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    seserinin

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    seserinin

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    昔自分だけが楽しむために書いてたSP○Cパロ。
    読む前にとっても注意が必要だよ。
    綾部と潮江が主人公なんだよ。鉢屋の仲間が出てくる三話だよ。

    #NINSPEC

    NINSPEC3■注意

    潮江と綾部が仲間と一緒に事件に挑むSPECパロ忍たまだよ。
    SPECを見てもらってるほうが分かりやすいけど、設定と雰囲気だけお借りしてる感じだから設定知ってたらなんとか分かるんじゃないかな。
    元と同じく死ネタがガンガン入るよ。
    上級生をメインにしたらキャラが足りなくなって下級生が敵勢力にいがちだよ。嫌な人は避けてね。
    CPや女体化キャラ崩壊があるから何でもいい人向けだよ。
    言い回しとかおかしい設定とかはスルーしてくれると助かるよ。
    あとこの話メリバっぽいよ。

    主なCP
    仙綾・文三木・こへ滝・留伊・タカくく・尾鉢尾・竹孫…




    3話


    彼女は多分、生まれつき天才であった。
    1歳で物心つき始めたときから、ずっと、何故人間が地球に存在しているのか考えていた。
    彼女がもっと、常人的な性格であったなら、その興味を学者にでもなって消化したのだろうが、あいにく彼女はそうしなかった。
    まぁ、いいか。
    で、終わらせたのだ。
    彼女には弟がいた。彼もまた、天才的な頭脳の持ち主であったが、彼は努力の天才であった。そして大変な猫好きであった。
    よく猫を拾ってきては、両親に怒られ、結局姉を巻き込んで飼ってしまうので、家には5匹の猫がいた。
    ある日。
    彼女が高校生になったばかりのことである。
    両親と弟はカナダに仕事がてらの旅行に出かけた。両親は学者をしており、カナダで研究発表会に参加するため、弟を連れ、帰りにネズミ―ランドに行くのだと言っていた。
    彼女は興味がないのと、その時夢中になっていたエビの研究をしたかったため、家政婦と家に残った。
    電話が鳴った。応対に出た家政婦のつんざくような悲鳴と、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
    彼女はこの世で、この家で。取り残された。5匹の猫を抱えて。



    中野にある警察病院は、各都道府県の警察協会などが運営する医療機関であり、警察組織には含まれない民間病院である。
    一般人にも開放されているし、別に警察官が負傷したからといって、無理に警察病院に入れる必要はないのだが、七松がここに入れられたのは、この警察病院に、立花と食満が懇意にしている医師がいるからである。
    その医師は優秀な外科医で、不運な体質なのだが、周りの者には幸運を与えるらしく、そんな都市伝説も相まって中々の人気医師だ。
    そんな人気で多忙な医師に何故見て貰えるのかというと、彼女は食満の嫁だからである。
    食満が潮江との一件で、瀕死の重傷で運ばれた時も彼女が担当し、見事蘇生させた。彼女と食満は実は中学来の幼馴染なのだが、この一件で更に仲は良くなり、誤射したと思っている気まずい潮江と立花が見舞いに訪れた時、食満が彼女にプロポーズしていた所だった。
    それは見事に受け入れられ、気まずい見舞いのはずが一気に祝福モードの病室に変わり、あんぐりと開いた口が閉じなかった潮江である。
    それ以来、この病院には来なかったのだが、潮江は今、この警察病院の廊下を歩いていた。

    「再検査って…何か見つかったんでしょうか…。」

    少し心配そうに後ろをついて来るのは、対策室の新メンバー、田村三木だ。
    この病院に入れられている七松は、先日の事件で背中と足を負傷し治療を受けていたが(もっとも必要ないくらい、自分で回復させていたのだが)さっさと退院できるものと思っていたのに、突然再検査を言い渡され、入院が長引いた。
    見舞いがてら様子を見て来いと命じられた潮江に、まだ七松に挨拶のすんでいない田村が同行し、相棒と三木が行くなら。と、すっかり三木に懐いた綾部がくっついてきて、潮江は二人の美少女を連れて病院にやってきた。
    その姿は、美人の娘二人を連れたお父さんである。

