小さくても、守る気持ちは大きいんだ! がさがさと、枝葉を揺らす。自然とはかけ離れた違う揺れ方。
生茂る葉からがざりと顔を出し、辺りを見回し、足をかけた枝から飛び降りる。
一際大きくがさっと音を鳴らしながら、地面に軽く着地をする。
「お疲れ様です隊長」
「どうでしたか」
「敵影はなし。煙も見えないから、この辺は安全だな」
野営を張るため、辺りの散策を。
白珠は小柄で身軽な体躯を活かし、一番背の高い木を見定め、上まで登り周囲の安全確認をしていた。
幼い頃から山を走り、山で育った身体能力と、遠くを見通す視力。散策には適した能力を持っている。
「白珠は小さいから、どこにでも行けていいな」
「狭いとこも入れて便利だよなあ」
「ガキどもと並んでも違和感ないし」
「うるせえな。お前等が馬鹿でかいだけなんだよ」
天幕を建てながら、白珠の率いる隊とは別の隊の兵士達が、白珠のクセのある髪を乱暴に撫でつけながら笑う。
頭二つ〜三つ分は大きい兵士達。恵まれた身体を持っていると、羨ましいと思うこともなくはない。小柄で愛らしいなんて言われても、男としては嬉しくもない。それでも白珠は、己の小さな身体が嫌いではない。
◆
歩兵が戦場を駆ける。剣と槍、盾を構え、血を吐きながらも、道を切り拓くため、走り抜ける。騎馬を通すための道筋を。
悲鳴と汚泥にまみれながらも、歩兵は前を向く。振り下ろされる刃の先端に、太陽の照りつけに目蓋を閉じかけるが、刃の持ち主は崩れ落ちる。辺りにいた敵兵は次々と倒れ伏す。
「おらおらボサッとすんなお前等ッ!」
「白珠?!なんで弓隊がここに…」
「小柄で狭いとこに入れるからな」
弓隊を引き連れ、自らは下馬して弓を番えている。近距離戦は向かないはずなのに、こんな奥深くまで入り込み、白珠は得意気に笑っている。
窮地を救われ、しきれないほどの感謝はあるが、類稀な能力を持っている白珠に何かあれば、軍の痛手になってしまう。
だが歩兵達も負傷しており、周りの弓兵に指示を出す白珠の背を見つめるしかできない。
その白珠の足元で、かすかに動く腕。傷が浅かったのか、起き上がった敵兵が、白珠に向かう。
白珠は剣術が得意ではなく、護身用でも刃は持っていない。弓矢しか携えていない。
「白珠ッ!」
「隊長左斜め後ろです!」
白珠に危険が迫っていると気づいたのは、弓隊の部下達も同じだったが、危険の報せ方が少々特殊だと頭の片隅で感じた。
弓と矢を片手づつに持っていた白珠は、矢を逆手に持ち替え、振り返る勢いと同時に振りかぶった矢を敵兵の眼球に突き立てる。
視界を潰され狼狽える敵兵を蹴り飛ばし、至近距離から弦を引き、眉間に矢を放つ。
あまりに流麗すぎるその動きに、呆気というよりは見惚れてしまっていた。
「まだ生きてんぞッ!?軽い矢射ってんじゃねえぞお前等ッ」
「すみませんッッ」
「一射一殺が無理なら百射叩き込めって教えたろうが!」
小柄で、活発で、大きく口を開いて笑う。暖かい雰囲気の合う男。白珠は裏表のない性格で、思い切りがいい。
そんな男の怒号混じりの激。容赦のない冷酷無比な弓。
精確で精密な弓さばきだとは知っていたが、まさかここまで、近接戦でさえ弓で熟してしまう天才。
「ははっ。思い知ったか?」
背を見せていた白珠が、肩越しに口角をあげ、八重歯を見せる。
「小さくたって、守る気持ちはでけえんだよ」