前菜として運ばれた豚のテリーヌを上品に食べながら、ルシフェルはたいそう満足げに言う。
    「私にとっては食前酒は準備運動というか。味も勿論気に入ってるのだけれど、どうにも合理性をつい求めてしまうんだが。君には出来れば、きちんと味わって欲しくて」
    準備運動、そう言われればなんとか納得できる気がした。
    あれ程に強い切れ味ならば嫌でも食道と胃は叩き起こされるだろう。それに想定外だったのでつい慌ててしまったが、その後飲んだキール・ロワイヤルと味が喧嘩しなかった辺り、後味を残さないという意味でも彼の嗜好に合うのだろうか。
    季節野菜のキッシュを口にしながら、もう一度キール・ロワイヤルを飲んでみる。
    うん、おいしい。
    「他にも君に試してほしいカクテルは色々あるんだ」
    さて、次は何にしようかなどと言うので、俺は慌てて口の中に残っていた食べ物を飲み込んだ。
    「待ってくださいルシフェル様、沢山は飲めませんよ?」
    黙っていたらお酒がなくなるごとに色々と頼まれそうだと感じて率直に言えば、分っているよと彼は楽しげに笑う。
    「折角一緒にお酒を飲んでいるんだ。そんな無粋なことはしないよ」

    ――でも、優しい君なら何度も付き合ってくれるだろう?

    片目を閉じてお茶目に言う彼に、俺は思わず溜息を吐いてしまう。その通りだけれども、なんとも腑に落ちない。
    いつから我が元創造主はこんな俗物になってしまったのか。
    頭を抱えたくなるが、嫌ではないので更に困る。どんな形だろうと、自分だけを見て愛してくれるなら許せてしまうのだ。

    「とりあえず、お手柔らかにお願いします」



    ◇◇◇



    幸か不幸か、サンダルフォンは本当に酒に興味がないようだった。
    今日も私が勧めたカクテルを素直に飲み、おいしいですねと笑う。
    確かに、彼が好むよう甘みが強いものを選んでいるからではあるけれど。そのどれもが赤色である意味を彼は全く気付いていないだろう。
    「本当に、杞憂だったのだな」
    「ルシフェル様?」
    「いいや、今日のも口に合ったようで、何よりだ」
    これならば、最初にサンダルフォンに飲ませる食前酒をキールにしても良かったのかも知れない。
    そんな私のささやかな悩みなど知らない様子で、マンハッタンに口づける。
    「ベースはウイスキー、ですよね?でも甘いから飲みやすくておいしいです」
    「そうか」
    その意味を知っていたらきっと、くつろいだ顔で笑ってくれなかっただろう。
    花言葉のように、有名なカクテルにはそれぞれ意味がついている。
    そしてマンハッタンは、――切ない恋心。
    いつかは私の心に気付いてくれたら嬉しいが、しかしながらこの状況もなかなか楽しいので困ってしまう。
    我慢が出来ず私が告白してしまうのが先か、彼が今まで私が飲ませたカクテルの真意を知るのが先か。
    きっと長兄は全てお見通しで、どちらでも大丈夫だと言ったのだろう。


    ◇◇◇


    「サンちゃんに、キールですか?」
    今生では血の繋がった兄となった暁の裁定者――ルシオはそう言い、軽く目を見開いた。
    「やはり、キールを彼に飲ませるのは流石にやり過ぎだろうか」
    いつもいいですね、大丈夫ですよと後押ししてくれるだけに私も思わず驚いてしまう。
    キールのカクテル言葉は、――最高の巡り会い/陶酔。
    相変わらず何かとサンダルフォンを誤解させがちな私にとって、良い選択だと思ったのだが。
    「いえ、違いますルシフェルさん。良いと思いますよ。というか多分、サンちゃんは気づかないと思いますし」
    「本当だろうか。彼は熱心に勉学に取り組んでいるし、前の世界の知識もある。……引かれないだろうか」
    「確かにそうですが。ルシフェルさんに失望するとか、それこそ天地がひっくり返らないとないでしょう」
    「それが前の世ではあったから、懸念している」
    素直に吐露すれば、インペリアル・フィズをなめていたルシオは目を細めた。あの災厄時、彼は介入こそしなかったが、世界のどこかで傍観はしていただろう。だからこそ、彼の意見を私は知りたかった。
    「そんなに心配に思うのでしたら、キール・ロワイヤルとかどうでしょう?」
    「君もそう思うか」
    「バレても問題ないカクテル言葉ですし。それにあれ、美味しいですよね」
    いつのまにかジン・バックを飲みながら、ルシオはゆったりと頷く。
    「ああ、サンダルフォンのようでとても好ましい」
    赤い色も気に入っていると言えば、堪えきれないと肩を震わせてルシオは笑った。
    「本当に、サンちゃんにぞっこんですねルシフェルさん」
    余りに楽しそうで、嬉しそうな様子なのが少し不思議に思ったが、正しく事実なので頷く。
    「彼が望まなくても、たとえ嫌がられてももう離すことはできない」
    「それはぜひ、本人に言ってさせあげるべきかと」
    ――きっとサンちゃん、喜びますよ。
    いつだって優しい長兄はそう言うが、
    「重い男だと驚かせてしまうのは本意ではない。それに、彼は私が今も尚公明正大だと誤解している」
    気に掛かっていることを明かせば、初めてルシオは顔をしかめた。
    「あ、ああー……。それは、確かに」
    サンちゃんって本当に可愛いんですけど、そういうところありますよね。
    その意見には同意しかなく、私は深々と首肯する。そしてついでに長兄のあけたグラスの数を確認した。
    うん、飲み過ぎだな。
    血は繋がっているものの、前の世の体の機能は引き継がれなかったのか、ルシオはそこまで酒に強くはない。さりげなくグラスを奪おうとしてみたが、すっと手を引かれてしまった。
    「ルシフェルさん?」
    「サンダノレフォン好みであることと、私の欲は両立できるだろうか」
    「んん、ルシフェルさん可愛い!大丈夫です、私おふたりの仲がうまくいくよう、頑張っちゃいますから!」
    「ありがとう。それと言いそびれていたが、飲み過ぎだ」
    今度こそ彼の手からゴールデンキャデラックを奪い、代わりに飲み干した。
    それでも次の日、ルシオは一日中起きてこなかったのだが。


