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    tachibananu

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    tachibananu

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    【風→円】円堂は上、風丸は下が良いと言った。互いの意見が一致したので縄張り争いは起こらず、至って平和的に話し合いは終了した。

    「風丸、ほんとに良いのか?俺はジャンケンで決めたって良いんだぜ」
    「俺は下が良い。暗い中で上ったり下りたりすると、滑りそうじゃないか」

    彼らがしているのは、二段ベッドの話だ。合宿中、イナズマジャパンのメンバーたちは二人一部屋をあてがわれた。殺風景な部屋の中には、二段ベッドがぽつんと一つ。どの部屋もそうだった。
    初めはヒロトが円堂と同室が良いと訴えたのだが、風丸が反対した。立向居は口には出さずにさりげなく円堂の側に近寄って行った。しかしヒロトは納得せずに、しばらく膠着状態が続いた(その間円堂はヘディングの練習をしていた)。

    そのうち吹雪が、僕は染岡くんと一緒が良い、とその場にいない者の名前を出したりしたせいで余計に現場は混乱した。結局能天気な綱海が、こういうことはジャンケンで決めるに限るぜ!と大きな声で発言したため、そういうことになったのだった。
    円堂との同室券をめぐって熾烈なジャンケン戦争が行われ、その勝者が今こうして、二段ベッドの縄張りについて相談をしているというわけだ。

    (……それにしてもよく勝てたな、俺)

    争いのとき、ヒロトの背後にはエイリア学園の頃の彼(※ジェネシスメンバー付)が見えていたし、立向居に至ってはムゲンザハンドがちょろ出していた(※陽花戸中メンバー付)。
    あの光景は夢に出そうだと、風丸はついつい、大きなため息を吐いた。

    「どうした?風丸」
    「あ?ああ、いや……。他のメンバーの部屋割りが、ちょっと気になって」

    その言葉は、満更嘘でもなかった。自分のことには鈍い円堂も、眉をしかめて腕組みをした。

    「そうだな。まあ、木暮と壁山、豪炎寺と虎丸あたりは良いとして、飛鷹と一緒になった
    栗松はブーブーごねてたし」
    「……立向居とヒロトもな」
    「え?あいつら仲良さそうに、握手してただろ?」

    風丸は遠い目になった。頷くに頷けない。お互いガチンコすぎる力で相手の手を握っていた。手首ごと持っていくつもりに見えた。今回はキーパーで鍛えている、立向居に分があったようだが。

    (明日二人とも練習に出てきてくれると良いんだけどな……)

    夜中繰り広げられるかもしれない戦いを思って憂鬱になっていると、円堂が組んだ腕を片方ほどいて、こめかみをぽりぽりとかいた。

    「一番問題なのはさ、鬼道だろ」
    「まあな。……まさか不動と同室になるなんてな」

    驚きのあまりしばらく二人で見詰めあっていたことを思い出し、風丸と円堂は同時にうーんと唸り声をあげた。

    「でも代わってやるって言っても、不動はあの調子だしな」

    俺は気にしないぜ?なんて、鼻歌でも歌いそうな調子でバナナを食べていた不動。風丸は嘆息しながら不思議に思った。なんであいついつもバナナ持ってるんだろう?

    「鬼道も。あいつ、結構頑固だからなあ」

    代わると申し出たとき、鬼道も首を振って、心配には及ばないと言いながらペンギンを撫でていた。たまにいるよなあのペンギン、飼ってるのかな?

