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    seserinin

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    seserinin

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    昔自分だけが楽しむために書いてたSP○Cパロ。
    読む前にとっても注意が必要だよ。
    綾部と潮江が主人公なんだよ。田村が出てくる二話だよ。

    #NINSPEC

    NINSPEC2■注意

    潮江と綾部が仲間と一緒に事件に挑むSPECパロ忍たまだよ。
    SPECを見てもらってるほうが分かりやすいけど、設定と雰囲気だけお借りしてる感じだから設定知ってたらなんとか分かるんじゃないかな。
    元と同じく死ネタがガンガン入るよ。
    上級生をメインにしたらキャラが足りなくなって下級生が敵勢力にいがちだよ。嫌な人は避けてね。
    CPや女体化キャラ崩壊があるから何でもいい人向けだよ。
    言い回しとかおかしい設定とかはスルーしてくれると助かるよ。

    主なCP
    仙綾・文三木・こへ滝・留伊・タカくく・尾鉢尾・竹孫…






    2話


    何の因果か分からないが、元SITの警察官、潮江文次郎はおかしな人間の集う窓際部署に配属になってしまった。
    目の下に隈を作りつつ、資料を整理している彼の横で、ペロちゃんキャンディを舐めながら、何が楽しいのかジッとこちらを見ている女がいる。

    綾部喜八子。
    とんでもなく天才で現場検証とプロファイリングのプロだが、穴掘りが趣味で人の話を聞かない変人である。
    この度、潮江のバディとなったわけであるが、正直まったく掴めない。
    そしてそんな綾部の横で、同じようにペロちゃんキャンディを舐めつつ、こちらをじっと見ているガタイの良い男は七松小平太である。
    綾部と七松はその三白眼気味のギョロっとした目で、潮江を観察し続けているのである。



    この公安部公安5課未詳事件特殊対策室は、SPEC HOLDERと呼ばれる特異な能力を持つ人間が起こす事件を解決するため、潮江の幼馴染である立花仙蔵係長が立ち上げた部署である。
    涼しげな顔立ちをしているが、内実熱い正義感を持つ彼は、SPEC HOLDERに対抗するならばこちらもSPEC HOLDERを用意しようとばかりに、あれよと言う間にこの対策室にSPEC HOLDERを揃えてしまった。
    ちなみに集めた張本人である立花と、潮江はまったくの一般人である。
    潮江の横でペロちゃんキャンディを舐めている男、”暴君”七松と、反対のデスクで資料を眺め【保存】をかけている”沈黙の生き字引”中在家長次、そして潮江のバディである綾部はSPEC HOLDERだ。
    異常身体能力の七松。
    瞬間記憶能力の中在家。
    そして何故か能力を話したがらない綾部である。
    100万人に一人といわれるSPEC HOLDERが既にここに3人集結しているのである。
    おかしな部署になるのも無理はなかった。
    更に外部に、科学捜査研究所から対策室専門として食満留三郎という、元SITで潮江の元バディも所属している。彼とは顔を合わす度に喧嘩していたが、任務としてのバディは悪くなかった。むしろ阿吽の呼吸でミッションをこなし、ベストコンビだったのではないだろうか。
    だが彼とは”不可解な事象”によって解散することとなった。
    任務中に突然、食満は潮江に発砲したのである。
    食満には潮江が”突然敵に見え”こちらを攻撃してくるように見えたので、発砲したのだ。が、その弾は潮江ではなく”食満自身に返ってくる”という”不可解な事象”によって食満は瀕死の重傷によりSITを辞め、潮江も責任を問われて辞めた。
    幸い食満が命を取り留め、この不可解な事象を立花に訴えたことにより、潮江は懲戒免職を逃れ、この部署にやってきたわけだが、今でもあれがSPECによるものなのかわからない。

    また外部に、対策室と協力体制をとることになった不破家という陰陽師系列の家があるが、その当主である不破雷蔵ともまだ面会していないし、そのメッセンジャーである鉢屋三郎はちょくちょくとここにやってくるが、最初こそ事件になりそうなものを持ってきたものの、最近はお茶に来ているようなものである。中在家に記憶を引っ張りだしてもらったり、立花とこそこそと何か話している程度である。
    そう、前置きが長くなったが、この対策室は開室3週間目に入るが、舞い込んだ事件は2つ。解決事件は1つ。立派な窓際部署らしく、暇でしょうがないのである。



