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    seserinin

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    seserinin

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    昔自分だけが楽しむために書いてたSP○Cパロ。
    読む前にとっても注意が必要だよ。
    綾部と潮江が主人公なんだよ。タカ丸さんが出てくる5話だよ。

    #NINSPEC

    NINSPEC5■注意

    潮江と綾部が仲間と一緒に事件に挑むSPECパロ忍たまだよ。
    SPECを見てもらってるほうが分かりやすいけど、設定と雰囲気だけお借りしてる感じだから設定知ってたらなんとか分かるんじゃないかな。
    元と同じく死ネタがガンガン入るよ。
    上級生をメインにしたらキャラが足りなくなって下級生が敵勢力にいがちだよ。嫌な人は避けてね。
    CPや女体化キャラ崩壊があるから何でもいい人向けだよ。
    言い回しとかおかしい設定とかはスルーしてくれると助かるよ。
    あとこの話メリバっぽいよ。

    主なCP
    仙綾・文三木・こへ滝・留伊・タカくく・尾鉢尾・竹孫…





    5話


    田村三木は、警察病院の廊下にて、浦風と名乗る謎の少年と対峙していた。
    彼は自分を対策室に連れて行けという。それはどう考えても、自分たちと対峙しているグループの人間であろう浦風にとって、不利な状況になろうものだ。
    どうしたものか、考えあぐねていると、携帯がなった。

    「病院では携帯の電源は切るものですよ。でも丁度いいや、僕のこと話してください。」

    田村は浦風にナイフを突きつけたまま、携帯を耳に当てた。

    『田村、こちらの方針が決まった。対策室に帰還しろ。』
    「立花先輩…今、富松の病室前に浦風という男が、対策室に連れて行けと言っています。」



    「浦風という男…?!」

    対策室では、病院での予想外の展開にざわついていた。
    鉢屋が携帯を取り出し、どこかに掛ける。

    「おいハチ、緊急だ。早く病院に…そうか、分かった伝える。」

    携帯を切った鉢屋は立花に向き直った。

    「立花さん、田村にそこにうちの者が行くまで動くなと伝えてくれ。金髪で猫目の派手な男だ。すぐにわかる。」
    「分かった。田村聞こえたか。」
    『承知。』
    「それから、その浦風という男、ここに連れてきてくれ。」

    立花が目で良いのかと尋ねる。鉢屋は静かにうなずいた。
    立花は田村に指示し、携帯を切る。

    「浦風という男を知っているな。」
    「知ってるも何も、うちの3人を始末したグループのリーダーですよ。」
    「!!」

    浦風。名は知れていない。彼はSPEC HOLDERの組織の派閥グループの一つを任されているリーダーである。
    先だっての、佐武虎若。今回の鹿浜健二。どちらも彼のグループの人間である。

    「この資料か。」

    中在家が受け取ったSPEC HOLDER組織の資料に、浦風がいた。
    彼のSPECについて、記載はない。
    ただ本当に、富松咲也と同じ中学の同級生のようだ。中学では、浦風九郎と名乗っているようだ。

    「田村と入れ替わりで富松の警護にあたるのは狗の竹谷が行くはずだったんですが、急遽”鷹”が空いたのでそちらをつかせます。その際に彼を確認させて、到着より前に連絡をもらいます。」
    「知らぬ名が出たな?」
    「斎藤タカ丸。と言ったら分かる人は分かるでしょう。彼は青山の人気美容師です。ま、正体は不破一党の久々知の家の分家、斉藤家の跡継ぎです。彼も偵察、調査担当の人間ですが、別件に当たらせていました。」
    「別件?」
    「それは今言ってしまうと、混乱しますから後にしましょう。」

    鉢屋は中在家が保存し終わった灰皿で燃やす。

    「良いのか?」
    「これはこちらにもバックアップがあります。持ってきたのは中在家さんに保存させるためだ。それに浦風が来るならなおの事処分した方がいいでしょう。」


    鉢屋と立花で、方針が決まっていくなか、綾部はソファで暇そうに転がっていた。
    その目の前には、明らかに不機嫌そうな七松がいる。

    「機嫌悪いですね。」
    「だって敵が乗り込んでくるわけだろう?」

    七松は自分のテリトリーによそ者が入るのを嫌う。少し付き合うと分かるが、この男は人好きするように見えて、その実変な所で神経質であった。気に入らない人間に、一切媚びは売らない。

