海岸線を白いオープンカーが走っていく。運転席のジャンホの明るい色の髪が風に乱れてきらきら光った。夏というにはまだ早くても、今日のように晴れた日はそれなりに暑い。冷房の効きも悪い、むさ苦しい事務所にいるのにも飽き飽きしていた。出かけるかと誘えば、ジャンホは二つ返事でハンドルを握った。命令でも気まぐれでも、子分としてこの道に入るかという申し出ですら、チャンスからの言葉にジャンホが渋ったのを見たことがない。
街道沿いにこじんまりとしたアイスクリームの店を見つけて、ジャンホが弾んだ声をあげる。チョコレートに、ストロベリー、ピスタチオの三段重ねを片手に、「兄貴、一口ください」などとバニラ味のアイスクリームを狙ってくるから始末が悪い。甘えを多分に含んだ視線に耐えられず差し出したと同時に、きれいな歯形をつけて齧り取っていった。
「やっぱり兄貴のがうまい」
唇を舐めて、満足げに自分のものにかぶりつく。派手な柄のシャツさえ着ていなければ、その辺の高校生そのものだ。
アイスクリームを腹に納めてしまうと、「海辺に行ってみましょう」とジャンホは階段を下っていった。小さくなっていく背中を眺めていると、「兄貴!」と声がかかる。
寄せて返す波とその下でさらさら動く砂を見つめていたかと思えば、革靴を脱ぎ、瞬く間に靴下も丸めて入れてしまった。スラックスを膝まで捲り上げると、波打ち際を駆けていく。柔らかな砂に形のいい足指が沈んで、くっきりと足跡を残す。一つ二つと慎重につけたかと思えば、後ろ足で砂を散らしながら走っていく。
チャンスも煙草に火をつけたものの、人気のない海で目に留まるものもなく、ジャンホばかりを目で追ってしまう。大人のような顔をして店に出ているというのに、波打ち際で飽きもせず遊ぶ姿は子どもを通り越して子犬のようだ。
「ジャンホヤ、帰るぞ」
「はい!」
防波堤の先のジャンホに呼びかけると、海への未練などないような顔をして、にこにことチャンスに駆け寄った。裸足で熱いアスファルトを踏まないように、ぴょんぴょん飛び跳ねるようにしてついてくる。ジャンホの頬は少し日に焼けて赤くなっていた。海から上がってそう時間は経っていないのに、足を濡らしていた海水は乾き、乾いた砂だけが残っていた。
「そのまま乗るなよ」
「わかってます」
ジャンホは躊躇わずシャツを脱ぐと、くしゃくしゃに握って足の砂を拭った。真っ直ぐな背骨がしなり、日に焼けてない背中があらわになる。
「兄貴、これでいいですよね?」
ぱっと体を起こすと、運転席に乗ろうとする首根っこを掴む。
「……たまには運転させろ」
珍しいと言いたげな視線で首を傾げるものだから、いよいよ居心地が悪くなる。置いてくぞ、と言うと、ジャンホは慌てて助手席に滑り込んだ。
まだまだ街までは遠い。規則正しい揺れに健やかな寝息を立てるジャンホの髪を撫でる。兄貴の横で寝るやつがあるか、指先で額を弾くと夢の中でもくすぐったそうに笑った。