取り残された心※※一部検索避けに【/】をいれています※※
青い空の果てに何を見ていたか覚えている人はいるのだろうか。
「……あ。今日ですね飛行機。」
「ん?飛行機?」
垂れ流している朝の情報番組の言葉に手を止める。
「今日はブル/ーイン/パルスがお披露目の日なんですよ。」
「ふーん。」
特別な場合に民間の前に出てくる飛行機の話で盛り上がっていた。
しかし目の前の恋人はさほど興味がないのか、並べた朝食に手を付けていた。
「俺、飛行機の運転席って乗ったこと無いんですけど、どんな感じなんですかね?弄るのは得意なんですけど。」
食い入るようにテレビを見ている俺に呆れたように笑いながら恋人は答えてくれる。
「……今も昔もその飛行機整備の腕は信用してるぞ。俺は現代の空はわからないけどな。今も変わらないなら空の上は楽しいぞ。まず青い。あと広い。」
恋人の話を聞きながら目を閉じ想像する。
どこまでも広がるスカイブルーの空。所々雲があってもいいアクセントになりそうだ。
たまに隣を渡り鳥が羽根を休めに飛んでいる。
いつまでも、いつまでも。燃料が許す限り海の向こうまで行けそうな気がした。
「あの……和さん。一緒に観に行きませんか?」
「あぁいいぞ。」
申し訳なさそうに問いかければ、すぐに承諾を得られる。
先に朝食を食べ終え着替えに向かう恋人の背中を見つめる。
あの背中は本来は空にあるべきではないか。
最期の時に受けた傷を今世にも引きずっているのか右目の視力が悪いのだと、再会した時に打ちあけられた。
前世と変わらず飛行機整備をしている俺を恋人がどう思っているのか、空に未練は無いのか気になっているが聞けずにいた。
―― ゴーーー ――
大きな音と共に頭上を5機の青い飛行機が飛行機雲を吐きながら隊列を作って飛び去っていく。
散歩コースである芝生の広場には、普段は見かけない家族連れの姿が見える。
皆一様に空を見上げ歓声をあげていた。
そんな時隣から聞こえる呟き。
「塚本……。今はいいな。俺は飛行機に未練は無いんだ。空は確かに綺麗だったが、俺が乗っていた理由は壊すためだったんだ。こんな風に皆が喜ぶものじゃなかった。だから……今飛べなくて良かったと思っている。それしか俺にはないのにな。」
何も無くなった空を見つめる顔が隣にあった。
――きっと俺達はあの夏に全てをかけすぎた。
生きることに必死だった。その結果ではあるが踏みにじり、踏みにじられあまりに心が傷付いてしまったまま今を生きることになった。
そう簡単に心の整理がつくわけがない。
「和さん。俺……あなたが乗る機体を見上げるの好きでしたよ。例えそれが壊すためだとしても。俺にとっては守ってくれるヒーローでしたよ。」
人もまばらになってきた広場で手を繋ぎ何も無くなった青い空を隣で見上げる。
少しでもこの人の魂が癒されるように。