Episode出会い
セラフィオス×ネフラ
誰も足を踏み入れたことのないような森の奥に迷い込んだその日、とても綺麗な妖精に出会った
キラキラとその子の周りだけ輝いているような綺麗な翡翠色の髪
この世の汚れを一切しらないような無垢な瞳に目を奪われる
踊るように歩く君の声を聞いてみたいと願ってしまった
その華奢な手に触れてみたいと願ってしまった
その日私は、恋に落ちた
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鬱陶しい雨が止んだ昼頃
綺麗な歌声が聴こえ、その声に誘われるまま森の奥へと踏み込んだ。
そこに居た君は、私の足音に驚いたようにこちらを見た。
こんな綺麗な人間がいるわけないのに思わず聞いてしまう。
「君は、人間かい?」
自己紹介もしないまま問いかけてしまった。
非礼に内心慌てているとポツポツと返事を返してくれる君は怯えていたのだろうか?
「僕は、えっと……ドリュアス、精霊です……一応」
ドリュアス。それを聞いてさらに心が浮き足だった。念願の、会いたかった精霊の1人だ。
でもそれよりも私が知りたかったのは君と言う存在だった。
「ドリュアス!ドリュアスとは花人という事か。…?固有の名はあるのかい?君の…君だけの名前だ」
「名前?…名前は、ないかな。産まれてからずっと…ここでひとりぼっち、だから。」
ひとりぼっちだと寂しげに言う君。
あたりを見渡しても他のドリュアスは見当たらない。…そう簡単に見つかるとも思わないが一応だ。
「…そうなのか。だが名前がないと不便だな、ドリュアスと呼ぶのも味気ないし……うーん、ヒスイ…ジェード…ネフライト…。……ネフラ、はどうだろう。とても綺麗な、君の雰囲気にピッタリな名だと思う。ネフラと呼んでも構わないかい?」
それでも君だけを、ドリュアスではない、私と君だけの名前が欲しかった。
翡翠色の綺麗な君はとても柔らかそうで、思わず触れたくなる。ふとネフライトを思い出してその響きが可憐な君と重なる。
ネフラ。そうだ、それがいい。と思わず口にした。
ネフラ。
「………ネフ、ラ……素敵、だね」
何だか胸の奥が暖かい。
心なしかネフラの瞳も輝き、ふわっと微笑んだその顔に目を心を奪われた。
「______あなた…の名前は?______」
「………セラフィオス。セラフィオス・ヘイスティン=カルロス…。」
誘われるように名前を言った時、ふっと『契約完了』と理解した。
…………なんの契約がされたのだろうか。
ふと我に返り、再び己の名を口にする。
「セラ、と呼んでくれ。セラフィオスだと長いだろう?親しい間柄の人にはそう呼んでもらってるんだ」
正確には親兄弟だけだが。愛称で呼ぶなど不敬だ、などと言って皆セラフィオス殿下などと呼ぶ。友人同士ですら殿下と呼ばれるたび、少しだけ距離を感じていたのは内緒だ。
「セラ…?」
「なんだい、ネフラ」
その声で、その唇から紡がれる己の名前がくすぐったくて自然と笑顔になってしまうのを止められない。
たくさん話しをしよう。たくさん名前を呼んで。
ずっとこの時間が続けばいいのに、世界は時に残酷だ。
この時は君と、ネフラと出会えた嬉しさでただただ幸せだった。まさかこんな事になるなんて夢にも思わなかったんだ。
それでも…例え時を戻したとしても私は君に会いに行くだろう。
君のいない世界なんて、もう考えられないのだから。