    「破傷風でも…いや、あいつはかかりそうもねぇな…」

    何せ七松のSPECは驚異的な身体能力である。回復力も相当で、風邪を引いているところなど見たことがない。と、高校時代からの友人である中在家が言っていた。


    「おや?喜八子?」

    ふと見ると、曲がり角から和装の美女が出てきた。
    和装に合う艶やかな黒髪をアップにし、前髪が特徴的にカールしている。先日、一条まさるの件で遭遇した華道家、平 滝子だ。
    彼女を見るなり目をカッと見開いた綾部は、それまでとりついていた田村を離し、美女に飛びついた。

    「平 滝子…!どうしてここに?」
    「どうしてって、お見舞いですよ。華道関係の先生が入院なさったと聞きましたので。」

    確かに彼女の手には花束が。

    「平 滝子って華道家の…?」

    田村が平をじっと見つめた。その視線は流石元SITとというべきか、隅々まで観察している目である。
    そんな視線に機嫌を悪くしたのか、彼女は田村を一瞥するとすぐに綾部に目を戻した。

    「喜八子、お仕事ではないのか?いつまでも私にくっついているんじゃない。」
    「滝、滝も行こう。七松先輩のお見舞いだよ。」
    「七松?…あぁ、この間の事件の時にいらっしゃった背丈の高い方だな。あいにく私にも用事があるんだ。七松さんには悪いが、お大事にと伝えておいてくれ。」

    綾部はむーっと膨れて離す様子がない。七松を口実に使って甘えようと思ったようだ。

    「七松先輩、滝みたいな美人好きだから元気になるのに。」
    「私が美人でそれだけで元気を与えるのは確かだが、私にも時間がないのだよ。お見舞いをしたらすぐに出なくては。さぁ離しなさい。」

    困ったような笑みをこちらを向けるので、潮江は綾部をべりっと剥がした。むくれた綾部が田村にくっつく。

    「では、ごきげんよう。」

    颯爽と去っていく身のこなしは完璧で、艶やかな黒髪を揺らし角の病室に入っていった。

    「…あんまり好きじゃないな。」
    「そう?滝と三木は似てると思うけど。」

    綾部の言葉に嫌な顔をしつつ、田村は潮江の後をついた。



    病室に入ると、またむくれた顔に遭遇した。
    こちらは頬に赤い手形付である。

    「おやまぁ。」
    「なんだその顔。」

    七松がぶすっとベットに転がっていたが、潮江達が来たと知ると機嫌が直ったようで、にこやかに出迎えた。

    「おーやっと来た!!!早く帰ろう!今すぐ帰ろう!!」
    「待て待て。再検査なのだろう?まだ検査は…」
    「良いから帰ろう」

    何かに焦っている。その様子をじっと見ていた綾部が口を開いた。

    「七松先輩、注射嫌いでしょう」
    「うっ…!」

    図星らしい。なんでもあの針で刺される微妙な痛みが嫌いらしく、それなら撃たれたほうがマシだと暴れている。それマシか?

    「七松さん、この間はお世話になりました。改めまして対策室に移動になりました田村三木です。宜しくお願いします。」
    「あー聞いてるよ!仙蔵がまた引き抜いてきたんだろ!宜しくな!」
    「それでその頬の痕は…?」

