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    seserinin

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    seserinin

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    昔自分だけが楽しむために書いてたSP○Cパロ。
    読む前にとっても注意が必要だよ。
    綾部と潮江が主人公なんだよ。獅子身中の虫の6話だよ。

    #NINSPEC

    NINSPEC6■注意

    潮江と綾部が仲間と一緒に事件に挑むSPECパロ忍たまだよ。
    SPECを見てもらってるほうが分かりやすいけど、設定と雰囲気だけお借りしてる感じだから設定知ってたらなんとか分かるんじゃないかな。
    元と同じく死ネタがガンガン入るよ。
    上級生をメインにしたらキャラが足りなくなって下級生が敵勢力にいがちだよ。嫌な人は避けてね。
    CPや女体化キャラ崩壊があるから何でもいい人向けだよ。
    言い回しとかおかしい設定とかはスルーしてくれると助かるよ。
    あとこの話メリバっぽいよ。

    主なCP
    仙綾・文三木・こへ滝・留伊・タカくく・尾鉢尾・竹孫…



    6話


    彼は自分でも自覚はあったのだが、加減のできない性質であった。
    我慢もできない、言うことも聞けない、誰も信用できない。本能で生きていた。
    それはだたの獣の子供だった。だから誰も手に負えず、放っておかれた。
    だが彼は本当はとても寂しかった。
    彼の世界に、誰もついて来れなかったから、彼はいつも一人だった。
    孤独は増々彼を凶暴にしたが、ある日、彼の腕を掴んだ者がいたのだ。
    それは彼以上の孤独を持った、時の女王だ。



    あの話し合いから、3日たっていた。
    富松の状態を考えても、時は一刻を争う状態なのだが、いかんせん手順を踏まなければ確実に救えない。
    出番が一番最後の対策室は、焦燥感に包まれている…と思われていたが、意外と和やかなムードであった。
    今日は中在家が手作りケーキを作ってきてくれたので、皆で紅茶を入れつつ歓談している。

    「まぁ焦っても仕方あるまい。それよりも準備を怠らず、リラックスしている事のほうが大事だ。」

    立花は綾部の口のクリームを拭いてあげながら、ソファで寛いでいる。

    「相変わらず長次のケーキはうまいな~!これ何てやつだっけ?」
    「…シフォンケーキだ。」

    ご機嫌でケーキを齧っているのは七松だ。彼はあの話し合いから次の日まで、ずっと不機嫌を垂れ流していた。
    怒っていても、すぐに機嫌の直る彼には珍しく、翌日にまで持ち越して不機嫌なので、対策室はピリピリとした空気が漂っていた。

    「私、あいつ嫌い。」

    彼は随分、浦風が気に入らないようである。
    が、また翌日、彼は打って変わって超ご機嫌だった。

    「婚約者が予定繰り上げて早めに帰ってきた!!!!!!!」

    潮江は呆れたが、不機嫌でいられるよりいいか、と。うっかり聞いてしまって婚約者自慢に連れ込まれている田村を見て思った。


    「よぉ、いいもん食ってるな。」

    重い扉を開けて入ってきたのは食満だ。
    彼はあの場でずっと気絶しており、すっかり忘れていた面々が食満を起こそうとしたが、彼はまったく起きなかった。
    気絶する前の症状に気になることがあったし、ということで、七松が担いで病院まで運んだのだった。(もちろん、七松は玄関で潮江に押し付けて帰った。)
    いさ子はグッタリした夫の姿に可哀相なくらい狼狽えていたが、そこは流石に優秀な医者である。素早く状態を確認すると、ほっと一息吐いた。

    「大丈夫、ちょっと貧血気味だけど、気絶しているだけだと思う。咲也のこともあったし、最近仕事も根詰めてたから、疲れているのもあるんだろうね。」

    優しい笑みで食満の髪を撫でる姿は、痛々しいくらいに献身的だ。潮江の知る限り、彼女は不運な星回りの人間である。
    この病院にくるまでも、様々なことに巻き込まれ、病院が倒産したり、院長に気に入られたと思ったら婦長に嫉妬されて嫌がらせを受けたり、病院を転々としたりと、その人生は波乱万丈だ。
    それでも彼女はこの病院で今、今までにない順風満帆な日々らしく、それは食満と結婚してからなので、彼女は食満に幸運を貰ったのだと信じ込んでいる。が、代わりに食満は巻き込まれ不運になったので、彼女の献身ぶりは一層の事となった。

