借りたままの猫キスしたいとかさわりたいとか名前を呼んでほしいとか、モリィさんは自分からはほとんど言わない。私に「言わせる」方が好きなのだ。でも近頃は私がいつにもましてデロデロになってしまっており、一切抵抗することなく恥ずかしがることなくなんでも言ってしまうという状態が続いていて、もしかしてこれはよくないのではないか――と思う。
モリィさん、ほんとはもっと恥ずかしがる私が好きなんじゃない?やだやだ言ってぐする私が好きなんじゃない?いじわる言われてもどんなえぐいことされても超従順な私って、もしかしてめちゃくちゃ「退屈な女」になってしまってない?!と苦しんでいたら、モリィさんが部屋から出てくる音がした。
たった数メートルもない距離を走って抱き着きに――行こうとして、ソファにどすんと座りなおした。いや。いやいやいや。ここで負けちゃいけない。ここらでモリィさんを燃えさせなきゃ。やっぱりいじめがいがあるなって、楽しいなって、思っていただきたいんですよ、モリィさんのパートナーとしては。
今日はいちにち人形製作のモリィさんは、道具を取りにリビングまで来たらしい。棚の引き出しを開ける音。視線を感じる。いつもモリィさんお疲れ様です!って呼ばれてもないのに駆け寄ってくる私がソファに鎮座しているから、きっと訝しく思っているんだろう。
「ねえ」
「な、なんです………………」
振り返らずに答えるのも、かなり不自然。でもしょうがない、だって振り返っちゃったら顔見ちゃったらもう、モリィさん〜って抱き着きに行っちゃうから。ちがうの。今日の私は「恥ずかしがるし嫌がる女」になる。ほらそういう方がきっと燃えるはずだしたぶん。ですよねモリィさん?
モリィさんがこっちにやって来た。目の前に立たれると見上げないわけにはいかない。私は早くも観念して、上品な足下からそうっと目線をあげた。うわっすっごい不機嫌な顔。
モリィさんはむすっとした(ようには全然見えないと思う、他の人には。ほんとはモリィさんの無表情は百種類ぐらいあるし私はほとんど見分けられる)表情で、手作業時にきちんとはめている手袋の指先で、とんとん、と自分の頬を指さした。
う、うわーっ!これときどきやるやつ!口で言わないのほんと傲慢だなって思うけどそれがあまりに好きすぎていつもキュンとしちゃって根負け即ほっぺチューしちゃうやつ!
いや、でも今日の私はしません。抵抗します。してみせます。
そっぽを向いたけど、次の瞬間かがんできたモリィさんはものすごい速さで私の顎をがっと掴んだかと思うと、とんでもない深いキスをかましてきた。
「……!……!まッ………っ…!」
このひとべろ三枚ぐらいあるの?と毎回思わずにはいられないすんごい刺激を食らってぐったりした私を見下ろして、モリィさんはすずしい顔をしていた。ごちそうさま、とでも言うようにべろっとくちびるのはじを舐めるの、いやもう、好き……………もうこれ最初から抵抗とかできるわけなかったなほんとムダなあがきだったよ……。
「どういうつもりかな?」
それで全部バレてるし。
声の調子からして怒っていないことは分かったので、私はソフアでまだぐってりしたまま、あの、あのですね、と息も絶え絶えに言い募る。
「モリィさんに…………最近デロデロになりすぎてるから……無抵抗だと、いじめがいがないかなあって……それで、ちょっと反抗的な態度をとりました…………」
もうしません、まことにもうしわけございませんでした……。
モリィさんは私の哀れな申告を聞き終えた後、無言でしゃがんだ。
「抵抗されるほうが燃えるとかないよ別に」
ちょいちょい、と私を手招く。なんとか顔を近づけると、含み笑いの声がした。
「…何されても燃えるから」
ちゅうっと耳たぶにリップ音を落として、モリィさんは颯爽とまた部屋に帰ってしまった。私は腰が砕けてしまい、再びモリィさんが出てくるまでソファで悶え転がる羽目になった。