もうひとくち 部屋に入ると、サカキはグラスを傾けていた。この時間になると、いつもそうだ。
「今日も酒か」
「お前も飲むか?」
「やめておく。ヒトの飲み物が美味いとはとても思えない」
サカキはよく酒を飲む。ポケモンの為に作られたもので溢れるこの世界で、ヒトがヒトの為に作るもの。そういうものを、この男は好んだ。
「ミュウツー」
「何だ」
「こっちに来い。もっと近くだ」
呼ばれるままに近づくと、顎をぐいと掴まれた。
「……っ」
口を口で塞がれた。サカキの唇と、舌と共に、液体が流れ込む。冷たい舌が、どうした、はやく飲めと急かしてくる。液体を飲み込んだ。少し苦い。けれど、ふんわりと溶けていく後味は嫌いではなかった。
「どうだ」
「悪くない」
「そうだろう」
サカキは満足そうに笑って、唇を舐めた。その仕草が妙に胸をざわつかせる。酒を楽しむ様をしばらく眺めて、もう一度声をかけた。
「サカキ」
「ん?」
「もっと寄越せ」
「気に入ったか」
サカキは私の方にグラスを向けたが、私が動かないでいると、ニヤリと笑った。
「そうか。可愛い奴だな、おまえは」
「……」
黙って、頭を下げた。そうするとサカキは酒を口に含んで、また私の口を塞ぐ。流れ込んでくる酒を、まずは飲み干した。グラスには大きな氷が入っていた。きっとそのせいで、サカキの唇も舌も冷たい。それが興味深い事のように思えて、舌を伸ばして絡め合った。しばらくすると、サカキは口を離した。
「む……」
「今日はここまでだ。可愛いおまえを、酔わせる訳にはいかない」
「私は酔ってなどいない」
「どうかな」
どう、と言われると答えに詰まる。
私を見つめるサカキの視線がいつもより柔らかく感じるのは、酒のせいなのか、それとも本当に柔らかいのか、自信が無かった。