    「富松の容態は相変わらずか?」
    「うん、こん睡状態が続いてるけど、ある程度落ち着いたと思う。」

    富松といい、食満といい、いさ子といい、何故こうも静かに生きさせてやれないのかと、潮江は思った。


    「もう大丈夫なのか留三郎。」
    「あぁ、悪かったな仙蔵、3日も休んじまって。ちょっと根詰め過ぎたみたいだ。あんな時に倒れちまうなんて。まぁあの時のこと、あんまり覚えてねぇんだけど。」

    持ってきた資料をどさりと中在家のデスクに置きながら、彼は苦笑した。と、ソファに座り立花に甘えていた綾部が背もたれからひょこりと顔を出す。

    「食満先輩。富松くんの容態はどうですか。」
    「あぁ、変わらないな。良くもなく、悪くもなくってとこだ。溶けた高温の鉄を真正面から浴びちまったんだ。火傷が広範囲でな…。お前たち、ヒーラーを頼む。」

    一同は、声を出さずに静かに頷く。

    「食満先輩。」
    「ん?」

    綾部はじっと、あの観察する目で、彼を見た。

    「先輩が富松くんの能力を知ったのはいつですか?」
    「あぁ、前に言わなかったけか?ここに来る直前のいさ子のとこだ。いさ子に忘れ物を届けに行ったら咲也が居てな。そのまま連れてきた。」

    潮江は思わず口をだす。

    「留三郎お前…もが!」

    が、察した田村に口を押えられた。
    目で制される。

    「これから説明しますけど、浦風って子に心当たりあります?」
    「浦風?聞いたこともないな。」

    一同は目を合わせた。
    食満の記憶が”なくなっている”。
    それは先日、綾部が予想した通り、浦風が言った通り、食満は何者かの支配下に置かれていることを意味していた。それは本人の意思に関係なく。
    立花が先日の話し合いを食満に簡潔に、しかし例の食満の話の部分はうまく除いて説明する間、七松はせっかく機嫌が良くなっていたのに、浦風の名前でまた機嫌が悪くなっていた。
    面倒なので、中在家が残りのシフォンケーキを七松の口に突っ込み、彼は大人しくケーキを食べている。
    七松は飯時は大人しいのだった。中在家はそれを重々承知している。

    「なるほどな、あのペンダントトップに何かが。あれの情報をどこも欲しいってことか。」

    あ、そうだ。と食満は中在家のデスクに置いた資料の山を漁り始めた。

    「これだこれ。この記事の資料を見てくれ。」

    食満は科研から派遣されている対策室付きの科学検証班であるが、彼の前身はSITで更に前は刑事課の捜査員である。
    彼は非常に器用で、大抵の道具ならば扱えるし直せるし、刑事だった頃からこういった情報を集めたりするのが得意であった。

    「”話題の平滝子の真実の姿に迫る”…?」

    それはどこかの女性向け情報雑誌のスクラップであった。

    「その件の平滝子だが、最初の一条まさるの事件あったろ?あの時に資料集めてたら、このスクラップを見つけてな。後で言おうと思ってたんだが、バタバタしてて忘れてたんだ。」

    一条まさるは先日、対策室が開室した折り、一番最初に舞い込んだ事件の被害者である。
    ある政治家のパーティーで、彼は不破雷蔵の予言通り、バラに模したシャンデリアの下で何者かに殺害された。
    その事件は未だ解決していない。

    「あのパーティーに平滝子が参加していたろう?華道家としての参加だったがこの記事を見てくれ。そのパーティーの主催者である政治家と彼女は、関わりがあって愛人だったとか書かれている。」
    「でも、こんな大衆紙ですよ?話題欲しさに根も葉もない適当なことを書いているのかもしれません。」

    どうやら田村は、あまりこういった雑誌が好きではないらしい。真面目すぎて、噂話にのれず、割と女友達より男友達のが多い。

    「俺もどうせそんなことだろうと最初は見逃していた。が、この記事実は表に出ていないんだ。」
    「なんでそんなもん持ってんだお前。」
    「さっさとSIT入りして根っからの軍人だったお前には分からんだろうがな文次郎、刑事にも色々とコネがあるのさ。」

