おもい握り実家から荷物が届いた。
なかなか入手も難しく送るのも大変だっただろうにきちんと希望した品を送ってくれる母には感謝しかない。
「手紙まで。母さん元気かな。……ん?」
母親の着物を割いて作ったであろう手ぬぐい、下着、夏に着るには少し分厚い肌着。
冬に着るには薄手の表生地なのに裏地が縫い付けられた肌着。
なんとなく何か仕掛けがある気がして、人の目を避けて近くの雑木林に入る。
手持ちの工具が無いため近くの枝を拾って糸を切る。
慎重に2枚に合わさった布を取るとまた肌着型に切った母の着物が出てくる。
その着物は丁寧に区切りのように糸が縫い付けてある。
そっとます目になった所に手を当てると砂のような感触がわずかに感じられる。
「ま!まさか!」
初めに剥がした方の下着を床に敷き、その上で肌着型の母の着物の糸をゆっくりほどく。
出てきた物を大切に敷物にした下着で包み上着の合わせに仕舞い込んだ。
次の日、整備していた機体に橋内中尉が来た。
あの日出撃予定だったが途中で天候が悪くなりやむを得ず帰還していた。
まさか帰還されるとは思っていなかったのでどう接していいのか俺も橋内……和さんも戸惑っているようだった。
事務的に乗り込む機体の整備の説明を終え、周りに誰もいない事を確認する。
「……あの。か……橋内中尉。本日の夜お時間ありますでしょうか。」
俺の提案に驚いた顔の和さんに難しいかと下を向くも、少しの間を空いて承諾の返事が来た。
急いで集合場所の雑木林を伝え業務に戻る。
早く業務を終え準備をしなくてはいけないので、自然と駆け足になっていた。
「塚本何してるんだ?」
「し!座って下さい!」
待ち合わせの時間少し前に和さんはやって来て俺の足元を指差す。
足元には飯盒。
見つかるわけにはいかないので慌てて服の袖を引っ張り座り込む。
「あの……母親が送ってくれて。一緒にどうかと。」
飯盒を開ける。
中にはふっくら炊き上がった白米が。
兄弟が多い中でも送ってくれた母には申し訳ない気もするがどうしても和さんと食べたかったのだ。
「あ。俺握りますね。」
「……俺もやろう。」
少ない白飯をこそこそ2人で座り込んで分け合って握る。
声をかけようと隣を見て思わず吹き出してしまった。
「……ちょっ。橋内中尉それ。」
「にぎり飯なんぞ作ったことがないから仕方ないだろう。」
米粒をつけた手で握られた歪な握り飯。
拗ねたように俺の綺麗に三角に握られた握り飯と見比べる和さんがとても愛おしくて、自分の手にある握り飯をもう一度きゅっと握る。
「俺……は。あの。和さんの握ったやつが食べたいんで俺のどうぞ。」
和さんの返答も聞かずに互いの手にある握り飯を入れ替える。
「美味しいですね。」
「あぁ……ありがとう塚本。」
2人で並んで笑いあって食べる時間がこのまま続けばいいのにと思ってしまった。
無事でありますように。
元気でありますように。
幸せでありますように。
考えつく優しさを込められた握り飯は塩もないのに少しだけ塩の味がした。
明日はまた出撃の日だった。