やさしさ我慢してたのに泣いてしまった。きっかけというきっかけはない。が、積もり積もった小さなかなしみが突然ぷつんと決壊してしまった。
ひと月も旅をしていれば外見のことで差別を受けるのも文化の違いだねで済ませられる。その日も買い出しのために街に寄っていつも通りヒソヒソされて何だかなあと思いつつ宿に戻って……と、ここまではちゃんと出来てたのにみんなのおかえり〜を聞いた瞬間ドバーーーて涙出てきちゃってあ〜これはかなりヤバいです〜という感じのあれでみんなをギョッとさせてしまったのでまたダバーーーてさっきの二倍ぐらいの涙が出てきた。
「なになになに、どうした?ほらハンカチ」
「ああ、よしよし、いい子いい子。落ち着いて落ち着いて」
「ほら向こうにふかふかのソファあるぞ、行こうか、な?」
「うぇ…………う……」
ノイルにキチンと折り目のついたハンカチを顔に押し当てられモリィに背中をさせられクロードにほらあんなところにソファあるぞ〜と導かれ私はショボショボ歩いた。みんななんでこんなに介護がじょうずなの。
しゃくりあげながら私は今日言われたことを話し出す。と言っても黒目黒髪はまあいつものことだからあれだけど、それよりも傷ついた言葉があった。
「……ぶ、ブスっていわれたぁ……っひ、ひど……そんな、人格否定までしなくてもいいじゃん……なんでそんなこというの……私高校生だよ?思春期真っ盛りなんだよ?それ一番きずつくやつ…………!」
「それは本当にひどいね」
「まったくだ。泣き顔もこんなにかわいいのにな?」
「慰めの言葉がそれでいいのかよ。まあ気持ちはちょっとわかるけど」
口々に慰めの言葉をもらっていたら少し気分が落ち着いてきた。そしてこの場にドロシーがいなくてよかったと心の底から思った。私が泣かされたと知ればこの町一帯掌握して領主を血祭りに上げそうな気がするので。
話したくても話せないこと、というのはある。それは気持ち的に、ということだったり、あるいは技術的に、という場合もある。そうできないことに落ち込んだり、苛立ったり、焦ったりする。
でもそういうときに刑務の旅を共にするみんなは私よりもずっと大人だから、急かすこともこじ開けることもせずに、ふうん、という顔でこうやって側にいてくれるのだ。そうして黙ってそばにいる彼らといるうちに、私は悟る。自分がもう、大丈夫になっていることに。
「ごめん、ありがと。落ち着いてきた……」
「おー、もうこんなになるまでムリすんなよ」
「そうそう。たまには吐き出したほうがいいよ。人の心なんて何がきっかけで壊れるかわからないもんだからさ」
「他人の見てくれを品評するやつは大抵浅はかな連中だから気にしないようにな」
そんなことを口々に言ってワシャワシャと髪をかき混ぜるように無遠慮に撫でられて、ようやく私はいつも通りの笑顔を取り戻した。
あまりにもちっぽけな私の悩みをもっと重いものを背負っているであろう彼らは馬鹿になんてしなかった。かなしいことをかなしいこととしてありのまま受け止めてくれる。ひと時の間柄だからこそできることなのかも知れない。でもそこには確かな共感と繋がりが生まれていたように思う。そんな日の出来事だった。