    「食満先輩も、富松くんの傍にいないのですか。」

    いきなり声をかけられた食満は驚いた顔をしたが、すぐに渋い顔になった。

    「俺が今、あいつの傍に居たところで、この足じゃあ守ってやれん。盾くらいだ。俺だって一応不破一党は信用しているし、今はまだいさ子が付いている。…すまん、嘘だ。俺は気になることがあってここに残ってる。」
    「気になること?」

    綾部の向かいのソファに座っていた七松は、食満の方に身体を向けた。

    「お前たちが海浜公園で狙われたと連絡があった時、俺は仙蔵に指示されてこの部屋の盗聴器の可能性を探った。結果、無かったわけだが、それを探しているうちに、俺は前から咲也に”能力のことを相談”されていたような気がしたんだ。」
    「…。記憶を思い出したということです?」
    「いや、咲也も病院でいさ子に話したのが最初だと言っていた。だから俺の記憶違いなんだろう。あともう一つ、俺はたぶん浦風を知っている。」
    「知っている?確かに彼は富松くんの同級生のようですから…」
    「いやそうじゃなくて、あいつのもっと小さい頃だ…。そう、もっと小さくて…そうだ、”お前”、お前も…」

    食満は酷く混乱しながら、綾部を見た。その目は瞳孔が開いており、小刻みに揺れている。そしてそのまま意識を失った。


    「おい!留三郎!!」

    七松が頭を打つ前に掴まえ、ソファに寝かせる。何かひどく混乱し、頭を使ったようだ。

    「どうした!?」

    奥で話会っていた潮江達もやってきた。綾部は簡単に説明すると、状況を整理する。

    「私は海浜公園で潮江先輩にも言いましたが、食満先輩には不可解な点が何点かあります。今はそれどころではないので、深く掘り下げるのは後にして、この今の食満先輩の症状は、脳に負荷がかかったために、気を失ったのでしょう。食満先輩、”何かを操作”されているようです。」
    「…っ次から次へと今日はどうなってんだ」

    潮江は頭をガリガリと掻いた。
    富松に浦風、次は食満の問題だ。
    ピリリリリリリリと甲高い音が鳴った。
    鉢屋が携帯を取る。スピーカーにして、皆に聞こえるようにした。

    「どうでしたタカ丸さん。」
    『本物だと思う。僕は少し話しただけだけど、資料とピッタリ合った。あとこれは向こうから言ってきたことだけど、彼に取引を持ちかけられた。』
    「取引…?」
    『どうやら彼らの今のターゲットは、僕が調査してたものと被ってるみたいだね。』



    遡って数分前。
    田村は浦風を警戒したまま、病室前にいた。
    流石に他の患者に見られてはまずいので、ナイフは仕舞ったが、ぎらりとした目を浦風から離すことはなかった。

    「そんな怖い顔しないでください。美人が台無しですよ。」
    「…。」
    「つれないなあ」

    その猫のような笑い方が、田村にはどうにも。

    「君が田村くん?」

    そこに立っていたのは、金髪の頭にアシンメトリーの前髪。口角の上がった口元に、柔らかい表情の、なんとも派手な男だった。
    先日会った平滝子も派手だったが、彼も負けず派手だ。

    「連絡きたよね?僕は斉藤タカ丸。君に変わってここを受け持つよ。」
    「安心してくれ。一人でその浦風を連れて行かせはしない。」

    タカ丸の後ろの暗闇から現れたのは、あの不破の館で会った竹谷だ。夜なのにグラサンをかけている。
    彼の目を配慮してのことだろう。

    「あれ、もう来たのぉ?相変わらず痛んだ髪だね。」
    「勝手に痛むんです。また切ってください。」
    「いいけど、また手入れの手順みっちり教え込んでやるからね。」

    あの館で会った時は、もっと緊張感のあった雰囲気だったが、今の二人は和やかな雰囲気だ。きっとこれが本来なのだろう。
    だが、田村の後ろでにこにこしている浦風に対しては警戒しているらしく。田村にはビシビシと二人の殺気を感じていた。
    無理もない。浦風は彼らの家族とも言える仲間を始末している。

