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    konokono816

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    konokono816

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    過去作です

    Night Partyの裏側リィン、リィンと鐘がなる。
    はじめは小さな音でゆっくりと。それが少しずつ大きくそして早くなっていく。
    リィンとなる鐘の音が頭のなかでこだまする。
    その響きとともにゆったりと意識が浮上して、俺はここちよく目を覚ます。
    もう何年もそれは続いている。

    瞬きを2回して、首を左右にまげて少しずつ意識をはっきりとしだす。
    まだシンと静まり返っているファルコンの部屋の中。
    いつの間にか頭までかぶっている布団から顔をだして、しばらく耳を澄ませば、スーッ、スーッと規則正しい寝息が聞こえてくる。
    まだ太陽が東に顔を出さない時刻だから、明かりは枕元にともっているダウンライトのみで、薄暗い視界の先にある隣のベッド。
    頭まで布団をかけた寝姿が先ほどまでの自分とそっくりであろうことに喜びを感じながら、できるだけそろりと上体を起こして布団から抜け出した。
    「おはよう、兄貴」
    近づいて声を忍ばせて、そう挨拶をする。
    布団からはみ出た長い金髪の毛先にちょっとだけふれる。
    その間もスーッ、スーッといった寝息は変わらないペースを刻んでいることに気を良くして、今日も朝をむかえた。

    手早く胴着を身に着けて、共用の洗面スペースに行く。
    顔を洗って、歯を磨き朝の準備は完了だ。

    少しかけた月がまだ西の空に残っている。
    東を見れば少し明るい紫苑の空に明けの明星が明るく光っていた。
    茜色をしている昼に比べて、明け方の表情は崩壊前とあまり大差がないのがうれしい。
    日々冷たくなっていく空気も、体の芯が締まっていくようで心地よい。
    よしっと
    足を肩幅に開き右の拳と左の手のひらを合わせてから、駆け出す。
    いつもの鍛錬をはじめた。

    たっぷりとかいた汗をシャワーで流してさっぱりとして部屋に戻ったのが2時間後。
    朝日がカーテンの隙間からのぞいている室内で、先ほどと変わらない寝息がまだスーッと漏れている。
    その横で瞑想をしながらもそろそろかなと目をあける。
    リィン、リィンとその音が鳴りだす。
    はじめはゆっくりと小さな音で。
    寝息はまだ変わらない。
    枕元の細工。
    鐘を打つ小さな小槌が少しずつ振り幅を大きくしていく。
    それに合わせるように布団がちょっと動く。
    もう少し。
    目覚めに立ち会えるうれしさと、もう少し寝かせておいてあげたいなという思いが混ざってなんとも複雑になる。
    リィンリィン
    リィンリィン
    おや、いつもよりも布団の中の動きが遅い。
    リィンリィン リィンリィン
    追加の小槌も動き出す。
    たっぷり15分ほど細工の時計の針が進んだころ、
    のそのそと布団から手だけが伸びてくるが、結局二度ほど空振りをした。
    リィ ダンッツ ジーっ。
    突起がおされ、ゼンマイがまかれ、小槌が元の位置へと戻っていく。
    音が止まったことに安心した手が仕方なさそうに、顔から布団を取り払う。
    「おはよう、兄貴」
    「おはよう……、マッシュ」
    挨拶の後に、覚醒するために強く瞬きをして、首を左右にふると予想よりかは穏やかな表情で兄貴から名前を呼ばれた。

