Episodeリンゼ×レイシー
リンレイ
黒の国と神の国の国境沿い、神の国側に1つの教会。
その教会は貧しい者も優しく受け入れてくれる場所であり、そして神の国に入りたくもうしろ暗く正面から入国出来ない者達が居た。
「……神獣様のご加護があらんことを」
今日も祈りを信徒達と捧げ終わるとウサギ族の神父であるリンゼは瞬く間に信徒達に取り囲まれた。
神父らしく優しい微笑みを浮かべ、その端正な顔に見惚れる者も少なくない。そんな中、あまり見かけぬ顔を見つけリンゼは更に笑みを深めた。
「…おや、あまり見かけない方ですね。こちらには初めてですか?」
「ウン。はじめてこの国に来たの。あなたに会いに」
「おや、私にですか?それは光栄ですね」
小柄な体型に可愛らしい洋服、それに合った可愛らしい顔をした“少女”はにこりと笑った
ー今日のお客様か…
そう考えたリンゼは「本日はここまでで…」と残りの信徒達を帰らせる。当たり前のように残る“少女”にリンゼは手招きをした
「…お待たせしましたね。どうぞコチラへ。お茶でもどうですか?」
「ありがと!いただくわ」
素直に着いてくる様子をチラッと横目で見ながらリンゼは内心ため息を吐いた。
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「……さて、入国されたい理由はなんでしょうか?」
お茶を差し出しながら微笑む。“少女”はフーフーと可愛らしく冷ましながらにこにこと上機嫌そうに笑った
「言ったでしょ?あなたに会いにきたの。リンゼ・ミルア…それとも黒の国の子はきらい?」
「好きではないですね」
思わず食い気味に言ってしまった。入国目的でないとすればなんだろう。個人的な恨みだろうか。そんなの…
「身に覚えがありすぎますね…」
「ちょっと、なに1人で考えてるの?あなたに用事があるんだってば!」
ズバッと返された事にキョトンとしていた少女も我に帰り身を乗り出しながらリンゼに近づいた。
瞳に魔力を乗せ、誘惑するように上目遣いで迫る。リンゼの膝に手を乗せ、身体を預けるように…誘惑はするように擦り寄った。
大抵の男はこれで堕ちる。少女から目が離せなくなり手を伸ばしてしまう。触れたら最後、インキュバスである“彼”の思うがままだ……
「…………………。」
「…………………。」
「…………………ねぇ」
「…………………。」
「そのすこぶる嫌そうな顔するのやめてくれない?せめて言葉で言ってよ。傷つくんだけど」
まっっったく効いてなかった。リンゼはすこぶる嫌そうな顔をしていて魅了が効いている気が全くしない。むしろ身体は引き気味で全力で引いているのがわかる。そしてそれを隠そうともしていない。さすがに傷つく。プライドが。
「あー、今は多様性の時代ですからねー。いいと思いますよ、男の娘。似合っていますし」
「違う、そうじゃない」
「あー、そうですね…魅了の魔法はもう少し頑張りましょうね。あと神父にかけるのは間違ってます。一応神職ですから免疫があるんですよ。狙うなら一般人をどうぞ」
「神父が他人を勧めるな」
こんなはずではなかった。いくら弱まったとはいえ、町外れの神父ぐらい簡単に堕とせると思っていた。それがどうだ…効いてないどころか何処となく憐れまれている。しかもさりげなく性別までバレた。何故だ。
「はぁ…いくら国境沿いとはいえ此処は神の国の領域。貴方は本来の力の1/3も出せないでしょう。それに……この地に足を踏み入れられてる時点で貴方の力の弱さはお察しです。すみやかにお帰りください」
「はぁあ?嘘でしょ??ここまで来て収穫なしとかありえないんだけど!それにあんたに会いにきたのは本当なんだけど」
「そうですか。たしかにお腹も空いたでしょうに…。あー…先ほどの信徒の中に性欲が有り余ってる青年とかいましたよ?強姦の罪を犯したとかで…そいつとかどうです??」
神父が信徒を売りつけてくる。告解されたことは秘密じゃないのか。
「女性が良ければ不倫の味を占めてしまった方も居ましたね。その辺りから搾り取ったらどうです?貴方は精力を得て、相手は精力を減らす事が出来る。win-winでしょう?」
にこやかにとんでもない事を勧めてくる神父にインキュバスである方が引いてしまう。本当に神父なのか、コイツ。
予想外の曲者に頭を抱えた。こんなはずじゃなかった。なんなんだコイツは。
「……俺にも好みがあってさ、ドロドロしたのは好きじゃないんだけど」
「おや、本来は俺なんですね。そちらのが似合ってますよ」
ああいえばこう言う。しかしリンゼの方はもう興味をなくしたかのように自身の髪の毛をいじり「あ。枝毛」などと呟いている。せめてもう少し緊張感を持ってほしい。仮にも黒の国の…神の国からしたら敵国の自分を前にしてよそ見をするな。
「ねぇこっち見てよ。俺あんたの顔好きなんだ。」
「罪づくりで申し訳ない。」
全く取り合わない神父にだんだんとイライラしてきた。こんなはずじゃなかった。今頃は楽しい時間を過ごしているはずだったのに。
もうどうにでもなれ、と少しヤケ気味にリンゼの顔を掴み無理矢理顔を覗き込む。
「こーんなに可愛い俺に惚れないの??俺可愛いでしょ?♡」
再度魅了を込めてリンゼの目を見つめた。
「……貴方の名前は?」
「レイシー。レイシー・ミラーだよ」
「そうですか。ではレイシー。お帰りのお時間です。お気をつけてお帰りください」
ニッコリと笑ったリンゼはレイシーの首根っこを掴みベリっと剥がすとそのまま外に放り投げた。
「は?」
「あぁ、そうだ。無闇に神の国に入るもんじゃないですよ。ただでさえ雑魚…脆弱なんですから人の国あたりから攻めてください。それでは」
バタン。と無情にも扉は閉められたのであった。
「な、なんなのアイツ…!信じられない!………でも………やっぱり顔はさいっこうに好みなんだよなぁ〜♡」
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厄介なインキュバスに目をつけられた事を知らないリンゼは盛大なクシャミをしながら棚から酒を取り出す。
本来なら小さなグラスで飲むような度数の高い酒をジョッキに注ぎ、ジャーキーを見つけたので口に含む。
そして酒を一気に煽るとご機嫌にウサギの耳を揺らした。
「……っくぅ〜!やっぱ酒だな。厄介な客の後は強い酒♪」
ジョッキに注ぐのさえ面倒になったのか、今度はボトルごと酒をあおる。
そんな神父らしからぬ姿は昼の姿とは全くの別物だ。
「まぁ顔は良かったな。顔は。リィのがかわいいけど。…また種類の違う可愛さというか、弄りがいがあるというか…」
先ほどの客を思い出しながら酒を飲む。
いつもなら酒を飲めば忘れてしまいそうなものを…なんとなく気になってしまい思い出す。神聖力で防御していたものの、多少は魅了にかかっていたのだろうか?
いや、これは魅了というよりも…
「ま、顔は好みだな」
そう言ってまた酒を煽った。
まさかまた懲りずに神殿に来ることも、これこら追いかけ回されるなんて知りもしないヤクザはタバコをに火をつけ酒の時間を楽しむ。
ほんの少しの余韻を味わいながら