    「竹谷くん、いつもの兵助様と孫兵くんは連れてこなかったの?」
    「雷蔵に付けています。それにあの人見知り達は浦風を見たら飛びかかるでしょう。」
    「そうだねぇ。あの子達は理性が緩いものねぇ。」

    浦風が田村の後ろにいるせいで、田村は二人の視線を浴びてしまう。
    彼らは、浦風を許したわけでもない。今必死に飛び掛かりたいのを押さえているのだ。

    「ではお迎えも来たことですし、行きましょうか。」

    浦風はまったく気にしていない感じで、にこにこした表情のまま、立ち上がった。

    「そうだ僕ら、貴方たちとも取引したいんです。」
    「取引?」


    怪訝な顔をした二人がこちらを見る。

    「はい。斉藤さん、あなたが追ってる人、僕も追ってるんですよ。」
    「…。」
    「情報を交換しませんか?」
    「交換?」
    「僕はあの人を捕まえたいんだけど、中々足が速くて。斎藤さんも寸での所で逃げられているでしょう?」

    あの人とは、誰のことだろう。と田村が目を向けると、彼はにこりとこちらに笑いかけた。

    「大丈夫、これは対策室の方々にも話そうと思っていることだから。」
    「なら、対策室に僕らの筆頭である、鉢屋がいる。そっちに交渉してくれないかな。僕は駒だから、勝手な判断はできないね。」
    「いいなぁ。僕の部下にも、貴方たちくらい従順だといいんですけどね。」

    じゃあ、行きましょうか。と浦風は歩き出してしまった。
    その後ろを慌てて田村が追う。

    「斎藤さん、よろしくお願いします。」
    「うん、気を付けて。竹谷君、ちゃんと送るんだよ。」
    「分かってます。」

    病院の玄関についた竹谷は、おもむろに手を挙げ、タクシーを拾った。

    「…タクシー?」
    「ん?早く乗れ。どうした?」

    流石に浦風もビックリしたみたようで、田村の隣で目を丸くしている。

    「だって俺、ほら。目見えないもん。運転できるわけねぇだろ。」

    そんなわけで、田村は。
    浦風といるせいであまり機嫌の宜しくない竹谷と、爆笑する浦風に挟まれて対策室まで帰ってきたのだった。


    ---------------------------------------------------------------

    対策室で浦風と田村と竹谷を出迎えた面々は、それぞれの想いを抱きつつ対面した。
    彼は本当に一人で乗り込んできたのだ。

    「はじめまして。浦風です。」

    にこり笑う姿はただの好青年である。
    確かに見た目は中学生、富松と変わらないように見えるが、彼は資料によれば18歳である。
    そこに突っ込みを入れれば、年齢を誤魔化して中学生になっているだけです。と事も無げに答えた。

    「ここまで乗り込んでくるなんて大した度胸だ。」

    浦風をソファに座らせた立花は、その対面に座った。

    「して、この対策室まで乗り込んでくるとは、よほどの話があるのだろうな?」
    「はい。僕たちは取引がしたいんです。」

    潮江はソファの横に立ち、綾部にくっつかれていた。
    綾部はギョロリとした目で浦風をまじまじと観察している。隣には機嫌を底辺まで落とした七松がいた。その七松を、中在家が抑えている。
    なんでお前ら俺を挟むんだ。
    気を失ってしまった食満は、隅に転がしておいた。
    鉢屋と竹谷は、対策室メンバーの取り巻きから一歩置いて話を聞いている。

    「まずは先ほどの富松くんのことですが、うちの部下がすいませんでした。あれは僕の本意ではありません。」

    ぺこりと浦風は頭を下げる。

    「ですがご安心ください。鹿浜健二は始末しました。」
    「!!」

    にこり笑う浦風に、罪の意識はまったくない。


    「てめぇの仲間じゃねぇのか…!」

    誰よりも声を上げたのは、七松だった。
    不機嫌をそのまま体現したような低い声に、後ろで聞いていた田村はビクリと身体を震わせる。

    「仲間でしたよ。でも彼は別組織にスパイとして送られてきたSPEC HOLDERでした。当初は僕達を調べる目的だったようですが、途中で命令が出て、富松くんを始末する方向に行ったようです。そんな裏切り者ですよ?七松さん」
    「…。」

