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    seserinin

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    seserinin

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    昔自分だけが楽しむために書いてたSP○Cパロ。
    読む前にとっても注意が必要だよ。
    綾部と潮江が主人公なんだよ。さくべが出てくる4話だよ。

    #NINSPEC

    NINSPEC4■注意

    潮江と綾部が仲間と一緒に事件に挑むSPECパロ忍たまだよ。
    SPECを見てもらってるほうが分かりやすいけど、設定と雰囲気だけお借りしてる感じだから設定知ってたらなんとか分かるんじゃないかな。
    元と同じく死ネタがガンガン入るよ。
    上級生をメインにしたらキャラが足りなくなって下級生が敵勢力にいがちだよ。嫌な人は避けてね。
    CPや女体化キャラ崩壊があるから何でもいい人向けだよ。
    言い回しとかおかしい設定とかはスルーしてくれると助かるよ。
    あとこの話メリバっぽいよ。

    主なCP
    仙綾・文三木・こへ滝・留伊・タカくく・尾鉢尾・竹孫…




    4話


    彼にとって、留三郎は兄のようで親のようでもあった。
    だから誤射事件で留三郎が撃たれたと聞いた時、酷く潮江を憎んだ。
    何故、どうして。
    混乱する強い想いは、きっと彼の脳を刺激したのだろう。
    細い管に繋がれた留三郎に近寄り、触れた時、彼は事件の一部始終を見ることができた。
    それは彼にとって、一瞬の出来事ではあったが、脳裏に焼き付いた。
    そして誤射事件に疑問を持った時、留三郎が目を覚まし、あれはおかしな事件だったと主張した。
    それを聞いて彼は自分の不思議な現象を疑問に持ったのである。


    ガッッシャアアアアァァァァン
    派手な音が、対策室で鳴り響いている。ついでに呑気なにゃっははははは!という笑い声も聞こえる。
    対策室は今、派手な喧嘩が勃発していた。
    七松となんと中在家である。
    たしかに中在家には、切れると見境いがなくなるという噂はあった。それがこんな暴れるとは。
    原因はいたってシンプルだ。
    田村が差し入れに買ってきたケーキが思いのほか可愛い成りをしていた。
    それを綾部と中在家が喜んで眺めていると、七松があー美味そう!と食べてしまった。それだけだ。
    対策室はいつまでも高校生のノリが抜けない二人の男の試合会場となってしまった。楽しそうな声がこだましている。
    と、ガコンと重い扉が開く音が聞こえた。
    丁度入ってきた般若のような顔をした立花によって、試合は終了したのである。


    異様に重いオーラを纏った立花は、膝に懐く綾部を撫でながらソファに座っていた。
    床にはガタイの良い男が二人、小さくなって座っている。揃って頬が腫れていた。(七松はすでに治りかけていたが)
    散らばった資料など、部屋を片しているのは田村と潮江の二人である。しかし文句は言えない。室長は大層お怒りだ。
    顔の綺麗な立花は、怒ると大層怖い。
    そのことを重々承知している潮江と田村は、立花には極力逆らわない。
    そうすれば、立花だって早々無茶なことは言わないし、平和に過ごせる。
    早く終わってくれ。二人はそう願いながら部屋を片付けていた。


    「おぉ!?なんだこりゃ!?すげー散らかってるな!?」

    空気を読まずに入ってきたのは食満だ。が、立花の顔と状況を見て顔が凍り付き、そっとドアを閉めた。
    食満は立花と潮江とは警察に入ってからの付き合いであるが、彼は立花の恐ろしさを承知している。
    その足でほとぼりが冷めるまで逃げようと思っていたが、立花の声に引きとめられてしまった。

