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    obrq二次創作置き場
    彼とユヒルちゃんの今昔

    ゾンビワールドゾンビが来たら、どこに逃げる

    「やっぱり屋上かなあ? ヘリでガッと助けてもらうんです、かっこいい感じに!」
    「それより前に大量に押し寄せて来られて食べられてしまいますよ。バイオハザード2でもそういう場面あったじゃないですか」
    「えー?そうでしたっけ」

    廃墟となった映画館を出て並んで歩く昼下がり、俺たちは落ちていたゾンビものの映画のポスターを見ながらあれこれ話していた。
    CMで放映していたおどろおどろしいゾンビホラーでいかにもインパクト重視のチープな感じだが彼女的には刺さる内容らしい。

    「私、こういういわゆるC級ホラーみたいなの好きなんですよね。観てて逆に癒されるっていうか」
    「ああわかる気がします。くだらなさが睡眠導入にうってつけですよね」
    「そうそう」

    飲食店エリアの方へ向かいながら、先を歩く彼女がでも、とゾンビへと話題を戻す。

    「屋上がだめなら、地下はどうですか?シェルター的なやつ!」
    「逃げ道が確保できないってのはデメリットですね」
    「う〜ん。困ったな」

    考え込む彼女の横顔を見下ろして微笑ましいと思いつつ、目に入ったカフェの前、期間限定のフラペチーノの看板を見止めた。この間彼女が飲みたかったのにと言っていたやつ。その隣の本屋は彼女の地元にあったという中高学生の溜まり場。そのまた隣は彼女のお気に入りのプチプラの洋服店。そして、そして。

    「あっ!ここ!トトさんここがいいですよショッピングモール! なんでもあるし!」
    「………………ああ、管域場所の話」

    反応が遅れた俺を、彼女がもうと笑って小突いてくる。あなたにまつわるものを考えていましたと告げたらどんな顔をするんだろうとよぎりはしたが、今は彼女のなんでもない話をただ聴いていたい気分だった。

    というか、よほど気に入ってるのかもしれないがそもそもゾンビ映画の話をずっと続けているのがかわいい。なぜ真剣に「ゾンビが襲ってきたときにどこに逃げたらいいか」問題と向き合い続けているのだこの少女は。

    天井から明るい日差しが差し込む店内をぐるりと見まわし、俺は、ショッピングモール、いいんじゃないですか?と笑った。

    「でしょう? 武器もあるしゾンビに反撃できる!」
    「食べ物もたくさんあるし」
    「うんうん」
    「着替えもトイレもいける」
    「そうそう」
    「じゃあ終末にゾンビが大量発生したときは、一緒にショッピングモールに逃げ込むってことで」
    「うん!」
    「……ところで」

    世界が終わるときに、俺と二人でいるっていうのはあなたの中では決定事項なんですか?

    そう言ってみた。てっきり目をまん丸にしてそんなことはないと言うものと思っていたが、彼女は何の気負いもなくもちろんと頷いた。当たり前みたいに。なにひとつ、疑うことなんてないみたいに。

    自分から仕掛けておいて、俺は思わず言葉に詰まってしまう。

    「……本当にいいんですか?」
    「どうして?」

    きょとんとした顔。

    「……世界が終わるときに、俺とふたりで」
    「はい!」

    元気にそう言って、彼女は明るく笑った。

    俺は、実はこの世界に来てあなたに出会った時から人生の選択を終えているので、世界で唯一替えがきかない大事なものはあなただけだと即答できる。同僚、上司、患者、家族。周囲にいる人間と良好な関係を保っていたしそれなりに大事に思ってはいるけれど、その全部をいつでも捨てられる。あなたとそれ以外なら、迷わずにあなたを選ぶ。

    でもあなたが同じかどうかは分からなかった。同じであってほしいと言うこともしなかった。たぶん、異常なのは自分だけだと思ったから。
    世界が終わるときに、他の人間はいらない。家族も、友人も。大事だけど、あなたに比べれば大事じゃない。全員ゾンビになったっていい。あなたさえいれば。

    異常なのは自分だけだと思ったのに、でも今俺の前を歩き笑う少女は、異常なものと世界で一番縁遠そうな元気で明るくてかわいい少女は、その実俺と同じ世界の爪弾き者で、くもりない瞳で、てらいのないまなざしで俺を見つめ、同じ感情を告げるのだ。

    いいですよ、世界にトトさんとふたりで。他のみんながゾンビになっちゃっても、ふたりで、ショッピングモールで暮らそう。







    「………………」
    「ドロシーどうしたの?」
    「ああ、いえ。ここも相変わらずだなぁと」
    「廃墟だからね。でも本当に不思議。千年前と変わったところと変わってないところ、いろいろあるはずなのに、雰囲気そのままだもん」
    「ですね。懐かしいです」
    「ねえ、そろそろ帰ろう?ここじゃなくて、私たちの家に」

    銀の靴の踵を鳴らし彼女は照れたように視線を泳がせたあと俺の目を見た。

    「…………ゾンビは来てないし世界は終わってないけど、ふたりっきりになりたくなっちゃった」

    ゾンビが来たら、どこに逃げる

    「ええ、帰りましょう。…………せっかくのお誘いですからね」

    こみ上げてきた感情のまま熱っぽくなるのをおさえられない声で耳元にささやくと、彼女はわあっくすぐったい!と悲鳴をあげて大騒ぎした。

    屋上でも、地下でも、ショッピングモールでもいい。

    どこだっていい。

    一緒に帰る。ずっと、同じ場所に。
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    MOURNINGobrq二次創作置き場
    カイユヒちゃん
    ねむりカイゼは眠たいときの私をさわるのが大好き。

    「……君は、眠いとふにゃふにゃするんだな」
    「う〜ん………………」
    「起きてる?」
    「おきてる……」
    「本にしおりをはさんでおくぞ。140頁でいいか?」
    「うんうん………………」
    「ふふ、かわいいな。キスしても?」
    「うんうん………………」
    「全然聞いてないな」

    おかしそうな笑い声。わかってる、ちゃんと聞こえてる。どんなときでもカイゼの声だけはちゃんと聞いてるの、私は。もしもあなたのわるい手が寝巻きのすそから侵入してきたら、まずはちょっとだけだめでしょって怒ってみせるけど、私はそもそも頭のてっぺんから足のつまさきまでぜんぶカイゼのなんだからどこをどうさわるかなんてカイゼの自由で、だから怒るなんてありえない。ただの茶番です。これだけの思考がぎゅっとつまった私の「むにゃむにゃ」みたいな呟きを聞いて、カイゼはまたわらった。さっきのおかしそうな響きとはまたちょっと違う、どうしようもなくなってぽろんとこぼれた、みたいな、やさしいのに心臓がぎゅっと縮むような笑い方。ささいなことなのに、特別でもなんでもないふとした瞬間のことなのに、目の前にいる相手のことが不意にどうしようもなく大事に思えて、ずっとここにいてほしくて、ため息を吐くようにわらってしまう、そんな笑い方。古今東西ありとあらゆる人たちはそういう摩訶不思議な感情を「いとおしい」とかって形容したんだろうな。それってただしいんだろうけどさ、でも納得いかない。だってそんな五文字で完璧に言い表せるなら、私こんなにくるしくなってないよ。
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