    はあぁぁと深いため息を一つついた。

    「お前ら…さっきからなんなんだ?うっとうしくてかなわん。」

    ついにギョロ目達の視線に耐えきれなくなった潮江は、書類から顔を上げ、原因達に目をむけた。
    暇でしょうがないらしい二人は、こちらに構って貰えたことに目を輝かせている。(一人は無表情に見えるが、いくらか嬉しそうだ)

    「文次郎はすごいな、凄い速さで手が動く!!」

    にこにこ笑うと七松が差しているのは多分、潮江が先ほどから使っていたそろばんの事だ。
    対策室の経費やら何やらを立花に命じられ、先程から書類とにらみ合っていたのだが、どうやら彼らはこのそろばんを見ていたらしい。
    無表情な綾部も、そのそろばんの珠が弾かれるのを興味深そうに見ていたようだ。

    「なんで計算機じゃないんだ?私そろばんなんてスケートにしたことしかない」
    「するな!!!珠が痛んで使えなくなるだろう!!!」

    なんでも何も、自分はそろばんの方が得意なのだ。
    そう、潮江はドがつくほどの機械音痴である。
    流石に銃火器は使えるのだが、あのコンピューター的なものには相性が悪いらしく、少し触っただけでエラー起こすは壊れるは。

    「ふぅん、じゃあパソコン使わないといけない文書とかどうしたんだ?」

    現代社会では既にパソコンは必須の道具である。手書き文書を作るわけにもいかない場合だって多い。そんな時には…

    「SITの時は留三郎の奴に作ってもらってた…。部隊が合う時は田村とか…」
    「たむら?」

    珍しく綾部が食いついた。知っているのだろうか。

    「あぁ、田村はな、俺と仙蔵の高校の時の後輩で、SITの時の後輩だ。」


    「そう、別名”鷹の目”だ。」

    突然入ってきた声は立花仙蔵、対策室の室長である。

    「可愛いやつだったよなぁ?文次郎の後をちょこちょこと着いて来て。SITで会った時も変わらずお前の後ろに控えてて、あの時は笑いをこらえるのがどんなに大変だったか…」
    「へー!可愛い子なんだ!!どんな子どんな子!?」

    べっちん!と派手な音がして七松が椅子から転がり落ちた。綾部が張り倒したようだ。
    七松が女好きなのは今に始まった話ではないが、綾部が嫉妬したわけではない。
    婚約者がいる上、綾部の友人、平滝子を興味を持っていたくせに、ころりと田村にも興味を示したのが気に入らなかったのだろう。
    なんだよー!と綾部に取りつく七松を、キイキイと引っ掻いている。
    七松と綾部はよくじゃれていて、仲がいい。俺よりよっぽどバディに向いているんじゃないかと潮江は思った。

    「こら七松、喜八子に傷を作るな。それにお前の自業自得だろう」
    「ちぇー仙蔵は綾部に甘いなぁ。」

    いつの間にか仙蔵の後ろに逃げた綾部を、恨みがましそうに見ている七松は、対策室の隅に置いてあるでかいソファにどかりと座った。
    その隣に、今までケンカしていた綾部がちょこんと座る。七松が懐からペロちゃんキャンディを出し綾部にやった。仲良しだな。お前ら本当は兄妹か何かじゃないのか。


    「話を戻そう。諸君、集まりたまえ。」

    立花がホワイトボードの前に立つ。事件が舞い込んだのか。

    「先日、政府高官が狙撃されるという事件が起こったのは耳に新しいと思う。」

    3日前、ある政府高官が外環を走行中、何者かに狙撃された。
    TVでも大きく取り出されていたので、ここにいる者も皆知ってるだろう。

    「えーそんなことあったの?」

    知らなかった。

    「七松…テレビを見なくともいい、ラジオやら新聞やらでも大きく騒いでいたろう…見なかったのか。」

    呆れたように潮江が言うと、七松はきょとんとした顔でこちらを見る。

    「だって三日前って私休みだったから、婚約者と山登りに行ってたし。テレビも新聞もあんまり見ないし。」

    何故山に登っている。何故捜査官のくせに新聞も読まない!
    が、こいつに何を言っても無駄だと、中在家に視線で諭される。
    七松についていける婚約者って…とゴリラのような女を想像しながら、ため息をついて前を向く。

    「七松は後で事件について確認しろ。いいか、その狙撃事件、我々も介入することとなった。」
    「またSPECが絡んでいやがるのか…。」
    「今回は少し勝手が違うがな。」

