【座チヒ】(仮)夢ああ、これは夢だ。
あまりに荒唐無稽な、あり得ない、馬鹿げた世界。
目を薄く開けば、瞼が持ち上げられて震えるのが分かった。夢から覚めたのだと実感する。
「……」
身を起こすと、何かが頬を伝って零れていった。目を擦る。
(……どうして俺は、泣いているんだろうか)
濡れた指先を見つめ、ぼんやりとチヒロは思った。
始まりはボランティアのようなものだった。偶然知り合って、事情を知り、彼の家に出向いて家事を手伝うようになった。
彼は目が不自由で、それでも日常生活に支障はないとのことだったが、そうは言われても気になるものだ。目が見えないというだけで、目が見える人に比べたら情報量は圧倒的に減る。他で補うにしても不便は残るだろう。実際、家を訪れてみたら、細かなところまではなかなか手が行き届かないらしく、中は雑多だった。物の位置が分かるようになっているからそれで良いのだと彼は言ったけれども、これではゴミ屋敷一歩手前だし、物に躓いて転びかねない。放っておけなくて、定期的に彼の家を訪れるようになった。
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