    「争ってないと良いんだけどな」
    「二段ベッドの上か下かについてか?」
    「……だったら逆に安心だ」

    風丸が苦笑いしたとき、部屋の壁からガーン!と大きな音が響いた。驚いて二人が固まると、続いて言い争うような声が漏れ聞こえてきた。

    「……下……!」
    「……上……!」

    ちなみに、隣は鬼道と不動の部屋だった。
    二人がしばらく息を潜めていると、声は段々とボリュームが小さくなっていき、最後にバナナ……という言葉が聞こえた。
    そのあとは何事もなかったかのように、静寂が戻ってきた。

    「……なんだったんだ、今の」
    「分からん。けど、なんか大丈夫そうな気がしてきたな……」
    「そうだな。これでもしかしたら、分かりあえるかもしんないし!」
    「そ、そうか?」

    円堂は力強く頷いて、だってあいつらサッカーやってるだろ!と元気よく言った。つまり、得意のサッカー理論。イコール、特に根拠はない。

    「お前そればっかじゃないか」
    「風丸は慣れてるだろ?」
    「……まあな」

    円堂の笑顔は信頼の証のように見えて、風丸はふっと肩の力を抜いた。大勢で居るときにはあまり感じられない『幼なじみ』という見えない絆は、二人きりの時間にじわじわ浮かび上がってくる。
    それは風丸にとって、サッカーと同じくらい。もしかしたらそれ以上に、大切なものだった。

    「じゃ、寝るか!明日も早いしな」

    だから円堂がそう言ったとき、どきりと跳ねた心臓の鼓動を、風丸は無視しようと努めたのだった。

    ギシ、ギシ、ギシ。何の音だか、すぐには分からなかった。
    ふわふわしていた風丸の意識は、ドアの閉まる金属的な音で、急速に浮上した。円堂が梯子を降りて、トイレにでも行ったらしい。
    不規則に高鳴る動悸のせいで寝付くのが遅かった風丸は、弱ったな、と思いながら寝返りを打った。うっすら目を開けると、乱れた前髪の合間から、ドアが白く浮かび上がるのが見えた。
    すぐに目を閉じて、自分に言い聞かせる。早く寝よう。明日も早いんだ。
    しかし実際には、ドアの取っ手が下がる小さな音を、全身で聞いてしまっていた。
    円堂が、部屋の中に入ってくる。気配を感じて、風丸はぎゅっと目をつぶった。できるだけ早く、滑り落ちたりしないで、のぼってくれ。

    (でないと)

    梯子がきしむ。そのまま何回か聞こえてくるはずだった。ベッドだって、何度か軽く揺れるはず。
    ギシッ。
    大きく軋んで、大きく揺れた。
    一度だけ。

    (え?)

    風丸は、目をつぶるどころか真ん丸に開いてしまった。そこに映るのは、自分のものではない顔。布団から出た腕や胸が感じているのは、自分のものではない体温。
    ぜんぶ円堂のだ。
    身体が揺れているように感じるほど、心臓が激しく脈を打つ。近い。近すぎる。試合で一緒に喜び合うときや、怪我をして助け起こすとき、密着することだって確かにある。
    しかしそれとは、わけが違う。

    (円堂、お前)

    彼の肩は、規則正しく上下している。閉じられたまぶたは開く様子もなくて、口元は幸せそうに緩んでいる。
    完全に、寝ぼけて自分のベッドを間違えたようだ。

    (お前、なあ……!)

    風丸は怒りにも似た気持ちを覚えて、いかにもむにむにしていそうな円堂の頬を、つねってやろうかと手を伸ばした。
    でも意志に反して指は勝手に、優しい仕草で彼の頬を撫でていた。

    「……えん、どう」

    うんとうんと小さな声で名前を呼んだ。起きてくれ、という祈るような気持ちと、このままでいい、という熱っぽい感情が混ざり合う。
    円堂は目覚めない。気持ち良さそうに、風丸と同じベッドの中で、寝息をたてている。
    はあ、と吐いた溜め息は喘いでいるみたいだった。風丸は、頭の中で鳴り響く警告音を振り切って、頬から首筋、それから背中へと、手を滑らせた。
    抱き締めて、唇を寄せようとして、ふと違和感に気がつく。円堂って、こんなに体格が良かっただろうか?
    腕を全部伸ばしても、まだ胴体が終わらない。
    つぶる寸前だった目を恐る恐る開く。もしかして夢だっただろうかと思って、低い天辺に頭をぶつけないよう、少しだけ身体を起こした。