    「留三郎、七松を警察病院まで連れて行け。いさ子に引き渡して好きなようにしていいと伝えろ。」
    「やめて!!!!それだけは!!!!!」

    七松が立花に縋りつく。
    どうやら彼は入院中、随分といさ子に狙われたらしく、若干いさ子がトラウマになっていた。

    「で?なんだ用は。」

    立花は怒るのに飽きたらしく、綾部を撫でながら食満に振り返る。
    と、目に入ったのは食満だけで無かった。後ろに学ランを着た少年がいたのである。



    「俺、留兄さんの家に厄介になってます富松咲也っていいます。」

    彼は留三郎の年の離れた姉の子であり、甥っ子にあたる。中学3年生らしい。
    3年前、留三郎の姉であり彼の母親である咲子は、夫が早くに他界してシングルマザーとして咲也を育てていたが、自動車事故に巻き込まれこの世を去っていた。そのため彼は、生まれた時からずっと可愛がってくれていた叔父である留三郎の家に厄介になっていた。
    暫く二人で生活をしていたが、留三郎の誤射事件で随分と生活が荒れた。
    その話を聞いて、潮江の顔が曇ったが、慌てて彼は弁解する。

    「違うんです。今は俺の早とちりだってことは分かってるんです。」
    「分かっている?」

    留三郎が事件のことを咲也に漏らしていたのかと、立花と潮江は食満を見るが、食満は不思議そうに顔を振った。

    「…実は、この事でいさ子さんに相談したらここを勧められて、留兄さんに連れてきてもらったんです。」

    咲也は俯いて言いずらそうにしていたが、覚悟を決めたのか立花達の目を見て話し始めた。

    「最初に見たのは、留兄さんがまだ、瀕死の重傷から目を覚まさないで管に繋がれていた時です。留兄さんに触った瞬間、潮江さんが見えました。」
    「!!?」

    メンバーが息をのむ。

    「あの事件の一部始終が俺にははっきりと見えました。あの銃弾が、突然方向を変えて留兄さんを襲ったところも。」
    「お前…!」
    「その時はまだ潮江さんが撃ったと思ってましたから、どういうことなのか混乱しました。何か自分は頭がおかしくなったのかと。それで暫く、そのことは忘れるようにしました。でもその後、次々と触るものの映像が見えました。もう…色々…。」

    咲也はそれで随分と悩んだようだ。憔悴した顔が物語っている。彼が言うには、触るものの持ち主の映像が色々と見えてしまい、一時期には人間不信になったようだ。
    頼りの食満は社会復帰で忙しく、更にいさ子と結婚し、食満は咲也を連れていさ子と同居してくれたが、新婚の家にいるのも気まずく、忙しい二人はあまり帰って来ず、言い出せなかったという。
    そんな食満を綾部達はじとーっとねめつける。

    「な、なんだよ…」
    「新婚の家に中学生の甥っ子置くって…。結構可哀相なことしますね…。」

    田村が元々釣り目の目を更に細くして食満を見た。

    「だ、だってさ!放って置けないだろ!!」
    「でもお前ら家に入れるだけ入れて仕事して放っておいたんだろう?」

    七松の言うことも最もである。痛いところを突かれて食満は二の句がつげない。

    「で、でも!俺は感謝してるんです!留兄さんに置いていかれたら、他に親戚のいない俺はどうすればいいか分からなかったし…。」

    咲也は両親が他界しているので、身よりが食満の家にしかない。名字の富松は父親のものだが、そちらの親戚は咲也を厄介者として見ていた。
    しかも食満の家も、実は親戚は留三郎だけなのである。食満の両親も留三郎が中学生の時に事故で他界しており、祖父母などもおらず、他の親戚とは付き合いがない。文字通り、二人は天涯孤独の身同士、身を寄せ合って生きてきたのであった。

    「…この不思議なことは、俺のおかしくなった頭の幻覚で、忘れるようにしようと思っていたんです。けど、ある日同級生に触れたら見えたんです。彼と彼の兄が酷く喧嘩して兄を突き落しているところを。そしてそれを隠しているところを。」
    「!?」
    「俺はそんな事あるはずがないと思おうとしました。でも次の日、遺体が見つかり、彼は事件として警察に連れていかれ自白しました。…やはり、俺が見たものは真実だったんです。なんでこんなものが見えるのか、これは何なのか、恐ろしくなって思い切って、いさ子さんに受診しました。それで、SPECの説明を受けてここを紹介されたんです。」