    立花はホワイトボードに詳細を書きだしつつ説明していく。このやり方は、高校時代の生徒会長として君臨していた彼の癖で、どうにも分かり易く説明するといったスタンスなのだらしい。

    「政府高官が狙撃されたポイントは外環高速のこのカーブだ。そしてこの地図を見ろ。」

    立花はテーブルに東京都の地図を広げる。ポイントに赤いペンで印をつけた。

    「被害者は一撃で後頭部を狙撃され死亡している。警視庁の調べでこのポイントから直線になぞったこのポイント、このビルの屋上から硝煙反応が出ている。このポイントから発砲したのは間違いない。」
    「すげー!結構距離あるぞこれ…えっとーーーー」
    「…約2000mだな。」

    中在家がすかさず距離を測る。

    「そう、2150mといった距離だ。」
    「そんな距離から狙撃できるもんなのか?あーだからSPEC?」
    「いや、SPECを使わずとも狙撃は可能だ。証拠に被害者の遺体から 12.7×99mm NATO弾が発見されている。」
    「NATO弾…。M82あたりか。」

    バレットM82はバレット・ファイアーアームズ社が開発、製造している大型狙撃銃である。

    「文次郎、お前はこの条件をクリアできる人間を知っているな?」

    M82の有効射程は1800mであり、最大射程は6800mである。有効射程というのは命中率が50%以上の距離のことで、最大射程は弾丸が届く最大距離のことである。

    「このカーブポイントに差し掛かると車は約1,5秒間狙撃ポイントから見て動かなくなる。2150mの狙撃距離をこなし、1.5秒間で射程を合わせ、我が国では採用されていないM82といった大型狙撃銃を扱えるのは、現時点この国でピックアップされるのは裏組織の殺し屋どもを含め3人だ。」

    潮江は手に汗がじんわりと出てくるのを感じていた。
    まさか。いや、でもきっとやれる。そう”彼女”なら―――…

    「そのうちの一人、SIT小隊長・田村三木が容疑者に上げられている。」

    立花が苦虫を噛み潰したような顔になっていた。




    -------------------------------------------------------------------------------


    田村三木といえば、警視庁内では一部に有名だ。
    通り名”鷹の目”。
    女ながらに銃火器に通じ、SITの一員として有能に働いている。
    アメリカ海軍シールズより訓練教官を迎えた際、その教官の銃撃の腕に惚れこみ、教官に従事してシールズまで訓練生として参加した経歴がある。
    その際、M82や、他の大型銃器を扱っている。
    まさかその経歴が、仇となってしまうことがあろうとは。

    同時に潮江と立花にとって、田村三木とは可愛い後輩である。
    自分の事に鈍い文次郎は、田村に後輩以外の気持ちも抱いているようだったが、仙蔵がいかにチャンスを作ってやっても、鈍い者同士、何の進展も無かった。同じく食満がSIT時代にチャンスを作ってやっても二人は清いまま、のほほんと先輩後輩のままだった。
    潮江と立花と田村は、高校時代に生徒会委員であった。
    生徒会長の立花を筆頭に、副会長の潮江と会計の田村、その時期の生徒会は随分とアグレッシブで、田村はよく二人についてきた。
    可愛い後輩である。
    クール見える立花は、内実、熱い男である。
    可愛い後輩が容疑をかけられているのである。動かないはずがない。

    「我々の目的は、この田村三木を警視庁よりも先に確保、保護することだ。」
    「警視庁よりも先に確保…?」
    「現在、田村は姿をくらましている。」
    「逃げちゃったってこと?」
    「田村はそんなことはせん!」

    思わず声を荒げた潮江に、七松は目を丸くしている。
    ついカッとなってしまった。

    「そんなのわかんないじゃん?容疑をかけられて動揺して逃げちゃったとか。まー本当にその田村がやったから逃げたのかもしれないし?」

    今度は潮江の方が目を丸くした。
    この七松という男、時たまこのような事を言う。
    普段は熱い、天真爛漫で人好きのする男なのだが、時たまこのような冷たいことを言うのだった。
    冷静、といえばそうなのかもしれないが、この男の、その目の奥が、何か分からない色をしている。

    「確かに田村の性格を考えれば、容疑をかけられたくらいで逃亡はおかしいと言えるだろう。が、やっていないという証拠はない。」
    「仙蔵!」
    「落ち着け文次郎。それを晴らしてやるのが我々の仕事だ。」

