死と眠り情事の後の眠りを「小さな死」と呼ぶらしい。
確かに、死んだようによく眠っている。カイゼはうつぶせの状態で頬杖をつきかたわらの少女を眺めた。さわろうとして思いとどまり、しぶしぶベッドから出る。ほんの数秒が耐えられず急いで手を洗って戻ってくると、少女はまったく動かず寝息もほとんど立てずに横たわり続けていた。
黒髪。指で梳いて、さらさらとこぼれる感触を確かめる。
まるいおでこ。こどものように無防備な曲線を描いている。
眉間。そこに破が刻まれることは殆どない。あったとしてもそれは大抵ただのポーズであり、カイゼがふれるとその皺はたちどころに消えて代わりに鈴のような笑い声が響く。
鼻筋。凹凸が少ないことが悩みだと言っていたが正直カイゼには違いはよく分からない。そこにあるだけで常にかわいいから。
くちびる。かすかに開いたそこから吐息がもれていて、指を近づけるとあたたかい。
カイゼは少女の色々なパーツをなぞり、注意深く確かめる。
生きていることを。
「ん」
少女の頬に手を当てると、むずがるような声がした。
未だふかい眠りの中でまどろむ少女はごそごそと身じろぎし、自分の隣にある掌に気づいたのか、すり、と顔を寄せてきた。
カイゼの体温とともに眠ることに慣れてしまった少女を、カイゼは見下ろす。真綿でくるんであたたかい場所で大切に抱きしめてやりたい気持ちと、支配でもって意志を挫いて思いの儘にしてしまいたい気持ちが同時にある。
どちらも少女は戸惑いながらも傷だらけになりながらも受け入れるだろう。カイゼのものよりもずっとみじかくて頼りないのにとてもつよい腕で抱き着いて、側いることを選んでくれるだろう。
「んん………………」
むにゃむにゃと不明瞭な呟きをもらして、少女は夢うつつのまま、頬に添えられたカイゼの手をぎゅうと握った。そうして安心したように表情をゆるめて、再びより深い眠りに沈んでいった。
カイゼも枕に頭を預け眼をとじた。「小さな死」の中でも、一緒にいたくて。