    富松咲也の話を聞き終わり、対策室の面々は息をのんだ。
    彼が言っていることが本当ならば、それはつい先日欲しがった、残留思念を読み取る能力、サイコメトリーだからだ。
    こんなにも早く見つかるとは。

    「…とりあえず、君の能力を見せてくれるかな?」

    立花が能力を試そうと、何か適当なものを手に取ろうとしたが。

    「そ、それが…!すいません、どうやってこの能力が発動しているのか分からないんです。いつも突然見えて…」
    「成程、ワンモーションの条件か。」

    富松が普段、何げなくやってることに条件がかかっているのだろう。それが分からなければ、彼の能力を有効に使えない。

    「これは綾部、お前の出番だな。」

    膝の上でゴロゴロと話を聞いていた綾部は、にやりと猫のように笑った。



    -----------------------------------------------------------------------------

    綾部は富松と一緒にお台場の海浜公園へやってきていた。
    潮江も一緒である。
    綾部はプロファイリングと現場検証のスペシャリストである。つまり富松の仕草も、一緒に行動しているだけで確認できるのだ。
    変人だが、天才ではある。
    富松は久しぶりにのんびりと海を見た。
    そういえば昔、亡くなった母と留三郎と一緒に海に行ったなと、ぼうっと思い出していた。
    あれから随分と、なくした。

    「綾部!やめろ!!!公共の場に穴を掘るな」

    綾部が突然芝生の地に穴を掘り始めた。どこからかスコップ持参である。
    綾部の趣味は穴掘りである。何が面白いのか分からないが、時々思い立っては深い竪穴を掘るのを趣味としていた。
    この間も、乗った七松と警視庁の土地に穴を掘って、こっぴどく叱られたばかりである。
    そんな綾部を止めている潮江を見て、富松はやはりあの人はお人好しなのだと思った。留三郎から聞いていた通りである。
    のんびりした場所に行こうと言いだしたのは潮江だった。
    リラックスした場所のが仕草が出るだろうと。
    その話にのった立花が、こちらで鉢屋を呼んでおくから、暫く行って来いと言ったのだ。
    どうやら自分の能力は、対策室にとって必要な力だったらしい。早く見つけないとと、焦る気持ちが増えていた。

    潮江はぼうっと海を見つめる富松を見て、考えていた。
    彼のことは食満に聞いていたのである。だからずっと気になっていた。会えて良かったと思っている。


    「潮江先輩。」

    穴掘りをやめた綾部はこちらを見ていた。

    「どうした?」
    「おかしいと思いませんか。」

    おかしい?潮江が頭を捻ると綾部は芝生に寝転がりながら、続ける。

    「私はずっと思ってました。食満先輩はおかしいです。」
    「食満が…?どういうことだ?」

    思わず眉間に皺を寄せる。

    「あー、勘違いしないでください。食満先輩自体は多分、何も知らないのです。」

    随分と回りくどい。どういうことなのか。

    「食満先輩の経歴も、資料として見ました。やはりおかしいです。出来過ぎています。今日、富松くんを見て更に確信しました。」
    「出来過ぎている?」
    「そうです。どうにも食満先輩は不運だ。親類を事故で亡くしすぎている。更に誤射事件です。でも彼は生きている。経歴を見ても、彼は何度か死にかけている。でも生きている。」
    「…それがおかしいか?確かに親族の事故死は多すぎるとは思うが…。」

    確かに思い返すと彼は不運だ。彼の妻は輪をかけて不運なのだが、彼は巻き込まれ不運といったところだろうか。が、言いかえるとそれだけのことがあっても彼は生きている。ある意味強運なのではないか。