    田村も気になっていたらしく、頬について触れると、また途端にむすくれた様子になった。

    「…婚約者がお見舞いに来てくれたんだけどさぁ。暫く会えないって言うからさぁ。」

    七松の口からよく登場する婚約者は、潮江の頭の中でゴリラのような女になっていたが、七松の頬を引っ叩ける項目が追加され、更に強靭な女へ想像された。

    「ははぁ、それで嫌がるふりしてベッドに連れ込みましたね。」
    「なんで判ったの?」

    七松は目を丸くしている。
    綾部の後ろで潮江と田村が顔を赤くしていた。

    「だって点滴の管がねじれていますし、シーツが乱れてます。後は感です。」
    「破廉恥な…!ここは病院だぞ!」
    「だってさぁ~~~~一か月海外行くんだって海外だよ!?悪い男だっていっぱいだよ!?美人だから襲われちゃうかもしれないじゃんかそれに一か月も会えないんだよ寂しいじゃん」
    「一か月くらいでガタガタ抜かすな大の大人が」
    「文次郎には分からないんだだってすぐ傍にいるもの」
    「ちょ、黙れこの野郎」

    涙目で訴える七松が泣き真似しつつ文次郎をからかうと、潮江が頭にきて押さえつける。と、首にチクリとしたものが当てられる。
    注射針だ。

    「病院ではお静かに。」
    「すいません…。」

    潮江の背後に気配もなく突然現れたのは、白衣を着た柔和な笑みの女性だ。
    くるくるとうねった癖毛に、亜麻色の髪色と目をこちらに向けて、にこにこと微笑んでいるが、病院で騒ぐものには容赦がない。
    注射器を見て、七松がビクッと怯えた。

    「潮江くん、今度騒いだら眠らせちゃうからね?」

    にこにことした笑みだが、何者も有無を言わせない迫力がある。

    「君たちは初めましてだね。対策室の皆さん。私は食満いさ子。いつも主人がお世話になっています。」
    「初めまして。対策室配属になりました田村三木です。」
    「…綾部です。」

    綾部は人見知りしているのか、七松のベッドに腰かけて動かない。

    「七松が再検査って聞いたんだが?」
    「あぁそれね。うん、彼の身体はもう万全だよ凄いよねあの傷全治3週間ってとこだったのに3日だよ!」
    「じゃあもういいだろ!早く帰らせてくれ!!」

    ううーんといさ子は考えている。にこにこと七松を見ている。七松は怯えている。

    「だってさ~~~3日で治っちゃったんだよ?彼がSPEC HOLDERというのもあるけど…ねぇちょっとだけ…痛くしないから!細胞頂戴!」
    「や、やだ!!!!!絶対痛いだろ!!!絶対注射するだろ!!!!」
    「大丈夫だって!痛くしないって!一瞬だって」
    「その辺にしといてやれ、いさ子…。」

    七松ににじり寄るいさ子を止めたのは、ため息交じりの台詞を吐きつつ病室に入ってきた食満だった。

    「再検査だって聞いて、まさかと思ったが…。お前のその研究好きは直らねぇなあ。」
    「だって留三郎、彼の驚異的回復は全医療界の期待の細胞だよ…!」

    すっかり怯えた七松は綾部の後ろに隠れ、潮江達は何故食満はこの人を選んだのだろう…と目を細めていた。


    ----------------------------------------------------------------------------------------------------

    「ただいま~~!!!」

    無理やり退院してきた七松は対策室のドアを蹴破る勢いで入っていく。

    「ばかもん!手でちゃんと開けろ!壊れる!」

    潮江が怒鳴るのもむなしく、七松は無視して中在家とハグしていた。

    「おかえりなさ~い。」

    そこに先客がソファで立花と紅茶を飲んでいる。鉢屋三郎だ。
    彼は不破雷蔵のメッセンジャーであり、影武者だ。時々対策室にやってきては、雑談したり、事件を持ち込んでいた。

    「シュークリームあるよ。」
    「しゅーくりーむ!」

    潮江の後ろで田村にくっついていた綾部が、田村を掴んだままシュークリームに飛びつく。田村も進められたが、実は田村は甘いものが苦手である。潮江は自分のデスクから、醤油せんべいを出すと田村にやった。嬉しそうに煎餅を齧っている。
    その様子を他の面々がニタニタと気味悪い笑みで見ていた。