    にこっと笑った浦風は七松を見る。が、目が笑っていない。

    「別組織と言ったな。何故富松は狙われている?」
    「それを言うのはまた僕の立場が危ういので伏せますけど、まぁ富松くんに見られては困るものがあったのでしょう。特にその、尾浜さんのペンダントトップ。」
    「!!」
    「僕はそれを、富松君に見てほしいのです。」
    「これは…お前たちが尾浜を殺す時に、尾浜が何かを残して自分に隠したものだ。お前たちの情報が知れるんじゃないのか。」

    苦しげな顔で浦風に問う鉢屋を、竹谷が制している。

    「あぁ、そう考えておいでですか。違いますよ。それは”鍵”のはずです。」
    「鍵?」
    「尾浜さんは僕たちのグループに、メンバーとして乗り込んでいました。そして彼はある任務に当たり、その調査結果をどこかに隠し、不破家に先に報告しようとしていました。もちろん僕達も知りたい情報です。お願いしましたけど、教えてくれませんでした。で、うちのメンバーに頼んでおいたのですが、彼女はちょっと拷問好きでして。やり過ぎて尾浜さんを殺しかけてしまいました。なので尾浜さんは死ぬ前にそのペンダントに何か思念を込め、自ら命を絶ちました。僕らはうっかりそのペンダントのこと確認せずに埋めてしまったので、後になってそのペンダントの存在が科研にあると聞いて、奪いに行ったのですが…」

    淡々と話される言葉に鉢屋と竹谷は呆然としていた。
    自分たちの親友の尾浜は、浦風たちのことではなく、別のことを伝えたくてペンダントを残した。そして自害した。

    「綾部。」
    「今のところ、嘘は言ってないでしょう。」

    綾部はずっと浦風を観察している。浦風はにこりと綾部に笑いかけたが、綾部は微動だにせず、潮江の後ろにくっついていた。

    「そのペンダントトップ、”食満留三郎”が持っていたので、奪えませんでした。」

    予想外の名前が出てきて、一同は驚く。食満本人はまだ、隅でひっくり返っている。

    「何故、食満が出てくる?」
    「僕達は食満さんに手が出せません。出すと後々面倒な所を敵に回すことになるからです。」
    「面倒な所…?」
    「はい。詳しくは言えません。でも言えるのはとっても面倒なものに愛されているのです。”お気に入り”なのですよ。可哀相に。富松くんも同じです。とても色んな所が欲しがっていますが、とても色んな所から疎まれています。」

    つくづく巻き込まれ不運な家系なのだろうか。二人は愛され、疎まれている。

    「そこで僕らは、不破家と取引がしたい。」

    ぱんと手を叩いて、浦風は鉢屋に目を向けた。

    「僕らも尾浜さんの情報が欲しい。貴方方も欲しい。対策室は富松くんを治したい。損益が同じところにあるのです。ちょっと協力する代わりに、情報を共有したいんです。」
    「協力だと?」
    「はい。僕はヒーラーのバックについている組織と交渉ができます。」
    「!!」
    「ヒーラーは捕まえても、自在に力を行使できるわけではありません。彼はバックにある組織に自分を守ってもらう代わりに、力を行使する場面を制限する契約を交わしています。なので、僕らが組織と交渉し、富松くんを治してもらう約束をとりつけます。そして不破雷蔵に出現位置を占ってもらい、それを対策室が確保する。これでどうでしょう。」

    にこにこと提案する浦風に対し、一同は静まり返った。
    彼の提示する条件は、とても魅力的だ。が、感情が納得できなかった。彼は犯罪者である。

    「いいと思います。」

    静まり返った部屋に響いたのは、綾部の声だった。
    合い変わらず潮江の後ろにくっついたままだが、彼女ははっきりとしゃべる。

    「正直、私もあまり喜べたものではありません。彼は犯罪者であり、逮捕すべき人間です。しかし今、かかってるのは富松くんの命でもある。私は自分の感情より、命を選びたい。命は、一つしかないのだから。」
    「綾部…。」

    無表情で淡々とした声であったが、彼女は言い放った。その言葉に、ふーーっと深いため息をついた鉢屋が喋る。

    「いいだろう。うちも乗る。」
    「三郎、いいのか。」
    「良いも何も…。これ以外に方法がない。私はどうしても、尾浜の最後のメッセージを零したくない。」