    「そう、きっと本当は強運なのです。誤射事件の後、彼は左足に障害を残しながらも科学捜査の道に進めました。それは彼が大学時代にそちらの専攻で資格を取っていたこともあるのですが…。それにしてもSITから科研に行けるのも幸運です。」
    「そりゃあ、いさ子がコネを使ったってのもあるけどな。」
    「ふぅん?」
    「…お前は何が気に入らないんだ。」

    ゴロゴロと転がる綾部は無表情で空を見ている。

    「きっとあの人は”生かされている”のですよ。そんな気がします。」
    「…感か。」
    「感です。」

    こういう感というのは、当たるものだ。しかし潮江から見ても食満に別段おかしいことはない。先に綾部が勘違いするなと言った通り、食満自信には何もなく、本人も気づいていないのだろう。彼を取り巻く、何かが。

    「あぁ一つだけ、食満先輩自身におかしいところがあります。」
    「おかしいところ?」
    「あの左足、動かないわけがない。」

    ふ、と。
    風の流れが変わった気がした。
    そこは元SITの感が働いたのだろうか。潮江は富松に向かって走り出し、頭を掴んで地面に押し付けた。
    パァン!
    乾いた破裂音が響き、富松のいた手摺が弾けた。”破裂した”

    「潮江先輩!」

    銃を構えた綾部が走ってくる。
    弾けた手摺の破片が潮江の肩や背中に突き刺さっている。痛いを通り越して熱い。

    「だ、大丈夫ですか…!」

    あわあわと狼狽える富松には怪我はないようだ。

    「お前…狙われてるとは聞いてないぞ…!」
    「俺も初めて狙われました!」

    綾部と目を合わせる。つまり、富松は対策室を出てから命を狙われ始めた。もしくは警察病院からだ。
    富松が自分の能力を告白したのは、病院が初めてだ。そこから何者かに聞かれたか、対策室に盗聴器が仕掛けられているか…。
    (もしくはSPECの能力かもしれないな…)

    「潮江先輩、そこで富松くんを庇っていてください。」

    綾部はギョロリと辺りを見回す。
    海浜公園は敷地が広い。そしてあまり建物がない。ただっ広いのだ。
    この位置から狙撃されるには、あまりにも周りに障害物がない。身を隠す場所もない。
    くく…っと異様な音がした。
    ハッと気が付くと、また手摺が膨れている。
    潮江は富松と綾部を庇い、駆け出したが間に合わなかった。
    パァン!また破裂した。
    破片が潮江に突き刺さる。

    「ぐあ…っ」

    今度は破片が富松の手にも刺さった。だが潮江が庇ったのでそれだけで済んでいる。綾部は無事だ。

    「潮江先輩、もうちょっと頑張ってください。」
    「頑張るって…!?」

    潮江は息も絶え絶えである。熱いの通り越してまた痛くなってきた。

    「これは明らかにSPECです。SPECの発動条件は様々ですが、このタイミングの発動は絶対に相手はここ見ています。」

    綾部は伏せた格好のまま、胸元ポケットを探る。出てきたのは小さな笛。犬笛だ。
    フゥーーーーーーっと思いきり吹いた。
    それは人の耳には聞こえない音である。が、それを聞き取ることのできる人間が、対策室にはいる。

