足跡怪談? アンタも物好きだな。俺からそんな話のネタが出るとでも?
・・・ああ。理屈で説明できない事象も、怪談に入るってんなら、無くもない。それなりに長く生きてりゃ、そういうこともある。
思い出しても、あれは妙なことだった。
とある廃墟近くで野営していたときのことだ。
夜の見回りに出ると、フードを被ったハンター風の男が待っていた。
名は思い出せん。まあ、いつものことだ。
「あんたが今日の相方か?」
と声をかければ、黙ってランタンを持ち上げる。
ハンターには気まぐれな奴もいれば、変わり者も多い。特に気にすることもなかった。
二日目の夜も、同じ時間にそいつは現れた。
やはり無言で、俺の横を歩いた。
三日目の夜。
二日間歩いたのと同じ道を進んでいたはずなのに、その男は途中で範囲外の方角へ逸れていった。
「おい、そこまでは見回りの範囲じゃないだろ」
声をかけたが、返事はなく、ただランタンの灯りを揺らしながら歩いていく。
仕方なく後を追おうとしたとき、背後から別の仲間に呼び止められた。
「おい! 一人でどこへ行く気だ!」
振り返ったときには、相手の姿はもうなかった。ランタンの光すら、闇に消えていた。
あとで聞けば、その夜、俺と組んでいたのはその仲間だったらしい。
見回りは交代制だ。三日三晩同じ顔ぶれが続くことなんてまずない。そんなことすら、気にも留めていなかった。
『俺と同じくらいの背丈の、フードの男が一緒にいただろう。あいつが先に行ってしまった』
そう言ったが、誰もそんな男は知らないという。
ならばあの男はどこに消えたのか。
「夜間慣れない道を歩くには危険だ。紛れ込んだ不審者がいるなら尚更だ。一旦キャンプに戻って、また朝に確認しよう」
そう提案され、仕方なくキャンプへ引き返した。
翌朝、気になっていたその先を見に行った。
「この先は崖しかないぞ」
仲間の一人がそう口にした。
崖の縁まで、足跡が二列はっきり残っていた。
往復でぐちゃぐちゃになっているはずの地面に、俺の靴と同じ形で、同じ深さで。
片方の足跡だけが、崖の先へ伸びていた。
滑り込んだような跡。
それだけは、他の仲間にも見えていた。
「捜索しよう。この高さだ。遺体があるはずだ」
そう言って崖下を探したが──落ちたはずの男の遺体も、血痕すら見つからなかった。
・・・あれだけは、どう理屈をつけても誤魔化せん。
そのまま後を追っていたら、どうなっていたか? ──さあな。
俺は終わったことの“もしも”は語らんクチでね。
あの男が俺を道連れにしたかったのか、それとも何かを伝えたかったのか。
それは今でもわからない。
ただ──あの夜の足跡だけは、目を閉じれば今も浮かぶ。
・・・どうだい。怪談話としては、これで満足かね。