星に書けない言葉社長の急な思いつきで、社員に七夕の短冊が配られ、「願い事を書け」とのお達しがあった。
「……曹操社長、意外とこういうイベント事好きだよな……」
渡された短冊を指先で摘み、ピラピラと振ってみせる。何を書くか、まるで思いつかない様子だった。
「そうですね。いつもの急な思いつきで、少し困りますが…」
苦笑いをする楽進は、書こうとペンを持つが、願い事が決まっていないのか再びペンを机に置いた。
「……何を書けばいいのか、悩みますね」
顎に手を当て、うーんと小さく唸りながら真剣に悩む上司の姿を見て、楽進は言った。
「荀攸さん、そこまで真剣に考えなくても、いいと思いますよ」
(真剣に考える荀攸さん…素敵です…!)
「楽進の言う通りですよ。下手すりゃ他の社員たちの目にもはいるんですから、本気の願い事は書かない方がいいですよ」
(悩む時、ちょっと猫背気味になるんだよなぁ…可愛い)
子どものように無邪気にはしゃげる年齢でもない三人は、短冊を手に頭を悩ませた。
しばらくして、荀攸が短冊に静かに書きつける。
「……今進めているプロジェクトが、成功しますように…と」
(荀攸さん、真面目ですね)
(荀攸さんらしいなぁ)
荀攸は、二人の方へ顔を向ける。
「お二人は、願い事、決まりましたか?」
「え、えぇ……とりあえず、仕事のことを……」
「………楽進と同じく…」
──本当は
(荀攸さんに、振り向いてほしい……そんな願い、書けないです…)
(荀攸さんと、もっとお近づきに……んな書けるか、俺…)
結局、二人とも短冊には無難な文句を書いた。
「プロジェクトの成功を祈ります」
当たり障りのない願いごと。
けれど、本当に願っていることは、その紙の上にはない。
誰にも見せられない気持ちは、七夕の夜空のどこにも浮かばず、胸の奥に沈んだまま…。
終