    彼は不破家の人間だったなら、尾浜張りに優秀な調査員だったに違いない。

    「ははぁ。成程。この記事は裏取引で差し替えられたのか。」
    「それだけじゃないぞ仙蔵。この記事を書いた記者。行方不明になっている。この記者だけじゃない。他にも何件かある。」
    「!!」

    その話は、鉢屋が先日話していた話と似ている。刺客やスパイは、帰ってこなかった。
    綾部はその雑誌記事をじっと見ていた。仙蔵に手を出す。懐からペロちゃんキャンディを出して渡す。ガリガリと噛み砕きながら彼女は口を開いた。

    「これ、その愛人とか関わりがあるとかって所が問題じゃないんじゃないでしょうか。」
    「どういうことだ?」
    「私は平滝子をよく知っています。知った上で言いますが彼女の性格上、愛人だったという記事を流されてもまったく動じないでしょう。彼女は割とそういうことに明るかったし、下世話な話も普通にしてました。ちなみに彼女の得意技は尺八です。」
    「そーゆーことは言わんでいい」

    潮江は赤くなりつつ、隣にいた田村の耳を塞いだ。が、間一髪間に合わず、田村は真っ赤になっている。

    「多分、この記事を圧力で消したのは政治家のほうでしょう。彼女にとって問題だったのは、その後自分の周りをうろつかれる方でしょう。そして消された記者たちは、彼女の周りを必要以上に付きまとってしまい、消された。」
    「成程な。その話に私の話も補足しよう。」

    立花は綾部を撫でつつ、紅茶を置く。

    「のちの調べで判ったことだが、この一条まさる、あの時鉢屋が”色々と裏でやっている”と言っていた。中在家。」
    「『この一条まさるって弁護士、結構影でわるいことしてるよ。突けばボロボロ出てきちゃう。なんで命を狙われてるか分からないけど、何かを探偵に依頼してるシーンが見えた。それに暴力団とつるんでる姿も。ここらへんが狙われてる原因じゃないかな。』」

    中在家が生クリームを舐めつつ【引出】によって過去の鉢屋の台詞を引き出す。

    「一条まさるは政界に進出するのが目標だったようだ。随分と色んな政治家に手を出していた。その中であのパーティーに出ていたのも、そういった理由があっただろう。主催者である政治家と手を組みたかった。そのために彼は平滝子にも手を出そうした過去があるようだ。」

    関係者であると、どこからか情報を手にいれたのであろう。彼女に取り入り、政治家と手を組む材料としたかったに違いない。

    「しかし、それが叶っていないところを見ると、どうやら失敗したようだな。」
    「でしょうね、彼女はずっと付き合っている彼氏一筋ですから。」
    「おやそれは初耳だ。」

    膝で転がっていた綾部がぺろちゃんキャンディの棒をガジガジと齧るので、立花が取りあげる。

    「でも余り会えないと言っていました。彼は海外勤務だと。」
    「ほう…。」
    「アレがデカくて顎が痛いって話してました。」
    「だからそういう話はいい」

    潮江は慌て過ぎて田村の頭を抱えている。田村は下ネタどころではなく茹蛸になっていた。綾部は確実に、わざと下ネタを話している。

    「とにかく、先ほど中在家に引き出してもらった、探偵に依頼ってあたり。これは平のことを調べようとしていたのかもしれん。そう思って探偵のほうに探りを入れたら、やはり彼らは平を探っていた。そして実際に探りに当たった探偵が消えている。」
    「そこでもか…。」
    「そこで一条は手を出すのをやめている。ま、このようになりたくなかったら~等と脅されて、一度は見逃してもらったのだろうな。」
    「…あのパーティーで一条が殺害される前。電気が復旧し、小平太がこちらに来ようとした時、一条は明らかに何かに怯えていた。」

    中在家が突然口を開いた。

    「確かに、一条は怯えていました。こちらを見て。なので回りを確認しましたが、異常は見られませんでした。ね、七松先輩。」

    七松はコクコクと頷いた。七松は意外と食事中に喋らない。口にシフォンケーキが入っている。

    「つまり、あの時一条が見ていたのは綾部の隣に居た平滝子だった。彼は彼女の姿を見て怯え、そして殺された。」
    「ですが滝はどうやって一条を殺害したのでしょう。」
    「そこが問題だな。彼女のSPECがどんなものか判らない以上、彼女が犯人とは断定できない。」