    「…っ。で!鉢屋は何か用があるのか!」
    「当たらないでよ。ちょっとね、この顔に見覚えないかと思って。」

    鉢屋が自分の顔をさっと覆ったかと思うと、その顔は別人に変わっていた。

    「何それすげぇどうやったの!?」
    「鉢屋のお家芸、変装の術だから教えられません。この顔、見覚えない?」

    七松のような丸い目に、太く濃い垂れ気味の眉。全体的に柔和そうな男の顔である。
    立花は無言でペロちゃんキャンディを中在家に渡した。中在家は飴を舐めつつ【引出】にかかる。

    「…公安資料SPEC HOLDER嫌疑がかけられている人物リストに、その顔がいるな。尾浜勘衛門24歳。尾浜流茶道の家元次男坊。嫌疑がかけられている能力は念動力…。」
    「流石、公安にもう調べられているか~。ただちょっとその資料は表向きだね。」
    「表向き?」
    「実際の深いところまでは調べられてないってことだよ。まぁそんなもんでしょ。で、皆さん。この尾浜勘衛門。見たり会ったりしたことはあるのかな?」

    皆はジッと変装した鉢屋の顔を見た。潮江と綾部の中には記憶はない。
    他のメンバーも見たことはないようだ。

    「…小平太。お前はこの男と会ったことがあるはずだ。」

    飴を舐めつつ、中在家が指摘する。言われた当人は目を丸くして知らないと頭を振った。

    「覚えてないんだろう。…この男がある暴力団組織に関与していたことがあるという資料を、私は前の部署で見た記憶がある。」

    中在家と七松はマル暴からやってきた刑事である。

    「その暴力団組織に、一斉摘発で突入したことがある。その時私は別事件で担当しなかったが、小平太は突入したはずだ。」
    「ううーーーんううーん…割と記憶力は良い方なんだけどな…その時にこの顔は…見てないと思うぞ?確保したのはおっさんばかりで、若い奴はいなかったはずだ…。あ。」
    「どうした。」
    「この尾浜ってのはいなかったけどさぁ、子供がいたんだよ。その子供がすっごい大人びててさ、印象的だったの覚えてる。」
    「ははぁ成程ね。それは彦四郎だな。」

    それまでソファで紅茶を飲みつつ、聞いていた鉢屋が顔を戻しつつ上体を起こした。
    立花と面々が鉢屋に向かい合う。

    「説明しろ。」
    「この尾浜勘衛門。七松さんが見たという子供。全て私の関係者であり、雷蔵を護る八家衆という家の当主だ。」

    指を八本立てる。

    「鉢屋、尾浜、黒木、今福、竹谷、久々知、伊賀崎、二郭」
    「この八家が不破の未来予知の能力を護るために千年、不破を護り続けていた家さ。」

    鉢屋は自嘲するような笑みを浮かべつつ、説明を続けた。

    「彼らはそれぞれ、隠語で呼ばれている。うちは”狐”尾浜は”狸”竹谷は”狗”といった風にね。そして今、この八家は不破を護るために変わりなく役目をこなしているはずだったんだが、このうちの三家の当主が消えた。」
    「…行方不明ということか。」
    「そういうことだね。普通、有り得ないんだこんなことは。うちの機関は絶対秘密主義だから、関係者も全員監視がついてる。今だって私にも監視はついているんだ。そんな状態で、忽然と3人消えてしまった。」
    「神隠し、ですね。」

    綾部がシュークリームを口に付けながら口をついた。

    「その通りだね。うちは今でこそ言うSPEC HOLDERというやつの集団だけど、まぁ古い言い方をすれば異能の集団だ。監視というのは、身を護って貰っているというのも入っている。その中にテレポートできるやつは確認できていない。まぁテレポートなんて超高度なSPEC HOLDERは他にもいるにはいるだろうが、うちでは確認されていない。」
    「公安資料にも記録はない…。」