    「それは…」
    「立花先輩に、出かける前に貰いました。」


    ダダダンッっとそれは突然現れた。黒いスーツにだらしないシャツ、腕まくりをした袖からは屈強な筋肉がみえる。

    「おまたせ!」

    目にも見えぬスピードでやってきたのは七松だった。

    「お前対策室から…!?」
    「まさか。仙蔵に言われて尾行してたの。」

    まったく気付かなかった…元SITとあろうものが…。
    潮江がうなだれて地面に頭を打ちつけているが、それを気にするのは富松だけだ。

    「七松先輩、ここから見える建物の窓をくまなく探してください。SPEC HOLDERは確実にこちらを確認しているはず。」
    「わかった。」

    元々大きなギョロリとした三白眼の目を凝らす。ここから見える建物は、商業ビル、ショッピングビル、灯台…。

    「いた。2時の方向、あれは商業ビルかな。あそこに男がこっちみてる。」

    七松はすぐに見つけたが、この位置からは何もできない。

    「七松先輩、その男に向かって銃を構えてください。」

    言われた通りに七松は銃を構える。

    「どうするんだ?この場所からじゃ、あそこには当たらない…。あ、逃げたぞ。」
    「やはりそうですか。もう大丈夫ですよ。」

    綾部は富松を引き摺りだし、潮江を起こす。
    七松は銃をしまいつつ、潮江を抱えた。

    「どういうことだ?」
    「彼はSPEC HOLDERですが、一般人ということです。一般人の銃の知識なんてたかが知れています。彼は七松先輩に銃を構えられて、こちらに発砲してくると思ったので止めたのでしょう。」

    このうちに対策室に逃げましょうと、綾部は富松を連れて車へ走る。
    と、その時爆音がした。
    公園の駐車場から黒煙が立ち上がっている。

    「…俺の車…。」

    SPEC HOLDERは逃げる時に潮江の車を爆破していったようだ。



    -------------------------------------------------------------------------

    車をやられた潮江は、駆け付けた警察に車の処理を任せ、七松の車で警察病院に送られた。
    七松の車は公務員がそれでいいのか!ってくらい暴走車であり、とんでもない乱暴運転だったため、病院に着くころには綾部を除く潮江と富松は、真っ青な顔をして出てきた。

