6-1(間)未来への清算 初めての出会い。確かに感じた喜びは嘘ではなかった。小さな手を一生懸命のばし、眼に映る世界を追いかける翠緑の宝石は奇跡そのものだ。私は自然と溢れる笑みを抑えることも、そもそも抑えようとすら思わなかった。その感情を否定したくなかったのだ。喜びをありのままに享受し、その子のなすこと全てに愛を感じる。十五にして、自分の子供では無いけれど、この気持ちが母性なのだと悟った。
けれど幸せは永遠に続くものではない。だが、それが内部から破壊されるものだとは思わなかった。
「マルシア、あれは不義の子だよ」
兄が言った。
「関わるのは良しなさい。あなたもアレみたいになりたくなければ」
姉が言った。
皆、あれだけ可愛がっていたのに。真実が露呈した瞬間に手のひらを返す様に背筋が凍った。本当に血の繋がりが無かったとして、けれど生まれてきた彼に罪は何一つない。むしろその事実を知った時、一番衝撃を受けるのは彼自身ではないだろうか。それを支えてあげるのが家族なのでは…ああ、そうか。もう兄と姉にとって、あの子は家族ではないのだ。なぜなら血の繋がりが無いのだから。
「わかりました」
彼らに逆らうのは悪手だと理解した私は、そう答える他なかった。それから私は本心を隠して、ひたすらに無関心を装った。
けれど今それも終わる。
これは清算だ。いずれ私にも降りかかる。
生まれたこと。その存在が罪だと言うのなら。
「お前たちも罪」
血の繋がりだけが家族たらしめると言うのなら。
「全ての罪は私が拭う」
何もかも私が終わらせる。そのための十五年間。ひたすら布石を敷いてきた。どれだけ後ろ指を指されようと、未来の可能性を奪われた貴方のことを思えば、どれも取るに足らない、苦痛にすらならないのよ。
◇
「お前には理解できなかったか」
父とまともに言葉を交わしたのはいつぶりだろう。私を当主にしたのは他でもない彼だ。
「私を当主にしたこと、後悔している?」
「まさか。お前にはお前が信じた強さがある。それは認めよう。ただ私とお前では見ている強さの方向性が違っただけだ」
意外だった。彼なりに私の進む道を認めていたらしい。驚きと同時に悔しさがこみ上げてくる。
「今更怖気づいたか」
「まさか」
「ああ、お前なら分かるだろう。あの子供は目障りだったが、今となっては星詠の頭角を現しつつある。アレはいずれアレイスター家を復興する力となるだろう。故に私はアレを取り戻したい」
「そうね、貴方はそういう人。だからこそ私の目の黒いうちに取り除かなければならないのよ」
衰弱した者を一方的に手に掛けるのは趣味じゃない。でもそんなことを言っていられないのも事実。この先、あの子が苦しむくらいなら私が心を殺すことを選ぶ。
「貴方には育ててもらった恩がある。けれど私は…」
未来を選ぶ