    中在家の言葉に、鉢屋はうなずいた。そして立ち上がり、息を吸う。

    「不破雷蔵からの言葉を伝える。【八家衆の行方不明の3人を追って欲しい】。ふっ雷蔵は優しいだろう?お役目とは言え家族のように育った奴らだからな。放って置けないのさ。…お願いできるだろうか。」
    「いいだろう。だが二つ条件がある。」

    立花は不敵な笑みを見せつつ、鉢屋に目を合わせる。

    「一つは、お前たち八家衆の面々の詳しい情報。もう一つは不破雷蔵に会わせてもらうことだ。」


    -------------------------------------------------------------------------------------------

    以前、不破雷蔵に会いに行った時、神楽坂の料亭に行ったが今回は全く別の場所にやってきていた。
    九段下、しかも靖国神社の近辺に、その屋敷はあった。旧家のようだが、外観はボロボロで人が住んでいるようには見受けられない。
    が、中に入ると意外と整然としており、綺麗に掃除もされているようだ。
    鉢屋三郎に連れられ対策室メンバーは不破雷蔵のいる館にやってきていた。
    が、全員ではない。食満と七松は留守番であった。最低人数で来てほしいという注文があったからだ。
    七松はぶすくれていたが、食満が嫁自慢を始めると婚約者自慢をして割と楽しそうに二人でコイバナしていた。女子か。
    やってきたメンバーは、室長であり立花家の跡継ぎである立花仙蔵と、プロファイリングに必要な綾部喜八子、元SITであり身辺警護のプロである潮江文次郎と田村三木の二人、記録のためにやってきた中在家長次である。
    通された部屋は和洋折衷の明治時代のような装飾の部屋で、鉢屋がおもむろに暖炉を押すと、ずれて階段が現れ、一行は地下に赴くことになった。
    地下道を進むうちに、潮江が口を開く。

    「おい…この方向…皇居の…」
    「それ以上は詮索しないほうが身のためだよ。」

    にたりと笑った鉢屋は確かに狐ように見えた。
    昏いレンガ造りの廊下を歩いていくと奥の方に扉がみえる。豪奢な作りである。
    その扉を開けると、広いホールのような場所に着いた。やはり明治時代の鹿鳴館のような和洋折衷の装飾である。
    そのホールの真ん中に青年が立っていた。目をつむっている。
    銀色の髪はボサボサで見るからに痛んでいそうだ。ラフなTシャツにGパンといった、普通にいそうな青年であるが、その裾から出た腕が屈強な筋肉で覆われていた。

    「ようこそ。不破家へ。」

    ニカっと笑った顔はどことなく七松を思い出す。が、目を開けるとその瞳が白かった。

    「紹介しよう、八家衆”狗”の竹谷家当主・竹谷八左衛門だ。」
    「こちらへどうぞ、皆集まってます。」

    竹谷に連れられホールから応対室のような場所に入る。そこは大きなテーブルが真ん中に構えられており、そこには既に何人か座っていた。
    その一つの椅子に竹谷が座ると、すかさず両隣の黒髪の女と、こげ茶の髪で蛇を首に巻いた女がくっついた。
    その反対には、利発そうな丸い目に太い眉の青年が、こちら見てにこりと笑った。
    テーブルの上座には、明らかにテーブルの高さがあってない小学生くらいの少年が、紅茶を飲んでいる。その姿は鉢屋とそっくりで、弟だと言われたら信じてしまいそうなくらいである。


