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    cross_bluesky

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    12月新刊の冒頭
    モブ女に振られるネロ

    「私達、別れましょう」
     少しは聞き慣れていた声が紡ぐ言葉を、どこか他人事のように聞いていた。
     夜営業のカフェは適度に人が入っていて、ささやかな喧騒が耳に心地良い。薄明るい照明の下、ネロはテーブルを挟んだ向こう側、マドラーでグラスの中身をゆっくりとかき回す女へと視線を向けた。
     マロンブラウンの髪はゆるく巻かれていて、小さな仕草でふわりと揺れる。ばっちり上がった睫毛の向こう側、大きな瞳は確かにネロをとらえていた。
     ──女とネロは所謂交際関係にあった。今、この瞬間までは。
    「どうしてって、言わないのね」
    「まあ、なんとなく、そんな気はしてたっていうか……」
     最近は付き合いはじめた当初と比べれば、会う頻度もかなり少なくなっていた。最初の頃は『此処に行きたい』や『会いに行ってもいい?』なんてそれらしいやりとりだってあったはずなのに。
     今日だって、カフェに行きたいという女のメッセージに『珍しいな』と思ったのだ。
     じ、とネロを見つめる女の瞳には、悲哀にも憐憫にも似た色が浮かんでいる。
     元々こういった人付き合いは得意ではなかった。女と出会ったのも、ふらりと立ち寄ったバーでのことだった。ちょうど傷心中だった彼女と自分の状況が噛み合って、所謂利害の一致というやつだ。
     互いへの愛がきっかけというわけではない。それでもそれなりの情はあったつもりだし、憎からず思っている部分もあった。
     それが、告げられた言葉に思っていたよりも動揺しない自分がいる。黙り込むネロに対し、女は薄く笑って呟いた。
    「私達、ずっと傷の舐め合いだったじゃない? でも、それももうやめようかなって」
     続けて女は、一度でも自分との未来を描いたことがあったか、とそうネロに聞いた。
     すっかり冷めてしまった珈琲の水面を視界の端にとらえながら、ネロは呟いた。
    「……ごめん」
    「お互い様よ。でも、ひとつだけ最後に言わせて」
     ガタン、とテーブルが小さく軋む。柔らかく鼻腔を擽るのは、彼女が好んでつけていた香水の香り。花の香りの奥に涼やかな甘さが隠れた其れは、今日はやけに印象的だった。
     ふわりと頬を擽る髪。微かに触れた唇の端、女は秘密を打ち明けるような囁かな声でこう口にした。
    「私、これでも結構好きだったのよ。あなたが古傷を忘れてくれたらいいなと思うくらいには」
     席を立つ女に『送ろうか』と声をかけると、女は溜息をついて今度こそ呆れたようにネロを見た。大きな瞳が細められて、やがては肩を震わせ小さく笑いだす。
    「……あなたって、本当にひどい人!」

     さて、テーブルに残されたのは、冷めた珈琲と頬杖をつくネロひとりだけ。こちらに背を向ける最後の瞬間、女の眦にうっすらと浮かんだ水膜の正体を確かめることも、もう出来やしないのだ。
     カップの中身を一気に喉奥へ流し込むも、苦さだけが舌に残って仕方がない。申し訳ないことをしてしまったな、と思うけれど、それと同じくらいにいつかこうなるだろうとも思っていた。
     お互い過去に拵えた傷を舐め合うだけの関係で、それが心地よかったのは事実だ。それでもこういうことがあるたびに、否が応でも己の薄情さを自覚する。
     ──きっと、何でもよかったのだ。あの男のことを忘れさせてくれるなら。
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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了1回目。全員かっこよかったけどとりあえず推しカプブラネロのみに特化します。
    1127少しだけ追記。
    まず、全体を通して。
     ブラッドリーはネロを信頼していて、ネロはブラッドリーを信頼してた。
     間違いなくこの戦いの間、二人は「元」なんかじゃなかった。バディだったよ、まぎれもなく。
     ネロの怒りを尊重し、最高位の強化魔法を撃ち込んだブラッドリー。
     多分、ブラッドリーの方が簡単に仕留められるのだろうに、その役目を、ネロにまかせた。ネロの心を大切にした。信頼して、任せて、見守った。
     もう、涙とまらなかったです。
     信頼しているからこそ、正面を向いて胸に魔法の弾丸を受け止めることができる。
     ネロ、ちゃんと、つながってるよ。もう、たまらなかった。

     ネロも、光さえあればブラッドリーが撃ち抜ける、と、ブラッドリーを信頼してた。
     くしゃみで飛ばされて笑っちゃったけど、繰り返して戻ってくるとは思ってなかったし、何より、間に合う男…私の推し死ぬほどかっこよかったです…。(放心状態)

     ブラッドリーが、頑張ったちっちゃいの二人に男前な面と声をかけたのが本当に、兄貴っぽくて、あたたかくて、ああ、ブラッドリーって、北の無法者たちが惚れた男って、こういう男なんだ、と、つくづく感じた。

     そして最 1376

    salmon_0724

    MAIKING2023.3.5 日陰者の太陽へ2 展示作品ですがパソコンが水没したので途中までです。本当にすみません……。データサルベージして書き終えたら別途アフタータグなどで投稿します。
    ※盗賊団についての独自設定、オリキャラ有
    ※数百年後にブラネロになるブラッドリーと子ネロの話
    死にかけの子ネロをまだ若いブラッドリーが拾う話 雪に足をとられてつんのめるように転んだネロには、もう立ち上がる気力さえ残っていなかった。
     突き刺すような吹雪でぼろぼろになり、白く覆われた地面に叩きつけられたはずの体は、寒さで麻痺して痛みさえ感じない。
     ぴくりとも動かす気力のおきない自分の指先に、雪が降り積もっていく。
     その様子をぼんやり見つめながら、このまま死ぬんだろうな、と思った。
     他の感想は特にない。
     すっかり疲れ果てていたので、もう全部がどうでもよかった。
     誰が家族なのかもよくわからないまま出て行った生家にも、殴られたり逃げたりしながら掏りや窃盗で食いつないだ日々にも、大した感慨はない。
     最後にはとっ捕まって場末の食堂で働かされていたが、足りない材料を地下室に取りに行かされている間に食堂どころか村ごと燃やし尽くされていた。
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