引きこもりだってコンビニで肉まんくらいは買う。
俺は最近プレイしてるソシャゲとコンビニがコラボしてしまったので仕方がなく、渋々、なんとかして、果てしない道のり(往復徒歩六分)を乗り越えて買い物を済ませた。
自分では食べないチョコ菓子(クリアファイルがおまけについてくるのだ)と、灰色の肉まんを手に入れた。しっかり写真を撮ってSNSに上げておく。
よしよし、と頷いたところで、スマホが震える。電話だ。心臓に悪い着信音と、『六原三言』の文字。
「も、もしもし。三言?」
『比鷺! 急に悪いな、今からそっちに行ってもいいか?』
愛すべき幼馴染の元気な声が飛び込んでくる。
「いいけど……なんかあった?」
『実は、業者さんから柿のお裾分けをたくさんいただいたんだ。あんまり多いから、九条家にも渡そうと思って。ついでに一緒に稽古へ行こう』
あぁ、と頷いた。全力食堂に出入りしている業者と小平さんは個人的に交流があるらしく、「お裾分けのお裾分け」を九条家もたまにもらうことがある。俺は柿食べないけどね。
「ちょーどいいや、俺もチョコ買っちゃったからさ、三言もらってってよ」
『チョコを? なんで食べないのに買ったんだ?』
「おまけが欲しくて……」
『そうか。きっとすごいおまけなんだろうな』
電話口の向こうでうんうん頷く三言が目に浮かぶようだった。そんな素直に受け取られると、既存立ち絵の印刷されたちっちゃいクリアファイルのためにチョコを大量に買い込んだのを後悔しそうになる。
……いや、経済回したし……うん……。
気を取り直そう。三言を待つ間、ゆったりエゴサをしつつ肉まんを食べることにした。
コラボ商品である「ブラックドラゴンまん インフェルノ味」はゲーム内の炎龍をイメージした黒さと、奴が使ってくる炎魔法をイメージしたスパイシーな味が特徴……らしいが、色はブラックっていうか灰色だし、辛みはイマイチだ。……まあ、こんなもんだよね。
用意しておいた激辛ラー油を肉まんにかけながらその様子も写真に撮って、SNSには『ブラドまんインフェルノの上方修正を行いました』と投稿しておく。
その時ノックの音がした。
「比鷺、入って良いか?」
三言がやってきたようだ。
「いいよ~……っておい!」
開いたドアの方を見て、俺は思わず大きい声を出してしまう。
そこには何やら袋を持った三言と、もう一人……遠流がいた。
「遠流……三言にドア開けさせるのやめろよ!」
「何? 僕がいたら不都合でもあるのか?」
遠流はいつでも俺に辛辣だ。ネコチャンのくせに……。
「ていうか、この刺激臭……お前それ何食べてるんだ?」
ラー油の匂いがお気に召さなかったらしく、遠流は食べ物を見るのには不適切なレベルで顔を歪めて見てくる。割と怖いが、フレーメン反応に脳内変換してゲットコトナキ。
「肉まん。食べる?」
差し出すと遠流は更に渋い顔になった。
「やだ。どうせ辛くしてるんだろ」
「辛くないとこあげるよ。はい」
思ったより嫌がっていなさそうだったので、ラー油が染み込んでいない部分を千切って差し出してやる。たまには俺が千切る方に回ったっていいだろう。
「む……」
少しだけ警戒した遠流は、少しだけ匂いを嗅いでみたあと、俺の手から肉まんを食べる。
「三言も食べる?」
「いいのか? ありがとう!」
にこにこする三言にも、肉まんを千切って渡す。受け取って口に含むと、探るような顔をした。
「ラー油かと思ったけど、豆板醤の味だな」
「あー、ラー油は俺が勝手に足したやつ……いででででで、痛い! 何!?」
和やかなお話の途中で急に肩をつねられる。当然犯人は遠流だ。何!? 俺が何したって言うの!?
「……辛かった……!」
揶揄ってないよ、と言ったらマジで肩を千切られそうな顔でそんな事を言われる。
「ご、こめん。そんな辛いの苦手だっけ?」
「苦手じゃない、けど、辛くないって言ったくせに……」
「いででで、ごめんごめん、いだだだだだ」
肩のごく一部をつねる攻撃はかなり痛く、遠流はきっと肩つねりのプロなんだろうと思った。