    潮江の後ろに立っていた食満が潮江の言葉に頷き、続ける。

    「それに一条の死因は、何かとても強い力で胸部を打たれた心臓震盪のちの麻痺だ。女の力でも男の力でも無理な死因だ。」
    「しかもあの時、私は停電によって七松先輩と滝を掴んでいました。電気がついた後も七松先輩が離れたあと、滝を掴んだままでした。離れた様子はありません。」
    「浦風は平滝子のSPECを、”認識できない”力だと言っていましたね…。」

    田村はようやく茹蛸から回復して考えていた。

    「私から見れば、彼女は普通の女子よりも格段に腕が立つ人物だと思います。」
    「何故そう思う、田村。」
    「病院で初めて会った時、彼女は和装でした。この雑誌を見ても、彼女はいつも和装だろうと思うのですが、彼女の足捌き、あれは武道をやっている人間の歩き方です。」
    「確かに、滝は薙刀の達人だよ。」

    立花の膝で綾部はゴロゴロと転がりつつ、記憶をたどる。

    「だとしても、彼女の腕の力量など知れてる話だ。この死因に至るまでの力に至らない。」

    考え込んでも彼女のトリックが分からない。何しろ暗転した時ではなく明るい中、堂々と犯行は行われている。

    「七松先輩はあの時、何か気付いたことはありましたか?」

    綾部の問いかけに、咀嚼しつつウーーーンと七松は唸った。ごくん、とケーキを飲みこむ。

    「……おっぱいでかかったな。」
    瞬間、綾部と潮江に張っ倒された。


    ----------------------------------------------------------------------------------------

    翌日、不破家から連絡が来た。
    雷蔵が予言を出してくれたのだ。
    随分と頑張ってくれたようで、位置に関するヒントが何個か書かれていた。
    雷蔵の予言は自分の知っている人間か、対象人物を視認することで未来を視ることができる。
    彼はヒーラーを知らない。姿も誰も知らない。
    なので、雷蔵は対策室の人間全員の未来を見たのだった。が、負荷が大きすぎ、3人までしか見れなかった上に2日寝込んでしまった。

    『ごめんなさい。もっと僕が大きかったら頑張れたのに…。』
    「無理をしないでくれ。大丈夫、充分ヒントを貰った。」
    『立花さん、これは一緒に見えたんだけど…。いや、やめておきます。これはきっと避けられない未来だ。これを改変すると最悪になりかねない。でも一つだけ…。皆とても傷つきます。血がいっぱい見える。でも希望を捨てないで。…幸せは人それぞれで、一つだけの形じゃない。』
    「……有難う。」

    立花は雷蔵からの電話を切ると、対策室の面々と向き直った。
    その中には浦風もいる。彼は組織の連絡が着いたと、また一人でここまでやってきたのだった。

    「この予言を見て、分かる場所はあるか。」

    雷蔵が予言できたのは、潮江、綾部、三木である。上手い具合に現場班を見ることが出来た。

    「この、【天の目、見下ろすばしょ、緑と灰色の森】というのは私でしょう。私は念のために、現場から狙撃待機で援護する予定でしたから。」

    田村が一つの紙を指差して言った。

    「緑と灰色の森って何だ?緑は木のことだろうが、灰色?」
    「…多分、ビルじゃないでしょうか。」
    「こっちの二つは何だ?綾部と文次郎だから、ヒーラーに対面している場所だろう。【赤い神社、人ごみ、提灯】【大通り、日の丸、ほどうきょう】」
    「綾部、頼む。」

    綾部は立花から資料と地図、予言の紙を貰う。
    そしていつもの椅子に座り、ものすごい勢いで資料と地図を見ながら、ブツブツといいつつ椅子をグルグルと回転させた。
    初めてみる田村はぎょっとし、浦風はニコニコと見ている。
    その間に、皆仕度を整えた。

