むつハイジチチチ、とどこからか鳥の声が聞こえて、ゆっくりと目蓋を上げる。手を付いたふかふかのベットから香るのは干し草の匂い。だんだん意識がハッキリしてくると、ば頬を優しく撫でる風や、木々の騒めきを感じた。
――ああ、これがそうなのか。
ずっとアイツが口にするソレが理解できなかった。理解できないことが歯痒かった。だからこうして実感できたことが何より嬉しい。
「あ!かねクララ!起きたかえ!」
「むつハイジ」
赤い服を着たむつハイジが嬉しそうに駆け寄ってくる。同じベットで寝たというのに、むつハイジがすでに起き出していることに今の今まで気付いていなかった。
「おはよう!かねクララ!」
「ああ……おはよう」
むつハイジの浮かべる満面の笑みに胸が温かくなる。むつハイジがフランクフルトのかねクララの屋敷にいた時、次第に霞んでいくむつハイジの笑顔に何度胸を痛めたことか。
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