    ガタンと、重い扉が開く音がした。
    入ってきたのは白衣を引っかけた食満である。
    左足を引き摺りつつ、資料の束を持っている。

    「よう、今回の事件の被害者の遺体状況の資料を持って来た。」

    その資料を先に受け取ったのは、綾部だった。

    「綾部?」
    「…その田村三木。潮江先輩と立花先輩の大切な人ならば、私にも大切な人です。」
    「!!」
    「相棒の恋慕相手を、容疑者に断定させてしまうのはつまらないです。」


    ぶはっははははは
    と、七松が弾かれたように笑い出した。

    「そうだな!文次郎の片思い相手、いなくなっちゃ可哀相だもんな」
    「馬鹿者!!そんなもんではないわ」
    「そうだぞ、七松。片思いじゃないぞ、田村も結構…」
    「留三郎、それは伏せておけ。楽しみが減る。」
    「…もそ。」
    「お前ら…いいから話を戻せ」

    焦る潮江をからかうことに余念のない対策室のメンバーは、にたにたと気味の悪い笑みをしながらコイバナを始めるのだった。



    「では。」

    コホンと一つ咳払い。
    資料の束を持った綾部が、回転いすに座って資料を見ながらブツブツ言い始める。もちろん回転している。
    これが彼女のスタイルなのだと判ったが、正直不気味である。

    「資料の方は綾部に任せて、我々は田村の足取りを追おう。」

    立花の声で、メンバーはまた東京都の地図に目をむけた。

    「田村は練馬の警察関係の寮に住んでいる。田村の容疑がかかったのは今朝だ。が、田村の消息は昨夜から掴めていない。これは寮の管理人、監視カメラを確認しても、昨夜帰宅していないことがわかる。」
    「俺の方でも関係者への聞き込み資料を確認したが、一様に足取りが分からない。家宅捜索の結果も大した成果はでていない。が、自宅のPCに一つおかしなことがある。」
    「おかしなこと?」

    食満が対策室のPCの電源を入れた。

    「機械音痴の文次郎にはわからんだろうが、PCのデータがOSこそ残っているものの、初期化されていた。データを復帰させようとしてみたが、どうにも拾えない。それもそのはず、そのPCは使われていなかったみたいなんだ。」
    「使われていない?でも初期化されてたって言ったってことは、初期化したっていう痕があったんだろう。」
    「そうだ。”OSだけ入れて使っていないPC”をわざわざ初期化している。」
    「ははあ、成程。そのPC、買ったばかりの新品か。」
    「その通り、田村はつい前日に新しくPCを買い替えたようなんだ。領収書も押収している。つまり、OSだけ入れて、あとはまた次の日にでも弄ろうと思っていたのだろう、そして”本人は弄ることなく”田村は消えてしまった。」
    「…PCのデータが無いのは、証拠隠滅のためと資料にあるな。だが本来は本人は触っておらず、他の何者かが証拠を隠滅したってことか。」

    中在家が記憶を引出し、口を出す。
    PCに対しての知識がまったくない潮江は大人しくしていたが、何か言いたいことがあるらしく、スッっと手を挙げた。

    「はい、文次郎くん」
    「君はやめろ。…田村のPCが何たらってのはよく分からないが…その初期化したPCってのはここのみたいなデカい奴か?俺の記憶だと、あいつが持ってたのはノートPCだった気がするんだが…」

    しん…と部屋が静まりかえった。
    何かいらんこと言ったかと潮江が焦り始めたころ、立花が口を開く。

    「文次郎、さすが恋慕してるだけあるな…。食満、ノートPCは押収してあるのか。」
    「いやない。そうか、ノートPCにあるデータを消したいのか…!」
    「なあなあ、話の腰を折って悪いんだけどさぁ」