    「約束を取り付けたのは15時30分、それまでに対面できなければアウトです。」

    浦風は何も持たないようだ。
    後ろでバタンと、地図を閉める音が響いた。いつもより格段に速い。

    「表参道、オリエンタルバザー。」


    その日は土曜日で、表参道は人ごみが凄かった。
    15時25分。綾部と潮江と浦風は、表参道のオリエンタルバザーという店の前にいた。

    「成程な、店の周りの物と、予言が一致している。」
    「赤い神社とは、この建物だったんですね。」

    浦風が見上げたオリエンタルバザーという店は、表参道の街並みに突然現れる、朱色の宮建築を思わせる建物である。雷蔵はこれを、神社と間違えていたようだ。

    『28分。総員それらしき人物を探せ。』
    「そうは言ってもなぁ、仙蔵。人となりのヒントは一切ない…」
    「お約束の方ですよね?」

    向こうから声かけてくれた。



    ふわふわとした猫っ毛に、丸いメガネ。そばかすに優しそうな柔和な顔立ち。白い上下の服を着た人物はそこにいた。全身黒い浦風とは反対である。
    潮江と同じくらいの身長だが、顔立ちは幼く、20歳になろうかというところに見える。
    挨拶も名乗りも必要ない。と、彼はにこにことした笑顔で3人とタクシーを捕まえて病院に向かった。本来なら潮江の車を使うところなのだが、彼は先日、車を爆破されていた。
    七松に至っては、この間ついに暴走が過ぎて事故ったらしい。ちなみに彼は無傷である。中在家も免許は持っているがペーパーであるし、立花は免許なんぞ持ってもいない。(彼はおぼっちゃんなので運転する必要がない)綾部が出来るわけがないし、食満は足のために車を売ってしまっていた。田村も免許を持っているが、都内に住んでいるので車を所持していない。揃いもそろって使えない面々である。
    病院についた一行は、待ち構えていた鉢屋と斎藤タカ丸と合流し、富松の病室に来ていた。
    いさ子の許可を取ってもらい、ICU治療室に入る。と、立花は思い立ち、食満を引っ張った。

    「留三郎、富松の傍についておけ」

    よく分からないが、異論はないので、食満は富松のベッドサイドについた。
    ヒーラーの青年は富松の姿に同情の目を向け、両手をかざすと、手が光り始め富松の火傷はみるみるうちに治ってしまった。
    目の前の奇跡に全員が唖然としていると、ヒーラーの青年は「ではお大事に」と一言、病室を出ていく。
    鉢屋が廊下を見ると、既にヒーラーの青年は姿を消していた。

    ガタ
    物音が一つした。
    今の奇跡に皆、気を抜かれていたが、ピクリと七松が反応した。それを見た立花がすぐに叫ぶ。

    「留三郎、富松を庇え」

    流石元SITなので、食満は声に反応して即座に富松を覆うように庇った。
    しん…と沈黙が広がる。

    「…気配、なくなった。」

    七松が言うと、ほうとため息をつき、立花はもういいと、食満に離れてもいいと指示した。
    どういうことか分からない食満は、不思議そうに立花を見る。

    「富松は色々と狙われているんだよ留三郎。すまんな、盾にした。」
    「いや、構わないが…そうか。やはりこの能力は狙われてしまうんだな。」

    すっかりと元の姿に戻った富松の頭を撫でながら、ぽつりと食満は呟いた。



    うまく使いましたね。と、病室を出た立花に浦風が言った。
    廊下に出ているのは鉢屋と立花と浦風である。

    「食満留三郎の特記事項を、うまく使った守り方でした。」
    「…。」
    「やはり、上に立って使う者は、少しばかり冷酷でなくては、ね?」

    立花も鉢屋も何も言わない。
    富松が治った瞬間、何者かが現れようとしていた。
    それは立花の想定内であった。が、あの人数の中で現れるとは思わなかったので、少しばかり焦った。
    富松を消したい組織があるのである。
    それほどまでに、あのペンダントには何かがあるのだった。
    だから立花は賭けにでた。
    浦風の言う通りであったなら、食満に手出しができないはずである。
    食満に手出しができない組織がくるか、ものともしない組織がくるか、それは賭けであった。
    立花は賭けの駒に、食満を使った。それは事実である。だが