    「昨日は夜更かしをしたみたいだね」
    「そうかもしれない」
    自分が作ったその目覚まし時計を今度は恨めしそうににらみながら、ぼそりという。
    「お酒は?」
    「ほどよく」
    「レディと?」
    「……いや、セッツァーとだが」
    おやっとちょっと首をかしげられた。
    おやっと自分も首をかしげようとして、ぎりぎりで踏みとどまる。
    「セッツァーとだったら、ほどよくよりは多くなりそうだね」
    「否定はできないな」
    「どうする? もう少し寝てる?」
    「いや、もう朝の準備をするよ。レディをちゃんと待ちたいからね」
    当然だろうとばかりににやりと笑って、ベッドから起き上がる。
    髪をかるく上げるように結い直す姿からは、もう朝のけだるさはないようだ。
    「それに今日の朝食はティナが作るのだろう」
    「確かね」
    「楽しみだ」
    王様はご機嫌麗しく、部屋の洗面台へとむかった。


    仲間がだんだんと集まりだしたファルコンで、俺と兄貴は同室になった。
    客室がたくさんあったブラックジャックとは違い、クルーだけが寝泊まりするよう設置されたファルコンの部屋は少なく、二人一室が基本だったから。
    兄貴と二人一緒の部屋で生活するなんて、成人の儀式以来で、うれしさと気恥ずかしさが半々。
    最初のうちは、夜まで語り明かして、それこそベッドに入ってからも変わらず話して、朝の日課をできない日もあったぐらいだった。
    そして夜のおしゃべりの最中に、先にうとうとしだす俺に、兄貴はやさしく
    「おやすみ、マッシュ」とあいさつをくれる。
    その心地よい声音を聞いて俺は眠りに落ちる。
    なんという贅沢だろう。


    贅沢の極みといえば、兄貴と記憶の共有が図れていること。
    一緒の部屋に移った時に、兄貴が荷物から取り出したそれがとても懐かしい。
    手書きの数字に、古い針が現在の時刻を記している。
    一番短い針は六時ちょっとすぎにセットがされていて、その時刻になると上に設置されている鐘が小槌にたたかれて鳴り出すのだ。
    「まだ使ってるんだ?」
    苦笑した俺に、兄貴もまた苦笑をかえす。
    機械に愛着のある兄貴が、唯一嫌いな自作かもしれないそれを指ではじく。
    リィンと音がした。
    「これがないと、うかうか寝てられなくてね」
    「寝すぎる心配をしているの?」
    「実際結構あぶないんだ。お前は平気そうだけど」
    昔と変わらぬ姿のまま、だが傷があちこちにあるその時計。
    幼い頃、寝坊しがちだった兄貴がレディを意識しだして、身支度を手伝いに来る女官より早く起きたいと、顔を洗い、髪を結っておくんだと、張り切って作ったその目覚まし時計。
    それにつき合わされた俺のほうが、先に早起きに慣れ、そしていまだにその鐘の音が頭の中で、響いているのだが。
    「この時計はいまだに毎朝兄貴ににらまれているんだね、かわいそうに」
    「レディやお前を睨まなくてすむようにだな」
    朝だけはいまだに苦手らしい。


    メンバーには朝型組と夜型組がいる。
    俺やカイエン、ガウなどは日が昇る前から起きだして鍛錬をすることが多い。
    対して夜型のセッツァーやロックは夜中に酒を持ち出して嗜んでおり、兄貴も参加している。
    兄貴は時間の使い方がうまいと思う。
    国の仕事は区切りをつけながらしている。
    戦闘への参加も主戦力の分多く、メンバー決めなど戦略を練るのも担当しているというのに。
    とはいえ、道具の担当はロック、武器防具の担当はセリスとカイエン、アクセサリーはストラゴスと適所に人物を分担させて、本人いわく楽をしているそうだけど。
    俺はといえば、「食料の補給を頼む」という。
    「いっておくが、生命線だからな。心してあたるように」笑いながら言ってはくれるが、十四人、出身も違えば年代も違うおのおのの好みを取り入れつつ、予算とにらめっこし、戦闘用の携帯食と平時用の食料とをうまく切り盛りするのは、楽しくもあり、それなりに苦労もあった。


