キスの日 ちゅ、というリップ音と共に落ちされるキスの嵐に困惑するのは司だ。
「ちょ……ぇ、な……なに……」
「ん……何、って、愛情表現?」
「ふぁーーー????」
どういうこと!?? となりながら、額や瞼、鼻の頭、髪に唇と次々キスを降らす純の口と目を両手で覆い、キスを止める。
「ああああああの、あなたの性格とコレが解釈一致しないんですけど」
「でもエイヴァと慎一郎くんはいつもたくさんキスをしているよ」
キスを止められたことが、なのか、目と口を手で覆い隠されたことが、なのか、不満げに司の両手首を捕まえてその手を退かす純。
鴗鳥夫妻が基準かっ!!!!!
恋人同士という、初めて言葉を交わしたときには考えられなかった関係性になってから司は気付いたのだが。
人間関係の構築も社会との関わりも下手くそで、言葉が少ないせいで誤解されやすい、でも本当はとても優しい、この不器用な生き物は、好意、それも恋人や妻相手にするような好意の示し方が尋常じゃないほど熱烈なのだ。
それ以外は本当に素っ気ないし、なんなら辛辣なのに。
おかげで司の心臓がもたないのだが、その根本を知った気がする。
あの夫婦が基準なら頷ける、いや頷きたくないけど。
「お、俺には刺激が強すぎます!」
「なんで?」
「なんで、って……そ、そりゃ……す、きな人から、そんなキスされたら……あの」
自分が深く愛されていると錯覚してしまう。
もしかしたらただの気紛れでの付き合いなんじゃないか。いつかきっと覚める夢だ、という逃げ道を塞がれてしまう。
口ごもる司を見て、なにやら感づいた純は、二人並んで座っていたソファに司をゆっくりと押し倒してきた。
「あ、あの……え?」
そして再びキスを落としていく。
唇を深く合わせて、息すらも奪い。
耳に「好きだよ」と囁きながら耳朶へとチュっと音をさせながらキスをし。
そのまま首筋を食みながら下へと辿り、鎖骨を噛む様にしてキスもして。
Tシャツの上から胸、心臓の上あたりに唇を寄せ、キスを一つ落とし。
腰へと指を這わせながらその指を追うようにキスをしてから。
太ももへと、ジーパンの上からキスをしたあとガブリと噛む。
そして最後に司の手を取って、手のひらへとキスをした。
チュと音をさせながらキスをして、司へと視線をやるとそこには耳と首まで顔を真っ赤にさせた、まさに茹でダコのような司が純を凝視していた。
「な……なっ」
「やっぱり意味知っているんだね」
「っ!!!!!」
「なら、最後の手のひらへのキスの意味もわかるよね?」
僕が愛する分だけ、君も返して。
それは懇願にも似た声音だった。
【キスの日 END】