時代とはノックの音がした。
「失礼します」
扉を開けてやってきたのは、新人教官のバイパーだった。
「お忙しい所申し訳ありません、サカキ様」
「どうした、唐突に。問題のある奴がいたか」
「いえ、そういう訳ではないのですが」
「簡潔に言え」
「はっ……。この頃、最終試験に進める者が異様に少ないのです」
「異様に?」
「はい。これはお伝えしなければと思いまして」
「試験の内容自体は、変わってないのだな?」
「はい」
「それはな……」
吸っていたタバコの煙を吐き出した。
「時代だな」
「時代、ですか」
バイパーが重いため息をついた。
「ああ。訓練所の面接官も入ってくる奴の質が落ちていると嘆いている」
「そうだったのですか……」
「これからは多少筆記試験の結果が悪くとも、やる気のある者を上に通すように伝えたばかりだ。これからは骨のある奴が増えるだろう。心配するな」
「はっ! 細かい所まで目を向けて頂き感謝です。さすが、サカキ様」
それから。
最終面接にくる奴は、確かにやる気のある奴が増えてきた。
多少妙なことを言っていても通すことにした。
「趣味ですか? 料理ですね……余り物をぶったぎって何もかもをグツグツ煮込んでるとストレスが消えていきますわ……」
「特技ですか。僕のパンは一級品です!機会があれば是非召し上がって欲しいくらいです」
そして奴らはきた。
「よろしくお願いします」
「よろしく。緊張はしなくていい」
「はい」
髪の赤いその女の事は、見た瞬間にわかった。
出来る。能力の高さから威圧が滲み出ている。確か筆記がほぼ0点だったはずだが、この凄みはなんだ。
「私、家が貧乏だったんです」
「!?」
こちらが何か言う前に、突然聞いてもいない話が始まった。
「なんとか看護学校に通えたんですけど……そこでもうまくやれなくて……」
そうか。無能だな。落とそう。
「そこがラッキーの看護学校だったもので……実技は上手くできたんですが……。ある日、1匹のラッキーと友達になって」
「……それで、最後にペンダントを二つに割って交換したんです」
「……格」
「え?」
「……合格だ。必要書類は後から送る」
「でも私、まだ自分の話しか」
「うるさい! 取り消されてもいいのか! 下がれ!」
「ははっ、ありがとうございました……?」
女は頭を下げ、扉から出ていった。
「くそ……いい話だった……」
鼻の上を押さえて涙を堪える。こんな面接で良かったのだろうか。まあいい。成績も良かったのだから。
「次の者、入れ」
「はいっ」
青色の髪の青年は、ガチガチに固まっていた。経歴を見ると……ササキ財閥の坊ちゃんではないか。
「君の経歴では、一生遊んで暮らせると思うのだが」
「はい。よく言われます。
でも俺、もっとカッコいい生き方をしたいというか……親に縛られない生き方がしたいんです。それこそ悪の組織みたいな。話すとみんな、わからないって言うんですが」
「……わかる……」
「え?」
「いや、何でもない。成績も問題なさそうだな。合格だ」
「えっ!! ありがとうございます!!」
「勘違いするなよ。君がササキ財閥の御曹司だからではない。自ら道を切り開く生き方、大事にしろ」
「はい! 失礼します!」
扉が閉じられた。
「……私はあまり、面接が得意ではないのかもしれないな」
「ニャア?」
すり寄ってきたペルシアンの頭を撫でた。