    ◇◇◇


    その様なやりとりがあったことなどサンダルフォンは知るよしもなく。
    無邪気にマンハッタンに浮かぶチェリーをつついていた。アルコールのせいか頬が上気していて、私にとってはそちらこそ熟れた果実のように見えて仕方がない。
    「ルシフェル様、このチェリーっていつ食べるのがルールなんです?」
    「大丈夫、いつでもいいよ」
    「それならよかった。キール・ロワイヤルとちがって、果実が入っているものって悩んでしまうんですよね」
    そっとつままれ、ぱくりと口の中に消えていくチェリー。それが羨ましいなどとサンダルフォンは知ったら、なんて思うだろうか。
    不埒な妄想を消すため、私はマスターにアイ・オープナーを頼む。風変わりな注文だと自覚はあるが、マスターは承知しましたと一言返すだけで作り始めてくれた。
    「アイ・オープナー?」
    ふたりで飲むようになってから初めて頼んだカクテルに、サンダルフォンが興味深そうに聞き返す。
    「君好みのものではないよ。私も気付けに飲むぐらいだな」
    だが、彼が好む味からはかなり離れているため、私は正直に止めておくと言いと答えた。
    「どんな味なのですか」
    「ラムベースだが、香草のリキュールが入っていて。その上に卵黄を混ぜてシェイクしたものだ」
    「お、おいしいのですか……?」
    「レシピの割に少し甘みがあるからね。でも、独特というべき味だろう」
    「お待たせしました」
    記憶していた通りの大型のカクテルグラスがそっと目の前に置かれる。卵黄が混ざってる為に少し艶めいた黄色に、少しだけサンダノレフォンが距離をとったのを視界の端にとらえた。
    確かに赤色ばかり飲んでいた彼にとっては衝撃的な色かもしれない。
    「飲んでみるかい?」
    「いえ、遠慮しておきます」
    「うん。聞いたのは私だが、その方がいいと思うよ」
    普段飲んでいるものよりも粘度が高いせいか、喉越しが重い。その分雑念は飛んでくれたらいいのだが。
    「……俺がキールを貰える日は、まだまだ遠そうですね」
    「え?」
    「なんでもありません。ルシフェル様、次は何を選んでくれるんですか?」
    本人としては、うまく繕ったつもりなのだろう。
    あの中庭の時を思わせるような可愛らしい笑顔に、こてりと首を傾げる動作までつけて。
    天司長であった頃の私なら見事に騙されただろうが、残念ながら今はただの人間だ。
    愛の理解は前よりもあるし、生理的欲求のお陰で欲の自覚もある。
    「一緒に飲んで欲しいカクテルがある」
    「一緒に?」
    「マスター。XYZをふたつ」
    許しがあるなら逃すつもりはない。そんなつもりはなかったと言われても、お互いいい年だ。
    世の中そんなに甘くないというだろう?
    「XYZ?謎かけですか?」
    「意味は、――――――だよ。サンダノレフォン」



    耳元で囁いた瞬間のサンダノレフォンの顔を、私は一生忘れないだろう。
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    akdew_rs

