🎂‼️ 誕生日でも記念日でもないけれど、ノアがケーキを買ってきた。二人だから二切れで事足りるはずなのに、ノアはホールで買ってくる。小さめのものならまだしも、かなり大きい。どうせ二対八くらいの割合で、ノアが食べるのだ。
今日もケーキがあると知ったのはセックスしてからだった。
二人してベッドに寝転んで、おれがタバコをふかそうとした時だ。ノアは何かを思い出したかのようにのそのそと起き上がる。よく見えないからベッドサイドの眼鏡をかけた。
「そうだった、シャロ。今日ケーキあるよ」
「今から? 太るぞ」
「運動したから大丈夫」
セックスが運動になるのはノアじゃなくて、腰振ってたおれだと思うけどめんどくさいからもう何も言わない。冷蔵庫から白い箱を持ってきて、ノアはベッドの上で広げた。
「シーツ汚すなよ」
「さっきもう汚した」
ノアにシーツを汚させたのはおれだし、多分おれも汚しているだろう。色んなもので湿ってるシーツはうっすらと温かい。
「シャロもいる?」
「いらない」
フォークを持ってこなかったようで、手づかみでノアは食べ始めた。八等分してあるようだけど、ケーキサーバーを使わないから周りのクリームが凹み、指の跡がついている。
「よく食べれるな、さっき夕ご飯食べたのに」
「セックスしたらお腹すいた」
「相変わらず元気だな……」
ケーキを頬張るノアを尻目にタバコに火をつけようとしたら睨まれてしまった。だめ、と目線で制され、仕方がないから服を着て外に出ようとする。それもノアの気に食わないようで腕を掴まれた。お互いに汗ばんでいるから触れたところがベタベタする。
ノアの腹はぽこんと前に出ていた。ケーキが収まってゆくせいか、いつもより膨らんでいる気がする。出会った時よりも確実に肉感が増していた。腹も脚も、順調に肥えてきていておれは嬉しい。スレンダーな子が好みだったはずなのに、いつの間にかノアがより太っていくことを喜んでいる自分がいた。
「やだ、どっか行かないで」
「ガキじゃないんだから。一服させてよ」
ノアの口端についていたクリームを指で掬って舐める。シガレットの代わりに甘いクリームが口内に広がった。
上に乗っかったいちごだけを、ノアは口で摘み上げて食べる。その時に初めて、ノアの中から精液が漏れているのに気が付いた。
「んむ、……なに」
一口クリームを口にしたら、おれも腹が減った感覚がしてきた。ノアに口付けておれもケーキを食べる。顔の近くにケーキがあったから、おれの顔にもクリームがついたかもしれない。
「ノア、鼻にクリームついてる」
「うそ、まぁ最後でいいや」
手も口もベトベトにして頬張るノアは、なんだか幼いようにもエロいようにも見える。ノアは一口で食べようとして失敗して、胸元までクリームがぼとぼとと垂れた。下品で行儀が悪いけどおれはそんなところにも惹かれてしまっている。
「ほらシャロ、食べたいんでしょ。食べさせてあげる」
「んえ、別にいらない……」
おれの眼鏡を上にあげながら、一切れをおれに突き出してきた。尖った先端から口にする。ノアの位置が悪くて食べにくいから、腰に手を回して身体ごと固定した。口の周りを舐めながら、ノアはおれをじっと見ている。大ぶりないちごを二口で食べるところや、髭にまでクリームをつけているところはノアにバレているだろう。半分ほどまで食べると、もう飽きた。
「ん……」
「もういい? シャロもいろんなとこクリームついてるよ」
「ん」
おれの食べかけは、ノアに二、三口で消されてしまった。ケーキよりも、ノアのほうを食べたい。それはノアにも伝わっているようで、ノアは見せつけるように残りのケーキを手掴みで食べる。
「ノーノ、こっち来て」
ノアを抱き寄せ、おれの膝上にのせた。胸元に垂れたクリームを舌で拾う。身体を舐められていてもノアは、一向に気にせずホールケーキを胃に収めていた。どうやったのか太ももにまでクリームが落ちている。背中を丸めて、むちむちの太ももにまで舌を這わせる。
「待ってね、最後の一切れだから」
ノアは楽しそうにステイ、とおれに命令した。手持ち無沙汰に尻を撫でてもノアは怒らない。おれは待てができない駄犬で、ノアは躾に失敗したダメな飼い主だ。
見せつけるようにスポンジに歯を立て、口元を汚しながらケーキを崩してゆく。おれをじっと見つめ返しながら、あるときはおれなんていないようにノアは喉を上下させた。
「んふ、もういいよ」
噛み付くようにノアにキスする。甘ったるい口内に舌をねじ込んだ。互いの口端についたクリームが一緒くたになる。
「んッ……シャロ、おいしい?」
「うん」
「それはよかった。綺麗にしてあげる」
ノアはおれの口元や髭についたクリームをゆっくりと舐める。リップ音を立てながら掃除してくれた。
「こんなとこまでクリームつけて、本当に赤ちゃんなんだから」
ノアはケーキを掴んでいないほうの手で、おれの眼鏡を外した。ケーキの空き箱と一緒にベッドサイドに置かれる。
「ノーノだって、鼻についてるままだぞ」
「ひゃっ」
互いの舌で後処理をしてゆく。ノアは、クリームまみれな指でおれの唇をなぞった。
「まだ食べ足りないんでしょ、舐めて」
長い指が一本ずつ押し込まれ、おれの口腔内を荒らした。指の付け根に付着したものを食べて、人差し指が綺麗になると中指が入ってくる。体温でぬるくなって、溶けかけたクリームで口内が飽和した。甘ったるくて胃がもたれそうだ。
「シャロ……ここも舐めて」
手のひらや手首と、ノアの手を余すところなく舐める。綺麗にしたご褒美に、ノアは舌でキスしてくれた。
「ホントにちっちゃい口」
指でおれの舌を押さえつけながら、ノアは自分の舌と合わせる。ダイレクトに粘膜が触れ合って気持ちいい。血が集まった下半身を押し付けても、ノアは拒まなかった。じゅるじゅるとケーキを食べる時は立たないような、下品な音を立てて舌を擦り合わせる。
「ノーノ、まだ足りない?」
「シャロだって」
ベッドにダイブして、本格的にノアに触れた。エネルギーは補給したし、このまま朝まで抱き合っていたい。おれはノアの柔らかくて大きな肉体を抱き寄せた。