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    ぐるコース

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    夢・腐小説載せてます¦自己満

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    #東堂尽八
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    #巻島裕介
    yusukeMakijima
    #東巻
    volumeTwo

    『日の下を、二人で』夜の森は静寂に包まれ、月光が木々の隙間を縫って地面に銀の模様を描いていた。東堂は、闇に溶け込むような黒いマントを翻し、獲物を求めて古びた屋敷の周辺を彷徨っていた。吸血鬼の彼にとって、夜は狩りの時間だ。鋭い感覚が、近くに漂う甘い血の匂いを捉えた。

    「ふむ、美女の香りか?」東堂は唇を吊り上げ、屋敷の窓辺に忍び寄る。そこには、長い緑髪を月光に輝かせ、ベッドに横たわる人影があった。白い肌、華奢な体躯。東堂の赤い瞳が妖しく光る。「これは…極上の獲物だな!」

    一瞬にして窓を越え、ベッドの脇に立つ。だが、近づいた瞬間、獲物の声が響いた。

    「…誰、ショ?」

    低く、かすかに掠れた声。東堂は一瞬硬直した。…男? 獲物の顔をよく見ると、確かにそれは女性ではなく、病弱そうな青年だった。鋭い目つき、緑の髪が乱雑に額にかかるその姿は、どこか野生的な美しさを持っていた。

    「なんだ、男か。」東堂は肩をすくめ、興味を失ったように踵を返す。「失礼した。男を襲う趣味はない。」

    「待つっショ。」

    その声に、東堂は振り返った。青年――巻島は、ベッドから身を起こし、息を切らしながら東堂を見つめていた。「お前…外のこと、詳しいのか?」

    東堂は眉をひそめた。吸血鬼として数百年生きてきた彼にとって、人間の好奇心などどうでもいいはずだった。だが、巻島の瞳には、どこか切実な光が宿っていた。まるで、外の世界を渇望する囚人のように。

    「外? ふん、俺が知らぬ場所などないさ! だが、なぜそんなことを?」東堂は腕を組み、興味半分で尋ねた。

    巻島は小さく笑い、窓の外を指さした。「俺は、身体が弱くて…ずっとこの屋敷から出られねぇ。ベッドから見えるあの山、いつも見てんだ。いつか…あそこに行きてえって、思ってただけだ、ショ。」

    その言葉は、吸血鬼の心に奇妙な波紋を広げた。東堂は無視して立ち去ればいいのに、なぜかその場に留まり、巻島の話を聞いていた。山への憧れ、閉ざされた人生。巻島の声は弱々しかったが、その中に秘められた情熱は、東堂の心を揺さぶった。

    「ふむ…巻島、いや巻ちゃん、面白い奴だな。」東堂はそう呟き、なぜかその夜、屋敷を去る気になれなかった。


    それから、夜ごとに東堂は巻島の屋敷を訪れるようになった。最初は気まぐれだった。吸血鬼にとって、人間との会話など時間の無駄でしかないはずだ。だが、巻島の話は東堂を惹きつけた。

    「で、お前は山の向こうに何があると思うんだ、巻ちゃん?」東堂は窓枠に腰かけ、夜風に髪を揺らしながら問う。

    「さあな…でも、風が強くて、木々がざわめく音がすんだろ? そんな場所だろ、ショ。」巻島はベッドに横たわりながら、遠い目で答えた。

    東堂は笑い、仲間たちの話を始めた。吸血鬼の集団、夜を支配する者たちの物語。時には誇張し、時には真実を交えて、東堂は外の世界を巻島に届けた。対する巻島は、屋敷の中でのささやかな出来事――使用人の愚痴や、本で読んだ知識を語った。東堂はそんな話に耳を傾けながら、巻島の瞳が輝く瞬間を、なぜか見逃したくなかった。

    「巻ちゃん、なかなか詩人だな!」東堂は豪快に笑うが、内心では奇妙な感覚に戸惑っていた。吸血鬼の心は冷たく、永遠に変わらぬはずなのに、巻島と過ごす時間が、彼の内に何か温かいものを灯している気がした。


    月日は流れ、巻島の病は悪化した。ある夜、東堂が訪れると、巻島はベッドで咳き込み、顔は青白く、息も絶え絶えだった。

    「巻ちゃん…! 大丈夫か?」東堂は珍しく動揺し、巻島の傍に膝をつく。

    「東堂…」巻島は弱々しく微笑み、掠れた声で言った。「俺の血、吸ってくれ。」

    東堂の瞳が一瞬、紅く燃えた。吸血鬼の本能が、巻島の甘い血の匂いに反応する。だが、彼は首を振った。「だめだ、巻ちゃん! お前、病気だって治るだろ? そしたら、俺とこの屋敷を抜け出して、山に行こうぜ! な!」

    巻島は小さく笑った。「…バカだな、東堂。俺にはもう…そんな時間ねぇ、ショ。」

    その言葉に、東堂の心は凍りついた。次の瞬間、巻島の目が閉じ、身体が動かなくなった。東堂は慌てて彼を抱き上げ、冷たくなり始めた身体を確かめる。「巻ちゃん! 起きろ! おい、巻ちゃん!」

    だが、巻島は答えない。東堂は吸血鬼の力で彼を自分の屋敷に連れ帰り、必死に看病を試みた。人間の医術など知らない彼は、ただ巻島の手を握り、呼びかけた。「巻ちゃん、頼むから…目を覚ませ!」

    しかし、巻島の身体は日ごとに冷たくなり、ついに息を完全に止めた。東堂は、初めて「死」を理解した。吸血鬼である彼にとって、永遠の生の中で、こんなにも脆く消える存在があることを知らなかった。

    「巻ちゃん…俺と山に行くって、約束しただろ…?」東堂は巻島の冷たい手を握り、涙を流した。吸血鬼の涙は血のように赤かった。「来世では、日の下で…お前と山に登る。そんな人生を、俺は歩みたい。」


    「尽八が寝てるなんて珍しいな? うなされてたけど、なんか夢でも見てたのか?」

    箱根学園の部室で、三年生の仲間が東堂を見ながら囁き合う。東堂は、珍しくベンチで目を閉じ、微かに寝息を立てていた。

    「どうせ、総北にいる巻島の夢だろ…」もう一人が笑いながら言う。

    その言葉に、東堂はゆっくり目を開けた。赤い夕陽が部室の窓から差し込み、彼の顔を照らす。「…ああ、懐かしい夢を見ていたな。」

    彼の視線は遠く、かつての月夜を思い出すようだった。あの緑髪の青年、巻島裕介。あの時交わした約束は、今も東堂の胸に刻まれている。現代の巻島は、総北のクライマーとして山を駆け抜けている。東堂は思う――今度こそ、日の下で、巻ちゃんとお前が愛した山を一緒に登ろう。

    「巻ちゃん…待っててくれよ。俺はまだ、諦めてないぜ。」
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