    苦笑しながらも、竹谷に向き直る鉢屋は、少し悲しそうだが、意思は固いようだ。竹谷も筆頭が言うなら従うと納得した。

    「対策室もいいだろう。お前の案に乗るは癪だが。が、一つ確認させてもらう。」
    「どうぞ?」

    立花は目の前にある紅茶を一口飲む。

    「尾浜の隠した情報、お前には見当がついているのか?お前達の欲しい情報ではないのかもしれんぞ?」

    にこりと微笑む浦風は、立花の言葉にまた微笑んだ。やはり、目は笑っていない。

    「彼が隠した情報は2つあります。一つは僕の上達が欲しがっている情報。これを手に入れないと、僕は怒られてしまいます。もう一つは、僕と不破家が欲しがっている情報です。」
    「私たちが欲しがっている情報?何故分かる。」
    「今、斉藤タカ丸さんが調査している人物についての情報だからですよ。」
    「!!」
    「そういえば…病院でそんな話をしていましたね。」

    田村は病院での斉藤と浦風のやりとりを思い出していた。

    「斉藤タカ丸が調査している人物とは?」

    立花が鉢屋に顔を向ける。

    「あぁ、タカ丸さんがずっと潜入調査をしていた人物だ。まさか尾浜がそっちにも接触に成功していたなんて…。」

    鉢屋は少し、言いずらそうに見た。そして綾部を見る。

    「実は、綾部がいる手前、言いだしづらいし、確定は無かったから言わなかったんだが…。」

    綾部が、不思議そうに鉢屋を見た。

    「私達は、平 滝子を追っている。」


    ----------------------------------------------------------------------------

    平 滝子。
    先進気鋭の華道家であり、今絶大な人気を誇る美人華道家である。
    メディアにもTVこそあまり出ないが、雑誌などには引っ張りダコで、よく特集を組まれたりしている。
    が、露出のわりに私生活等は明かされていない。
    雑誌記者などが追っていたりするのだが、彼女はどうも姿を消すのが上手く、見つからない。
    そして何より、彼女の家は華道の旧家であり、裏社会のパイプにも繋がっている。業界に牽制をかけるのはいとも簡単なことであった。

    綾部にとっては、大学時代の友人で、彼女の人生の中で唯一親友となった人間である。
    綾部は大学でも研究と穴掘りばかりやっていた。そんな彼女に、初めて話しかけてきた人であり、初めての友人であった。
    彼女はとても世話焼きで、なんやかんやと綾部の世話を焼き、懐かれていたが、彼女が家に綾部を呼ぶことはなかった。
    彼女に、家のことを聞いたことがあるのだが、彼女は少し寂しそうな顔をして「あんなものは家とは呼ばない。」と言ったのだった。


    「不破家は元々、平家との付き合いがあった。それは同じく古代から続く旧家同士、色々と繋がりがあるからってのもあるのだが、旧家同士の集まりがあってね。ある日、平家の娘だと滝子を紹介された。」

    その時、雷蔵はまだ生まれていなかった。14年前のことである。鉢屋は親と一緒に雷蔵の母についていた。

    「人形のような子だった。たしか彼女はあの時で12歳だったはずだが、普通の12歳の女子よりも少し大人びて見えたよ。動作や作法も完璧だが、どこか人形のようでまったく生きているものに感じなかった。子供ながらに、とても怖いと思っていたよ。」
    「その時のことなら、俺も覚えている。」

    鉢屋の隣にいた竹谷が、サングラスを外しながら喋る。

    「俺はこの目だろう?姿は分からないが音で全てを感じていた。あの子の心音は、子供の心音よりももっと落ち着いていて、12だと言われた時に疑問を持ったんだ。」

    とにかく、それが初めて会った時の滝子であった。その3年後、出会った滝子は”今のような調子”になっていた。
    鉢屋は自慢癖のある滝子の相手は面倒だったが、3年前の人形よりもよっぽどマシであった。
    その後は会う機会も少なく、忘れかけていたが、数年前、平の両親が事故で亡くなった。

    「その日から滝子は、平家当主となった。あの華道で露出を始めたのもその頃からだ。大学を卒業したのもあったし、両親がいなくなり抑えられていたものの反動だろうと思っていたが、ある資料が出てきた。」
    「資料?」