    「こんにちわ皆さん。僕が不破雷蔵です。今まで三郎を使ってでしかお会いできなくてごめんなさい。」

    さぁ、どうぞ座って。と、にこにことした優しい笑みで着席を進める。
    なるほど純粋培養で育った子供といった風だ。

    「まずは自己紹介させて頂きます。あ、皆さんのことはもう分かっているので大丈夫ですからね。僕は不破雷蔵。不破家当主の小学生です。未来が見えます!」

    にこにこと雷蔵少年はペラペラしゃべる。まるで友達が遊びに来てくれて嬉しいかのように頬を赤くして喋っていた。

    「さぁ皆も。」
    「はい、お初にお目にかかります。僕は黒木庄左エ門。”鳥”の家です。表向きは実業団を動かしています。僕の能力は千里眼。この目で知っている者をどこに居ても視ることができます。この組織の監視役です。」

    黒木と名乗った青年は、立花達とそう変わらない歳に見えた。が、実際はさらに上らしい。

    「俺はさっき名乗ったが、竹谷八左衛門だ。能力は異常聴力。半径100キロを任意に音を聞き分けることができる。」
    「成程、それで貴方その目でも通常の人間と変わらない動きが出来るんですね。」

    綾部が紅茶を飲みつつ、竹谷の目を指摘した。彼の両隣の女二人が綾部をギラリと睨む。
    かまわず綾部は続ける。

    「その目、白内障によるものでしょう。水晶体が完全に濁り切っているので、貴方の目は失明しているはずです。」
    「ご名答だ。流石三郎が頼りにしているだけある。俺の目は生まれつき重度の白内障で失明している。これは代々俺の家の家系はそうなんだ。その代わり、このSPECを持っているのさ。まぁ正直見えても見えなくてもあんまり変わらないけどな。」

    ニコニコと答える竹谷は人の好さそうな笑みで笑う。その姿は確かに七松と同じタイプの人間なのだろう。だが、彼の底抜けに明るい雰囲気と七松の底の知れない雰囲気は、根本で違っているように見えた。

    「で、この左腕にくっついてるのが、久々知兵助。”鼠”の家で、能力は念発火だ。結構とんでもない高温の炎を出せる。右腕にくっついてるのが、伊賀崎孫兵。”蛇”の家で身体を変化することが出来る。ごめんな、二人とも極度の人見知りなんだ。」

    くっついてる二人は、客人の前でも竹谷から離れることはない。呆れるように鉢屋が見ていた。

    「あの、失礼かもしれませんが、お二人は女性ですよね?お名前が男名だと思うんですが…。」
    「ああ、当主は一応通例として男子って決まってるんだよ。まぁ通例ね。実際は女子だっていっぱいいるんだけど。古臭いしきたりさ。そのおかげで二人は男名ってわけ。」

    田村の疑問を鉢屋が解決する。言われた当人二人は、ギラギラとした目つきで、綾部達を見ていた。

    「じゃあ、自己紹介したところで、本題に入りましょう。」

    雷蔵の一言で、黒木が資料を差し出した。
    先程、鉢屋の変装で見た尾浜と、七松が見たという今福という子供、そして20代後半くらいの女性の写真。これがまだ出てきていない、二郭だろう。

