嘘「霊力が足らないから寄越せ」
そう言って主の識に身体の関係を要求したのに、それが嘘になったのはいつからか。
最初は足らなかった、飢えていた。
だが今は。
霊力が足りていないのは確かだったが、我慢出来ない程飢えている訳でもないのに。
どちらかといえば、識に飢えている。
識に接触すると、落ち着く。
識から触れるのは拒否する癖に、山鳥毛からは識に触れる。
酷い刀だ、という自覚はあった。
もっと欲しい、と思ったときにその先、を選んでしまった。
契約している「主」だからとその時は思っていた。
「霊力不足対策で渡しておく」
事に及ぶにしても、顔を見られたくないから灯はつけず、識からは山鳥毛の背中しか見えない状態で跨って、一戦、が定番になった頃。
1度だけだと物足らなさが残るが、それ以上を要求すると肉欲に屈したようで癪に障るので終わるなり身支度を整えて部屋を出るようにしている。
霊力不足だからしているが、そうでもなければお断り、という態度はいまだに変えていない。
刺青が赤から黒に戻り、身支度を整え、部屋を出る間際の山鳥毛に識が渡したのは短刀の小指の爪ほどの大きさの輝石が3つ組み込まれた革のバングルだった。
識が何やら細工物を作っていたのは知っていたが、識が使うものだと思っていただけに意外だった。
「輝石に詰めてみた、僕に何かあっても当分の間不足しない分はあるはずだ」
たしかにこれがあれば不足はしない。
「輝石が透明になればカラ、だからその時は詰めて渡すよ」
カラ、になるまでは年単位でかかりそうだが。
「だから、もうこんな事しなくていい」
息が止まった。
「嫌々している相手に跨られるとはいえ、突っ込むのは気が引ける」
いつも背を向けていたし、行為の最中に識がどう思っていたかはわからない。
山鳥毛よりも体格が良い、というのを差し引いても巨根、というのはわかっている。
灯もつけていないが、入れるときに触れた感覚では明らかに山鳥毛のよりも大きい。
全部入っていない自覚もある。
負担をかけないように、山鳥毛に合わせて動かないようにしているのは知っていた。
「了解した」
それしか山鳥毛は言えなかった。
霊力は、足りている。
が、識が足らない。
出陣以外は関わるな、練度上限になったら契約終了、好きな場所に行くと宣言したのは山鳥毛。
それを守って、識は必要最低限しか山鳥毛に関わらない。
元から三度の食事も拒否しているので、接点が、とにかくない。
出陣の報告も、隊長任せにし続けてきたのが裏目に出た。
仮初の主だ、問題ないと思っていたのに。
霊力不足を補うためだ、と宣言してのけた以上今更違う、とは言い出せない。
鬱憤を出陣で晴らしていれば、練度は90を超えていた。
残り時間が減っていくのが怖くなって、気が乗らないと出陣を減らした。
出陣を削っていたが、それでも95を超えてしまった。
あとは時間の問題だった。
結局、山鳥毛が折れた。
「霊力が足らないのは、嘘だ………」
恥ずかしがり、だが恥で済めばこの場は安い。
「欲しいのは主だ」
気恥ずかしくて、小鳥とは呼べなかったが。