    「ぐう」

    最後のは円堂だ。他は、暗闇の中で光る、二対の目だった。

    「わああ!?」

    風丸は叫んだ。仕方がない、怖すぎる。

    「しずかに!」
    「風丸さん、しー!」

    円堂の後ろにぴったりくっついていた背後霊二体は、風丸をたしなめるように低い声で言った。指は口元に当てている。
    幽霊の顔。どう見てもヒロトと立向居だった。

    「……なにやってるんだ、ふたりとも」

    風丸は素に戻って言った。もっともな疑問だった。

    「見ればわかるだろ」
    「わからないから訊いてるんだが」
    「円堂さんがトイレから戻るのを見つけたから、つい一緒に……」
    「……へえ……」

    なぜ深夜に、トイレから戻る円堂を見つけたのか。
    なぜ見つけたからといって、背中にくっついて入ってきたのか。
    どうやって狭いベッドにこんな人数入れたのか?
    世の中には、謎のままにしておいたほうが良いこともある。
    風丸が齢14にして悟りを開いたとき、話し声とともに、隣の部屋から誰かが出てくる気配がした。

    「もしかして、さっきのを聞かれたんじゃないか」

    こんな状況を見られたらなんと言われるかわからない。風丸は慌てて、人でもみくちゃになりながらベッドから出た。ついでにヒロトと立向居も猫の子をつまむように外に出した。
    ドアが開いた。いたのは鬼道と不動だった。不動はバナナ柄のパジャマ、鬼道はペンギン柄のパジャマを着ている。

    「大丈夫か?さっき悲鳴が聞こえたような気がしたが……」
    「大丈夫だ、ちょっとふざけてしまって。起こして悪かった」

    ベッドに戻りたがるヒロトと立向居の首根っこを捕まえながら、風丸はひきつり笑いを浮かべた。鬼道はそうか?と言いながら妙な組み合わせに首を傾げている。不動はあくびをしている。
    この場をなんとか乗りきらなければならない、と焦った風丸は、あることに気が付いた。
    鬼道と不動のかぶっている帽子。
    鬼道のがバナナで、不動のがペンギンになっている。

    「……交換したのか……?」

    風丸が尋ねると、鬼道はハッとした顔になった。

    「違うぞ、これはバナナが……。いや、不動が」
    「風丸ちゃんも被りたきゃ貸してやるぜ?」
    「いや、俺はいい」
    「……ふーん……この良さがわかんねえなんて、趣味悪ぃな」

    全然平気だもん!というふうに鼻で笑いながら、不動は傷ついた顔で去っていった。鬼道は最後に、違うぞ、バナナが。と言ってドアを閉めた。

    「……結局、バナナがどうしたんだろうな」

    円堂が真剣に悩みながら言ったので、風丸も頷きかけ、そして円堂の顔を二度見した。

    「起きたのか!?」
    「さすがにあんなワイワイされちゃなあ。ヒロトと立向居も、遅いんだから早く自分の部屋に戻れよ」
    「わかったよ円堂くん!」
    「はい!円堂さん!」

    二人は、目をキラキラさせて帰っていった。先程風丸がベッドから引き剥がしたときはワンワン言っていたのに。
    どっと疲労感が押し寄せてきて、風丸は前髪をかきあげた。疲れた。ドキドキして損した。円堂をちらりと見ると、邪気のない顔で笑い返された。

    「よし、なんかわけわかんなかったけど、とりあえず寝直すか!」
    「……だな」

    (……ま、いいか)

    もし本当の本当に二人っきりだったら、お前が途中で起きてたら、一体どうなってたんだろう。風丸は心の中でそんな疑問を抱きながら、ベッドに戻る円堂の背中に声をかけた。

    「お前のベッドは上だろ」
    「いけね、間違えた」

    梯子を上る円堂を引きずりおろして、キスでもしてやろうかと思った。


    おわり
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