    「冷酷でも…血が通っていないと、上に立っても孤独さ。」

    立花の台詞に、にこりとした顔のまま、浦風は首を傾げてみせた。



    それからすぐに目を覚ました富松は、いさ子に検査をしてもらい、大丈夫だと許可がでたので。
    彼にこれまでのことを説明し、早速ペンダントを…。

    「おい待て。どうやって発動するんだ?」

    潮江の台詞に、その場にいた全員があ。と口を開けた。

    「賭けにでますか。」

    綾部がベッドサイドでゴロゴロとしてたが、立ち上がった。

    「どうする気だ?」
    「食満先輩と富松くんは血が繋がった親族です。癖で発動しているのかどうかわかりませんが、食満先輩の癖と富松くんの癖は酷似している可能性があります。食満先輩の癖を見つければ、富松くんの癖を見つけられる可能性は高いです。」

    しかも二人は長年、一緒に暮らしていた。その可能性は十分高い。

    「俺に癖あるか?」
    「あるよ。ご飯食べるときに箸濡らすのとか、寝てるときに丸まって寝るのとか…。」
    「いさ子、多分それは違う…。」
    「富松くん、見える時に思い当たる事はありますか?」

    ううんと富松が唸る。

    「見えるとき…。そうですね、ちょっと焦ってる時とか、嫌な想像してるときとか…。」
    「…かぼちゃ、にんじん、じゃがいも、トマト」

    食満が突然、野菜の名前を呟いた。

    「…スーパーは3件隣だぞ。」
    「ちげぇよ!呪文だ!」

    不思議そうな顔をしてスーパーの場所を教える七松に、食満が吠える。

    「かぼちゃ、にんじん、じゃがいも、トマト!それかも!!」

    それは富松の亡くなった母が、妄想が強く、ネガティブな富松に教えた言葉である。
    他の人間は野菜だと思え。怖れる必要はない。
    それは食満の母も同じことを言っていたのだった。不安になったら唱える呪文。

    「かぼちゃ、にんじん、じゃがいも、トマト…」

    富松は唱えながら、ペンダントに触れた。が、何も見えない。

    「アレ、おかしいな…。」
    「違うのか。これだと思ったんだがな~。」

    と、ガッカリした時。


    「はいストップ」

    ビタっと二人が止まる。

    「その今の動きです。」
    綾部の声で皆が二人を見ると、彼らは同じ動きをしていた。

    右手でこめかみをわしゃわしゃと掻いている。
    その動きのまま富松が触れると、ビリッと電気が走ったようにビクンと震えた。

    「咲也!!」
    「…ううっ」

    富松が嘔吐する。が、先程までこん睡状態だったせいで、何も出ず、胃液を吐いた。

    「大丈夫か。」
    「すいませ…。男の人が、何か唱えながら首を掻っ切って…!!!」

    尾浜の最後の瞬間である。鉢屋とタカ丸が、顔を歪ませた。

    「何と言っていましたか?」

    浦風がにこにこと笑いながら聞いた。
    富松はガクガクと震えながら、必死で見たものを思い出す。どうやら彼は、音声までしっかり聞こえるらしい。

    「…新宿駅、326…!」


    ------------------------------------------------------------------------------

    警察病院に食満と富松を置き、一行は新宿駅に来ていた。
    念のため、田村も二人の護衛に置いてきた。…が、多分、食満さえ入れば手出しは出来ないだろう。
    時間は既に19時を回っている。駅はとんでもない人ごみでごった返している。
    富松の言った新宿駅、326とは、おおよその検討はついていた。
    コインロッカーの番号である。
    ただ、どこのコインロッカーの番号だかが分からない。仕方ないので虱潰しに探すしかなかった。
    手分けして探すことにしようとしたが、今この一行は3つの組織がいるのである。不破家と対策室は協力体制だが、浦風は敵対しているのである。それにもし、その326のコインロッカーが使われている場合、その扉を無理やり開けられるのは七松だけなのである。
    ぞろぞろと目立つ男たちがコインロッカーを探しているのは妙に怪しい光景であった。

    「何カ所あるんだよ一体…!」
    「ここで13カ所目ですね。」

    新宿駅、としか残さなかったため、近辺も含めてなのか分からない。近辺も含めると、コインロッカーはおおよそ44か所程ある。

    「ここで何か所目だ?」
    「22カ所目です。」

    うんざりしたように鉢屋が言う。ここにも空っぽであった。なんの仕掛けもない。(うち20か所ほど、使われていたので七松がこじ開けた。)
    潮江が振り返ると、七松と中在家が、綾部を覗いていた。綾部は自分の携帯を見ている。