    戦闘に出る前は自身の機械をばらして磨いている。
    その日も部品を部屋いっぱいに広げていた。
    「サウスフィガロの洞窟に新しい道が見つかったらしい」
    「この前の盗賊たちが通ったところ以外に?」
    兄貴はドリルのねじの一つ一つに磨きをかけている。
    「あぁ、その派生のルートの一つなんだが、なんでもホタル草が咲いているみたいでね」
    「へぇ、青く光る花だろ」
    兄貴のとなりで磨いていたドラゴンクローを床に置いて、昔の思い出にひたる。
    「昔、西の山の洞窟で見たよな」
    「あれは初夏だけだったっけ。俺2回見逃しているんだよ」
    「季節の変わり目だったから仕方がないさ」
    「兄貴も巻き添えにしちゃったっけ」
    「1回な。思いっきりうつされた」
    「うつしたというか、夜中に別室に移動させられた俺のベッドの横でつきっきりをしていたのが原因じゃないかと」
    「だってさみしいだろ」
    「兄貴が?」
    「お前も、だろ」
    そんな思い出話だったり、これからのことだったり。

    「サウスフィガロの洞窟と西の洞窟がつながっているのかもしれない」
    兄貴の手にはめている綿の手袋がだんだんと黒く汚れていく。
    ねじを締め直し、オイルを注ぐ。
    「随分と距離がないか?」
    「あるね。いままで発見されていなかったことからも、地盤の移動で新たにつながったか」
    「そういえば、古代城は風が流れているんだ。西からだった気がする」
    「今まで気にしてなかったが、息ができるんだから、そういえばそうだよな」
    「わずかだけどね。あそこが終点じゃない。モンスターもいるし、ケフカを倒す前に調べみたほうがいいかもね」
    「それを理由に、ホタル草見に行かないか?」
    「理由が必要なのが王様のつらいところだね」
    「だろ?」
    こんな他愛のない会話を、荷造りをしたりしながら話す時が一番楽しい。
    「初冬に咲きだしているのも気になるし、行こう兄貴。あそこのモンスターなら、兄貴のサンビームが最適だしね」
    「お前の真空波もな」
    他の二人はレディにしようなどと兄貴はさらに企んでいるようだ。


    最近、兄貴の夜更かしが続いている。
    セッツァーと酒を飲んでいるとは言ってはいたけれど、茶葉と茶菓子の減りも早いような気がする。
    意外なところでセッツァーはお茶をいれるのがうまい。
    まずいのは兄貴だ。
    なぜか。
    茶葉に湯をそそいだまま忘れるからだ。
    一度、飲んでひっくり返りそうになったリルムから報告をうけた。
    渋い、えぐい、薬のほうが絶対においしいそれを、表情替えず飲んでいたと聞いて以来、兄貴にお茶は俺が入れたいから、待っていて、と懇願した。
    酒を飲んだ後に酔い覚ましでセッツァーがいれた茶をのんでいるのなら、
    兄貴のために悪いことじゃない。

    セッツァーと兄貴は馬が合う。
    兄貴がプロペラの空飛ぶ機械を作ったのはまだ8歳のころだっただろうか。
    城の屋上から飛ばしたそれは、あっというまに砂に埋まってしまって結局見つけ出すことができず、兄貴は部屋で泣きじゃくった。
    それからなんども試作をかさねて、城の周りを一周できるようになったころ帝国との交流がだんだんと雲行き怪しくなってきたから、兄貴はそれ以上の試作をやめていた。
    それを最近再開しているようだ。
    飛空艇の技術をまねて、セッツァーと相談しながら進めているらしい。
    国の実用とは全く別の趣味として、兄貴が気晴らしにできているのをとても良いことだと思う。


