運とは手繰り寄せるもの 好き─… 嫌い─… 好き─… 嫌い─…
ぷちっ。ぷちっ。そんな音をさせながら、鈴音は手にした一輪の花の花弁を毟る。
毟った花弁をひらひらと落とし、また花弁を毟る。
「何やってんの?」
「あら、白珠様。こちらは、花占いというものです」
「うらない〜?」
ぺたりと座り込む鈴音の後ろからやってきた白珠。鈴音の手元を覗き込み、眉根を寄せて訝しげな顔をする。
「こうして花びらを一枚ずつ、好き、嫌いって言いながら毟るんです。あの人は私を、好き、嫌いって、願いをこめて」
「それこめてるって言うの?」
「乙女の願いですよ?」
「乙女って…」
鈴音は頬を染め、愛しい人を想い浮かべながら、また花弁に手を伸ばす。
案外女らしいところがある。特に驚きはない。鈴音は武器を持たなければ、どこにでもいるような女だ。
楽しそうに花弁を毟る姿に、無邪気さを思うが、同時に容赦のなさも垣間見えてしまい、白珠は感想がうまくでてこない。
「あっ」
「ん?」
「き、きらい……」
鈴音の声に振り向くと、一枚残った花弁を見つめ震えている。どうやら最後の一枚は〝嫌い〟らしい。占いを終わらせなければという使命感と、嫌いで終わらせたくなんてない女心と、そんな葛藤をしている鈴音。
しばらく葛藤を続ける鈴音を見つめ、白珠は仕方ないとため息をつく。そして、すっと手を伸ばし、鈴音の持つ花の、花弁をつまむ。
「白珠様?」
「嫌い」
「ひゃあ!」
容赦なく花弁を引き千切りながら嫌いと言う。
無惨に落とされる花弁に悲鳴をあげる鈴音。それを無視して、次に白珠は茎の部分を鷲掴む。
「好き」
「………………」
「茎だって花の一部だろ?」
半分になった茎から白珠に視線を移す。
白珠はぽいと残骸を捨てて、呆れたように呟いた。
「…………これは、イカサマって言うんですよ」
「いかさま?」
「ズルです」
「知るかよ。そんなんチマチマやってられっか」
弓兵で、正確無比な矢を放つくせに、案外大雑把で豪快。
情緒がない。と言ってしまえたら楽だが、「そんなん知るか」とまた返ってくるに決まっている。それに、今は白珠のその性格に救われた気がする。
「つーか、どうせそれ王翦様のことだろ?」
「……それ以外にいませんけど」
「王翦様がどうでもいい奴ずっと隣に置かねえだろ。そもそも好き嫌い問う方がおかしい。まあ、お前はちゃんと好かれてるよ、じゃなきゃ屋敷にまで連れてかねえって」
欠伸混じりのその言葉。
長く王翦軍に所属し王翦に仕えているから、ある程度主の感情の機微は察せる。それが正解なのか不正解なのかはわからないが、それほど間違いではないと、白珠は自負している。
遠くから白珠を呼ぶ声がして、白珠はそれじゃあと鈴音の隣から離れた。
その背を呆然と見つめ、鈴音はとさりと倒れ込む。
「…………白珠様って、罪作りな人」
きゅんとしてしまったのは、しょうがない。誰だって、男前なところを見せられたら、いいなって思うでしょう?だからこれは違うの。ギャップにやられて、慰められたから、ちょーっと胸がどきどきしてるだけ!
「心変わりでも、浮気でもないんだからぁ……」
ほんのり赤く染まる頬を両手で抑え、鈴音のか細い叫びは風に溶けて消えた。