    「どうした?」
    「見てください。」

    平 滝子から着信が来ていた。
    丁度ここは駅の南口あたりにいる。比較的、人は少なく喧騒も抑えられている。

    「…出てみなさい。」

    立花の言葉に、綾部は携帯を耳に当てる。

    『喜八子、久しぶり。』

    なんら変わらない、いつもの滝子の声である。

    『暫く会っていないが、ちゃんとご飯食べてる?この間の病院の時は、一緒にいれなくてごめんなさい。』
    「ううん…滝、またご飯作ってね。」

    彼女はいつも綾部の心配をしていた。
    そう、よく考えてみれば。わかったつもりで、彼女のことを分かってなどいなかったのだ。

    『…。喜八子、それはもう無理だろう。』

    不破家が集めた資料のように、彼女の上辺の情報だけを知って、分かったつもりでいたのだ。
    彼女が、何を考えていたかなんて、何を思っていたかなんて。
    彼女はいつも、自分のことを心配してくれていたのに。

    「綾部…。」

    無表情なはずの彼女の顔は今、置いて行かれた子供のようになっている。
    一呼吸置いて、閉じた目を開いた彼女の目は、しっかりと前を見つめていた。

    「たき、私今ちゃんとご飯食べてる。」
    『うん。』
    「仲間もいっぱいできたよ。」
    『うん。』
    「…もう、心配してくれなくても大丈夫。」
    『そうか。』

    これは。決別の言葉だ。

    『喜八子、そこに浦風がいるだろう。』

    綾部が浦風に目を向ける。
    浦風はにこりと微笑んだ。

    『その男、とてつもなく危険だ。気をつけなさい。今は仲間として動いているが、次に会うときは冷酷な敵になっているだろう。』
    滝子はどうやらこちらの情報を知っているらしい。隠そうともしない。
    『そいつのSPECは…ザザ…ザ…。』
    「…!たき!!」
    「駄目ですよズルしちゃあ。」

    浦風がにこにこと綾部を見ていた。

    「僕のSPECを教えてもらうなんて。まぁ今教えたようなものですけど。」
    「…電磁波を操るSPEC。」
    「あれ、もう分かってしまいましたか?早いなあ。」

    バレてしまっても、彼は焦るようでもない。嘘はついてはいないようだが、余裕ぶりが気になる。

    「まぁ、おかげで平 滝子の位置がわかりました。ここの京王プラザホテル44階です。後で会いに行きましょうね。」
    「何故そんな詳細に分かる。」
    「僕のSPECは、電磁波を操り感知する能力です。今の着信で電磁波の位置と僕の中にある地図を合わせて位置を割り出しました。」

    斎藤が浦風の髪を触った。一つ頷く。嘘は言ってないらしい。


    「…!これか?」

    鉢屋が28カ所目のコインロッカーを触ったとき、ロッカーの手前の方の天井に、何か貼り付けてあった。
    それは小さなmicroSDである。二つ、袋に入れて貼り付けてあった。

    「あった…。」

    鉢屋持ってきたノートPCに接続する。画面に、暗号処理された画面が広がった。
    約束なので、浦風にSDを渡す。浦風も、何か小さな機器にSDを差し込み、データを抜き取った。