    ゆずを買ってきた。
    ドマが産地だが、二ケアの市場で売っていた。
    ティナと買い出しに出た時だ。
    香りがさわやかで振り向いた先で山積みにされていておどろいた。
    「いい香りね」
    「ゆずっていうんだぜ」
    鼻をよせて香りを楽しむ。
    「絞ってジュースにしたり、砂糖で煮てジャムしたり、皮を刻んで野菜をつけたりするんだ。あとね、お風呂にいれてゆず湯にしたりする」
    「ゆず湯?」
    「お湯に入れるともっといい香りがするんだ。フィガロでも貴重な水を集めては湯を張る家が多いんだぜ。冬至に、夜が一番長い日にゆずを浮かべて湯治をすると風邪をひかないらしい」
    「マッシュも入ったのね。私も入ってみたい」
    「そうだな、もうすぐ冬至だし、たくさん買っていこうぜ。食べる分も。砂糖漬けでも作ろうかな」
    アルコール後の茶請けに柑橘類はあいそうだ。
    ふふっとティナが笑う。
    「エドガーに食べてもらうのね」
    「どうしてわかった?」
    「マッシュがエドガーのこと考えている時って、すごくやさしい顔をしてるの。エドガーもいっしょよ」
    「そうなんだ。ありがとう」
    ティナ見抜かれているのも、なんだかうれしい。
    「モブリスの子どもたちと生活して、それにみんなとも一緒にいて、私もわかってきたの。大切な人を思う気持ち。幸せな気持ち」
    だから私、ケフカになんか負けないわとティナがいう。
    「もっとたくさん料理のことおしえてね、マッシュ。あの子たちにいろいろ作ってあげたいの」
    「まかせろ」
    ダンカン師匠の奥さん直伝の料理をティナにつたえよう。



    「おかえり」
    「マッシュ、起きていたのか?」
    ケフカの居城、瓦礫の塔についに乗り込む前夜だ。

    いつもよりも入念に兄貴は機械の整備をしていた。
    昼のうちに向かい合って俺も荷造りをした。
    その時にもたくさん話した。
    いままでのことも、これからのことも。
    あえて話さないようにしていたことも。
    「これから、どうしたい?」
    兄貴は俺に聞いてくれる。コルツで再会した時もそうだった。
    「フィガロに。一緒に帰ろう」
    と俺は言った。
    もうずっと前から決めていたことだから、自然と声にでた。
    「あぁ、帰ろう」
    右手を差し出され、両手で包む。
    緊張していたのかもしれない。冷たくなっていた指先を温めてやる。
    この手を離さず、守っていこうと改めて決心した。


    その夜。
    一度は「おやすみ、マッシュ」と言って兄貴と夜の挨拶をした。
    決戦の日でもいつもと同じように、朝の鍛錬をすると言った俺に兄貴は早めに「おやすみ」をくれた。
    だから俺も「おやすみ」を受け取って早めに床に付くつもりだったが、結局寝付けずに兄貴の帰りを待っていたのだ。
    「セッツァーと飲んできた?」
    「あぁ、あとはリルムともお茶をしてきた」
    「そっか、お茶会の相手はリルムだったんだ」
    朝、寝起きが悪いのに、やけに穏やかな顔をみせてくるのはレディがどこかで絡んでいると思った予想はあっていたわけだ。
    「レディとの秘密の約束だったからね」
    弟とはいえど、秘密は守らなければねと茶化しながらいう。
    「二人とも決戦前だというのに、気負いがなくてね、驚かされる」
    「兄貴も大丈夫そうだけど、ね」
    「それは、お前がいてくれるのがわかったからな。負けるはずがない」
    「すごい、自信」
    「お前はまさか不安で眠れなかったのか?」
    「いや、でも寝る前の兄貴の顔を最後に見るのが自分じゃないのがちょっと悔しくて」
    「そんなことか」
    「そんなことが大切だったりするんだよ、今日は」
    「安心しておやすみ、レネ」
    「ロニ、おやすみ」
    大切な名前で呼び合って明かりを消して目を閉じた。

    リィンリィンという音で明日は一緒に起きるだろう。
    そして明日からも「おやすみ」といって一日を終えるのだ。
    これからずっと。
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