    七松が突然声を出す。

    「その田村が持ってるデータか何かが狙われてたのは判ったんだけど、さっき仙蔵が言ってさ、”警視庁よりも”って何?それって容疑がかかってるからとかじゃないよね?」

    七松の疑問に、立花と食満が動きを止めた。何か知ってるらしい。

    「おい、仙蔵、留三郎…!」
    「言おうと思っていたんだが、先を急いて説明を忘れた。すまん。…どうにも警視庁は田村を犯人にしたいようなのだ。」
    「田村を!?」
    「警視庁トップは未だSPECのことを認識しようとしていない。というか、どうにもSPEC HOLDERを消そうとするプランが持ち上がっている。社会的にも認めないといった方向に持っていきたがっている。」
    「…成程、先日【保存】した記憶の中のSPEC HOLDERの資料に、疑いあるものとして田村が上がっていた。彼女はSPEC HOLDERとして疑われているのだな。」
    「それだけじゃないよ中在家。彼女をSPEC HOLDERとして逮捕し、SPEC HOLDERを悪者として一斉検挙しようとするプランも上がっている。こちらの案は現実的ではないが、どちらにせよ、田村が警視庁刑事部の方に先に捕まってしまうと彼女の身も、お前たちSPEC HOLDERの身も危ない。化け物として扱いたいのだよ、あちらはね。」
    「まー化け物ってのも強ち間違ってはいないけどな。」

    いつの間にかソファに座っていた七松があくびをしながら言った。

    「…そう、卑下するものではないと私は思っているよ。」
    「へぇ?」

    まただ、あの昏い目だ。

    「喜八子と話したことがある。SPECの能力とは通常使う脳の10%の残り90%を使い、発揮する能力ではないかと言われている。それを使えない一般人はSPEC HOLDERを化け物といい、使えるSPEC HOLDERからすれば進化の成果だという。そんな主張があるのも事実だ。だがこの能力は想いのかたちだと思う。」
    「…。」
    「強い想いが脳を極限に刺激した時、その想いの成果がSPECとして現れるのではないだろうかと、私は思う。喜八子を見てると、特に思うよ。」
    「綾部の能力を知ってるのか?」
    「…知っている。が、彼女は能力を使おうとは思わんだろうな。」

    綾部は未だ資料を見ながらグルグルと回っている。こちらの会話は入っていないようだ。

    「…そんなもんかねぇ」

    はーっと息を吐きながら七松が呟く。彼が今までどんな人生を歩み、思ってきたかは知らないが、彼の能力を想うと確かに敬遠されて来たのだろう。

    「話を戻そう。件のノートPCを持った田村はどこへ行ったのか?田村のデータを狙っているのは何者なのか?被害者を狙撃したの田村なのか?それらを解決せねば、この案件、何もわかるまい。」
    「糸口ならこれで分かるかもしれません。」

    綾部へ視線が集まった。

    「食満先輩。狙撃に使われた銃弾を持ってきていますか?」
    「おう。これだ」

    袋に入った銃弾を見る。乾いた血液が少しまだこびりついている。
    椅子から降りた綾部は、銃弾を受け取り、掲げながら資料を机に置いた。

    「立花先輩から概要を聞いたときから思っておりましたが、おかしいと思いませんか潮江先輩。」
    「?何がだ」
    「だって、この銃弾、遺体の”中から”発見されたんですよ?」
    「!!」
    「そうか…」

    綾部の言葉に食満と潮江は同時に気付いたようだ。

    「どういうことだ?」
    「この距離で撃たれたこの12.7×99mm NATO弾。しかもM82と想定されたものだ。威力は人間の身体を一撃で仕留めるものだぞ。それが中から発見されるのはおかしい。突き抜けて転がっているのを発見されるのならともかく、資料によれば、頭の中で止まっているとある。」
    「そうです。これ、よく見てください。確かに薬莢を叩かれたあとがありますが、多分狙撃現場で叩いて硝煙反応をだし、頭の中で残すようにうまく狙撃したのです。流石にそこまでの技術は、この田村三木にあると思えません。というか無理です。」
    「偶然…というにもおかしいか。」
    「おかしいですね。確率は低いでしょう。では何のために頭の中に残したのか。メッセージではないでしょうか。」
    「メッセージか。…頭の中に弾を残す…。どういうことだ。」
    「食満先輩、この弾丸の資料はありませんでしたが?」
    「あぁ、とりあえず遺体資料だけ掴んできた。その弾丸、検分はしたが、薬莢やら火薬やらの成分や分析はまだなんだ。」

    綾部は弾丸を持って七松の前に行った。

    「七松先輩、これ開けてください。」
    「おう!」

    皆が待て!という暇もないうちに、袋の上から七松が握ると、いとも簡単に弾丸が割れた。恐るべき馬鹿力である。

    「ああぁまだ分析してねぇのに」

    悲鳴を上げる食満をよそに綾部は弾丸を見る。中から紙が出てきていた。

    「メッセージは、シンプルに伝えたかったみたいですよ。お手紙です。」


    -------------------------------------------------------------------------


    対策室のメンバーは港区の倉庫街に来ていた。
    今日は全員、拳銃を所持している。
    食満は足が不自由なので、置いてきたが、彼には情報を集めてもらっていた。