    「僕がお願いしたいのは、この三人の行方です。この三人は、僕の家族なんです。対策室の皆さんお願いします。」

    ぺこりと頭を下げる姿は、やはり小学生だった。
    鉢屋がそこへ補足説明をつけていく。

    「この三家はここにいる狐、鼠、鳥、蛇、狗の五家と違って、外に出る役目がある。つまり外の機関のスパイや内情調査なんかが役目だ。」

    鉢屋は写真を手に取り、尾浜の写真を出した。

    「この尾浜家当主”狸”の家、勘衛門は、あるSPEC HOLDERの組織を調べるために暗躍していた。そのために公安の資料にあったように、暴力団との関わりも作っていた。七松さんが突入した時に子供が居たと言ったろう。それはこの今福彦四郎だ。”猫”の家。彼も同じく組織を調べるために侵入していた。彼の能力は自分の年齢を自由に調節できることだ。この姿は子供だが、実際の彼はゆうに30を超えている。そして、この二郭伊助だが、久々知達と同じく男名を持った女性だ。彼女は”鼬”の家。能力は念動力。尾浜と二郭の能力は同じようなもので、念によって衝撃破が出せたり物を動かせる程度のものだ。彼女の役目は先に侵入している二人と手を組み、彼らの脱出口を作る役目で、この三人で一つのチームを作っていた。」
    「そこまでの話を聞くと、その侵入した組織に身元がばれて捉えられた可能性が高いな。」
    「そうだろうね。それはきっと間違いない。」
    「ふむ…。ここまで分かっていて、お前たちのその能力。何故、自分たちで探そうとしない?」

    立花の意見は最もである。
    八家衆には彼らを探す方法がいくらでもあるのだ。しかし彼らは自分達を使おうとしている。

    「…僕たちの能力には、条件があります。」

    雷蔵が真剣な目を、こちらに向けた。

    「僕たちの能力は、探すための能力は、生きてる人間にしか使えないんです。」



    まず、黒木が監視していた千里眼が途絶えた。
    それは組織に侵入し、メンバーとしてスパイ活動をしていた尾浜から消えた。
    次に今福の視点が消えた。彼も組織のメンバーと行動していたと思ったらふと見えなくなった。
    黒木の千里眼は、知る人物の姿が見える。が、視界は狭い。そして音声は聞こえない。消えたその場所は、この館からかなり離れた埼玉県の山中だった。竹谷の能力は使えない。
    そして二郭の視点が消えた。
    黒木の目にはもう、三人の姿は確認できなかった。目を凝らしても暗闇しか広がらなかった。
    そのことを雷蔵に報告し、雷蔵は慌てて未来を読もうとした。
    でもやはり暗闇しか見えなかった。
    雷蔵の力はとんでもなく強い。その予言は必ず当たる。絶対である。予知をまげても終着点は同じである。
    その強さが、この暗闇を絶望的なものにしか見せなかった。
    雷蔵の予言の力は、「今生きている人間」にしか使えないのである。
    二人は少し泣いた。

    「せめて、遺体だけでも僕たちの手元に戻したいんです。」

    雷蔵の目には涙が溜まっている。

    「僕にとっては、3人は僕を守ってくれる従者であり、家族だったんです…。それに…」
    「もういいよ雷蔵。」

    遮ったのは鉢屋だ。表情は読み取れない。
    雷蔵の肩に、黒木が優しく手を置いた。うっすらと笑みを乗せたその表情は悲しみが滲んでいる。

    「いいんだよ雷蔵。」

    ---------------------------------------------------------------------------------------


    対策室に戻ったメンバーは早速資料をかき集め、綾部に渡した。
    彼女は椅子に座ってグルグルと回り、いつものスタイルでプロファイリングを施行し、いくつかの場所を割り当てた。
    あとは七松と潮江が走り回り、七松の鼻で死臭を嗅ぎ当て、見事遺体を見つけ出した。
    3人は山中に別々の場所に埋められていた。死後1週間といったところであり、まだそこまで腐敗は進んでいなかった。
    検死を食満といさ子に頼み、資料を作成してもらっている。
    遺体は不破家に届けられた。

    「ありがとうね。みなさん」

    いつもの笑顔で今度はマカロンを持ってきたのは鉢屋だ。
    七松と綾部は齧り付いている。

    「これで私らも気が晴れたよ。いつだって仲間が消える可能性や自分が死ぬ可能性は付きまとっていた。けどね、やっぱり、一気にこうくるとはね…。」

    普段読み取れない表情の鉢屋は、今少しだけ悲しそうな顔をしている。

    「鉢屋…。」
    「死んだ今福と二郭はね。黒木さんの幼馴染であって、二郭さんにいたっては妻だったんだ。黒木さんは遺体が戻ってほっとしてた。それに尾浜も私と竹谷と久々知の親友だった。いつも一緒だった。でもこれで気が晴れた。心から礼を言う。雷蔵に代わっても、私からも。八家衆からも。」