    「情けないな~私の婚約者は、始終隣で怒ってくれるから私安全運転できるのに。」

    この暴走運転の隣で七松を叱りつけ、安全運転を指導する七松の婚約者に、猛獣調教の項目が付加された。

    「私先に対策室に帰るから!帰りはまた呼んでくれ!」
    「どうやっても病院に入りたくないんですね~。」

    そんなわけで3人は病院にいる。


    「またこの短期間で舞い戻ってくるとはね。」

    いさ子は非常に早い手際で破片を取り除いてくれた。

    「箇所が多いけど、深くは入り込んでないね。全治2週間ってとこかな。」

    包帯を巻いてもらった背中を、綾部が興味深そうに見ている。
    反対に、富松はとても気まずそうに顔を曇らせていた。

    「すいません、俺のせいで…。」
    「…気にするな。お前を護るのは俺達の仕事だ。」

    富松の頭をわしわしと撫でてやると少し気が晴れたようで、富松は飲み物を買ってくると外に出ていった。
    その隣で綾部が順番待ちをしている。これは…。

    「なんでお前もなんだ。」

    とりあえず同じくわしわしと撫でてやると何だか満足気だ。その様子を、によによと微笑ましくいさ子が微笑んでいた。


    ドォォン!!
    廊下で爆発音がした。
    綾部と潮江は弾かれるように廊下へ飛び出す。そこには爆発した自動販売機と、血まみれの富松が倒れていた。

    「富松!!」
    「うぅ…しお、えさん…」

    富松の容態は酷い。真正面から爆発を受けたせいである。しかしまだ意識はあるようだ。

    「手を、叩くおと…しました。それで、ばく、はつが…」
    「喋るな!おい、いさ子!」
    「どいてくれ」

    辺りは騒然としている。いさ子が早急に応急処置にあたり、他の医師も駆けつけてきた。
    綾部は辺りを見回したが、SPEC HOLDERらしき男の影はなかった。

    富松は病院内だったこともあり、応急処置が早く一命を取り留めたが、ICUに入り未だ容態は安定しない。
    綾部と潮江は一旦、対策室に帰ってきていた。

    「すまん、俺の失態だ…。」
    「そんなことを気にしている場合ではない。食満、富松の様子はどうだった。」

    唯一の肉親である食満は、ICUに入ることを許されている。

    「酷いもんだが、なんとか…。くそ、まさか病院内で…。」

    拳を握りしめる食満は悔しそうに歯噛みした。
    現在、富松の病室には田村を置いている。彼女は防護のプロだ。

    「この一件、やはりうちの3人を殺したグループの犯行だと思う。」

    突然声を上げたのは、連絡を受けて対策室に来ていた鉢屋だ。鞄から資料を出す。

    「これはうちで調べ上げたリストだ。これしかないから中在家さんに保存しておいてくれ。これ、こいつの能力。」

    資料から一枚取り出すと、机に置いて広げる。

    「こいつは連続爆弾魔として手配されている鹿浜健二だ。正体はSPEC HOLDER。尾浜たちが調べていたグループに、こいつが所属している。七松さん、見たのはこいつじゃないか?」

    七松が資料を覗き込む。

    「…たしかに似てるな。この写真、ちょっと不鮮明で分かりずらいけど。」
    「こいつのSPECは爆発。鉄を爆発させることができるんだ。条件は最初に触れておき、任意の時に手を叩くこと。それさえすれば、時間差だろうが、距離があろうが自在に爆発できるらしい。」
    「…詳しいな。」
    「尾浜たちの調査のおかげですよ。」

    鉢屋は資料を中在家に手渡す。
    中在家はすぐに保存を始め、ペラペラと資料をめくっていく。

    「これはこちらにとっても大きな痛手です。…あまり使いたくなかったが、雷蔵を使います。」
    「予知能力を何する気だ?」

    鉢屋はこれまで、あまり雷蔵の力を使わせようとしなかった。それは予知能力を施行するには、脳に多大なる負荷をもたらす。
    それは小学生である雷蔵の脳には、大きなダメージである。そのため、予知をすると雷蔵は必ず5時間以上眠らなければならなかった。

    「こちらの調べで、ある人物がいることを突き止めている。」
    「ある人物?」
    「”ヒーラー”だ。」

    あらゆる病や怪我を治す男。神の手を持つ男と言われている。SPEC HOLDER達からはヒーラーと呼ばれていた。

    「この男の出現位置を、雷蔵に予知させる。あんた達にそいつを確保してもらいたい。富松咲也は俺達で保護しよう。…猫、狸、鼬のいなくなった我々五家は、守るための能力は万全でも、探索能力が手薄だ。」
    「いいだろう。」

    立花はソファから立ち上がる。

    「こちらとしても、富松咲也は食満の甥であるし、能力を活用したい。総員、聞け!」

    皆、立ち上がる。

    「不破雷蔵の予知結果が出次第、対策室は作戦に移る。準備を怠るな。」



    その頃、警察病院の富松の病室前で待機していた田村は、こちらに向かってくる少年に顔を向けた。
    柔らかな表情だが、意思の強そうな眉に、大きな猫のような目。誰かを思い出しそうな、そんな。

    「富松くんの病室は…ここですか?」
    「そうだけど…君は?」
    「富松くんの同級生で、浦風といいます。ICU…ですか。富松くんは大丈夫なんです…」

    か。を言い切る前に、田村は素早く、懐からナイフを取り出し浦風という少年の首元に当てた。

    「富松が病室に入っていることは、一般人には誰も連絡していない。漏らしてもいない。お前、何者だ。」

    彼は目を丸くしていたが、ふ、と一つ笑ったかと思うと、ニコ――――っと目を細めて笑った。


    「流石この間までSITだっただけありますね”鷹の目”。その目は確かなようだ。一応ちゃんと、彼の心配をしにきたんですよ。」

    田村は表情を険しくしまま、ナイフを突きつけたまま、浦風を観察した。
    上下黒のタートルネックに細身のパンツ。すらりとした優男風だが、どこか、そう猫のような佇まいをしている。

    「僕の部下がちょっと暴走してね。富松くんを始末しようとしたんだ。でも僕としては本意じゃないし、彼に見て欲しいものがあったんだ。」

    にこにこと笑っているが、この少年、目が笑っていない。

    「ねぇ、鷹の目。お願いがあるんです。僕を対策室に連れてってください。」
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