    MOURNING転生現パロ。
    なんでもサンダノレフォンの初めてをもらいたいルシフェルと、よく分からないけどルシフェル様が楽しそうで何よりだと思ってるサンダノレフォンのルシサン。
    食前酒の次は食後酒、そうしてそれ以外の色んな嗜好品を楽しんでいくふたりは可愛いと思っています。
    ルシフェル様と同居して初めて知ったことのひとつに、彼が酒類も嗜まれることがある。
    とはいえ、別に珈琲の毎日飲まれるわけではなく。
    ふたりでゆっくり食事を取れる時や、車で出掛けなかった時の外食でたまにといったぐらいで。
    恐らく、あくまで気が向いたらというぐらいのものなのだろう。
    それでも慣れた様子でアルコールを頼む様子に、彼は今生でも自分よりずっと経験豊かなのだと察せられた。
    「お酒は苦手だったかな?」
    「その善し悪しも分らないというのが正直なところです。……少し前まで、未成年でしたから」
    20才の誕生日に彼と共に飲んだワインはお世辞ではなく、本当においしかった。
    酸味や苦味が少なく、まるで上等なぶどうジュースみたいな味なのに徐々に体が火照る。恐らくアルコールを飲んだことがない自分でも飲みやすい様配慮してくれていらのだろう。
    だからこそ、その翌日に行われたグランたちによるお誕生日会兼酒宴で飲まされたアルコール類の苦さにどれだけ驚かされたものか。
    普段珈琲をブラックで飲んでるのにと笑われたが、そもそも苦いものが好物というわけではない。

    ――あくまで珈琲が特別なだけで。

    決してトラウマに 8918

    akdew_rs

    MAIKING愛しているものがあったら、自由にしてあげなさい。
    もし帰ってくればあなたのもの。
    帰ってこなければ、はじめからあなたのものではなかったのだ。

    ルシフェルは自由にさせようとして実は出来ず、サンダルフォンは自由に出来るけど帰ってこないと思い込んでいる。そんな恋愛話を書きたかったのですが長くなったので、とりあえず《前編》
    空の世界は、島ごとに独自の文化を持つ。
     それは進化を見守っていたルシフェルも勿論知っている。そして、彼の心を惹くもののひとつであった。サンダルフォンをはじめ、多くの人々の尽力によって復活を果たした当初、その好奇心は役割の為にプログラムされたものかと思っていたものだが。どうやらそれは、ルシフェル自身が持つ気質の一つであると今は理解していた。

     知らないもの、新しいものを知りたい、体験したいという欲。

     特異点に誘われれば二つ返事でついていき。独特な文化や経験をしていたと聞いた団員にはルシフェル自ら話を聞きに行く。
     サンダルフォンに対しての情とは異なるけれども、自発的に行動をとるほどにはその感情は大きい。まるで幼子のようですよ、と。いつだったかサンダルフォンが楽しげに笑ったものだが、正直相違ないだろうとルシフェル自身、思っている。
     再顕現を果たしてからというもの、何もかもが目映く、新鮮だった。

     特にサンダルフォンとふたりで何かをするという経験は、珈琲を一緒に楽しむことに匹敵するぐらいに、心が躍る。

     だからこそ、今回補給の為に降り立った島で戯曲が特に栄えているのだと団員のひ 4647

    akdew_rs

    MOURNINGワンドロにするには時間がかかりすぎた、お題:宝箱のルシサン。
    ツイートの誤字脱字程度しか直していません、ほぼ同じなので走り書きメモぐらいの感覚でどうぞ。

    パンドラの底には希望が残されていました
    それをサンダルフォンが見たのは、まだ稼働してからさほど経っていない時だった。
    「空の民が高硬度の石の加工技術を会得した結果、最近ではこの様な工芸品が流行っているようだ」
     珈琲と共にガーデンテーブルに載せられたのは、ルシフェルの両手でも少し余る大きめの箱。陽光を受けてキラキラと輝く箱に、サンダルフォンは不思議そうに首を傾げる。
    「これは道具、なのですよね?」
     思わずそう尋ねてしまうほどに、その箱は使われるための物にはみえなかった。
    底面以外の全てに大小の貴石が豪華に埋め込まれ、守るより存在そのものを主張するような在り方は、同じく道具として生まれたサンダルフォンにはどうにも奇異に感じてしまう。

     物とは使われるために在るもの。

     プリインストールされているプログラム故に、その箱の存在の仕方がうまく理解できない。珈琲を啜りながらうんうんと唸るサンダルフォンに、ルシフェルは小さく笑声をもらした。
    「この外見自体に意味があるのだ、サンダルフォン。この様に装飾を施されたものを空の民は宝箱と称し、特に大切なものをいれる」
    「大切なものを」
    「うん。ちなみにこれは、側面の花弁のひとつが鍵穴にな 7857

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