    鉢屋は頭を下げ、礼を言った。この飄々とした男からは珍しい行動である。それだけのことだったのだ。

    「私達、不破の一党は対策室に多大な礼ができた。何でも言ってくれ。」
    「では、私の質問に答えてもらおうか。」

    立花はずいと、前に出た。
    この時にお前…と潮江は立花を制止しようかと思ったが、立花は潮江を一瞥し目で止めた。

    「お前たちが侵入していた組織とはなんだ?そのせいで3人の犠牲者がでたのだろう?」
    「それを言われると思っていたよ。」

    鉢屋が鞄から資料をどさりと出す。

    「これだ。組織の名は知れない。もしかしたらないのかもしれない。だが分かるのは世界に繋がる巨大な組織らしいことと、SPEC HOLDERたちが多数集結していることだ。組織が大きいせいなのか、グループが何個かに分かれていて、この国に一体いくつあるのか分からないが、確認されているのは2つだ。そのうちの一つがうちの3人を消したのだろう。この組織、先だっての対策室が対峙した佐竹虎若も所属していた。」
    「虎若…。」

    資料の山を綾部が漁り出し、中在家が保存を始めた。

    「彼らはうちの不破一党のSPEC HOLDERを何人か引き抜いていてね、こちらもSPEC HOLDERの集団だ。対抗勢力なのかと探っていたらこの様さ。…彼らの目的は多分、人類の二分化だ。」
    「二分化?」
    「そう、SPEC HOLDERと、ただのノーマルの人間。SPEC HOLDERの世界を作りたいのさ。」

    異能者の世界。
    それはSPEC HOLDERである、綾部や七松や中在家のような人間が上に立つ世界なのだろう。
    それを望むのは…。

    ガタンと対策室の扉が開いた。

    「お、丁度いい。鉢屋来てたのか。」

    食満が左足を引き摺りつつ、資料を持ってきた。

    「これ、この間の3人の検死結果だ。3人とも首のあたりに電撃症の痕があった。今福と二郭は致死量の電撃後にトドメを刺されたのか、損傷が少ないが、これ尾浜の資料。彼は息を吹き返してしまったみたいだな。随分、損傷が激しい。逃げ回った後、掴まってしまってトドメを刺されたようだ。で、これお前に預ける。」
    「…?」

    食満が出したのは、袋に入ったペンダントのようなものだ。トップの部分しかない。縦長の金属に装飾が入っている。

    「これは尾浜の胃の中から出てきたものだ。刑事事件として扱うとその証拠は刑事部の倉庫に入って中々取り出せなくなる。これは俺の感だが、多分それはお前たちに当てたメッセージみたいなものだろうと思って持ってきた。提出資料には無かったことにしてある。」
    「留三郎、お前にしてはいい機転だ。鉢屋、それに見覚えは…」


    立花が振り返ると、袋を受け取った鉢屋はボロボロ涙をこぼしていた。

    「これ…は。昔、ガキだったころに誕生日にやったやつだ。まだ持ってたのかあいつ…。」

    ペンダントを握りしめる。これはきっと。

    「多分、尾浜は何かを見た。知った。それを伝える前にあいつは追い詰められたんだろう。あいつもSPEC HOLDERだ。可能性に賭けたんだ。」
    「可能性?」
    「私達の調べで、サイコメトリーの能力を持つ者がいるという情報があった。その例の人間はSPEC HOLDERが知れる前までも確認されている。勘衛門は多分、このペンダントに何かを強く残して奪われないよう飲みこんだ。」
    「なるほど、その残留思念を読み取れる者を待つしかないか。」

    気の長くなる話だ。と、立花はこちらでも探ってみようと鉢屋に約束した。
    だがそれは、案外早く見つかるのである。
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