    「これでこれは必要ありませんね。」

    浦風はSDをパキリと二つ折った。
    瞬間、浦風は叫ぶ。

    「かずま!!」

    すると何もない空間から突然、中学生くらいの少年が現れた。それはまるで空気に溶けていたかのように現れる。浦風の腕を掴む。

    「では皆さん、また会う日まで。」

    にっこりとした笑顔のまま、彼はかずまと呼ばれた少年と共に、空気に溶けていった。
    唖然とする一行をよそに、七松が叫んだ。


    「っ京王プラザホテルだ!!」

    弾かれたように綾部が振り返る。七松が駆け出そうとしていた所だった。その腕を掴む。

    「連れてってください!!!」

    頷いた七松は、恐るべき速さで駆け出した。

    「私達も行くぞ」

    立花の声に、他のメンバーも走り出す。足の速い鉢屋が、少し先を走って行った。
    走りながら潮江は、嫌な予感に顔を歪めていた。


    七松に必死にしがみ付いていたが、面倒になったのか、担がれた。
    更に速さを増していく。
    輝く街の明かりが、あまりの速さに線のように見えた。いっそ世界がスローモーショーンのように見える。
    これが、七松先輩の世界。
    だとしたら、ここは緩慢な地獄だ。
    外階段から、一気に44階まで駆け上がっていく。恐るべき体力である。
    ドアを蹴破って中へ侵入した。七松は少し目を瞑って黙り込む。音を聞いている。すぐにまた駆け出した。
    そこは中規模の宴会場だった。パーティでも行われる予定なのか、丸い宴会テーブルとイスがセットしてあり、一つ一つに花が活けてある。滝子の作品だろう。
    その大きな窓、夜景が見える窓の前に、滝子と浦風、多分先ほどかずまと呼ばれた少年が対峙していた。

    「滝!!!!!」

    綾部が叫んで近寄ろうとすると、目で制された。


    「うわー、早かったね。」

    にこにこと笑う浦風はこちらを確認して笑っている。部屋は暗い。夜景の光に照らされて、その笑顔は不気味に浮かんでいた。
    綾部の隣で、七松は不気味なくらいに静かに殺気を纏って浦風を睨み付けている。
    膠着状態のまま暫く時がたったが、ガタン!という音がして、後ろから鉢屋が肩で息をして入ってくる。
    彼は八家衆の筆頭当主である。役目は雷蔵の影武者。つまり千年、彼の家は忍として世に忍んできた。
    七松には及ばないが、彼の速さは今まで誰にも負けなかったのだ。

    「浦風…!平、滝子…」
    「ごきげんよう、鉢屋殿。」

    にこりと、妖艶な笑みを浮かべる。それはもう、綾部の知る滝子ではない。

    「これだけの数が居たって、私に勝てると思って?」
    「ふふ、別に後ろの人達は僕らとは関係ないんだけどね。」


    「滝…」

    綾部は拳銃を取り出し、滝子に向けた。

    「平、滝子…貴女を一条まさる殺害容疑で確保します…」

    拳銃の先が、震える。
    こんなこと今までなかった。
    心は決めたはずだった。

    「喜八子。」

    ふ、と滝子が笑った。その瞬間、手の中の拳銃が滝子の手に渡っていた。

    「!?」
    「どう、いうことだ?!」

    思わず鉢屋が口を開いたとき、滝子が嗤う。

    「どうもこうも。私と貴方たちは、生きる世界が違うのですよ。」
    「じゃあこれはどうかな。」

    浦風がポンと、小さな黒い箱を投げた。

    「そんなもの…」


    それは滝子の前でほんの一瞬震えたかと思うと。

    「きゃああああああああああああああああああああああああ」

    突然爆発し、電流が彼女を襲った。
    相当な電流だったようで、彼女の服は焦げていた。彼女がよろめく、倒れる…




    「たき」

    叫んだのは、綾部じゃなかった。
    喉に声が貼り付いて、目を見開くことしかできなかった綾部の後ろから、大きな影が動いた。
    彼女が倒れ込む前に、抱え込む。

    「滝しっかりしろ!滝」
    「こ、小平太さん…っ」

    滝子を抱え込んでいるのは七松だった。
    その表情は今までに見たことがないくらい、必死な表情である。

    「だから嫌だったんだ!なんで出てきた」
    「小平太さん、駄目ですよ…、これでは…」
    「もう知らんいい加減に我慢の限界だったんだ!」

    七松は滝子を抱え込み、浦風らを睨みつけた。

    「俺は俺のものに手出されるのは我慢できん」
    「いいんですか。貴方たち、裏切り者ですよ。どの世界からも。」

    にたり、と。七松が嗤う。
    あの昏い目だ。

    「滝がいれば、俺はどこだっていい。」

    七松の左腕が振りかぶり、窓を割った。
    甲高い音が響く。
    高層の、冷たく強い風が吹いた。
    七松は。
    平滝子を抱えて、窓から飛び降りてしまった。

    「まったく…。バカだなぁ。」

    去ってしまった彼らを見て。浦風は嗤っていた。そしてかずまに声を掛けると、空気に溶けていってしまう。
    後に残るのは、呆然と窓を見る、綾部と鉢屋だけである。
    立花達が現場にたどり着いたとき、既に何もかも終わっていたのだった。

    それから七松小平太は、平滝子と共に、忽然と姿を消してしまったのである。
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