    弾丸の中にあった紙は、丸めて入っていた。
    書かれているのは数字の羅列である。所々コンマがうってある。

    「なんだこりゃ?」
    「…緯度と経度ではないでしょうか」

    綾部のいう様にPCにうちこんでみると、港区のある倉庫を指していた。

    「ここに何かあるんだろうか。」
    「行ってみないと分からない!細かいことは気にするな!」
    「待て待てちょっとは気にしろ」

    潮江が七松の首根っこを摑まえる。ぐえっと何か潰れた声がした。

    「突入して罠だったらどうする!」
    「大丈夫だよ。私が先鋒で突入すればいい。何かあれば匂いか音で分かるし、普通の人間より早く走れるし、銃弾だって避けれるよ。まぁ万が一刺されたりしても、私なら死にはしないし。」
    「…。」
    SPECって便利かもしれない。


    「…一つ気になっていることがある。」

    中在家が立花に手をだした。立花は察して懐からペロちゃんキャンディを取り出して渡す。

    「私の記憶の中に、この被害者である政府高官の資料がある。」

    飴を舐めつつ、記憶を【引出】する。

    「この高官、ある集まりのメンバーだ。警視庁トップ達と繋がりがある。」
    「なんだと…。そうか中在家、それは東大ヨットクラブだな?」
    「なにそれ?」
    「警視庁の中の東大出身者のヨットクラブだ。警視庁のみならず、政府にもメンバーがいる。名前こそただのスポーツサークルのようだが、実際に集まって話しているのは、えげつない裏取引って話さ。この国を裏で糸引く者たちのな。」

    立花は椅子に座り、ひとつ息をついた。

    「東大ヨットクラブは、反SPEC派でな。これで狙撃理由がわかった。これは警告だ。」
    「警告?」
    「トップ達が進行している反SPECのプランがあると、さっき話したろう?それはSPECを保護、利用したいと考えている公安とは違う、刑事部のトップのプランだ。このプランがどこかで流出し、SPEC HOLDER達に知れることになった。彼らはプランを止めるため、警告してきたんだろうな。宣戦布告だろうか。」
    「なら、なおの事この倉庫に行くのは罠ではないのか?」
    「ですが行かなくては、何も分かりません。」

    綾部がコートをひっかけながらこちらを見ていた。

    「びびんなよ文次郎!大丈夫私が先に行ってやるから!」
    「びびっとらんわ!!!」

    倉庫に行くまでに、七松と潮江が煩かったのは言うまでもない。



    「相手はSPEC HOLDERと断定してもいいだろう。状況的に。さてと突入前に七松。何か変わったことはあるか」

    七松が関節をゴキゴキと鳴らすと、倉庫をじっと見つめた。

    「…血の匂いがする。あと微かに銃声が聞こえるなぁ。サイレンサーでも使ってるのかな。すごく微かだ。」
    「…!もう始まっているということか…!?」
    「さて、刑事部でしょうか、田村でしょうか」

    倉庫の扉前までくると、何か話す声が聞こえる。扉前を確認し、中へと侵入した。段ボールの詰まれた倉庫である。中身は缶詰のようだ。
    先鋒を七松と潮江が動く、その後ろを綾部と立花が付いていき、後方を中在家が見ていた。

    「血の匂いと声が近くなってきた。なんだろうな、この音?サイレンサーとぶつけるみたいな音。」

    七松の疑問はすぐに晴れた。もう一区間進んだ所で、それは繰り広げられていた。


    「虎若!!やめろ、もう…!そんなことしたって、そんな方法では変わらない」
    「先輩は僕らを化け物扱いして殺そうとしている奴らを、そのままにしておけって言うんですか!」
    「違う!違うんだよ…!これじゃああいつらと一緒になっちまうじゃないか…!」

    倉庫の奥、2階の段差になっている部分にに堂々と佇むのは、バットを持った青年だった。少し見ただけで分かる。鍛え上げられた身体は、一般人のそれではない。
    その青年との間に、段ボールが積みあがっている山が二つほどあり、その陰に身を隠した女性が拳銃を手に、説得を続けていた。
    その足からは血が流れており、何発か喰らっているらしい。