    立花が鉢屋に目をむける。反対に座る浦風はにこにこと聞いていた。綾部の表情は知れない。

    「平 滝子は養子なんだ。」

    彼女は本来は四国の出身である。高知の山奥の生まれだが、母を亡くし、父は行方不明になってしまい親戚を頼って京都まで来たが、結局施設に入れられてしまった。

    「平家は本家本元は京都だ。彼女は京都の施設から東京に家を構えていた平家に養子として入った。だがここまではそこまで問題とする点じゃない。問題は、平家はSPEC HOLDERを探していたというところだ。」

    平家はSPEC HOLDERの組織と繋がりがあり、本家には子供がいなかった。本家がSPEC HOLDERの子供を探していたという情報もある。
    そして今でも、平家はSPEC HOLDERの組織と繋がりがあるという情報もあった。

    「それだけなら、裏組織のつながりのある旧家としてはまだいい。うちだってそんなもんだ。彼女に”SPEC HOLDERの疑いがある”。それだけで済む話なんだ。だが、旧家衆の中で、平を探れという声が強くなった。平は旧家衆の中でもあまり付き合いのよくない家だったからな。多分それで協力しないようなら潰してしまおうという魂胆だったのだろう。」

    ところが、結果は旧家衆のボロ負けであった。
    放つ刺客も、スパイも、全て帰って来なかったのである。

    「それどころか、彼女は堂々と社交界に出てきたよ。当然、帰りは彼女を捕えろと命令が下って私達は出向くのだが、いつも彼女の足取りはつかめない。忽然と消えてしまうんだ。」

    数年に渡った追いかけっこは今も続いていた。その獲物である滝子に、尾浜は接触し、何か掴んだのである。
    尾浜は非常に優秀な人物であった。人懐こい笑顔と、印象の良い性格、これは斉藤にも通じるものがある。

    「タカ丸さんには、平のスタイリストとして付いて貰っていた。だが、平はかなり口が堅く、躱されてしまうらしい。タカ丸さんの能力は”サトリ”だ。彼は髪触れば心が読める。が、そのためには質問してその答えを思わせなければ読めない。平はそれすらさせないらしい。」

    そして尾行しようにも、やはり姿を消してしまうのである。

    「これはうちの下らん旧家の因縁の話だ。まさか、お前たちも同じような理由だというんじゃないだろうな。」

    鉢屋は浦風に向き直った。
    浦風は出された紅茶に臆することなく口を付けていた。そして鉢に顔を向ける。

    「まさか。こちらはね、ちょっと彼女は目障りなんです。」
    「目障り」
    「まあ正直、僕も彼女に対してそこまでの情報は知りませんでした。旧家には旧家しか知りえない情報もあります。僕らが彼女を追うのはただ、彼女と僕らは仲悪いって話です。」

    一同を見回して、浦風はにこりと笑った。

    「彼女はSPEC HOLDERです。僕らと同じ組織の人間ですよ。」
    「!!!」

    鉢屋たちは驚かなかった。長年の因縁から、確信していたのだろう。
    潮江は綾部を見やる。彼女は背中にくっついたまま、微動だにしなかった。

    「綾部…。」
    「…大丈夫です。残念ながら私は、感情よりも分別がついてしまう人間なのです…。」

    彼女に表情はない。だが声は少し、わずかにいつもよりもトーンが落ちていた。

    「同じ組織の人間なのに、仲が悪い?」
    「同じ組織だろうが、グループという派閥が違うのです。そんな話はどこにだってある話でしょう?この警視庁だって、旧家だって。僕のグループと彼女の所属するグループは、同じ始末班ですが、まぁ相容れない水と油のようなものです。」

    浦風はにこーっと笑いながら一同を見回した。

    「尾浜さんの情報はその彼女の情報です。僕らはそれが欲しい。」
    「…それを手に入れて、お前たちは平滝子をどうするつもりだ。」
    「どうもしません。尾浜さんの持つ情報は、平滝子の能力について情報だと思われます。僕は確認したいだけです。」
    「平の能力は分かってないのか。」

    潮江の話も最もである。ここまで調べあげられいるのに、彼女の能力についてはさっぱり分かっていない。

    「僕には検討がついていますが…いうなれば皆、彼女の能力を認識できないのでしょうね。」
    顎に手を当てて、笑った浦風は、ね?と何者かに問いかけた。

    平の話を置いておいて。
    対策室、不破家、浦風はヒーラー捕獲のために動き出したのだった。
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