    「田村…!」
    「!?しお、え先輩!?」

    驚愕に見開かれた目は、少し赤みがかった赤茶の色を宿していた。
    薄い色素の髪は後ろに束ねており、細腕ながらしっかりとした筋肉が付いている。吊り上った釣り目の縁には、応援が来たことよりも、信頼する先輩が来たことの安堵で、仄かに濡れていた。

    「どうしたんだ…と聞きたい所だが…!まずはあいつを確保する!七松!」
    「応!」

    七松が青年へと駆け出していく。そこへ田村が叫んだ。

    「ダメです!待って!」
    「大丈夫だ。べつに射殺するわけじゃ…」
    「そうじゃない!虎若の弾は”絶対に当たる”んです!!!!!!」

    七松が床を蹴って一足飛びに
    虎若と言われた青年の場所まで飛ぶ。が、青年は左手に持っていた弾を放り、バットで叩いた。

    「うらぁ」
    「そんなもん当たるか!」

    ひらりと交わした七松は、近くの壁を蹴り、2階まで駆け上がった。が、


    「僕の弾は絶対に当たります」

    交わしたはずの弾丸は軌道を急激に曲げ、七松の足と背中に当たった。七松の身体がぐらりと傾き、床に叩きつけられるように落ちる。

    「七松!!」
    「あれが、虎若のSPEC、絶対に的に当てる能力です。」

    あのバットで打ち出したものは、全て虎若の意のままに動くらしい。

    「厄介ですね。」

    にゅっと潮江と田村の間に入ってきたのは綾部だ。

    「初めまして田村三木。私は綾部喜八子。潮江先輩のバディです。ですが、よろしくするのは後にしよう。」

    言いたいことを言って、綾部は田村の足を止血した。

    「あ、ありがとう…」
    「どういたしまして。田村三木、貴女は虎若の能力について知ってるんだね。」
    「あぁ、虎若は私がシールズに行った時に同行していた訓練生で、後輩なんだ。虎若はシールズに残り、私はSITに帰ってきたが、その間に彼はSPECに目覚めていたらしい。虎若は私の銃の腕をSPECだと思い、自分の組織にスカウトしに来たが断った。するとその翌日、政府高官が狙撃された。私はその後、虎若を追ったが、何故か警察にも追われるし…」
    「その事については後で話そう、今はあいつを確保する事に専念しろ。」
    「立花先輩…!」

    落ちた七松は頭を打ったらしく、床で伸びている。背中と足を撃たれたせいで、血だまりができようとしていた。

    「おい!あれはやばいだろ!」

    飛び出して行こうとした潮江を、中在家が捕まえた。

    「…大丈夫だ。もうすぐ切れる。」
    「切れる?」

    「警察の応援が来たか…。政府の狗どもめ…!あのプランは非人道的でエゴにまみれた物だって田村先輩だって分かるじゃないか。僕たちのほうが進化している人間なんだよ。旧型の古い狸たちは狩るべきなんだ。」

    彼、佐武虎若もSITに所属し、同じく政府の狗であった人間である。田村と同じく教官に憧れ従事し、アメリカに渡りそこで友人を作り、シールズに留まった。だがそこで彼は友人を戦場で亡くし、代わりにSPECを手に入れた。SPEC HOLDERが集まっている団体にスカウトされ、そこでSPEC HOLDERを化け物扱いし、抹殺しようとしている権力者たちを目の当たりにした。世界はいつだって、平等にはなってくれない。
    虎若はバットを振りかぶり、弾を放る。

    「さよなら田村先輩。道は分かれた。僕は能力もないのに、そこまでの力を持った貴女を尊敬します。」




    「ああああああああああああああああああちっくしょおおおおいてぇええええええ!!!!!!」

    虎若がバットを振り切ろうとした瞬間、足元で伸びていた七松がカッと目を見開き、がばっと飛び起きた。
    大音量の声にびくついた虎若は、弾を落す。急いで新しい弾を投げる前に、七松が壁を駆け上がり目の前に迫っていた。

    「撃つ前なら当たらないだろ」

    目にもとまらぬ速さでやってきた七松に、とび蹴りを食らって虎若は壁に打ち付けられた。目がくらむ。バットを取らなきゃ、どこに飛んだ。
    床を這った手は、七松に捉えられ、拘束された。

    「ぐ…っ!あ、んだって、SPEC HOLDERだろ」
    「だからどうした。」
    「どうして自分たちを消そうとする組織に、旧型のやつらに従うんだ!」
    「私は従った覚えはないけど。消されるつもりもないし。」
    「虎若!」

    拘束された虎若の元に、足を引き摺り、潮江と綾部に抱えられた田村がやってきた。

    「バカ者!お前、お前…!」
    「田村先輩…。ごめんなさい。先輩はずっと僕の心配をしてくれたのに…。でも僕はやらなくちゃいけなかったんだ。」
    「虎若…。バカ者、今からだって遅くない。」
    「先輩は…優しいですね。でもすいません、僕は失敗した。次はありません。」
    「虎若…?」
    「潮江隊長、僕は一度あなたと仕事することを憧れてSITに入りました。結局叶いませんでしたが、田村先輩を宜しくお願いします。」
    「何を…」
    「潮江隊長、食満小隊長を撃ったのは…」

    パン!と軽い音がした。
    虎若の額を銃弾が貫通していた。佐竹虎若は、事切れていた。

    「と、虎若…」

    潮江達が振り返ると、倉庫の自分たちが居る場所とは反対方向の窓に、何者かが座っていた。
    銃を持っている。

    「駄目だよ虎若。勝手に教えちゃ。困っちゃうよ、ねぇ?」
    「何者だ…!」

    しかしその姿は掻き消えてしまった。後には自分たちと、ガランとした倉庫が広がるだけである。
    だが綾部には、その声に、聞き覚えがあるような気がしていた。


    -----------------------------------------------------------------------


    その後、佐武虎若の犯行として、この事件は閉幕を遂げた。
    田村三木は事件の関与を問われたが、立花の立ち回りにより、なんとか容疑を否認することができた。
    しかし、命令違反、拳銃の私的持ち出し等、色々とやらかしてしまっているので、SITに戻ることができなくなってしまった。
    ので。

    「綾部!ここで食い散らかすな!あぁ、もう!ほら、これで手を拭け!」
    「お~良かったな文次郎。」

    対策室に入ってきた食満に肩叩かれた潮江は、お菓子を食い散らかす綾部を叱る田村を見て、自分の肩の荷が少し軽減された気がした。

    「まったくだ…。これで綾部をあやして貰ってるうちに書類整理ができる。」
    「そうじゃねぇよ。なぁ?」
    「なぁ?」

    食満と立花は、顔を見合わせてニタニタと笑っている。

    「なんだお前ら…」
    「別に~?」
    「別に~?」

    声を合わせる二人に、イラだっていたら、中在家に肩を叩かれる。

    「…ファイト」
    「!!」

    ぶあはっはっはっはっはと糸の切れたように笑う二人に、潮江が今度こそ切れていた。
    それを不思議そうに見る田村と、満足そうな綾部がこちらを見ている。


    「そうだ食満先輩。七松さんはどうでした?」

    七松はあの後、背中と足に弾を食らっていたが、驚異的な筋力で弾を内蔵まで行かせず、血は出ているものの、そこまで酷い傷にはならなかった。彼は平気だ!と暴れたが、念のため警察病院に放り込まれたのだった。

    「あいつは元気だよぴんぴんしてやがる。」
    「良かった…改めて、ご挨拶しないと。」
    「放っておけ田村。どうせすぐに退院してくる。それにあまり七松のことばかり気にすると、文次郎が妬くぞ。」
    「だ、誰が!!!!!」
    「おや、妬かないのか。興味ないってことなのか?」

    ニタニタと笑う立花を苛つきつつも振り切り、食満に怒鳴る。

    「それで!!お前が調べてたほうはどうなった!!!」
    「俺に当たるんじゃねーよ…やっぱり田村のPCを初期化したり、追いかけたりしていたのは刑事部トップだな。PCを初期化したのは田村が証拠隠滅を図って逃走ってのを演出したかったようだ。ノートPCのほうを狙って~だと思ったが、それは杞憂だったみたいだ。」
    「そうですか…」

    田村は立花にチラリと目配せをした。立花はそれを受け取り、何事もなかったように食満に向き直る。

    「今回で警察組織の中でもSPEC HOLDERを巡って二分化していることがわかったな。この部署はそれでなくとも危うい立場の部署だ。これからは更に身辺に注意するように。」

    きっとこれから、もっとSPEC HOLDERはやってくる。更なるウネリが近づいている。
    綾部は田村に髪を結って貰いながら、あの声は誰だったのだろうと、記憶にかかる霧をみつめていた。


    「もうすぐ会えるよ、姉さん。」
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